今日はワインの話をします。それも、シャルドネの話です。
シャルドネは、世界でいちばん有名な白ワイン用のブドウ品種で、お手頃価格から高級品まで、ものすごい数のワインがつくられています。
缶チューハイやノンアルコール飲料にも「シャルドネ味」があるぐらいですから、ワインをあまり飲まない人でも名前ぐらいは聞いたことがあるのではないでしょうか。
ところがこのシャルドネ、作られている地域によって味やフレーバーがてんでバラバラのため、ワイン初心者泣かせだったりします。
世界でいちばん有名で、そこらじゅうのワインショップで幅をきかせているくせに、期待どおりの味やフレーバーのものを掴み損ねやすいのです。
この文章では、「期待どおりの味やフレーバーのシャルドネを選ぶためのコツ」を紹介します。ワインの価格は1000円~3000円くらいを想定していますので、そのつもりでお読みください。
シャルドネは、揺れ幅の大きなワイン
シャルドネは、ものすごく振れ幅の大きなワインなので、一番あっさりとした品と一番こってりとした品を飲み比べると、びっくりさせられます。
和食に合わせやすいシャルドネもある反面、むしろ、肉料理と相性の良いシャルドネもあったりするので、食べ合わせも面倒くさいほうです。
「白ワインだから寿司や刺身に合うと思ったのに、なんだかイマイチだった」
というご経験をされた方は、ひょっとしたら、肉料理と相性の良いシャルドネを和食にマッチさせてしまったのかもしれません。
じゃあ、どこのどういうシャルドネが、どういう味やフレーバーを持っているのでしょうか。
タテ軸を「すっぱいフルーツ味-たっぷりフルーツ味」として、
ヨコ軸を「花畑・台所洗剤系のフレーバー-バター・クッキー絵系のフレーバー」
として図表にまとめると、こんな感じではないでしょうか。
「あっさり-こってり」系列で考えたい人は、図表の左上ほどあっさりしていて、右下ほどこってりしている、と考えていただいて差し支えありません。
ワインは農産物なので、地域や製造者、その年の作柄によって味やフレーバーが変わります。
それでも、作られている地域によって大まかな傾向はみてとれます。
たとえば典型的な北イタリア産のシャルドネは、典型的なカリフォルニア産のシャルドネに比べて酸っぱくあっさりしていて、和食を蹴散らしてしまう心配は少なめ……といった具合に。
そうした大まかな傾向を知っておくだけでも、シャルドネでハズレをひく確率はかなり減らせるはずです。
バター!クッキー!蜂蜜!こってり&フルーティーなカリフォルニア産
まず、カリフォルニア産のシャルドネから。
アメリカン! な土地柄か、カリフォルニア産の1000~3000円のシャルドネを買うと、コッテリ濃厚な品によく出会います。
ワインがグラスのなかで黄金色に輝き、バター、クッキー、蜂蜜の混じり合ったような、そこに有機化合物の匂いを少し混ぜたような濃いフレーバーが押し寄せてきます。アルコール度数もたいてい高めです。
そういうワインを薄味の和食に合わせると、辛いことになります。ワインのコテコテ風味に和食の繊細な風味が負けてしまうのです。
この手のコテコテしたシャルドネには、もっと濃い料理、たとえばアメリカンピザや豚肉料理あたりを合わせたほうが幸せになれます。
バターやクッキーや蜂蜜の香りにくわえ、フルーツパンチのようなたっぷりフルーツ感を伴っていることもままあるので、いっそワイン単品で楽しんでもいいのかもしれません。
近年、カリフォルニア産シャルドネはコテコテ路線を撤回し、エレガント路線に変わりつつあるともいわれていますが、1000~3000円くらいの価格帯には、コテコテ路線のシャルドネがまだまだあります。
濃厚なシャルドネを味わいたい人は、ワインショップのカリフォルニアの欄をあたってみましょう。
チリ産シャルドネは、お盆や正月のオードブルに
カリフォルニア産よりもお手頃なチリ産のシャルドネ。
チリ産のシャルドネは、値段が高くなるほどカリフォルニア産に似てきますが、お手頃価格のチリ産シャルドネは「カリフォルニア産から、バターやクッキーや蜂蜜のフレーバーを減らしたような」雰囲気のものが多く見受けられます。
