新卒のとき、「嫌な仕事でも我慢して引き受けたほうが良い」というアドバイスを貰ったことがある。

「なぜですか?」と聞くと、その方は「社内の信用とスキルを得るため、嫌な仕事でも我慢して引き受けるべき。」といった。

 

その3年後。

私は別の方から、「私は嫌な仕事は絶対に引き受けない。」という、真逆の話をいただいた。

同じように「なぜですか?」と聞くと、「やりたくないことを無理やりやっても、パフォーマンスは出ない」といった。

 

さて、一体どちらの言い分が正しいのだろうか。

当時の私に結論を出すことはできなかった。

 

*****

 

まず事実として、パフォーマンスと内発的動機(外部からの強制や報酬ではなく、自らやりたいと思うかどうか)には関係がある。

これは実験によって確かめられた、科学的事実だ。

 

例えば内発的動機づけを研究している、カーネギーメロン大のエドワード・L・デシは、著書の中で次のように述べる。

他の研究でも、内発的に動機づけられているときに比べて、外的な報酬のために活動しているときのほうが、問題をうまく解決することができないという結果が得られている。

統制することを動機づけ方略として用いると、思考力や集中力、直感力や創造性などが妨げられるという多くの治験が見出されているのである。

もちろんこれまで述べてきたように、外的な統制を理由として活動に従事している場合には、人はその活動を楽しむことができない。

「やりたい」と思うことはパフォーマンスが高くなり、「嫌だ」と思うことについてはパフォーマンスが低くなる。

 

また、ピーター・ドラッカーは次のように述べている。

自らの強みは自らの成果でわかる。もちろん、好きなこととうまくやれることとの間には、ある程度の相関関係がある。また、人は嫌いなことには手間をかけないことから、嫌いなこととうまくやれないこととの間には、さらに強い相関関係がある。

逆に言えば、パフォーマンスが重視される仕事ほど

「嫌なことはしない」は重要な意味を持つ。

 

実際、そのような職業、例えば経営者、研究者、作家、芸術家、起業家、スポーツ選手たちは「嫌なこと」は徹底的に断っていると明言する人も多い。

個人的な高い能力が必要とされ、コラボレーションよりもクリエイティビティを求められる仕事においては「嫌いなことをしなければならない」はパフォーマンスに深刻な影響を与える。

 

しかし「集団の中で働く人」にとっては、別の話もある。

大変残念ながら「個人のパフォーマンス」と、「組織のパフォーマンス」は必ずしも一致しない。

個人がいかに高いパフォーマンスを発揮していたとしても、組織、会社レベルで見れば「嫌いな仕事をすべき」というシーンは数多くある。

 

例えば、社員の一人が「嫌な仕事はやりたくない」といって、自らの仕事の一部を放棄したらどうなるか。

工場のラインのように、もしその仕事が全体のパフォーマンスが向上するように最適化されていたとしたらどうなるか。

 

その人が嫌がろうがなんだろうが、その仕事は成されなくてはならず

「つべこべ言うな。やれば良いのだ」という話になるだろう。

それゆえに、組織の中で生きる人達、例えば事務員などのサラリーマン、作業員、店員などのブルーカラーたちは、「嫌な仕事はしない」という訳にはいかない。

 

ここからわかることは、

「個人のパフォーマンス」が重要な意味を持つ仕事や、スタープレーヤーは「嫌いなこと」をしてはならないこと。

そして、「組織のパフォーマンス」が重要な意味を持つ仕事や、チームプレーヤーは「嫌いなことを」もやらざるを得ないこと。

の2つである。

 

*****

 

それでは、上を踏まえ、個人的なキャリアの戦略として

「嫌いなことはしない」と

「嫌いなことも敢えて引き受ける」の

どちらを選択すべきかを検討してみる。

 

