この記事で書きたいことは、大筋下記の3点です。

・そもそも、部下や後輩を「ちゃんと育てられる」人など滅多にいない

・きちんとした予算も評価もなしに、新人育成を個人任せにするのは会社の重大な錯誤

・どうしても新人教育の予算がちゃんと取れないのであれば、せめて新人教育をきちんと定型化して誰でも出来るようにする工数をかけるべき

よろしくお願いします。

 

ということで、書きたいことは最初に全部書いてしまったので、後はざっくばらんにいきましょう。

 

先日、megamouthさんのこちらの記事を拝見しました。

底辺IT企業は『書けない』プログラマとどう向き合ってきたか

最初のほうは優しく教えていたと思う。話したりハンズオンしている時に、あっこの子、変数のことわかってないな、と感じたら、ホワイトボードを持ち出してきて、例の”x”と書いた箱の絵に矢印を引いて、値が入っている図を書いて、「わかった?」「あ、はい」みたいなやり取りをして終わり、という程度の「教育」である。

だが、そんな程度の教育も最初の年の10月ぐらいまでで終わる。

年末が近くなってくると大量の案件が入ってきて、そんなこともやってられなくなる。

ベテランプログラマでも困るような雑な投げ方で案件を振って、出来たらヨシヨシ、出来なかったら、ハイハイとばかりに全部書き直して納品。という具合に「放ったらかし」にしてしまう。

これ、megamouthさんは「底辺IT企業」と称されてますけど、一応一部上場の中堅IT企業に新卒入社した私も、別段状況変わらなかったよなあ、と思ったんです。

 

私も、予備知識がろくにない状態からIT業界に飛び込んだ部類の人間です。

一応、最初の1,2週間は座学の時間がありましたが、後はほぼ「OJT」という形で、言っちゃ悪いですが現場に押し付けられたお荷物が我々でした。

現場の先輩社員の皆さんが「新卒社員教育係」に急きょ任命されまして、あれこれ我々に振る仕事を考えてくださり、最低限の説明と「分からないことあったら聞いてね」の一言で後は放置、という状況も、割と早い段階で訪れました。

 

megamouthさんがおっしゃるところの「右も左もわからない中、パソコンをあてがわれて、入門書を読んで、そりゃこの通り書けば動くけど、なんで動いているのかはわからない」という状態がほぼデフォルトだった訳です。

 

ちょこちょこアドバイスもいただきましたが、先輩社員の皆さんも自分の業務に忙殺されているのは変わらないので、丁寧なフォローがあったかというと難しいところでした。

成果物ともいえないような成果物を四苦八苦して生み出しては、周囲一面にご迷惑をかけるような日々でした。

 

私が何だかんだでこの業界に定着出来たのは、たまたま趣味でやっていたファミリーベーシックの知識が後になって生きてきたのと、足を引っ張っている状況に全く痛痒を感じない程度に神経が図太かったからという、それだけの話に過ぎません。

「わからんもんはしゃーないやん、出来ない仕事に就ける会社が悪いやん」と早くから割り切れたのは、今から考えると全く正しかったのだと思います。

 

石の上にも3年ではありませんが、時間が経てば分からない中にも蓄積は出来るもので、なんだかんだ、色々調べながら自力で課題をクリア出来る程度の技術力はつきました。

 

とはいえ、一歩間違えれば「俺は何でこの会社にいるんだ?」と悩みに悩んでIT業界を去るルートも全然見えていたなー、とは思うのです。

実際、当時私の同期の新卒は40人ちょっといたと思うのですが、5年経過後の生き残りは半分に届きませんでした。

 

ただこの状況、当たり前といえば当たり前だよなーと、今となっては思うんですよ。

そもそも、「新人教育」が現場の社員にほぼ丸々押し付けられる状況自体、冷静に考えればどうなのかなと。

 

どう教えれば相手に適切なスキルが身に着くか?というのは、実際のところ、そんなに簡単な話ではありません。

本来、「教える」というのは、それだけでかなり高度な専門性が必要とされる分野です。コーチングってやつです。

 

現場の社員は、当たり前ですがコーチングの専門家でもなんでもありません。

彼らはそれぞれの業務の専門職であって、自分たちの仕事についてのスキルはありますが、大抵の場合「教える」スキルを持ってはいません。

コーチングのスキルを身に着けようにも、元々の業務の時間拘束は全く軽減されていないことが殆どなので、「どう教えればいいかな?」ということをゆっくり考える時間すらとれない。

それどころか、自分の業務をこなしつつ、お荷物となる新入社員の業務フォローまでしなくてはならず、時間的負荷はむしろ増える。

 

しかも、大抵の場合、自分たちの評価において「新入社員を適切に育てられたか?」というのは軸として重視されず(会社にもよるでしょうが)、苦労して後輩のスキルを引き上げても、自分の給与増加には殆ど貢献しないわけです。

「分かんないことがあったら聞いて」で放置することになりますよそりゃあ。

 

「コーチング軽視」という話は、日本では色んな組織、色んな会社で指摘されているところですが、「新人育成を現場の社員個人に押し付ける」というのも、その端的な側面の一つなんではないかなーと。

