人間には、「マルチタスク耐性」とでもいうべきステータスがあるような気がしています。
マルチタスクというのは、皆さんご存知の通り、やらなければいけないことが複数同時に存在する状態です。
今まで色んな人と一緒に仕事をする中で、タスクが大量に降りかかってくるタイミングには山のように遭遇してきました。
上席の人が適切にマネジメントをしてくれたこともあれば、マネジメントというものがほぼ素通りの水道管のような感じで、未整理のタスクがどかすか頭上に墜ちてくるだけ、ということもありました。
あれは辛いです。クレイジークライマー大往生って感じです。
で、タスクが複数同時並行で走る状況を、自他問わず複数回経験してきたことで、なんとなく
「マルチタスクに対応出来る人」
「対応が苦手な人」のレイヤーが見えてきたように思います。
仮に
「同じような粒度のタスクが3,4個一遍に降ってきた」
「しかも業務的な優先順位は決まっていない」という状況を想定してみましょう。
おいマネージャーなにやってんだよ、という話は一旦置いておいてください。正直よくある状況です。
この時の対応の仕方によって、マルチタスク対応能力をカテゴリー分けしてみると、多分こんな感じになります。
・タスクの散らかり具合に関わらず、どんどんタスクを片づけていくことが出来る人
・適切にタスクの優先順位を振ってもらえれば、処理能力を下げずにタスクをこなしていくことが出来る人
・タスクの優先順位が決まっているいないに関わらず、マルチタスクの状態になっただけで処理能力が落ちる人
つまり
「誰かに優先順を決めてもらわなくても処理能力が落ちない人」
「誰かに優先順を決めてもらえれば処理能力が落ちない人」
「優先順を決めてもらっても処理能力が落ちる人」の3カテゴリーです。
前から順に、マルチタスク対応能力が大きい、中くらい、小さいと言ってしまっていいでしょう。
これ、勿論同一カテゴリー内で若干のグラデーションはあるんですが、この3カテゴリーへの分類自体はかなり明確に出来るような気がしているんです。
優先順を決めてもらわなくても処理能力が落ちない人
「優先順を決めてもらわなくても処理能力が落ちない人」というのは、要するに
「意識的にせよ、無意識的にせよ、脳内でサクッとタスクの優先順位を決めてしまえる上、タスクを始めてしまえばあまり他のタスクのことが気にならなくなる人」です。
勿論、このカテゴリーの中にも色んなパターンの人がいます。上席からどかっと無整理のマルチタスクが降ってきた時、ぶつくさ言いながら自分で対応順を適切に決めてしまえる人もいれば、「手当たり次第」という処理法に長けている人もいます。
彼らに共通しているのは、「タスクを始めてしまいさえすれば、他のタスクのことは気にならない」という、いわば自分で自分の視野を適切な範囲にカットする能力です。
他のタスクのことは一旦意識の外に置いてしまえるから、目の前のタスクに対する処理能力が鈍化しない。
「集中力」という言葉で括るにはちょっとフィールドがずれる気がするのですが、それに類する能力なのでしょう。
優先順を決めてもらえれば処理能力が落ちない人
「優先順を決めてもらえれば処理能力が落ちない人」というのは、要するに「タスクが散らかったままだと手がつかない人」。
多分、これが一番普通の人です。
つまり、複数タスクが存在する時に、処理順が明確になっていないとがくっと処理能力が落ちる。
かつ、「タスクの処理順を決めること」「処理順を整理すること」は苦手、というか処理順を整理するだけでかなりの度合消耗してしまう。
つまり、「どれからやるか」ということに迷うだけで、既に脳のキャパシティがある程度割かれてしまうんですね。
これは大抵の人にとって普通のことであって、こういう人が多いからマネージャーという仕事があります。
こういう人たちの為に、マネージャーはきちんとタスクの順番を整理して、「こういう優先順でやってね」ということを明示してあげないといけません。
きちんと優先順が決まっている限り、このカテゴリーの人たちは十分なパフォーマンスを出すことができます。
もっとも、世の中マネージャーが存在しない仕事というものも当然あるのであって、例えば複数の家事になかなか手がつかない状況に苦労するなんてこともそんなに珍しくないことなのかも知れませんが。
何故かタスクの整理というものを行おうとしないマネージャー、というのも世界には存在しますが、ここでは置いておきます。
