タイトルが結論ですが、ちょっと私的な話からです。

 

「やっぱり要らなくなった」

会社員をやめて独立した直後、もう10年近く前の話です。

売上が立たず、妻に「ブログを書いている」と言ったら、「仕事しないの?」と言われていた頃。

困っていた私は少しでも収入の足しになればと思い、様々なメディアにライターとして、応募をしていました。

 

ほとんどのメディアには相手にされませんでしたが、何十も応募した中には僅かですが「記事を書いてほしい」という依頼もあり、とても嬉しかったことを覚えています。

仕事をもらうって、嬉しいんですよね。

 

ともあれ、私は喜んでメディアに連絡を取りました。

すると、1日たって「こんなの書ける?」とメールで、記事への要望が送られてきました。

原稿料は3000円程度だということ。

確か内容は、転職サイトについてだったような記憶があります。

 

「まずは構成案を出して」という依頼があり、私はそれを仕上げてメディアに送りました。

ワードのドキュメント1枚分くらいだったでしょうか。

 

構成案を送り、その後また1日くらい経って、「OKだから、書いてください」と指示がありました。

そして私はあれこれと調べ物をし、3000字程度の原稿を、大体3日くらいかけて仕上げ、「作品」を送り出しました。

今でもそうですが、原稿を送り出すのは、我が子を送り出すのと同じような気分です。

 

ところが1週間経っても、2週間経っても、メディアから連絡がありません。

心配になった私は、担当者のメールに「どうなりましたか」と連絡を取りました。

 

ところがこれも返信がない。

流石に私も心配になり、もう一通、メールを送りました。

「請求していいですか」と。

 

2日後、メールが来ました。

丁寧でしたが、端的に言えば以下の内容です。

「やっぱり要らなくなりました。それと今回の原稿は「お試し」なので請求には応じられません」

 

契約書、大事。

本題に戻りましょう。

 

要するに私は、騙されました。

というより、私が甘ちゃんだったのでしょう。

まあ、良い勉強だったと今では思います。

 

それ以来、私は仕事を引き受ける際には、必ず何らかの書面の取り交わしをすることにしました。

逆に言えば、それに応じないメディアからの依頼は受けないことにしました。

 

 

本記事ではこの経験を踏まえ、「なぜフリーランスには契約書が必要なのか」を、弁護士監修のもとでまとめました。

私が上のような目にあったときから、だいぶ時間も経っていますが、本質は変わらないでしょう。

 

フリーランスにまつわるトラブルは増えている

現在でももちろん、私が体験したようなトラブルは少なからず発生しており、今後も増加する懸念があります。

事実、トラブルは増加の傾向、かつフリーランスの半数近くが企業との業務委託契約において、何らかのトラブルを経験したことがあると回答しています。*1

 

そのため、政府は「フリーランスの保護が必要なのでは」と、「働き方改革」の一環でこうした状況の解決に乗り出しています。

その柱は二本。

いずれも「契約書の作成」が推奨されています。

 

1.「労働法」によるフリーランス保護

一般的にはフリーランスは労働者(=労働法の保護対象)ではなく、独立した事業者であるとみなされます。

したがって雇用は保護されません。

 

しかし、それを逆手に取り、フリーランスを「すぐにクビを切れる都合のいい労働力」と捉えたり、雇用の調整弁とみなして、安易に「使い捨てる」企業も少なからず存在します。

 

ときにそれが行き過ぎると、実質的に企業側の指揮命令下にあるにも関わらず、労働法の保護を受けていない

「名ばかりフリーランス」=「偽装フリーランス」

の問題がおきます。*2

これはアンフェアな行為ですが、未だにはっきりとした保護のための政策はありません。

 

このようなケースでは、状況によっては労働者となるかどうか個別に判断されます。

実際、「仕事を断れない」「発注者の指揮監督下にある」「時間や場所を拘束される」など、以下の基準に照らして「労働者性が高い」とみなされば、労働法の保護対象となります。

(出典:「雇用類似の働き方に関する検討会」 厚生労働省*3)

 

この判断は係争の対象となることも多く、フリーランスの増加に鑑みて、厚生労働省の検討会では今後「業界ごとの契約書のひな形」を示したり、契約内容の決定・変更・終了ルール明確化を、必要性を含めて検討するとしています。

したがって、今後はフリーランスを雇う企業からも「契約内容の明示」は必須事項です。

 

2.「独占禁止法」および「下請法」によるフリーランス保護

もう一つの柱が「独占禁止法」です。

公正取引委員会の調査*5では、フリーランスについて、以下のような現状が確認されていると報告されています。

・追加作業の費用を負担してもらえない

・フレックス制での契約なのにフルタイムで働かなければ契約を切ると言われた

・事前に知らされていない条件に基づき、何度も作業の修正を繰り返させられた

 

私が経験した状況とほぼ同じですが、そうした状況に鑑みて、政府は少し前から対策を打ち出しています。

 