ただし、 バターやクッキーの香りが少ない=悪い とも限らず、そのぶん、花畑や台所洗剤系のような、清々しいフレーバーを感じやすいかもしれません。
味わいは、ほぼ間違いなくフルーツたっぷり路線で、桃の缶詰やパイナップルやグレープフルーツを混ぜたような雰囲気です。「甘いワイン」とまでは感じないとしても、糖度が高いせいか、たくさん飲むとパンチ力があると感じます。
このため、チリ産のシャルドネを一人でガブガブ飲んでいると、いつの間にかノックアウトしてしまうかもしれません。みんなで飲むか、数日にわけて飲むのが個人的にはオススメです。濃いワインなので、合わせる料理も濃くて構わないでしょう。お盆や正月に「オードブル」を囲んで乾杯するなら、チリ産のシャルドネは選択肢のひとつかもしれません。
和食なら、北フランス産の「シャブリ」を
ここまで挙げたシャルドネは、どれも南国育ちのコッテリ路線でしたが、北国育ちのシャルドネはさっぱり路線、和食に合わせるならこちらです。
とりわけ「シャブリ」と書いてあるワインは、花畑のような爽やかな香りと、レモンやシトラスのフレーバーが濃厚です。
世間では「生牡蠣に合わせるならシャブリ」とも言われていますが、「レモンやスダチをかけるような料理」との相性がすごく良いのです。
なぜなら、このワイン自体がレモンやスダチのように酸っぱく、爽やかですから。魚の塩焼きや刺身にもよく付き合ってくれます。
そのかわり、この「シャブリ」は非常にあっさりしているので、カリフォルニア産に期待されるような濃厚フレーバーを期待するとガッカリする羽目になります。
この「シャブリ」に限らず、1000~3000円のフランス産シャルドネは全体的にあっさり路線が多く、和食を蹴散らすほどの暴力性は伴っていない反面、単体ではそれほど印象の強くないものが多いように見受けられます。
この価格帯で濃厚コッテリ路線をお求めなら、カリフォルニア産かチリ産を選んだほうが無難です。
シャルドネの原点に近い「バランス」型
ここまで挙げてきたのは、特徴の尖った、いわば「特化型」のシャルドネですが、もっと平均的なシャルドネが飲みたい人には、ラベルに「ブルゴーニュ」と書かれたシャルドネか、北イタリア産をお勧めします。
フランスのブルゴーニュ地方は高級シャルドネの産地なので、もし、あなたが無尽蔵にお金を出せるなら、1本1万円~6万円のシャルドネを繰り返し飲むのも手です。
でも、普通はそんなにワインにお金をかけないでしょうから、たとえば上に挙げた二種類のような、東急ストアやイオンモールでも手に入れやすいものを選んだほうが無難でしょう。
さきほどの図表で示したように、ブルゴーニュ産のシャルドネはたいてい「バランス型」です。なにしろバランス型ですから、魚のソテーや簡単な前菜に合うのはもちろん、寿司や刺身にあわせても、豚肉料理にあわせても、それほどひどいことにはならないでしょう。
さすがにステーキやジンギスカンを相手にすると、ワインが負けてしまいますが。
また、イタリア北部でつくられているシャルドネも極端なフレーバーのものが少ないので、バランス型が欲しい時には選択肢になります。
ブルゴーニュ産のシャルドネは少しずつ値上がりしているので、コスパを狙うなら北イタリア産です。
ちなみに、イタリアはイタリアでも、シチリア島のような南部のシャルドネはチリ産やカリフォルニア産に似てきますし、南フランス産のシャルドネも同様です。気を付けましょう。
ワインを買うときはラベルを見ましょう
さて、こういった地域によるシャルドネ選びの際に、必ずやったほうが良いことがあります。
それは、「ワインのラベルを見る」ことです。
値段だけ見てワインを買うと、そもそも、それがシャルドネかどうか区別つきません。
ここで挙げたワインはどれも、ラベルに必ず「シャルドネ」とか「シャブリ」とか「ブルゴーニュ」といった単語が書き綴ってあります。それも、かなり目立つフォントで書いてあるはずです。
さきほど触れた「イタリア南部のシャルドネ」「南フランス産のシャルドネ」についても、必ずラベルのどこかに産地が書いてあるはずなので、とにかく、ラベルに目を通しておきましょう。
