お金持ちになるゲームとは?
Twitterで話題になっていた、とある専門学校で行われた「お金持ちになるゲーム」の話。
私もそのまとめを読ませていただいたのですが、非常に面白く示唆に富んでいたので、そこから学べること、そして逆に学べないことについても考えてみました。
これは僕の人生に大きな影響を与えた授業の話。
専門学生の頃、先生の提案で『お金持ちになるゲーム』というのをやったことがある。チームごとに『お金』を製造し、制限時間内に最も多くお金を稼いだチームの勝ち…というシンプルなゲームだった。— 昆布山葵 (@43ismamorigami) 2018年7月13日
ルール説明①
・紙に『1000円』と書いて10cm×5cmに切り取った物を1000円と見なす。
・紙に『500円』と書いて直径3cmの円形に切り抜いたものを500円と見なす。
・規定より5mm以上小さかったり大きかったりするお金は無効。
・1時間後に最も多くのお金を保持していたチームの勝利。— 昆布山葵 (@43ismamorigami) 2018年7月13日
ルール説明②
・それぞれのチームには紙を無制限で支給する。
・ハサミ、鉛筆、定規、コンパスなどの道具はランダムで1チーム2つづつ支給する。
・各チーム1回づつ先生から『情報』を聞くことができる。
・製造したお金は自由に使用しても構わない。
・ルールに無いことは何をやってもOK。— 昆布山葵 (@43ismamorigami) 2018年7月13日
この方によると、
・4人ずつのチームで、全10チーム(A、B、C、D、E、F、G、H、I、J)でゲームが行われた。
・お金を作るために必要な道具が各チームに与えられた。
(どうやら鉛筆、紙、ハサミ、定規、コンパス等があるようだが、チームごとに異なっていた) 例えば、この方がいたIチームには、紙と鉛筆5本だけが与えられていたようだ。
各チームとも、紙幣製造に必要な道具が全部揃っているわけではないようです。お金をつくるにしても、どうにかしてお金を作るための道具を揃えなければいけません。
さぁ、どうやってゲームを進めるでしょうか。
実際のゲームはこのように進んだ。
ゲームが始まり、Iチームに、Aチームから鉛筆とハサミを交換しないか?と声がかかる。
そうか、これは『周りと協力することの大切さ』を学ぶゲームなのか…。
以降、交換により定規等を得ていき、紙幣をつくるための道具を揃えるIチーム。 道具を揃えたIチームは粛々と紙幣作りを進めました。
しかし、道具が人数分あったわけではありませんでした。
人数は4人いたのに対し、鉛筆は他の道具と交換していたので本数も減っていました。要は手持ち無沙汰の人材を抱えていたわけです。
その時、Bチームよりお金と交換で労働力の提供を求められます。
そうか、これは『効率的に紙幣を生産するためのアイデア』が必要なゲームなのかもしれない……。
Iチームは、紙幣作りに加え、出稼ぎによる収入を得て順調に紙幣を増やしていきます。
先生からの情報が解禁され、ゲームはクライマックスへ
そして私がターニングポイントと感じた、先生からの情報解禁のタイミングがやってきます。
Iチームには「クリームチーズに生ハムを巻くと美味い」という情報が与えられます(笑)。
このゲームにはおそらく関係ない、どうでもいい情報です。
Iチームのメンバーが外れ情報を引いてしまったと落胆している時、Cチームの代表より重要情報を10000円(=1000円10枚)で売るとの申し出があります。
聞くと、どうやら『残り10分で革命が起き、1000円よりも500円の価値が高くなる』とのこと。
ものすごい情報です。
Iチームも、どうして2種類のお金があったのか疑問に思っていたが、これを聞いて納得します。
ただし、価値が下がると分かっている1000円をなぜかき集めるのだろうという疑問も湧きます。
Cチームの代表は今のうちに労働力を雇っておくつもりだと答えたそうです。
革命を信じるIチームは、そこからひたすら500円を作り続けました。残り時間は刻々と過ぎていきます。
そろそろ革命が起こるのか…、教室には不穏な空気が流れていきます。
その時です。
制限時間の1時間が経過。
あれ、革命が起こるんじゃなかったのか?結果発表の時にいきなり言われるのか?
何も宣言されずに、普通に時間が終わってしまったことに対し、ざわつく教室。
そして、衝撃の結果発表。
先生の口から、結果発表がおこなわれます。
最下位はD、E、Fの3チーム(グループ①)。
所持金額は0円。0円???
