こんな記事を拝読しました。
“記述式問題” 事業者が事前に正答例把握 大学入学共通テスト
国語と数学に記述式の問題が導入されますが、採点を任された民間事業者に、大学入試センターから問題と正答例が試験を実施する前に知らされる仕組みになっていることが分かりました。センターは、採点を迅速に行うためとしていますが、専門家は、「試験の前に、民間事業者に問題などが知らされれば、漏えいなどの懸念がある」と指摘しています。
これについて、NHKは採点の手順などを大学入試センターが記した「仕様書」と呼ばれる資料を入手しました。
そこにはベネッセの関連会社が試験を実施する前に、正答例や採点基準の作成に関与すると明記されていました。つまり、民間事業者は、試験前から問題と正答例が知らされる立場にあるということです。
大学入試センターは、こうした方法でなければ、20日間という短期間で大量の採点を行うことはできないとしたうえで、守秘義務などを厳守してもらうことで、問題の漏えいなどを防ぎたいとしています。
皆さん色んな場所で情報に触れられているかと思いますが、この「大学入学共通テスト」については各所から様々な批判が寄せられております。
最初に立ち位置を明示しておくと、私自身導入に反対の立場です。
ただ、一旦今指摘されている問題点を全部脇に置いておいて、この話一点だけをクローズアップしたとしても、「これはない」と断言出来ます。
多分、ある程度セキュリティに通じた人を対象とした場合、100人に聞けば100人そう答えると思います。
何故かというと話は簡単で、これが「問題の漏えい」という仕組み上の瑕疵を「守秘義務の徹底」という人間の運用でカバーしようとする施策であって、かつ「ヒューマンエラーを運用で100%防止することは不可能」だからです。不可能です。
ちょっと、産業技術総合研究所の中田亨先生の論文を引用させていただきます。
安全工学界では「ヒューマンエラーは,事故の通過点に過ぎず,事故の原因として扱ってはならない」という見解が優位を占めつつある.いかに努力しても発生確率をゼロにはできないヒューマンエラーの責任を問うても確率が大して減るわけもなく無意味である.
ヒューマンエラーの発生確率を抑える責任の根本は,もっぱら工程の段取りや機械のデザインの方にある.
これ、システム業界にいると常識だよなあという感覚なんですが、どうも色々読んでいると、世間的にはそんなに常識でもないんですかね?
今でも、例えば「トリプルチェックで事務事故の防止を」とか、「情報漏洩防止の為に倫理規定の周知徹底を」みたいな話、しばしば聞くんですよ。
ご存じな方には大変今更な話で申し訳ないんですが、まず
「人が絡む運用は丸々セキュリティホールと考えるべき」
「ヒューマンエラーを運用で防止することは不可能」
という、当然と言っていい前提があります。
つまり、人間は長い目で見れば必ず、絶対にミスや過ちを起こす生き物である、と。
まずこれを当たり前のこととして認識する必要があると。
だから、工程の中で人間の手が絡む部分は、長い目で見れば必ずいつか瑕疵を発生させるものである、と。
それを運用だの、人間のモラルだの、そんな適当なもので防止することは絶対に、絶対にできないのだ、と。
仕組みの瑕疵を運用で100%カバーすることは不可能であって、ヒューマンエラーをなくしたいならヒューマンが関わる部分を最小にしなくてはなりません。
つまり、仕組みの方できちんと対応しない限り、瑕疵はなくなりません。
これら、私の感覚で言うと、いちいち繰り返すなってレベルの当たり前の話なんですけど、皆さんの感覚だとどうですかね?
少なくとも、上の施策を考えた人にとっては、これが「当たり前」ではなかったようなんですが。
断言しますが、これ、本当にこのまま運用開始したとしたら、その内絶対に、確実に問題と正答例の漏えいが発生して大問題になります。確実です。
そもそも「NHKは採点の手順などを大学入試センターが記した「仕様書」と呼ばれる資料を入手しました」とかさらっと言ってること自体いいのかよって思わないでもないんですが、まあそれに目をつぶったとしても、「守秘義務などを厳守」とかいうことで漏えいを防げると思っているとか、端的に言って頭がお花畑過ぎる。
今の時代、情報を漏えいさせる為のインフラがどれだけ種々様々整ってると思ってるんだよ、って話です。
というか、ベネッセ自身2014年に個人情報流出事件を起こしている訳で、漏えいを防ぐ難しさ、それを運用に頼ってはいけない理由を十分理解している筈なんですが、なんでこんな話引き受けてるんですかね?
頼む方も、2014年の事件をちょっとくらい思い出してもいいんじゃないのって話でもあるんですが。
Wikipedia:ベネッセ個人情報流出事件
個人的には「システムの瑕疵を運用でカバーするっていう思考法やめようよ…」
「仕組みに瑕疵があるならちゃんと仕組みの方を見直そうよ…」って強く強く強く思うこと大なんですが、一方でこういう記事も観測出来ました。
この中では、模擬試験などで年間3000万枚の採点を行うなど、会社には採点業務のノウハウがあるとしています。そして、共通テストでは、設問ごとにアルバイトの学生などを3人以上割り当てることで、採点ミスが起きないように取り組むとしています。
あーこれ見たことあるー。事務事故防止の為に何故か「人間によるトリプルチェック」とか言い出して、結果的に運用部署だけがひたすら疲弊して、しかも結局事務事故自体防ぐことが出来てないヤツだー。
まさに「あ、これチャレンジでやったヤツだ!」と言いたい話であって、それを体現する辺りは流石ベネッセですね。お見事です。
とにかく個人的には
「頼むからこの制度全体見直してください…」
「センター入試とかいう重大なところで訳分からん制度持ち込んで受験生振り回すのやめてあげてください…」
とただひたすら願うだけであって、自分自身今後大学入試に臨むであろう子どもたちを育てている身として、せめて反対の声については適宜挙げ続けていこうと思う次第なのです。よろしくお願いします。
今日書きたいことはそれくらいです。
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【著者プロフィール】
著者名:しんざき
SE、ケーナ奏者、キャベツ太郎ソムリエ。三児の父。
レトロゲームブログ「不倒城」を2004年に開設。以下、レトロゲーム、漫画、駄菓子、育児、ダライアス外伝などについて書き綴る日々を送る。好きな敵ボスはシャコ。
ブログ:不倒城
(Photo:Ben Mullins)