今から5000文字くらいかけて、
「聖剣伝説LOM超面白かったし武具作成に割り振られたリソースが恐ろしく馬鹿でかくって圧巻と言う他なかった」
という話をします。よろしくお願いします。
1999年の7月。
当時私はまだ大学生で、大学のキャンパスに入り浸っては学生会館でケーナを吹いていました。
ケーナというのは南米の縦笛です。
当時私には何人かのゲーム仲間がいて、どんなゲームが面白いとか、このゲームはあんま面白くなかったとか、そんな情報を共有し合っていました。
確か、その中の一人が、「これめっちゃ面白い」と言い出したのだと思います。
その友人のゲームの好みを信頼していた私は、一も二もなくそのゲームに飛びつきました。
そのゲームの名前が、「聖剣伝説Legend of Mana」(以下LOM)。
当時のスクウェアから発売された、PlayStation用のゲームタイトルでした。
今まさにリメイクが大人気の「聖剣伝説3」を擁する聖剣伝説シリーズの系譜なんですが、そのゲーム内容は今までの「聖剣伝説」とは全くかけ離れたものでした。
LOMの独創性というものは、下記のような諸点で表現することができます。
・ランドメイクシステムによって、プレイヤーの自由に形作られていくワールドマップと、それによって起きたり起きなかったりするイベント
・一本道のストーリーなど一切なく、あちこち巡って自分で探さなくてはならないストーリー展開
・クリアする為のルートすら限定されておらず、ただクリアするだけなら通らなくてはならないルートは最低限で、本当に自分次第、人によって変わるゲーム展開
・何かの冗談のように素晴らしいBGMと絵本のような美しいグラフィック
・独特なキャラクター造形と独特な台詞回し
・真珠姫がかわいい
・草人がかわいい
上記はざっくりした話でして、LOMの魅力というのは個人的には語っても語りつくせない質量なのですが、今回の主題はそこではないので割愛します。
ただ一言、BGMのすばらしさだけはもう本当にガチのガチガチでして、名曲中の名曲「Song of Mana」の素晴らしい透明感のあるボーカルもさることながら、滅びし煌めきの都市とか断崖の街ガトとかゴミ山とか港町ポルポタとか本当にどのBGMも名曲以外存在しないしあと台詞が本当に滅茶苦茶味がある台詞ばっかりで特にポキール(訂正:セルヴァ)が名言メーカーという他なく「人の愚かさばかり見る、キミの生き様に光明はあったかい?」とか「自分自身を許せない人が、誰を許せると言うの?」とか超沁みるしあと草人の台詞もいちいち物凄く良くて「ほしってね けっこうね たくさんあるっぽいよね」とか死ぬほど愛しくってあとサボテンくん日記が超いい味出しているけどイベント「サボテン」は死ぬほど苦労したしアマレットちゃんって誰だよお前の名前知らねえよと思ったしあとイベントを進めると主人公のマイホームに人やペンギンが増えていくの滅茶苦茶素敵で真珠姫とか一生あったかい部屋でお昼寝させておいてあげたい。(早口)
はい。
それはそうと、この聖剣伝説LOMというゲームには、一つ「とても重要な、しかし全く重要ではない」という不思議な立ち位置にある「武具作成、楽器作成、ゴーレム作成」というシステムがあります。
まあ要はアイテム作成システムですね。
今回皆さんにお話したいのは、このアイテム作成システムがいかにとんでもないシステムだったのか、という話です。
LOMの武具作成システムって、一言で言うと「死ぬほど深い」んですよ。
ゲームのほんの一部分なのに、これだけで数十時間数百時間吸っちゃうことも全く珍しくない、滅茶苦茶広大なキャパシティ。
まず、プレイヤーは、鉱石とか木材とか皮とかの「主原料」を選びまして、それを武器や防具や楽器(普通のRPGで言う攻撃魔法を使う為のアイテム)に整形します。
次に、色んなアイテム(「副原料」と呼びます)を使ってその武器や楽器をトンカントンカンと鍛えます。そうすると武器や楽器がパワーアップする。
説明してしまうとたったその二行なんですけど、そのシステムの奥深さ、広大さ、複雑さ、そして面倒くささは想像を絶していました。
ちょっと解説しますね。
武器や楽器の素材が持っている8つの「属性」。