どのチームも紙幣を作っていたはずなのに、最後の所持金額が0円とはどういうことなのでしょう。
本人達も信じられない顔をしていたようです。残りの3チーム(グループ②)の所持金額は10万円台。Iチームもここに属していたようです。
そして、A、B、Jの3チーム(グループ③)が30万円以上に。かなりの差が出てきています。
Iチームから見ても、なぜこんな差になったのかわからなかったとありました。
そして優勝したのはCチーム。金額は150万円。
ほかのチームとは圧倒的な差が生じていることに全員が驚きます。
続いて、先生による解説が始まりました。
グループ②は、まじめに頑張ったチームだとの講評。
どうやったら早くお金を作れるかを考えて、努力だけでお金持ちになろうとした普通のチーム。
グループ③は、なかなか優秀。
労働力を雇ったり、様々な情報を売買したり、他チームを子会社化したりと、ルールの抜け穴を探してアイデアで稼いだようです。
つまり、被雇用者というよりは、割と経営者目線のチームだったようです。
Togetterまとめでも、盲目的に目の前にあるルールを信じるのではなく、最大限に利用するのは強いという講評がされています。
そして、Cチーム。
ここまでゲームを完璧にこなせるやつは数年に1人いるかどうかのレベルとのコメントがされます。
一体、何が起こっていたのか
Cチームも最初、他チームと同様に紙幣を発行していましたが、このままでは勝てないと気づいたそうです。
それで、他チームから買い取った道具や労働力をさらに高い値段で他チームに売りつけ始めます。中継貿易みたいなイメージでしょうか。
どのチームよりも早く、ルールの抜け穴を利用して効率的に稼いでいたそうです。
さらに、D、E、Fの3チームを上手く言いくるめ、彼らの紙幣を全て自分達のものにしてしまいました。
Togetterまとめにも細かい記載はなく、結果だけが記されているのですが、例えば革命時に新しい札が発行された時には、全て交換してあげるというような約束がされていたのかもしれませんし、価値がなくなったお金については保証してあげる(しかし、価値がある場合は保証しない)という約束があったのかもしれません。
ここだけ取り上げても、色々と議論ができる部分かと思います。
そして1番すごかったのは、革命に関する話がCチームによるでっち上げだったということです。
蓋を開ければ、先生から各チームに与えられた情報は全て同じ(つまり、先生がクリームチーズに生ハムを巻くのが好きだという情報)であったにもかかわらず、Cチームは偽情報を作り上げて、他チームを扇動し、それにより金を稼いでいたということです。
例えば、Cチームより革命に関する情報を買ったチームは、普通に大きさを測って切り取る1000 円よりも、コンパスを使ってより手間のかかる500円を優先して作ることとなりペースダウン。
500円製造のために必要なコンパスの価値が高まることで、もちろんゲーム当初よりも高値で取引されることとなったことが予想されますが、一度売却したコンパスを高値で買い戻す必要に迫られたチームもあったということです。
グループ①、グループ②、グループ③を分けたのは、おそらくそれまでの道具の交換等において、感度の高い、低い等が判断されたのかもしれません。
うん、Cチームの代表はすごいというか、怖いですね。
このゲームから学べること
Togetter上では以下のようにまとめられています。
・Cチームはあくまでもゲームのルールに則って行動しており、特にルールを作る側に立っていた
・実際の世の中でも、ルールを作るやつが1番強く、社会に出てからも同じである。
・何も考えずにうまい話に飛びつくと騙されるし、まじめにやればいいというわけでもない。
そして最後に、
・社会に出てもいろんなものを疑ってほしい。このルールは誰得なのか、仕組みを上手く利用することはできないか、やっていることは本当に正しいことか。つまり、簡単に騙されるなと。
私にはどこの専門学校の話か分かりませんし、そもそもこの話も創作話かもしれません。
昔、グローバル経済について学ぶ『貿易ゲーム』という似たようなゲームを見たこともありますので、その辺りから教訓めいたところだけを引っ張ってきているのかもしれません。
Togetterのコメント欄でも積極的な議論が展開されています。
Cさん自身の資質を問題視する向きや、そもそもこの話自体がキレイに展開され過ぎている等疑いの目を向ける方々、あるいはCさんみたいな方法は取りたくないという道徳論であったり…。
ゲームなので、設定や厳密性については細かいツッコミどころはあるでしょう。
