前回、とにかく自由恋愛は多くの人間にとって難しすぎるにも関わらず、非モテを受け入れパートナーのいない人生を選択するというのもまた苦しいという事を書いた。
実際、筆者の周りには一流大学卒の人間や、いわゆるハイスペックな男女が結構いるけれど、彼・彼女らが自由恋愛で成功しているかというと、そんな事は全くない。うまくいってる人もいるけれど、うまくいってない人も結構いる。
出版の世界では、ダイエットと英語と恋愛関係の書物はドル箱コンテンツであるという話があるそうだけど、実際問題、多くの人にとってこれらの難易度は馬鹿みたいに高い。
これらに関する本を買っても、多くの人はそれを全く克服できない。そして迷える子羊はまた次の本へ・・・という流れが繰り返されるからこそ、この3つのコンテンツが”ドル箱”になるわけだ。
けど、ダイエットや英語と違って恋愛は、冒頭でも書いたとおり
”うまくいかない”≒”苦しい”
のである。これが本当に問題なのだ。
心の安定を人にもたらす3つの要素
多くの人間を観察していて思うのだけど、人は基本的には3つの欲が充足していると幸福を感じる傾向にある。
1つ目は金銭的収入。お金の事を深く考えずに暮らせるのは大変に心の安定によい。
2つ目は承認欲求。やはり人は人から認められたいという欲求から逃れる事は難しい。仕事にしろ趣味にしろ、一定以上の評価を対外的に得られるということは心の健康に実に大切である。
そして3つ目が良好な人間関係である。友人関係は当然として、この良好な人間関係の形成で避けて通れないのが自身のパートナー問題である。
もちろん恋愛観はひとそれぞれだから、一概にお付き合いしている人がいる事≒幸せとは言わないけれど、多くの人にとって、やっぱし安定したパートナーがいる事は非常に強い心の健康を生み出す傾向にある。
はっきりいってこれら3つとも全て手に入れるのはそれなりに難しいのだけど、僕が思うに3つ目、特にパートナーの獲得の手段が自由恋愛に極端に限られた今の恋愛市場は相当に歪んでいる。というか本当に厳しい。
多くの人にとって傷つくような行動は苦しい選択だ。その中でも人に自分の好意を明かすという事は、相当に恥ずかしい行為の1つである。
小学生の頃「よく○○君は○○ちゃんの事が好きらしい」というようなゴシップネタが飛び交っていたけれど、あれは今思い返すだけでも地獄のような有様だった。それに自分が晒された時の心の苦しみは思い返すだけでも息苦しい。
そんな羞恥心と強烈に向き合わされた個人に、今度は突如として自由恋愛なんていう恥を公表しないと始まらないような行為を押し付けるのは、正直言ってかなり苦しい。
けどその苦しみを通り抜けないと、どうにもこうにも心の安定に必要な三要素である安定したパートナーを得るという事が非常に困難というのは、はっきりいって社会の仕組みとして如何なものかと僕は思うのである。
いやさ。苦しいの嫌じゃん。
なんていうか、自由恋愛から降りられるという選択肢があってもいいんじゃないかって本当に思うんですよ。
くじ引きマッチングアプリという仕組みはどうか。
提唱するからには代替案も出さなくてはなるまい。
僕が思うに、この問題を解決する1番マシな方法はくじ引きマッチングアプリ(仮)のようなものの導入である。
現代の婚活アプリの苦しい点は、まず相手を自分で選ばなくてはいけないという部分に起因している。
奇跡の一枚ともいえるような、写真うつりのよいものをプロフィールに貼り付け、自己アピール文を書かせ、そこで競争なんてさせるだなんてのは、はっきりいって自由恋愛2.0みたいなもんで全然恋愛弱者には優しくない。
やりかたとしてはこうだ。まずくじ引きマッチングアプリ(仮)登録者には、年齢・性別・学歴・年収・趣味・住んでいる場所といった、ある程度の社会的階層ならびみ趣味趣向が可視化されやすいパラメータを入力させる。
顔とか身長のような外見に関する事は完全に捨て去ってしまって構わない。
これをAIでも何でもいいから分析ソフトにかけて、士農工商みたいな社会的カーストに登録者を割り振る。
そして登録者はランダムなくじ引きを行い、マッチした人と”必ず”2~3回程度のデートを行う事を強制させる。このデートが終わった後で、お互いが合わないと判断したら、再度くじを引きなおせるようにするというのが大まかな骨子だ。
暴論だろうか?
