ニンテンドースイッチの対戦ゲーム『スプラトゥーン2』では、「環境」「産廃」というネットスラングが用いられている。
Splatoon 2 (スプラトゥーン2) - Switch
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「環境」とは、そのときのバージョンで雛型とみなされる武器と、その武器を中心にかたちづくられるトレンドのことを指す。
たとえばAという武器がメチャクチャ強く、しかも使いやすければ多くのプレイヤーがAという武器を選ぶようになる。
それに伴い、Aに対抗しやすい武器の人気も上昇し、Aに対抗しにくい武器はプレイヤーからめったに選ばれなくなる。
これが「環境」だ。
反対に、そのときのバージョンでは弱さが目立ち、敬遠されやすい武器は「産廃」と呼ばれる。
「産廃」の語源は、もちろん産業廃棄物だ。
最近のゲームはバージョンによって「環境」がしばしば変化し、それに伴って「産廃」も変わる。
『スプラトゥーン2』でも、あるバージョンで猛威をふるい、まさに「環境」の頂点に君臨していた武器が「産廃」に転落することもあった。
ゲームのバージョンが変われば「環境」が変わり、「産廃」も変わる──このことをきちんと意識していないプレイヤーは、いまどきのゲームでは勝ちづらい。
ゲームプレイの技量を磨くことにくわえ、現在の「環境」や「産廃」についてのメタ知識やメタ知性を身に付け、そうした変化を踏まえながら練習したほうが勝ちやすくなる。
昭和の「環境」と令和の「環境」、そして「産廃」について考える
さて、こうした「環境」や「産廃」についてのメタ知識は、私たちの日常生活や人生にも当てはまるのではないだろうか。
「環境」が変化するのは世の中だって同じ。
昭和から平成、令和へと世の中が変わるなかで、雛型とみなされる社会適応のありかたや、その雛型を中心にかたちづくられるトレンドは変化してきた。
たとえば昭和時代後半の「環境」について思い出してみよう。
昭和時代後半の「環境」では、終身雇用制度に最適化したワークスタイルが社会適応の雛型とみなされていた。
現在よりもジェンダーによる格差が大きく、年功序列の度合いも著しかった。
八百屋などの個人経営の商店がまだまだ残っていたことも思い出しておきたい。
そういった昭和の「環境」では、若者が自己主張の強いワークスタイルを選ぶことは難しかった。
次々に転職してキャリアアップを狙うのも「環境」に合っていなかった。
そのようなキャリアアップに憧れ、実際にやってのける若者は令和時代なら珍しくもないが、昭和時代後半においては「産廃」としか言いようがない。
キャリア志向の女性も苦労が多かっただろう。
当時の「環境」ではキャリア志向の女性はいわば「産廃」だった。
というのも、男性優位につくられた年功序列・終身雇用という「環境」に真正面から立ち向かわなければならず、それを援護してくれる人も制度も乏しかったからだ。
ちょうど『スプラトゥーン2』で「産廃」武器で果敢に挑むことにロマンがあるのと同じように、昭和時代の「環境」に逆らい、「産廃」とみなされ得るワークスタイルを選ぶことにもロマンはあったろう。
だが、それはハイリスクなワークスタイル、「環境」に押し潰される可能性の高いワークスタイルでもあったはずだ。
対して令和の「環境」。
終身雇用制度に最適化したワークスタイルが社会適応の雛型だと思っている人は、もうほとんどいないのではないか。
年功序列が崩れ、実力や実績にもとづいた評価が導入され、ジェンダーによる格差も四十年前に比べればかなり緩和された。
会社に滅私奉公するようなワークスタイル、とにかく会社の仕事や内情に特化していくワークスタイルは、昭和時代には「環境」の雛型だっただろうし、ローリスクでもあった。
けれども令和時代には「産廃」といわざるを得ない。
会社への滅私奉公、会社でしか通用しない仕組みへの特化は、令和時代の「環境」に背を向けた、ハイリスクなワークスタイルになってきている。
求められる人物像も「環境」に伴って変わってしまった。
昭和時代には、真面目な人間であること、いわば”かたい”人間であることが現在よりも高く評価されていて、「環境」に適した人物像だった。
結婚に際して、仲人が重視したポイントでもあっただろう。
令和時代はそうではない。
真面目な人間であること、”かたい”人間であることは昔ほど「環境」に適した人物像とはみなされていない。
真面目というフレーズから、付き合い辛さ・堅苦しさ・融通のきかなさを連想する人もいる。
控え目に言っても、真面目さは積極的な誉め言葉から消極的な誉め言葉へとランクダウンしてしまった。
