「え、俺なら楽勝だけど? なんでそんなに苦労してるの?」
と、世の中には、他人の仕事に対して純粋に、無邪気に、こんなことをのたまう方がいらっしゃる。
感謝よりもまず評価をして、ダメ出しに繋げるのだ。「俺ならもっとできるぞ?」と。
でもさぁ……そういうの、もうやめない?
というのが、本記事の趣旨だ。
たしかにその仕事は、だれにでもできるかもしれない。地味かもしれない。
あなたがやったほうが早いのかもしれない。
でも、だからって「感謝しない理由」にはならないじゃないか。
「家事なんて1時間で終わるのにみんななにに時間かけてるの?」
冒頭のセリフは、このツイートに由来する。
ウチは子供3人いて、3週間くらい妻が海外に行ってたけど、俺の1日の家事時間、掃除、洗濯、食事・子供のお弁当の用意(3分で済む)など全部で1時間ぐらいだったけどw。12歳未満の子供の要る女性の家事が平日1日8時間って何やってるの?素朴に疑問。キャラ弁でも作ってるの?https://t.co/YR7hLdPjBJ https://t.co/driJqC6CLu
— 田端信太郎 @田端大学塾長である! (@tabbata) 2019年9月13日
3分でつくり終わるお弁当って、きゅうりともろ味噌でも詰めたのか……?なんて疑問はさておき。
わたし自身、実際に体験したことを書いてデマ扱いされて腹を立てたことがあるので、頭ごなしに「1時間で家事が終わるなんて嘘だ」と否定する気はない。
そもそも、3分弁当の真偽なんてどっちでもいいのだ。
ただ、非効率的だったら相手に感謝せず、日々一生懸命家事をしている人々を評価しなくていいんだろうか?という疑問が浮かんだだけ。
だれかのためになにかをしている人に対し、感謝しない理由なんてないじゃないか。
今日はまぁ、そんな感じのことを書いていきたい。
スーパーでひたすら大根を切る男性が、わたしの生活を支えている
ある日の夕方、スーパーで買い出しをしていたところ、バックヤードで大根を切っている人が見えた。
40代くらいの男性だろうか。ストライプ入りの白いYシャツにグレーのスラックスを着て、黒いエプロンをしている。黒縁のメガネをしていて、いかにもマジメそうだ。
彼はダンボールに入れられている大根を取り出して、ふたつに切って、汚れを落として、売り場に並べていた。
せっせと買い物をする母を待ちながら、買い物カートにもたれかかって5分くらい見ていたけど、その人は丁寧に、淡々と、ずっと大根を切って並べていた。
その男性の奥には、空になったダンボールをつぶし、台車に載せて運んでいる女性もいる。その人も、ダンボールを積んだり下ろしたり、とてもまじめに働いていた。
こういう仕事は、「だれにでもできる」とか、「クリエイティブな仕事じゃないからAIに奪われる」とか、まっさきに槍玉に上がりそうな、言ってしまえばだれにでもできる地味な作業だ。
でもわたしは、決して目立たない単純作業をこなしている人のおかげで、おいしい大根が買えた。
だから、その仕事の価値がどれだけのものであろうと、感謝しない理由はない。
世の中は、こういう「いくらでも替えが効くような作業ではあるが淡々とこなしてくれている人」のおかげでまわっているのだから。
効率的であろうがなかろうが、家事をしてくれてありがとう
家事についても、「ほかの人ができない偉大な仕事であるか」と言われれば、「うーん……」という感じだろう。
だって、世の中の多くの主婦・主夫がこなしているんだから。
でも、「家族の生活を成り立たせる立派な仕事」であることには変わりない。
実家に帰れば、働きながら家事を一手に引き受けている母親のすごさを改めて実感する。
・家族の好みを把握して栄養バランスのいい食事を作り、なおかつ食材を余らせないように献立を考える
・お風呂の排水が遅いなーと思ったら次の日には掃除されている
・お気に入りの服に油シミがついたと言えば、なんだかよくわからない洗剤できれいにしておいてくれる
・使い終わったトイレットペーパーの芯を置いておいたら片付けてくれている
・ポイント還元率アップの日を把握、会員カードなどもすべてきれいに整理、買い物にいく前にきっちり全部用意している
いや、すごすぎない?
こういった家事を1時間かけてやろうが、8時間かけてやろうが、こっちとしてはもう感謝感激、足を向けて寝れないレベルだ。
100歩譲ってそれが非効率的に行われていたとしても、自分のために働いてくれている人を貶めたり、下に見る理由にはならない。
あなた一人で、全国の駅のトイレを掃除できますか?