優先順を決めてもらっても処理能力が落ちる人
さて、世の中には、「優先順を決めてもらっても処理能力が落ちる人」というのも実は結構います。
つまり、「優先順が決まっていようがいまいが、マルチタスクという時点で明らかにパフォーマンスを落としてしまう人」ということですね。
これについては、以前こんな記事を書いたことがあります。
タスクをどんどん遅延させてしまう人に、何故遅延させてしまうのかヒアリングした時の話
つまり、Dさんのタスクが遅れてしまう最大の原因は、「品質についての考え過ぎ」と「タスクの優先づけの混乱」の二点でした。
ここでいうところのDさんが、多分「優先順を決めてもらっても処理能力が落ちる人」に該当する人でした。
ただ「次にはこれがある」ということを意識してしまうだけで、目前のタスクに手がつかなくなってしまう。
これ、能力的な問題というよりは性格的な問題も結構大きいようでして、仕事に慣れても改善しにくいんです。
こういう人には「シングルタスクを徹底する」という対応が必要でして、当然それなりの管理強度を必要とします。
つまり、マネージャーが頑張ればちゃんとパフォーマンスを出してくれます。
「マルチタスク耐性」はある程度訓練で向上させることが可能
勿論、「マルチタスク耐性」はある程度訓練で向上させることが可能です。
大雑把に言うと、この耐性は
・タスク優先順の判断力、整理能力
・他のタスクに気をとられない思考遮断能力、集中力
の二つから構成されるんですが、特に前者の方は、「どういう順番で着手すれば効率的か」という判断を何度も繰り返すことによって向上する傾向があります。
私自身、これ昔はからっきしだったんですが、意識的にマルチタスクの状態を作り出して、効率のいい処理の仕方を考えてどうにか実行して、ということを繰り返す内に、昔よりはだいぶマシになったような気がします。
ただ、後者の方は生来の気性的なところもありますし、もしかすると子どもの頃の過ごし方にもよるのかも知れず、なかなか根本的な改善が難しいようです。
つまり、マルチタスク耐性「中」から「大」にレベルアップするよりも、「小」から「中」にレベルアップする方が難しそうです。
なんにせよ、マネージャーは、部下の「マルチタスク耐性」をきちんと見極めて、それを把握した上で仕事の割り振りを考えることが重要ですよね、と、そういう話なんです。
*
ところでこのマルチタスク耐性なんですが、大人だけの話ではなく、子どもの時点でも結構個人差があるなーということを最近認識しました。
我が家で言うと、長男がかなりマルチタスク耐性が高い方なので最近まで気付かなかったんですが、長女はいまいちマルチタスク耐性が低く、「こういう順番でやろうね」ということをちゃんと言ってあげても、次にしなくてはいけないタスクがあると途端に集中力が落ちる、ということが分かったんです。
これ、幼稚園時代はあまり問題にならなかったんですが、小学校で宿題が出るようになって気付きました。
元来子どもは気が散りやすい生き物ですので、長女の方がむしろ普通なのかも知れません。
早めに気づけたので、過去の管理経験を元に「シングルタスクの徹底」をやってみたら最近はだいぶ改善しました。
といってもそこまで大したことをやったわけではなく、
・「〇〇したらその次××ね」といった段取りの提示を避けて、シンプルに「じゃあ〇〇しようね」とだけ言うようにした
・予定用のホワイトボードに優先タスクを一個だけ書くようにした
・机の周りを整理して、他のものが目に入りにくいようにした
という程度なんですが。
大きくなってきたらちょっとずつ、マルチタスクでも処理出来るように慣れさせてあげようかなーと考える次第なんです。
そちらについてはまたいずれ、こういうのが効果あるんじゃないかな?というのを書いてみたいと思います。
皆さんが健やかなマルチタスク対応生活を送られることを願って止みません。
長くなりましたが、今日書きたいことはそれくらいです。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)
【プロフィール】
著者名:しんざき
SE、ケーナ奏者、キャベツ太郎ソムリエ。三児の父。
レトロゲームブログ「不倒城」を2004年に開設。以下、レトロゲーム、漫画、駄菓子、育児、ダライアス外伝などについて書き綴る日々を送る。好きな敵ボスはシャコ。
ブログ:不倒城
(Photo:Brian Cantoni)