いつも真面目で、先輩や会社にも忠実で、後輩や女性には年功序列やジェンダー格差を意識しながら振る舞う男性──こう書いてみると、いかにも令和時代において「産廃」、という雰囲気が漂う。
少なくともこういう男性が積極的に評価される可能性は低いそうだ。
ところが昭和時代にはこれが「環境」に即していて、「産廃」からは遠かった。
学校「環境」も変わっていった
そういえば、子どもの振る舞いも「環境」にあわせて随分と変わった。
昭和時代の学校「環境」は、ガキ大将がスクールカーストの頂点に君臨し、思春期の男子が「番を張る」と称して縄張り争いをするような、そういう「環境」だった。
叩く、蹴る、殴るといった喧嘩も珍しくなく、教師の体罰もまだまだ一般的だった。
そういう学校「環境」では、『ドラえもん』のジャイアンのような男子が学校適応のひとつの雛型になる。
子どもと子ども、教師と子ども、親と子どもの間に喧嘩や体罰といった身体的な応酬が残り、それがコミュニケーションの一部として存在している学校「環境」では、ジャイアンのような子どもはコミュニケーション能力が高い、ということになる。
なぜなら、ルックスや口八丁だけでなく、喧嘩の腕前もコミュニケーションの要素として、スクールカーストの関数として認められていたからだ。
そのような昭和の学校「環境」では、出木杉君のような子どもは優秀ではあってもスクールカーストの頂点にまではたどり着けない。
喧嘩によってコミュニケーションを主導できる子どもの影響力が大きくなり、クラス内での存在感も高くなるからだ。
ところが令和時代の学校「環境」では、喧嘩が禁じ手になっている。
子どもの意識も変わり、叩く、蹴る、殴るといった喧嘩は当たり前のものから例外になった。
喧嘩のコミュニケーション的側面が禁じられ、喧嘩の腕前がコミュニケーション能力として無効になってしまえば、ジャイアンは学校のコミュニケーション強者から一転、コミュニケーション弱者になってしまう。
喧嘩に強いガキ大将タイプが影響力を失えば、ルックスや口八丁、頭脳に勝る者のアドバンテージが際立つことになる。
出木杉君のようなタイプは令和時代でこそ光り輝く。スネ夫タイプもそうだろう。
「喧嘩の強い者にへつらう必要性の無くなった、口八丁の金持ちの子ども」というものを想像してみて欲しい。
いまどきの金持ちの子息は、体力・学力・教養も兼ね備えていたりするから、出木杉君とスネ夫を合体させたような子どもだっているだろう。
まさに令和の学校「環境」の雛型というほかない。
メタ知識・メタ知性を磨け
こんな具合に、昭和から令和にかけて大人も子どもも「環境」が変わり、社会適応の雛型も変わった。
それに伴い、「産廃」だって変わったことだろう。
ゲームのバージョンアップに比べれば、現実世界のバージョンアップの速度はゆっくりしている。
が、商売や流行の領域では、「環境」がゲームよりも素早く変わってしまうこともあるから、商売人やインフルエンサーが「環境」に鈍感だったら目もあてられない。
なにより、ゲームと違って公式がバージョンアップの内容を告げてくれるわけでもなく、やり直しがきかない点が恐ろしい。
「環境」の雛型を気取っていたつもりが「産廃」に転落し、にっちもさっちもいかなくなった……といったことがしばしば起こり得る。
たとえばロスジェネ世代は二十世紀末の「環境」の変化に苦しんだ。
そのことを思い出すにつけても、現在の「環境」に適応しながら、将来の「環境」にも目配りするメタ知識やメタ知性は磨いたほうがいいと思う。
ゲームも世の中も、着実にバージョンアップしていくものだからだ。
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安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
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【プロフィール】
著者:熊代亨
精神科専門医。「診察室の内側の風景」とインターネットやオフ会で出会う「診察室の外側の風景」の整合性にこだわりながら、現代人の社会適応やサブカルチャーについて発信中。
通称“シロクマ先生”。近著は『融解するオタク・サブカル・ヤンキー』(花伝社)『「若作りうつ」社会』(講談社)『認められたい』(ヴィレッジブックス)『「若者」をやめて、「大人」を始める 「成熟困難時代」をどう生きるか?』(イースト・プレス)など。
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ブログ:『シロクマの屑籠』
(Photo:Farley Santos)