だけれども、汗水流して働くことこそが価値があるという風潮がまだ残る日本において、真面目に働いているだけではダメだという気づきを与えるには十分ではないかと思います。
実際のところは、紙幣を造るだけでも革命を信じていなければもう少し金額は大きくなっていたはずなので、私自身製造自体を否定しているわけではありません。
ただし、自分達が信じているルールや制度が変わっているかもしれないのに、そこは気にしない、気づかないまま目の前の作業に一心不乱に勤しむ様は、まるで昔の働き方に縛られて時代の変化を受け入れられない旧世代の方々を彷彿とさせます。
また、米国と違って収益が頭打ちになる大企業が多く、良い製品は作れるものの、ビジネスや仕組み作りではいつも後塵を配する日本企業そのものではないかとも思うのです。
また、グループ②に該当する人達については、何も分からないまま相手の言うことを信用してはいけないという教訓も得られます。
所得金額が0円になることはなくても、全く社内に知見がないことから外部コンサルを入れて、知らないうちに搾取されているケースを想像すれば全くない話ではないと思います。
実際、保険ビジネスはまさにこれに該当するのではないかとも思うのです。
起こるかもしれないが、実際は人が心配するほどには発生しない事があるからこそ、ビジネスが成り立っているとも言えるわけで、人間はいかに非合理的であるかという議論にもつながりそうです。
さらに、グループ①に該当する人達については、「ルール策定側へ行くことの重要性」についての教訓が得られます。
直近ではEU一般データ保護規則(General Data Protection Regulation、GDPR)と呼ばれる個人情報保護の流れなど、国際的なルールの多くは米国や欧州が中心となって策定されています。
また米国などでは当たり前のロビー活動が、日本においては何か政治との癒着と捉えらえるケースが多い印象ですが、業界団体なども当局ともっと積極的にルール策定に関わることなども重要になってくると思います。
このゲームから学べないこと
ただし、このゲームどおりやるとたいへんまずいこともあります。それは「Cチームの信用」の話です。
例えば、Cチームは以下のような「倫理的に問題のある行為」をしています。
・Cチームは他のチームに「デマ」を流した
・D、E、Fの3チームを上手く言いくるめ、彼らの紙幣を全て自分達のものにしてしまった
では仮に「第二回戦」があったとしたらどうでしょう?
Cチームと取引をするときには皆用心するようになり、最悪、Cチームは孤立するでしょう。
周囲のグループが協調してCチームを取引の輪から外せば、Cチームに勝ちの目はありません。
ゲームではない現実においては一回きり勝てば良いというわけではないのです。
つまり、人を裏切って収益を上げるということだけでは、ネットワークビジネス的なものと同じになってしまうわけです。
現実においては、その後も人間関係が繰り返されます。ましてや、他人からの信用や信頼が価値として意識される時代でもあります。
どうやって継続的に信用、信頼を得ることが出来るか?という要素も大切になるでしょう。
このゲームには「2回戦」がありませんでした。
したがって、Cチームが人を裏切ったことが正しい、とされるような結果になってしまった。
これは誤った教訓をもたらします。
*
上の話は「ゲーム理論」の研究でも議論されており、1回きりの取引の場合には、「相手を騙す」ことが、合理的な選択であるとわかっています。
Cチームは忠実にこれを行いました。
しかし、取引がいつ終わるか示されていない場合には、必ずしも相手を騙すことが合理的な選択ではなく、場合によっては信用のもとで相手と協調することが必要とされます。
そのような場合、Cチームが革命の話をするとしても、革命が起きなかった時にでもある程度の納得感があることも大切になるでしょう。
さて、皆さんがゲームに参加するとしたら、どのような戦略で臨むでしょうか。
今回のゲームに細かいツッコミをするのは簡単ですが、それはさておきここから学べる教訓を実際の仕事などに活かしていくのも面白いかもしれませんね。
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【著者プロフィール】
著者:ひろすぎ
30代、都内勤務の兼業投資家。
どうやったら普通の人がお金に困らない暮らしをできるかを模索し、自ら実験する日々。株、不動産をはじめ、いくつかの事業を展開。趣味はお散歩とお酒、旅行です。
(Photo:Yamanaka Tamaki)