基本的にはこの属性のレベルが上がれば上がる程武器や楽器が強力になるんですが、その為のロジックには複雑な要素、ゲーム内だけでは読み取れない要素がとにかく山盛り。
主原料によって全く変わってくる武器の威力。
強力な主原料は当然希少で、手に入れるだけでも一苦労です。ディオールの木とか竜鱗とか、入手にどんだけ苦労したことか。
副原料で鍛える際の様々な法則。何も考えずにトンカンやっているだけだと、攻撃力はさっぱり上がらないし、逆に下がってしまうことすらあります。
例えば属性同士には相性があって、何も考えずに「火」を上げると代わりに「水」が下がってしまったりします。
更に、主原料自体にも属性との相性があって、例えば金属系の素材だと「木」の属性が上がりにくかったりします。
隠しパラメーターとして武具に溜まっているエネルギーというものがあって、それと副原料がある条件を満たすと「シークレットパワー」というものが武具に宿ります。
このシークレットパワーは三つまでしか宿らせることが出来ず、しかも内容も大きく「鍛えている間に役立つもの」と「鍛え終わったあと役立つもの」に分かれていますので、鍛える手順を考えに考え抜いて、シークレットパワーを出したり入れたりしながら武具を鍛えないといけません。
手順を間違えると投入した副原料が全てパーになったりします。
この説明だけ読んでると良く分からないですよね?
「死ぬほど面倒」ということだけは伝わったかと思うんですが。
このゲーム、発売から二か月程してから、「アルティマニア」っていう電話帳みたいな攻略本が出たんですけど、その攻略本にも数十ページにわたって武具作成や楽器作成の解説が載ってたんですよ。
けど、それ、内容としては基本。基礎。基礎知識。
数十ページに渡って書いてあって、もちろん有用な内容なんですけど、それだけ知っていても強力な武器なんて作れない。
それを知って理解した上で、手順を様々に考え抜いて工夫・応用しないと強力な武器なんて作れなかったんです。
このゲーム、宝箱から出てくるアイテムの殆どが「副原料」でして、武具作成以外でなんの使い道もないんですよね。
体力回復アイテムもなければ移動の為の便利アイテムもない。
「鏡の破片」とか「ひとふさのウール」とか、本当に殆どが作成でしか用途のないアイテム。
つまり、「宝をゲットする」というRPGの非常に重要な要素が、まるまる武具作成の為に特化されてたんです。
なんなら、一周に一個しか手に入らないから、わざわざそのアイテム再入手の為に周回しなくちゃいけなかったりした。
ポケステ持ってなかったし。
たかがRPGの中のほんの一要素に、これだけリソースが割り振られてたんですよ。
物凄いと思いませんか?
で、それだけリソースが割り振られたシステムなんだから、ゲーム上でもさぞかし重要な位置を占めているんだろうと思われますよね?
攻略上「不要」なんです。
不要。
ただ攻略するだけならガチで不要。
このゲーム、ただラスボスを倒すだけなら正直店売りの武器で十分でして、攻撃力も数十あれば何の不便もなく攻略することが出来ます。
ちゃんと鍛えれば1000以上の攻撃力の武器とか作れちゃったりするんですけど、通常難易度だとそれでラスボス殆どワンパンで倒せます。
オーバースペックもいいところ。
楽器作成とゴーレム作成については、武具以上に攻略上の必要性が皆無でして、楽器で魔法使うより武具で殴ってた方が遥かに速く敵を倒せますし、考えに考え抜いてゴーレムのロジックを構築しても全然思うように動いてくれず、レディパールとバネクジャコ連れてった方が255倍くらい楽に敵を倒せます。
武具作成の必須要素なんてなーーーんもない。
ガンスルーしても本当に何の不都合もないんです。
わざわざ、強力な武具を作った人の為に「ヘルモード」とか「ノーフューチャーモード」とかの高難易度モードが用意されているくらいです。このゲームバランス作った人本当に頭おかしい(褒め言葉)。
けど。
けどですね、
武具作成、めっっっっっっっっっっっっちゃくちゃ楽しかったんですよ。
本当に数十時間つぎ込んじゃったんです、当時。
色々手順を考えて、狙い通りにシークレットパワーが発動した時の快感。
属性を上げに上げて、最後に仕上げアイテムを使って、攻撃力がどーんと上がった時の達成感。