もし、ラベルを見ても品種や産地がわからないワインは、とりあえず敬遠しておくのも一手です。
ラベルは、とびきりおいしかったワインに再会するための重要な情報源にもなります。
シャルドネに限らず、ワインは味やフレーバーがモノによってまちまちなので、一度おいしい思いをしたからといって、同じ味に再会するのが容易ではありません。
なので、「あの時のおいしかったワイン」に再会するためのいちばん手堅い方法は、「以前に買ったのと同じお店で、まったく同じラベルのものを買う」になります。
幸い、現代人にはスマホという文明の利器があるので、すごくおいしかったワインはラベルを写真で撮っておきましょう。
ビストロやレストランで出会ったおいしいワインも、ラベルを撮ってしまえば大丈夫。
同じラベルのワインをデパ地下で探してくるも良し、ラベルに書かれた文字を楽天市場で検索してクール宅急便で届けてもらうも良し。とにかく、同一のラベルのワインを買うのです。
ちなみに2018年現在、Amazonやネットオークションで買うのはあまりおすすめしません。
なぜなら、Amazonでワインを買うとクール宅急便指定ができないため、配送中にワインが痛んでしまうリスクを冒さなければならないからです。
個人的には、高温で痛んでしまうかもしれないワインをAmazonで通常配送してもらうのは、勇気の要ることだと思っています。
ネットオークションも、どういう品質管理を経てきた品か見極めるのが難しいので、とりあえずは避けておきましょう。
で、「あの時のおいしかったワイン」に再会できたら……おめでとうございます!
そのワインを、飽きるまでリピートするのをオススメします。
飽きない限り、永遠にそのワインだけを買い続けたって構いやしません。
単においしいだけではなく、同じワインをひたすら買い続けたほうが、ワインの理解がはかどる、という側面もあります。
むしろ、毎回違うワインを飲み、それで味やフレーバーが区別できるほうがおかしいのではないでしょうか。
そういう芸当をやってのけられるのは、訓練を経たソムリエさんか相当なワイン愛好家ぐらいのもので、普通は、酔いに負けてワインの味はなかなか覚えられません。
けれどもリピートすればさすがに覚えますし、ワズレワインをひいて悲しい思いをするリスクも最小限にできます。
ですから、「これが私のおいしいワインだ!」という一本が見つかったら、そいつを愛しましょう。
もしあなたがお気に入りの一本を既に見つけていて、その一本を知り抜いていれば、それを基準点として他のワインの味やフレーバーが比べやすくなるはずです。
他の飲食物もそうですが、単なる「おいしい」ではなく「比べる」という視点が加わると、俄然、ワインは趣味めいた飲み物になります。深入りする必要性はありませんが、もうちょっとワインのことが知りたくなるかもしれません。
まとめ
最後にもう一度、シャルドネの味やフレーバーについての図表を貼り付けておきます。
とにかくコッテリしたシャルドネがお望みならカリフォルニア産を。
フルーツいっぱいの味がお望みならチリ産を、あっさりしていて和食や生牡蠣に合わせたいならシャブリを。
いちばん標準的で無難なものを選びたいならブルゴーニュ産か北イタリア産が私のオススメです。
※ワインをネット通販で購入する際は、クール便の使用をお勧めします。
※節度を守って呑めない人は買ってはいけません。未成年は論外です。
※妊娠中・闘病中などの事情で飲むべきではない人も、飲まないようにしましょう。
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著者:熊代亨
精神科専門医。「診察室の内側の風景」とインターネットやオフ会で出会う「診察室の外側の風景」の整合性にこだわりながら、現代人の社会適応やサブカルチャーについて発信中。
通称“シロクマ先生”。近著は『融解するオタク・サブカル・ヤンキー』(花伝社)『「若作りうつ」社会』(講談社)『認められたい』(ヴィレッジブックス)『「若者」をやめて、「大人」を始める 「成熟困難時代」をどう生きるか?』(イースト・プレス)など。
twitter:@twit_shirokuma
ブログ:『シロクマの屑籠』