そういえば以前、女優の広瀬すずさんが「どうして生まれてから大人になったときに、照明さんになろうと思ったんだろう?」と発言し、それが批判されて謝罪に至った。
スポットライトを浴び慣れた若い女の子からすれば、「照明」というのは、地味でやりがいのない格好悪い仕事だったのかもしれない。
でも、「かっこよく見えない仕事」でもしっかりとこなしている人がいてくれるから、わたしたちは便利で快適な生活を送れているわけで。
だれにでもできる仕事かもしれない。
相対的に需要が少ない作業かもしれない。
目立たず体力的にしんどい内容かもしれない。
でも、だからなんだ? だから、感謝せず、下に見て、バカにしていいんだろうか?
自分にできないような、人類に貢献するような立派な仕事じゃなきゃ、褒めるに値しないのか?
そんなのおかしい。
その仕事は、たしかにだれにでもできるかもしれない。でも、自分で全部できるわけじゃない。だから、やってくれている人に「ありがとう」。単純な話じゃないか。
駅のトイレ清掃は、高確率でだれにでもできる。でも、全国の駅のトイレを、あなたひとりで綺麗に保てるの? 無理でしょ? だったら、やってくれてる人に素直に感謝すればよくない?
とまぁ、最近こんなことを考えている。
「やってもらって当然」とお礼を言わない人が多すぎる
だって日本、「やってもらって当然」とばかりに、お礼を言わない人が多いんだもの!
お礼を伝えないどころか、すぐに文句を言ってさらなる要求をするし、期待値高すぎるし、ケチで対価を支払おうとしない人ばっかり。
やってもらったときは「当たり前だろ」って踏ん反って感謝しないくせに、ちょっとした落ち度を見つけると「俺ならもっとうまくやったのに」「お前はいったいなにをしてるんだ」って責める人が多いことよ!
給料が低いと嘆く介護士や保育士に、「じゃあ転職すれば」なんていう人をたくさん見てきた。
低賃金でもがんばって働いてくれている人たちに、社会は支えられているのに。
それに感謝して待遇改善を求めるのではなく、「お前が変わればいい」と言う。
「家事の負担がしんどい」と言う人に対し、「もっと効率的にやればそんなに時間がかからない」「自分の母親はもっとうまくやっていた」なんて反論が投げつけられる。
だからなんだよ、なんで一言「いつもありがとう。助かってるよ」と言えないの。
感謝するのって、そんなにむずかしいことなのかな? 笑顔で「ありがとう」と言わない理由はなんなの? なんでそんなに他人に厳しいの?
ふしぎでしょうがないよ、なぜそんなに偉そうにしていられるのか!!
働いている人に対して、今日何回、感謝を伝えましたか
「職業に貴賎はない」というのは、綺麗事なのかもしれない。
稼げる仕事、社会的地位が高い仕事がある一方で、日が当たらない、低賃金の仕事があるのも事実。
でも地道に淡々と働いてくれているたくさんの人のおかげで生活できているわけだから、感謝しない理由はない。
「だれにだってできる仕事」であっても、「自分ひとりですべてできる」わけではないんだから。
だから、お礼の一言もいえない人をみると、「まずは感謝しよ? なっ!?」と思う。
この記事に対し、「当たり前なこと言ってんじゃねーよ」と思うかもしれない。
むしろ、そう思ってくれる人が多ければ多いほどうれしい。それだけみんな、感謝を忘れずに生きているということだから。
でも、実際はどうだろう?
コンビニでおつりをもらったとき、会釈した? レストランを出るとき、「ごちそうさま」って言った? 台風で遅延したことを詫びる鉄道職員に詰め寄ったりしてないよね?
対価に見合ったサービスを求めたり、問題が起これば抗議したりする権利はある。でも、スタート地点は「ありがとう」という優しい世界がいい。
むずかしいことじゃないはずなのに、なんでわたしたちはすぐに、感謝の気持ちを忘れてしまうんだろう。
「世界は誰かの仕事でできている」
ジョージアのキャッチコピーのとおりだ。わたしたちが触れるすべてのモノ・コトは、だれかの仕事の結果、だれかのおかげ。
だから、みんなありがとう。それでいいじゃないか。
当たり前だけど、当たり前だから、ちゃんとお礼を言おう。
それだけで、仕事から帰って「今日はがんばったなぁ」と笑顔になれる人が増えるから。
あ、大根はごま坦々鍋に入れておいしくいただきました。鍋の季節到来にワクワクが止まらない。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

ティネクト代表の安達裕哉が東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。
ティネクトでは現在、生成AIやマーケティング事業に力を入れていますが、今回はその事業への「投資」という観点でお話しします。
経営に関わる全ての方にお役に立つ内容となっておりますでの、ぜひご参加ください。東京都主催ですが、ウェビナー形式ですので全国どこからでもご参加できます。
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)
【著者プロフィール】
名前:雨宮紫苑
91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&
ハロプロとアニメが好きだけど、
著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)
日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち (新潮新書)
- 雨宮 紫苑
- 新潮社
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ブログ:『雨宮の迷走ニュース』
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