わたしは海外で暮らしているから、海外(ドイツ)で働いている日本人を多く見てきた。
逆に、日本で外国人といっしょに働いている人もたくさん知っている。
そういった人たちを見てきて思うのは、「外国人と働くこと」と「外国人として働くこと」は、まったく別の話ということ。
グローバル人材、グローバルビジネス、グローバルな部署、グローバルな環境……。
「海外」が関われば、なんでも「グローバル(地球規模)」としてまとめられがちだ。
でも外国人と働くときに求められるのは「インターナショナル(国際的)」な能力で、外国人として海外で働くときに必要なのは「ローカライズ(現地化)」の能力。
全然ちがう、というかむしろ真逆ともいえるほど、その2つの性質はかけ離れている。
それを区別しなかったことで不幸になった人を、わたしはなんども見てきた。
たとえば、「ドイツに留学経験があり英語が話せる」という理由で、国際部署に配属されたお調子者のA。
その部署には中近東アジアをはじめとしたさまざまな国籍の人が在籍しており、Aは同僚の訛りが強い英語を聞き取れず部署替えを希望。
それぞれの宗教観を理解しないまま食事に連れて行って、トラブルにもなったらしい。
ほかにも、生真面目で上司からの覚えもよく、入社時から海外転勤を強く望んでいたB。
念願叶って中国へ行くも、現地のビジネスの習慣にうまく馴染めず円形脱毛症に。
中国で重視される「メンツ」を理解しておらず、現地上司の反感も買ったそう。
単純に、「イギリスの寒くて暗い冬に耐えられなかった」「現地の食事や水が合わなかった」といった理由で体調を崩した人の話も聞いた。
多国籍の外国人と働くなら、ドイツに留学していた人よりも、さまざまな国に行ったことがあるとか、いろんな国出身の友人がいるとか、そういう人のほうがよかったはずだ。
外国人として働くなら、その国に住んだことがある人や、日本ですでに現地の人とビジネスをしたことがある人に任せるほうがよかっただろう。
「外国人と働くこと」と「外国人として働くこと」は、まったくちがうのだ。
じゃあそのふたつは具体的に、なにがどうちがうのだろう?
今日はその話をしたいと思う。
外国人「と」働くときに必要なことは、「ちがい」を乗り越える能力
外国人、とくに多国籍の同僚と働くときに必要なのは、相手が異なる価値観をもっていることを前提に考えることだ。
留学中、ドイツ人はやたら議論吹っかけてくるし、イタリア人は集合時間にだれも来ないし、スペイン人はとにかくパーティーしたがるし、フランス人は意地でも英語使わないし、ロシア人はしょっちゅう二日酔いになってたし、日本人は授業中発言せずに聞いてるだけだった。
でも、それをとやかく言ったってしょうがない。
こっちがなんと言おうとドイツ人はトコトン話したいし、イタリア人は集合時間を重視しないし、スペイン人はパーティーに行っちゃうし、フランス人は英語で話しかけられたら無視するし、ロシア人はウォッカを飲むし、日本人は静かに授業を受けるだけ。
もちろんみんながみんなそうではないけど、国民性のちがい、価値観のちがいは当然あるわけで。
だから多国籍の同僚と働くときは、みんながそれぞれちがう環境で育ったことを前提に、ある程度割り切りながらうまいこと付き合っていかなきゃいけない。
そこで求められるのが、「相手に歩み寄り言葉で解決しようとする姿勢」だ。
相手に自分の気持ちを伝え、相手に気持ちをたずね、価値観のちがいを言葉で埋められる人。
自分とまったくちがう考えの相手に嫌悪感や恐怖心、猜疑心を抱かず、正面からぶつかっていける人。
自分が納得するかどうかに固執せず、相手の言い分を聞いて、「じゃあこうしよう」と妥協点を見つけるのがうまい人。
こうやって「ちがい」を乗り切るのが得意な人は、多国籍の外国人同僚といっしょに働くのに向いている。
ちなみに、共通点を探してそれをもとに仲間意識を形成しがちな日本人は、共通点がない相手との付き合いが苦手なことも多い。
外国人「として」働くときに必要なことは、「同じ」になる能力
では、自分が外国人として働くときはどうだろう?
そのとき必要とされるのは、外国人と働くときとは真逆の、「同じになる」能力だ。
さまざまな国籍の外国人と働くのであれば、その都度相手と「同じ」になろうとするのはかなりしんどい。
しかし海外で働くのであれば、現地のルールに則り、まわりと「同じ」になる必要がある。
いつまでも「異物」ではいけないのだ。
たとえばドイツでは、自分の仕事の範囲や裁量がきっちり決まっている。
他人が大変そうでも、まず自分の仕事を片付けることが最優先。
部下は自分に裁量がある仕事に関していちいち報告してこないし、1ヶ月の休暇を平気で申請してくる。
それに対し、
「こいつは自分の仕事のことばっかり」
「なんで全部ひとりで決めてしまうんだ」
「1ヶ月も休むなんてありえない」
そんな不満を抱えたところで、「ドイツなんだからしょうがない」。
それで終わり。
だから、外国人として働くときに一番重要なのは、その国との相性だ。
わたしはルール大好き、議論大好き、「自分は自分」というドイツが合っていたけど、のんびりとした陽気な南ヨーロッパはたぶん合わないと思う。
でもそんなゆるい雰囲気が好きな人もいるわけで。
外国人として働くのであれば、とにかくその国との相性が最重要。
いくら優秀でも、その国と相性が悪ければ絶対にうまくいかない。
ほかにも、トラブルを回避して協調するのが得意だったり、なんにでも興味をもって試せる好奇心旺盛な人だったりするといいと思う。
細かいことを気にせず失敗を笑い話にできるたくましさ、わからないことをためらいなく質問する厚かましさなども必要だろう。
そうやってその国にうまく溶け込めるかどうか、自分を現地に適応させて同じになれるかどうかが、「外国人として働く」ときの成否をわける。
ちなみにわたしはこういったたくましさや厚かましさがなかったので、現地での就職は諦めたよ!
グローバルに働く能力は2種類ある
外国人と働くときに必要なのは、ちがいを前提として尊重し、衝突しないように話し合う「インターナショナル」な能力。
外国人として働くときは、相手に合わせて自分を溶け込ませ、同じになっていく「ローカライズ」の能力。
最初にも書いたけど、このふたつはまったくちがう。
それなのに両方とも「グローバルに働く」という言葉でくくられることが多く、「帰国子女だから外国人とうまくやれるだろう」とか、「英語ができればどの国でも働けるはず」とかって思われがちだ。
そういった勘違いは、不幸のもとになる。
「海外で働きたい」
「国境を超えたビジネス」
こんな言葉にときめく人は、いま一度自分の胸に聞いてみてほしい。
自分が「外国人と働きたいのか、外国人として働きたいのか」を。
もちろん、その両方ができる「グローバル人材」を目指すのなら、それもまたひとつの選択肢だ。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
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<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
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・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
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3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)
【著者プロフィール】
名前:雨宮紫苑
91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&
ハロプロとアニメが好きだけど、
著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)
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ブログ:『雨宮の迷走ニュース』
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