鍛えに鍛えた武器でボス敵を瞬殺する気持ち良さ。
ロジックを緻密に組み上げたゴーレムが全然動いてくれなかった時のやるせなさ。
なんなら、これらの「楽しさ」がLOMの面白さの過半を占めている、といってもいいくらい、武具作成って楽しかったんですよ。必須でもなんでもないのに。
あれは多分砂場、サンドボックスでした。
ルールがあって、そのルールを読み解いて、みんなでその上で色んなものを作ってみる遊び。
当時はまだインターネットも黎明期で、私はいわゆる「パソコン通信」で色んな人と情報のやり取りをしていたんですが、その人たちでの盛り上がりも凄かったんです。
「うぉーーー攻撃力1200いった!!!」とか、「このシークレットパワーで無限復活作ったらめちゃ強いじゃん!!」とか、「こんなゴーレム作ったよ!!見て!!!!」とか。
今は亡きコミュニティで「乱れ雪月花の間」っていうファンサイトがあったんですけど、そこにはこの武具作成を研究し尽くした人たちが考案した、武具を鍛える素材とチャートが様々に並んでいました。
で、更にそれをもとにしてアレンジをして、属性レベルをたった1上げることで快哉を叫んだりしていたんです。
例えば一例を書いてみますと、
A : 0-0-9-0-0-0-0-0
・ 輝きx5>イオウx2>輝きx2
B : 0-0-9-6-0-0-0-0
・ >輝き>アウラx2>輝きx2
C : 0-0-9-6-7-0-0-0
・ >サラマx2>イオウ>輝き>イオウ>火マナ
D : 0-6-9-6-7-0-0-0
・ >輝きx2>シェイドx2>輝きx2
E : 6-6-9-6-7-0-0-0
・ >ウィスプx2>輝きx2
F : 6-6-9-6-7-0-8-0
・ >ジンx2>水銀>輝き>水銀>風マナ
G : 6-6-9-6-7-6-8-0
・ >輝き>カオス>ノームx2>イオウ>輝き
H : 6-6-9-6-7-6-8-6
・ >カオス>ウンディx2>水銀>輝き
何を書かれているか分からないと思いますが、これ、武具を鍛えるチャートの「途中」です。
一個一個その通りにアイテムを使っていって、一回一回トンカン時間を使って。
それでこれだけ長いのが、まだチャート全体の半分くらい。
当時こういうのを考えるのに血道をあげる人達がたくさんいたんですよ。
頭おかしい(褒め言葉)と思いませんか?
攻略上は殆ど不要な遊びが、理解不能な程に広大で奥深かった。
そこをどこまでも突き詰めることが出来た。
ただそれだけの為に、滅茶苦茶膨大なリソースがつぎ込まれていて、それを味わう為にも膨大な時間が必要だった。
今から考えると贅沢な遊びという他ないんですが、それを平然とゲームの地平に現出させてみせた聖剣伝説LOMというゲームは、本当に特殊なタイトルだなあと。
単に「聖剣シリーズの中の一つ」というだけの存在ではなく、なんならスクウェアのあらゆるRPGの中でも極めて独特な立ち位置を締めたオーパーツだと言ってもいいんじゃないか、と思うくらい、私LOMが好きなんです。
皆さんもいかがですか、LOM。
武具作成に全く手を出さなくても十分楽しいですよ?特に宝石泥棒編のシナリオは本当にシナリオ追ってるだけで泣ける。
最後になりましたが、私が書きたかったことは
「聖剣伝説LOMいいよね!!」「3も超好きだけどLOMもリメイク待ってます…!!!」
という二点だけでして、他に言いたいことは特にない、ということを申し上げておきます。
よろしくお願いします。
今日書きたいことはそれくらいです。
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(文責-ティネクト株式会社 取締役 倉増京平)
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著者名:しんざき
SE、ケーナ奏者、キャベツ太郎ソムリエ。三児の父。
レトロゲームブログ「不倒城」を2004年に開設。以下、レトロゲーム、漫画、駄菓子、育児、ダライアス外伝などについて書き綴る日々を送る。好きな敵ボスはシャコ。
ブログ:不倒城
(Photo by:Ken Yamaguchi)