先週読んだ記事で1つ面白いものがあった。Social Psychological and Personality Scienceという雑誌に投稿されたある研究によると、何らかの宗教に所属している人は、無信仰の人と比較して5年以上長命の傾向にあるのだという。
宗教は長生きの秘訣?(西川伸一) – 個人 – Yahoo!ニュース
こんな個人的信条の話から始めたのは、最近オハイオ州立大学から発表された「信仰を持つ人は長生きする」という論文を紹介したいからだ。
タイトルを見て、「宗教の勧め」と誤解されないよう、あえて私の心情から始めた。
この論文のメッセージは、信仰を持つことが必ずしも精神的な効果だけでなく、長寿という身体的影響を及ぼすことだ。
論文はSocial Psychological and Personality Scienceという雑誌にオンライン掲載され、ちょっと刺激的なタイトルが付いている論文だ (Wallace et al, Does Religion Stave Off the Grave? Religious Affiliation in One’s Obituary and Longevity(宗教は墓場に行くのを遅らせる?死亡記事に書かれた宗教と長寿),Social Psychological and Personality Science, online first, 2018:https://doi.org/10.1177/1948550618779820) 。
この論文の著者らは、この結果は信仰心を持つ人は社会的なつながりが持ちやすい関係にある事がこの結果に繋がっていると予想している。
確かに、毎週末ごとに教会にでも顔を出すようにでもしていれば、否が応でも誰かとの関係性が生まれる。
その結果、孤独な人と比較して精神的な充足を得やすい傾向にあり、心の健康に役立ちそうだというのは納得できるものがある。
しかし個人的には、宗教が与えてくれるものは人と人のつながりより、変わらないシステムによりもたらされる心の安心感の方が強いのではないかな、と思っている。
というわけで今回は、変わらないものの優しさについて書いていこうかと思う。
信仰心は難しい事を考えすぎない事に役に立つ
私達は常に選択を迫られている。
例えば何を食べるかだって選択のうちの1つだ。米を食べるか、パンを食べるか。パスタにするか、蕎麦にするか。
人生は選択の連続である。そして意外と選択は結構、脳のリソースを強く使う。
かの有名なスティーブ・ジョブズなんかは、決断の力を極限まで失わない為に、毎日あの同じような服を着ていた事で有名だが、”正しい”選択を常に迫られると人はヘトヘトになってしまう。
こういう時に、宗教は結構便利である。
だいたいどの宗教にも、比較的規範となるような鉄則がそこそこ整備されており、それを遵守するだけで”その宗教からみれば正しい”行いを、あまり難しい事を考えずに”選択”する事ができる。
人はみんなと同じことをすると安心する生き物だ。
特定の宗教の信者は、その宗教の教義による”正しい”とされる行動をみんなで一緒にやることで、安心して”正解”を選択することができる。
宗教は”自由”すぎる世界から、”正しい”行いのみをふるい分けてくれるという、選択コストを減らしてくれる魔法のツールなのだ。
勉強し続けるのは多くの人にはシンドイ
「数百年も前に決まった事を、現代にもなって守るだなんて馬鹿げている」
こう思う人も当然いるだろう。
僕も個人的にはこの考えには賛成するのだけど、しかしいつまでたっても自分の頭で何が正しいのかを考えて決めるのは意外とシンドイ。
僕は勉強が苦ではない性分であり、かつまだ頭がそこそこ働くという事もあって、今現在は新しい考えを取り入れる事についてはあまり拒否反応はない。
だけど、最近になって、これが果たしていつまで続けられるのだろうかと若干不安になってきている。
人間という生き物は、いつもずっと頭脳が使えるわけではない。
人によっては随分高齢になっても頭が柔らかく、様々な知識をみにつけられる人もいるけれど、僕がみている限り、多くの人は40歳を超えたあたりから新しい事を勉強する事が極端に苦手になってゆく。
あなたの周りにも、妙に頑固な人や新しいやり方についてこれないタイプの人がいないだろうか?
僕が思うに、ああいう人というのは新しい考え方を取り入れたくても、もう取り入れられないのだ。
僕はそういう人の事を”知性が抜けた人”と読んでいるのだけど、僕が思うに遅かれ早かれ、人間という生き物はみんないつかはそうなる。
私達は成長するにつれて身体が大きくなり、知力も上がっていく傾向があるけれど、当然だけどそれは永遠に続くわけではない。ある段階まで至れば、人は今度は下り坂に差し掛かる。
そういう時、新しい”常識”は、あなたに強い恐怖として襲いかかる事になる。
新しい知識が正しい事であり、それを身につける事が道理だとしても、もうあなたの頭にはそれを学ぶだけの知性が残っていなかったとしたら、あなたはどうするだろう?
たぶんだけど、あなたは新しいことを頑なに認めない、ステレオタイプな頑固な爺さんのような態度をとっちゃうんじゃないだろうか?
一部の年配の方が頑固なのは、新しい常識を再度学び直すのがくっそ面倒くさいからに他ならない。
それをエレガントに威厳を持って拒絶するのに、頑固というのは便利なツールなのだ。
年配の方が頑固になるのも、理由があるのである。
宗教はアップデートされない、自然淘汰を生き延びた知見である
僕は幼い頃、伝統とかいうものが物凄く嫌いだった。神社とか寺、歴史的建造物をみるよりも、ゲームボーイをやってる方が圧倒的に楽しかった。
しかし最近になって、伝統や宗教というのは本当に強いなという事を実感する。
新しい事は、新しいがゆえにすぐに入れ替わる。
さっき例に出したゲームボーイだなんて、今やってる人なんてほとんどいない。かつて一世を風靡したポケットモンスターだって、いまは思い出を懐かしむことぐらいしかできない。
昔、ポケモン大会で優勝した人の名前なんて、もう誰も覚えちゃいないだろう。
一方、伝統や宗教というのは本当に変わらない。
若い頃は、この変わらないという事が退屈で古臭いものにみえてしまうものだけど、歳をとると逆に変わらない事にこそ、優しさを感じてしまう。
今では歳をとった人が伝統を遵守し、保守になる気持ちがよくわかる。変わらないという事は、それだけ知性が抜け落ちた人にとっては優しいのだ。
だからこそ、多くの人はある段階から伝統という変わらない、大いなる物語を自分の生き方の模範に取り入れるのだ。
あれらの知見は、それこそ数百年もの間の自然淘汰を経た結果、まだ現存している1つの強力な”正しい”ものの見方なのだ。
誤解してほしくないのだけど、僕は今でも技術革新は大好きだ。日々アップデートされる医学知識を身につける事についても、あまり今の所苦労はしていない。
けどアイデンティティーの構築や生き方の規律のようなもののバックグラウンドに、保守的な知識や宗教という時の洗礼を耐え抜いた”枯れた知識”を導入する事にも強い魅力を感じるものまた事実である。
そこには日進月歩のように進歩する、日々アップデートをしなくてはならない医学知識を学ぶ事の苦労は微塵もない。
その割には、時の洗礼を耐え抜いたという、妙な強さを持っていたりするのだから、実に魅力的だ。
歴史の重みや変わらなさってのも、いいものだなぁと思うのである。
私達は伝統という安定感を自分の中に取り入れる事ができた時、ラットレースのような目まぐるしく常識が覆えされる世界から、ようやく足を洗えるのかもしれない。
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(Photo:Ksenia Novikova)