でも実はこの方法は「選択の科学 コロンビア大学ビジネススクール特別講義 (文春文庫) 」を元に考え出した。
本書は随分と勉強になる事が多く書かれているのだけど、その中でもインドのお見合い事情の話とジャムの話は白眉といってもよい。
お見合い結婚の方が、恋愛結婚よりも幸せになれるという事実
私達は日本に住んでいるので自由恋愛≒当然の事と思っているかもしれないが、インドでは現在でも結婚の主流方法はお見合いだ。
ご存知の通りインドにはかの有名なカースト制がある。結婚も、このカースト内でお見合いを通じて行われる事が多いようだ。
「お見合いなんて自分でパートナーを選べないんだから、不幸に決まってるじゃん」とお思いかも知れないが、実は真実は逆だ。
少なくとも多くの人にとって、お見合い結婚の方が幸せになる確率が高いのである。
大規模調査により、インドにおいて恋愛結婚の離婚率は50%。対するお見合い結婚の離婚率はなんと5%である。つまり自由恋愛させると、半分は結婚に失敗するのに対して、お見合い結婚だと95%もうまくいくのである。
「離婚しないからといって、幸福なわけじゃないでしょ」
そう思うかも知れないが、残念ながらその意見も間違いである。
幸福度をみると、恋愛結婚をした人の方が、結婚当初の幸福度が高いようだが、時間の経過とともに恋愛結婚をした人の幸福度は下がる傾向にある。
それに対して、お見合い結婚をした人の幸福度は年数とともに徐々に上がっていく傾向にある。
なんでそんな事が起きるかと言うと、要は結婚生活においての当初の期待値が問題なのである。
恋愛結婚の場合、ステキな恋を通じて結婚するわけだから、はじめから期待度合いはトップクラスである。
そこから結婚生活が始まったら、実は相手の嫌な部分が見えてきたりといったマイナスのイベントが盛りだくさんなわけで、残念なことに幸福度は結婚生活が続くについれてだだ下がりになるのである。
それに対して、お見合い結婚の場合は、お互いがパートナーにはじめから殆ど期待していない。そんなもんだから、低空飛行スレスレの期待値からスタートしたわけだから、その後期待値は上に行く余地が全然あるのである。
こういう事もあって、インドでは現在でも75%以上の人がお見合い結婚を望んでいるのだという。どうやら自由恋愛はクソゲーなだけではなく、幸福になる為の手法としても問題があるようだ。
選択肢が多いほうが良いわけではない。「ジャムの法則」
選択肢は多い方がいいのか、少ない方がいいのか。
「え?選択肢は多いほうがよくない?」と思うかも知れないけど、これまた残念なことに事実は反対なのだ。多すぎる選択肢は人にとってはマイナス以外の何物でもない。
これはシーナ・アイエンガーの名前を一躍有名にした社会実験なのだけど、彼女は適切な選択肢の数はどれくらいなのかという事をスーパーの売場に置いたジャムの数から最適解を導き出したのだ。
彼女のこの業績はジャムの法則という名前で一般的に知られている。
この実験の概要はこうだ。アメリカの高級スーパーマーケット・ドレーガーズのジャム売り場で、24種類のジャムと6種類のジャムを並べ、それぞれの売り場における売上げを比較した。
その結果、多くの人が訪れたのは24種類のジャムを用意したコーナーだったようだけど、購入者数はなんと6種類のジャムを用意したコーナーの方が10倍も高かったのだという。
つまり、多すぎる選択肢は人から”選ぶ”という意思決定プロセスの難易度をメチャクチャに上げるのである。
これは現代の婚活アプリや街コンの問題点を強烈に指摘している。つまり、人に多くの選択肢を与えると、人は選ぶことすらできなくなる。だから自由恋愛2.0の婚活アプリは、ジャムの法則に則っていえば失敗以外の何物でもないのだ。
自由恋愛から積極的に降りられる道を作ろう
自由恋愛は本当に苦しい。こんな茨の道を通り抜けないとパートナーが作れないだなんて、圧倒的に苦しい。
だからできたら上記のような仕組みを誰か作ってくれる事を心の底から祈る。AIで最適な相手を見つけてくれる、そんなサービスがあってもいいんじゃないかと思うんですよね。
戦わない選択肢があってもいいと思うんですよ。本当にね。
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(文責-ティネクト株式会社 取締役 倉増京平)
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都内で勤務医としてまったり生活中。
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(Photo:Hamza Butt)