私の周囲には「すぐ試す人」が結構いる。

「すぐ試す人」とはどんな人か。

 

例えば、私はKindle端末の愛好家だ。

その中でも特に、Paperwhiteという機種を愛用している。

 

発売当時、知人のひとりに

「軽いし、電池持ちが良いし、読みやすくて、しかもちょっと格好いい」と勧めた。

当然、ほとんどの人には「ふーん、好きなんだね。」と流される。

いつもの反応だ。

 

だが、その彼は「へー、そんなにいいなら、買ってみるわ。」と、その場でAmazonで購入してしまった。

私はあわてて

「いや、もっと用心しなよw」

と言ったのだが、

「使ってみないとわかんないから。」

と、全く躊躇しない。

 

彼は他にも、モバイルバッテリー、Apple watch、保護フィルム、イヤフォンなど、ありとあらゆるものを「すぐに試す」。

今では、大抵のガジェットのことなら、彼に聞けば使い勝手がわかるので、迷うときは彼に相談することにしている。

 

彼にはかなわないなあ、と思う。

 

 

前の職場で、タスクを漏らしがちの人間がいた。

彼が困っていたので、私は当時つかっていた、あるタスク管理ツールを

「自分はこれを使ってる。」と説明し、励ました。

 

そして、1ヶ月位たった頃だろうか。

彼は「アドバイス、役に立ちましたよ」と私に礼を言ってきた。

 

「それは良かった。使いやすいでしょ。」と言うと、彼は「いえ、実は勧めてもらったものとは違うものを使ってるんです」と、申し訳無さそうに言う。

 

「へえ、どんなの使ってるの?」と聞くと、

彼は「実は、あれから世の中にあるタスク管理ツール、10個ほど試しまして……」という。

「なんと、10個?」

「そうです、この無料のアプリが一番使いやすかったんで、今はこれを使ってます。」

 

「何が決め手だったの?」と聞くと、

「リピートが設定しやすく、サブタスクを入れることができて、重要度と、スケジュール連携ができて……」と、

マニアックな知識を披露してくれた。すでに私よりも遥かに使いこなしている。

 

「そんなにたくさん使ってみたんだ。」と私が言うと、彼は

「試してみるうちに、自分なりの使い方が見えてくるんですよ」と言った。

 

彼にはかなわないなあ、と思う。

 

 

最近、よく一緒に釣りに行く知人も、「よく試す人」だ。

私は密かに彼のことを「テストの権化」と呼んでおり、公私に渡って、いろいろな実験をしている。

 

もちろん、釣具も例外ではない。

彼と釣りに行くたびに、何やら格好が変わっていたり、竿やリールはもちろんのこと、餌や収納用品、ジグに至るまで、バージョンアップしている。

 

彼は実に楽しそうにテストをする。

「次はこれを試す」と言うときの彼は、子供のようである。

 

一方で、彼は様々な人にアドバイスをする仕事をしているが、仕事においても、すぐに「試せ」とアドバイスしているようだ。

 

例えば、日本の野菜を中国に輸出したら、売れるんじゃないか、市場はあるはず、と言う相談者の方に、

「一回やってみればいいじゃないですか。」

「会社を作ってみればいいじゃないですか。」

「試してから考えましょう。」

と、全くブレがない。

 

彼にはかなわないなあ、と思う。

 

「試すこと」が究極的に重要であるわけ

IPS細胞の研究で、ノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥は、著書の中で、ある自己啓発本に触れている。

何度も読んだのは『仕事は楽しいかね?』(デイル・ドーテン著、野津智子訳、きこ書房、二〇〇一年刊)です。

なるほどと思う言葉がいくつもありました。結局、この本のタイトルの通り、仕事も楽しむしかないのかなと思っています。

こういう本から学んだことはいろいろあります。一〇回のうち一回成功すればいいというくらいの気持ちでチャレンジしようとか、やるかやらないかの選択を迫られたとき、やらなくて後悔するくらいなら、やってから後悔しようといったメッセージには、とても共感しました。

 

山中伸弥が紹介する「仕事は楽しいかね?」は、2001年の発売以来、20万部以上売れているロングセラーだ。

同書の大きなメッセージとして、

「試してみることに、失敗はない」

「何を試してきたのかね」

「人は、変化は大嫌いだが、試してみることは大好き」

と、「試すこと」の重要性を繰り返し説いている。

 

その根拠として、同書は、米国で行われた「ホーソン実験」という有名な実験を取り上げる。

 

この実験は、工場の生産高が何によって変わるのかを調べた実験だった。

例えば「照明の明るさ」を変えたり、「休み時間」を変えたりして、生産性を測定した。

だが、驚くべきことに「何を変えても」工場の生産性は30%も上がってしまった。

 

昔の実験であるし、現在の社会学者は「ずさんな実験」と批判する者も多い。

だが著者は、本当に得られた教訓は、「試してみることに失敗はない」だと、主張している。

ホーソーン効果は、被験者の意識のあり方によって正しいリサーチができなくなる例として取りあげられることが多い。

だけどね、現代の社会学者は、事実を誤って認識して、間違った教訓を学んでしまってるんだ。

彼らは、ホーソーンでの実験はいい加減なリサーチだし、失敗に終わった実験だと思ってる。だけど、本当はそうじゃない。あの実験で学ぶべき大切なことは、試してみることに失敗はないということなんだ。

 

 

「試行」と「学習」がセットで、繰り返し行われるとき、大きな推進力が得られる

中には「自己啓発書に書かれていることなんて信用できない」と、懐疑的に見る方もいるだろう。

だが、これらの主張には一定の信頼が置ける。

 

例えば、英国の進化生物学者、リチャード・ドーキンスは、著書「盲目の時計職人」の中で、コンピュータプログラムを用いて、

「どんな些細なものであれ、一つ一つの改善が将来の構築のための基礎として利用される」

ことが、生物進化の原動力になったことを説明している。

 

生物は常に、突然変異によって「あたらしい試み」を繰り返し、その環境に適応した結果、現在のような多様で複雑な生命が出来上がった。

つまり、「試みること」と「試みから得られたことを次に活かす」がセットになったとき、「生物の進化」という、とてつもない大きな推進力を得ることができるのである。

 

そういえば、前述した「釣り仲間」の彼は、仕事の同僚から「学習モンスター」というあだ名を付けられていた。

 

「試行」と「学習」のセットを繰り返し行うことが偉大な力をもたらすのは、どうやら間違いなさそうである。

 

 

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