町内会のおばあちゃんの話をします。
しんざきは町内会というものに所属しています。
以前マンションの理事長に持ち回りで就任した時、セットで町内会にも所属することになりまして、それ以降なにやかやでちょくちょく顔を出すようになりました。
町内会の青年団というものに「青年」など一人も所属しておらず、40歳のおっさんである私がほぼ最年少だ、ということにショックを受けたりもしていました。
この年になって「十数人のグループで最若手」になる機会があるとか、思ってませんでしたよ正直。
この町内会に、いつも電動自転車で町内を軽快に走り回っている、一人の名物おばあちゃんがいます。
もう御年は80歳を何年か過ぎていらっしゃると思うんですが、一時期体調を崩しつつもおおむねお元気で、物凄く新しい知識に貪欲で、ITスキルについても全く抵抗感というものがなく、町内会で数々の業務改善を成し遂げてきた凄いおばあちゃんでして。
・町内会用にフリーのメーリングリストを作成して、町内会の連絡がメールで来るようになった
・町内会の写真を共有できるようinstagramにアカウントを作成して、お祭りやらイベントの写真がアップされるようになった
・会合の資料が事前にGoogleDocで共有されるようになった(パソコンを持ってない人にはちゃんと紙で届く)
・町内会のブログがワードプレスで作成されてメンバーに限定公開されるようになった
この辺全部このおばあちゃんの仕業です。
「何歳になっても新しいことを学び始めることは出来る」ということについて、この人以上に明確に体現している人を私は他に知りません。
ちなみにこの人Switchでゲームも遊んでいて、この前までスマブラやってたんですが最近はあつ森にハマっているらしいです。
色んな虫や魚を集めるのが楽しいんだとか。推しはちゃちゃまるだそうです。
このおばあちゃんについては以前自分のブログでも書きました。
手前みそで恐縮なんですが、気が向いたら読んでみてください。
町内会のまとめ役おばあちゃんのITスキル進化っぷりがなんかものすごい で。
うちの町内会の活動って結構活発で、その分仕事やタスクも多いんですよ。
町内会っていってもただの互助会ってわけではなく、区からそれなりの額の補助金も出ていますし、そのお金で設備を整えたり、業者さんを通して人を雇ったりなんてこともあります。
それに伴って、色々な運用ノウハウやナレッジも存在します。
しかし、それらがちゃんとマニュアル化・標準化されているかっていうと、もちろん全くといっていい程されていないんですよね。
暗黙のノウハウ、口伝でしか伝わっていない運用手順、ある人しか知らない馴染みの業者さん。
そういった属人化された知識が山盛りなわけです。
特に多いのが「イベント運営のノウハウ」。
もちつき大会とか、盆踊りとか、秋祭りとかああいうヤツですよね。
いつも、どの業者さんと連絡をとって、どういう機材を借りて、どんな手順で何を準備すればいいのか。
予算はどの程度が相場で、スケジュール割はどんな感じで、人はどこにどれくらい配置すればいいか。
そういうものが、一部を除いてはほぼ「特定の誰か」の頭の中にしか存在せず、ろくに文書化されていないわけです。
そういうノウハウを抱え込んでいる人って、大抵ノウハウの開示に非協力的なんですよね。
まあタマゴニワトリの話でして、開示に非協力的な人がいるからこそ暗黙のノウハウが出来ちゃうんですけど。
組織内でのプレゼンスを確保したいのか、仕事を手放したくないのか、単に面倒くさいのか。
そういう人がいてノウハウの標準化が滞るっていうのは、どんな組織でも同じなんだなあ、と私も思ってたんです。
で、先述のおばあちゃん、ここではMさんとしますが、Mさんもそういう「暗黙のノウハウ」については普段から問題意識を持っていた人でして。
私ともちょくちょくそれについて話してたんですが、「皆にやり方を知らせもしないでボケでもしたら、その後イベント開けなくなっちゃうじゃない!」とおっしゃっているのが、高齢化著しいメンバーの年齢的にも割と切実でした。
***
そうこうしている内に新型コロナ騒ぎが起きまして、町内会の直接的な会合がなくなりました。
ここでもMさんは非常に動きが早くって、私がZOOMを紹介して、町内会の一部の会議はZOOMで行われたりしていたんですが、それはそうと。
ある時びっくりしたんですが、GoogleDocにどんどん、以前から暗黙のノウハウになっていた、色んなイベントの開催ノウハウやら、補助金についての色んな連絡先やら、町内会の一部の運用ノウハウやらが文書化され始めたんですよ。
これ多分Mさんの仕事だろうなーと思って、ある時Mさんに聞いてみたらやっぱりそうで。
ちょうど、書類の電子化の話で業者を紹介した時についでに聞いたんですけど、
「コロナ騒ぎに乗じて、今まで仕事抱え込んでた人たちから一気に色々聞きだしてるの」っていうんですよ。
それについて、一度私実際に横で聞いたんですけど、Mさんの話の進め方が凄かった。
大筋こんな感じでした。
・まず、「コロナが怖くって集まれないし、なかなか仕事が進められない。特に高齢者はコロナ危ないらしいしこわいですよねー」という世間話で認識と危機感を共有する