まず、サラリーマンとして定年まで勤め上げ、一つの組織にずっととどまりたいなら、とにかく「嫌な仕事」でも確実に引き受けることだ。

組織はあなたの貢献を認め、「嫌な仕事であっても引き受けてくれる」という評判を作るだろう。

それは出世にはプラスとなる。

 

また、自分はチームプレーヤーであり、スタープレーヤーの補佐であると自認しているならば。

「スタープレーヤーが嫌がること(大抵皆が嫌がることだが)」を引き受け、彼の寵愛を受けるという選択肢もある。

 

だが、そのような選択肢を選ばない(選びたくない)場合。

「嫌な仕事」は徹底的に断ったほうが、長期的には良い結果を生むだろう。

 

なぜなら、ドラッカーが言うように、仕事の成果は「苦手なこと、短所」ではなく「得意なこと、長所」からしか生まれないからだ。

しかし何ごとかをなし遂げるのは、強みによってである。弱みによって何かを行うことはできない。できないことによって何かを行うことなど、とうていできない。

「上司に嫌われてしまう?」

別にいいではないか。

そもそも、上司もいつまでこの会社にいるかわからない。

転職するかもしれない。今の時代、有能な上司であれば、必ず転職するだろう。

逆に、人に嫌な仕事、汚れ仕事を押し付ける上司は、だいたい成果をあげることができずに更迭されるし、そのような人物のもとで仕事をする価値は全くない。

 

さらに。考えてみて欲しい。

自分が1年後、本当にここにいるだろうか?

「社内で嫌われる」は、すでに脅し文句としては弱い。

「あっそう。」でおしまいにすれば良い。

我慢をしてやる不愉快さをコストとして捉えると、「嫌な仕事をする」はコスト>>メリットであるケースが圧倒的に多いのである。

 

結局、終身雇用ではなく、仕事にクリエイティビティが求められる現代においては「嫌な仕事はしない」は圧倒的に正しいという結論に至る。

 

*****

 

このような話をすると、「近視眼的だ」とか「嫌いかどうかはやってみないとわからない」という反論もあろう。

確かに仕事によっては「嫌いだ」という思い込みによって、仕事をハナから断ってしまう、というのがもったいないケースもあるのは事実だ。

例えば、以下の様な場合は、一考の余地がある。

 

・分解してみると、「嫌」なのではなく、「怖い」だけだったと言う仕事。「怖い」は「嫌い」とは違う。勇気が欠けているとろくなことにならない。

・「好きではない」という程度で断るのは思いとどまるべきだ。「好きではない」というのと「嫌いなこと」というのはかなり違う。

・やってもいないのに「嫌い」と言い続けると、「自分の隠し能力」に気づかないときがある。

 

しかし、大概は「嫌い」はやらなくていい、というサインと受け取ってOKだ。

どんなことでも発見がある、というのはもっともらしいけど、時間が限られている以上は、「石の上にも三年」は多くの場合、あなたを操ろうとする上司の詭弁であることが多い、と言わざるをえない。

 

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東京大学経済学部卒業後、ドイツ証券に入社し投資銀行業務に従事。
2020年に株式会社TOKIUMに参画し、当時新規事業だった請求書受領クラウド「TOKIUMインボイス」の立ち上げを担当。
2021年にはビジネス本部長、2022年より取締役に就任し、経費精算・請求書処理といったバックオフィスDX領域を牽引。
業務効率化・ペーパーレス化の分野で多くの企業の課題解決に携わってきた実績を持つ。

安達 裕哉 氏(ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO)
Deloitteで大手企業向けの業務改善コンサルティングに従事した後、監査法人トーマツにて中小企業向け支援部門を立ち上げ、
大阪・東京両支社で支社長を歴任。2013年にティネクト株式会社を設立し、ビジネスメディア「Books&Apps」を運営。
2023年には生成AIに特化した新会社「ワークワンダース株式会社」を設立。生成AI導入支援・生成AI活用研修・AIメディア制作などを展開。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計71万部を突破し、2023年・2024年と2年連続でビジネス書年間1位(トーハン/日販調べ)を記録。


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