幸福とはなにか。この問いに答えることは容易なことではない。

アリストテレスが「人は男女を問わず、何にもまして幸福を求める」と述べるように、はるか昔から人類は幸福を貪欲に求め、時に争いまで起こす。

 

さて、「幸福」については古来より宗教や哲学が強い影響力を持ってきた。

例えばほとんどの宗教は来世での幸福を約束し、神との契約や戒律を守るよう、人々に強制する。一方で哲学は「理性」や「経験」を分析し、「幸福を生み出す考え方」「倫理観」「人生の意味」などを我々に提案する。

 

しかし、いずれの分野も完成されたソリューションとはいえない。

科学の力が猛威をふるう現在では「神の救済」を当てにすることはできないし、また、哲学を実生活に取り入れるには膨大な苦労を必要とする。

 

こういった旧来の「幸福へのアプローチ」に一石を投じ、別の確度である「心理学」から、幸福へアプローチを行っているのが、クレアモント大学教授のミハイ・チクセントミハイ氏である。

 

彼の問題意識は著書である「フロー体験 喜びの現象学」という書籍の中に述べられている。

以前には夢にも考えられなかった奇跡的な進歩を成し遂げたにもかかわらず、その恩恵に浴することの少なかった先祖に比べて、我々が生活に直面して希望を持てないように思えるのはなぜなのだろうか。

答えは簡単である。人類が一挙に物質的な力を1000倍にも増やしたにもかかわらず、経験の内容を向上させることについてははるかに立ち遅れているからである。

氏の主張の裏を返すと、

「自分の経験を上手く処理する方法を学ぶことで、幸福になれる」

ということだ。

 

いわば幸福とは、「自分の心の扱い方から生まれる体験」である。

 

チクセントミハイ氏はそれについて、

現実とは、我々が経験していることである以上、我々は自分に関する限り、意識の中に生じていることに働きかけることによって、外界からの脅しや追従から自分を解放するよう現実を変えることができる。

はるか昔、エピクテトスは、「人はものごとをではなく、それを動見るかを思いわずらうのである。」と言い、偉大な皇帝マルクス・アウレリウスは次のように書いた。

「もし汝らが外にあることがらに悩まされるなら、汝らを悩ますのは何時のそれに対する判断である。そして今その判断を消し去るのは汝らの力の中にある」

と書いている。

簡単にいえば、心理学は「幸福のカギはポジティブシンキングにある」とする。

 

しかし「ポジティブシンキング」と言ってもこれだけでは解決策でもなんでもない。はるか昔からわかっていたことを言い換えただけである。

チクセントミハイ氏はここから、「経験を処理する意識を統制するにはどうしたらよいか」を考えるようになる。

 

そして、チクセントミハイ氏はいくつかの実験から、「意識の統制」には特定の条件が必要であることを見出した。彼はその条件が整った条件を「フロー」と名付け、幸福を生み出す源泉とした。

その主たる条件とは

1.能力を必要とする挑戦的活動を行っている。

2.明瞭な目標があり、直接的なフィードバックがある。それによって、今やっていることに集中できる

3.結果が不確定であり、その結果を自分の能力によって左右できると感じられる

である。

 

もちろん、これは良い方向に働くとは限らない。

チクセントミハイ氏は犯罪者の一言を引き合いに出す。

「夜中に家に忍び込み、誰も起こさないように宝石を盗るくらい面白いことで、俺にできることを教えてくれれば俺はやるよ」

 

だが、「幸福」が相対的なものであるという認識は重要だ。

大事なのは、「自分の意識をより良くコントロールする術」を学ぶことなのだ。

 

フロ-体験喜びの現象学 (世界思想ゼミナール)

フロ-体験喜びの現象学 (世界思想ゼミナール)

  • M. チクセントミハイ,Csikszentmihalyi,Mihaly,浩明, 今村
  • 世界思想社教学社
  • 価格¥2,670(2025/06/07 09:03時点)
  • 発売日1996/08/01
  • 商品ランキング16,890位

 

【安達が東京都主催のイベントに登壇します】

ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。


ウェビナーバナー

▶ お申し込みはこちら(東京都サイト)


こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい

<2025年7月14日実施予定>

投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは

借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。

【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである

2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる

3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう

【登壇者紹介】

安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00

参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。


お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください

(2025/6/2更新)