・「〇〇(イベント名やタスク名)といえば××さん(相手の名前)だと思うんだけど」という形で相手を持ち上げる
・「けど、このままコロナ騒ぎが続いたら、〇〇が開催できなくなっちゃうかも知れない。折角××さんがここまで育ててくれたイベントなのに、何年も途切れちゃうかも知れない」と、これまた巧みに相手を持ち上げつつ危機感を持たせる
・「××さんが出てこれなくっても、例えば若い人たちでも〇〇が出来るように、××さんに知恵を貸して欲しい」ということで、相手からヒアリングをする理由付けをする
つまり、相手の「コロナ怖い」という感覚と、そのタスク/イベントに対する相手のプライドを巧みに利用しつつ、今後の継続の為、という体裁でノウハウを相手から引き出しているんですね。
Mさんに後から聞いてみると、「みんな「〇〇といえば××さん!」って言われたいのよー。
けど今までは町内会に出てくればそういう風にちやほやされてたけど、今はコロナが怖くて町内会自体出てこれないでしょ?だから今後の為にお知恵を貸してください、って言えば、みんな割と教えてくれるのよー」と。
で、あとは箇条書きにでも、必要な点だけまとめて共有ドキュメント化してしまう。
体裁なんて後から整えればいい、ってことで、Mさんが持ってるノウハウについては既にちゃんとドキュメント化されているので、多分後そのレベルに仕上げるつもりなんだろうと思ったんですけど。
私これ、割と端的に「すげえ」と思いまして。
まず、「相手のプライドを決して否定しないで、かつ相手の側から積極的にノウハウを開示する方向にさり気なく誘導する」という手管が物凄いなーと。
Mさん、とにかく絶対相手を否定しないんですよね。
「抱え込んでいた」じゃなくて「イベントを育てて来た」っていう前提から絶対ぶれない。
相手の今までの功績を常に強調する。
かつ、「聞いた端から共有知にしてしまう」という、そのスピード感も凄い。
ここでMさんがきちんとしたドキュメントにするまで手元で抱えてしまう、なんてことになったら本末転倒で、単に暗黙知を理解しているのが二人になっただけ、ってことになっちゃうんですけど、Mさんは体裁なんて全く気にせず、町内会のメンバー全員から見えるところに聞き出した内容を掲示してしまうんですよ。
もちろん、ノウハウを伝えた本人からもそれは見えるので、何か認識の相違があったらすぐに指摘出来るし、他の人の指摘でブラッシュアップも出来る。
もちろん、「新型コロナという重大な社会的危機を、逆に奇貨にしてしまう」というそのタイミングに対する鋭敏な感覚も指摘しておかなくてはいけないところです。
ピンチはチャンスとはよくいったもので、こういう時だからこそ出来ることをやる、というそのスタンスには感服する他ありません。
ITに対するスタンスという話だけではなく、思考が柔軟な人は、暗黙知をヒアリングして業務改善をすることについても柔軟なやり方が出来るんだなあ、と、大いに感心した次第なんです。
ちょっと話が変わるんですが、昔出版社でバイトをしていた時、編集さんから「作家さんに編集側の要望を伝える時のポイント」として、「決して作品を否定するのではなく、「読者としての自分の要望」という形で伝える」という話をお聞きしたことがあるんですよね。
これ自体は決して珍しいテクニックというわけではなく、その後も何度か同じような話を聞いたことはあるんですが、つまり「相手が一番受け入れやすいポイントを探して、そこから自分の要望を通す」。そういうテクニック。
作家さんに限らず創作をする人って基本孤独なもので、常に自分の作品に対する評価を求めているわけです。
好評にせよ悪評にせよ、読者からの感想というものが作者さんに非常に大きな影響を及ぼしてしまうのはその為です。
だから、「ビジネスパートナーとしての立場より、読者としての立場からの声の方が相手に届きやすい」と。
まあこれも作家さんにもよるんでしょうけど。
なんにせよ、「要望を通す時は、まず相手にとって「どんな言い方が一番聞き入れやすいのか」を考える」というのが非常に大事だ、と。
Mさんのやり方と、むかーし聞いた編集者さんのやり方から、私はそんなことを再認識した、という話だったわけです。
***
Mさんに倣ってというわけでもないんですが、私の今の職場でも、コロナに伴う自宅勤務体制に乗じて、今まで属人化したまま放ってあった色んなタスクの標準化を進めています。
Mさん程上手く出来ているかは分かりませんが、「相手が一番受け入れやすいポイントを考える」そして「スピード感をもってそれを共有化する」という点については、大いに参考にさせて頂きつつ、引き続きばんばん職場作業の風通しを良くしていこう、と考えている次第なのです。
今日書きたいことはそれくらいです。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)
【著者プロフィール】
著者名:しんざき
SE、ケーナ奏者、キャベツ太郎ソムリエ。三児の父。
レトロゲームブログ「不倒城」を2004年に開設。以下、レトロゲーム、漫画、駄菓子、育児、ダライアス外伝などについて書き綴る日々を送る。好きな敵ボスはシャコ。
ブログ:不倒城
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