言ってしまえば、これ、「教育」というものを舐めている会社が犯す重大な錯誤だと思うんです。

 

勿論、ちゃんとやってる会社はきちんと予算とって、人抑えて教育やってるんでしょうけどね。

 

当然、こういう話は別に問題意識として新しいものではなく、現場でも定期的に持ち上がる話ではあります。私が以前いた会社でも、一度この辺について問題視されたことがありました。

その時私がした提案は、「予算がとれないならそれはもう仕方ないんで、せめてちゃんと教える仕組みやら教えたい内容を定式化・資料化して、教える人が誰でも同じように出来るようにしろや」ということでした。

新人教育のフレームワーク化です。

 

たまたまそのタイミング、大き目の案件が終わって次の案件が入っておらず、部署全体で割と時間に融通が効く時期だったので、この提案は割と前向きに取り上げられ、新人教育のフレームワーク化に取り組む工数が取られることになりました。

IPAのスキル標準やら、人材育成のページやら読み込みながら色々考えました。

 

「何を教えるもんなの?」というのを一から考えるのは当然途轍もない難事なので、大体のものは既存の内容からパクりました。以下のリンクとか色々勉強になるので読んでみてください。

 

https://www.ipa.go.jp/jinzai/itss/itssplus.html :ITSS+(プラス)・ITスキル標準(ITSS)・情報システムユーザースキル標準(UISS)関連情報

https://www.ipa.go.jp/jinzai/itss/csfv1.html :共通キャリア・スキルフレームワーク
当時やった取り組みはこんな感じです。

・未経験の新卒社員を想定して、この現場で身に着けて欲しいスキルレベルを分野別に策定した

・各担当者の得意分野ごとに座学を想定した教材を策定(Markdownでweb参照出来るようにした)

・当該教材を使ってお互い座学のロールプレイをして教材を分かりやすくする取り組みを行った

・slackで新人質問チャンネルを作って、しょうもない質問でも暇そうな人を見つける手間をかけずすぐ投げられるようにした

・新人が投げた質問は自動的にチケット化され、それを解決した人は解決チケットとしてカウント、評価に繋がるようにした

 

フレームワーク化する手順としては、それなりに妥当だったんじゃないかなーと思っています。

 

まず第一に、実際に仕事で必要になるスキルには案外偏りがあって、例えば基本情報処理技術者試験のような整理では上手くいかない場合もあるので、「実際にここまでスキルを身に着ければ、取りあえず一人で動けるようにはなるよね」というラインを、そこそこ細かく決めました。

 

次に、そのラインにたどり着く為の教材を、それぞれの分野の担当者ごとに用意しました。

そこまで作り込んだものではなく、コピペ上等分かりやすさ重視の資料でしたが、初学者に必要なものという観点では各々ちゃんと考えていたと思います。

 

で、お互い専門分野外の相手を新卒と見立てて、実際にその資料に基づいた座学をやって、分かりにくいところ、不備に見えるところを指摘してもらいました。

勿論、分野外とはいえ全くの未経験者よりはよっぽど知識があるんですが、そこはもう仕方ないんで妥協しました。

少なくとも、「その資料に基づいて説明すれば、説明する人が誰であっても、最低限の業務は出来る程度の知識がつく」ということをゴールラインにしたのです。

 

もう一つのアプローチとして、「非同期でいつでも質問が投げられる仕組み」と、「新卒の面倒を見たらちゃんと評価につながる仕組み」が必要だと思ったので、こちらはslackとredmineの連携で解決しようとしました。

不特定人数相手のチャットであればそもそも相手が忙しいかどうか気にする必要もありませんし、それに対して「答えたらちゃんと答えた成果が可視化される」のであれば、答える側の動機にもなります。

 

まあ、質問内容をテキスト化すること自体若干のハードルはあるので、ここについてはまだ改善の余地があったかも知れません。

残念ながらこれを「成功例」としてご紹介するのはちょっと難しいところがありまして、何故かというとその後会社の業績不振で新卒をとる機会が殆どなくなり、結局このフレームワークがろくに活かされないまま会社ごと同業他社に吸収合併されちゃったからなんですが。

 

まあ、第二新卒の子とか1,2人相手に上記の仕組みは一部利用されまして、そちらでは一応の成果を上げてはいました。

試行錯誤してフレームワークを改善する機会自体がなかったのはやや残念ですが、一つの取り組み例としてご参考頂ければ。
何はともあれ

「新卒教育を個人任せにするのは本来妥当とは言えない」

「ちゃんと組織として新卒教育を定型化するべき」

というのは今でも考えており、それに基づいた取り組みを他にも色々やったりしている部分もあるのですが、まあそれは長くなりそうなので機会を改めようと思います。

 

今日書きたいことはそれくらいです。

 

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【プロフィール】

著者名:しんざき

SE、ケーナ奏者、キャベツ太郎ソムリエ。三児の父。

レトロゲームブログ「不倒城」を2004年に開設。以下、レトロゲーム、漫画、駄菓子、育児、ダライアス外伝などについて書き綴る日々を送る。好きな敵ボスはシャコ。

ブログ:不倒城

(Photo:Christiaan Colen)