例えば、「独占禁止法の運用指針」についての動きです。

フリーランス、独禁法で保護 公取委、運用指針を公表 過剰な囲い込み防ぐ*4

企業と雇用契約を結ばずに働く技術者やスポーツ選手らフリーランス人材が独占禁止法で保護される。

労働分野に独禁法を適用するための運用指針で、企業が人材を過剰に囲い込んだり、生み出した成果に利用制限をかけたりするのを法違反の恐れがあると明確に位置づけた。

働き方の多様化やシェアリングサービスの拡大を踏まえ、不利な立場になりがちなフリーランスの労働環境を改善する。

(日本経済新聞)

 

政府が「独占禁止法」の解釈を明確にしてフリーランス保護を行う目的はフリーランスや消費者の利益になる「人材の獲得をめぐる競争」をうながすためです。*5

したがって、例えば以下のようなケースは、原則として独占禁止法に抵触するとされます。

・複数企業間でエンジニアの報酬上限を取決めてしまう

・複数企業間で芸人の移籍や転職を禁じる

 

また、発注者である企業組織と、個人であるフリーランスの間には交渉力の格差があるため、しばしばフリーランスは不利な条件を飲まされます。

そのため、企業側が以下のような要請をフリーランスに行うことは、「優越的な地位の濫用にあたる」とみなされ、違法となる可能性もあります。

・他の企業との取引を禁止する
・報酬などの条件を事前に示さない
・記事や著作物などについて「自分の作ったものだ」と主張することを禁じる
・代金の支払い遅延や減額要求
・成果物の受領拒否

 

ただし、現実的には「優越的地位の濫用」であるかどうかは、実態に即して個別に判断されます。

したがって、「今の状況が独占禁止法に抵触するかどうか」の判断は難しく、トラブルになってからの「言った」「言わない」を防ぐためにも、多くの弁護士は「契約書作成」を、発注者側、フリーランス側の双方に推奨しています。

 

独占禁止法の補完をする「下請法」

なお、独占禁止法の補完法として、下請事業者に対する親事業者の不当な取扱いを規制する「下請法」が設定されています。

 

下請法は以下の図の①に示す「下請取引」の発生の際に、下請け事業者の保護を迅速・明確にできるようにしたものです。

(出典:知って守って下請法 公正取引委員会*6)

下請法では、「取引内容」「資本金区分」から明確に適用の用件が定められており、当てはまる場合には「発注者(親事業者)」に対して義務と禁止行為が定められています。

 

特に発注者の義務の中には「書面の交付義務」があり、書面で取引条件を示さねばなりません。

ここでも「契約の管理」は重要です。

 

もちろん、下請法は、「下請取引」を対象とするので、フリーランスと企業の取引全てに適用されるわけではありません。

しかし、フリーランスの保護が検討されている現在、少なくとも「取引条件を書面で交付する」などの事項は、フリーランスに業務を委託するすべての事業者に必要だと言えます。

 

フリーランスとの契約管理の必要性

このような事情から、フリーランスとの契約管理の必要性が各所で認識されつつあります。

例えば、エン・ジャパンのクラウド型フリーランスマネジメントツール、pasture(パスチャー)は、クラウドサインと連携し、フリーランスとの個別の契約管理の手間を大幅に減らします。

また、下請法に準拠した発注書をオンライン上で作成し、フリーランスとの相互承認を得ることができます。

 

なお、以下からは、pasture(パスチャー)の発行する下請法に関する資料を無料でダウンロードできます。

ぜひ、契約管理にお役立てください。

 

【無料ダウンロード】

「下請法の基礎知識」

 

【目次】

1.下請法とは
2.フリーランスと下請法による勧告
3.下請法4つのポイント
4.発生している問題
5.トラブルを防ぐためには?
6.適切な業務フローを組むなら/pastureでできること
ー書面の交付義務に対応
ー期日内の代金支払いを漏らさない
ーフリーランスとの取引情報を蓄積・可視化

 

 

 

【著者プロフィール】

◯Twitterアカウント▶安達裕哉

元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。

◯有料noteでメディア運営・ライティングノウハウ発信中(webライターとメディア運営者の実践的教科書

◯安達裕哉Facebookアカウント (他社への寄稿も含めて、安達の記事をフォローできます)

Books&Appsフェイスブックページ(Books&Appsの記事をすべてフォローしたい方に)

 

 

*1 出典:フリーランスの現状認識と課題 プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会

*2 出典:日本経済新聞 偽装フリーランス懸念も 働き方多様で安全網に穴

*3 出典:「雇用類似の働き方に関する検討会」 厚生労働省

*4 出典:日本経済新聞 フリーランス、独禁法で保護 公取委、運用指針を公表 過剰な囲い込み防ぐ

*5 出典:人材と競争政策に関する検討会報告書 公正取引委員会

*6 出典:知って守って下請法 公正取引委員会