とても面白い研究結果をみた。
早生まれはスポーツだけでなく勉強、はたまた生涯年収に関しても遅生まれと比較して損してしまうという話だ。
早生まれは不利、なのか…? 「生まれ月格差」の驚くべき実態(山口 慎太郎) | 現代ビジネス | 講談社(1/6)
これまでの様々な研究は、生まれ月による格差は大人になっても完全には消えないことを明らかにしてきた。
プロ野球選手やJリーガーのようなスポーツ選手には4月生まれが多く、早生まれが少ないという話は、研究者でなくとも聞いたことはあるだろう。日本全体での出生数には、月による偏りはほとんどないから、生まれ月が有利、不利を生み出していることがわかる。
遅生まれの方がプロスポーツ選手になるのに有利?
体格に関しては成長格差が体感的にも実感しやすいという事も相まって、何らかの格差があるのではないかという研究はなされていた。
少し前に話題になったヤバい経済学という本を読んだ事がある人なら、プロスポーツ選手に遅生まれが多いという分析結果をみた事があるだろう。
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<参考 ヤバい経済学>
この現象に関して言えば、恵まれた体格を活かしてイキイキと運動に励めるという事を考えれば、理解は容易い。
体格に優れた人間と、体格に劣った人間がレギュラー争いをしたら、体格に優れた人間の方が勝つ確率の方が高く、結果として自然淘汰にある種のバイアスがかかりやすくなるのは必然だ。
結果として、プロスポーツ選手に遅生まれの子が集中してしまうのは自然現象として当然の帰着である。
体格に恵まれない早生まれの子は勉強を頑張るが…
しかし改めて考えてみればである。
恵まれているのは体格だけではない。
幼少時の一年は知的能力にだって強く働く。
子供時代の一年近い差は本当に大きく、理解できる概念のレベルは愕然と変わる。
その理解力の違いは足し算と掛け算、数列と微分積分ぐらい違う。
そう考えると…4月~5月生まれの人間は運動のみならず勉学にも強く打ち込みそうなものである。
が、面白い事に現実は逆だ。
上の分析によると、学習時間や読書時間については早生まれの子どもたちの方がむしろ長いのだそうだ。
体格は個人の努力ではどうにもならない部分も多いが、知力はまだ個人の努力が反映される余地がある。
なので、この選択はある意味必然と言えるかもしれない。
勉強を無理して頑張ると、コミュ力が減る
基本的には人間は頑張った量に比例して成長する。
一年の差は大きい。
だが、それでも熱心に頑張れば取り返しがつかないほどの差ではないし、上回る事だって可能だろう。
結果、早生まれの子供たちは4~5月生まれの子供達よりも頭が良くなり、頭脳で頭角を出せましたとさ。
めでたしめでたし…とはならない。
実はこの無理がたたって、早生まれの子は後々になって苦労する羽目になるのだという。
勉強に熱心に取り組むという事は、勉強以外の何かをやり損ねるという事でもある。
では早生まれの子供たちは何を失ってしまったのか?
それはコミュ力である。
早生まれの子供たちの塾や家庭等の学外での学習時間や読書時間が多いという事はだ。
裏を返せば屋外での遊びやスポーツへの参加が少ないという事でもある。
人間関係も習熟する為にはある種の修行が必要だ。
残念ながら、机の上での勉学はコミュ力鍛錬には役立たない。
勉学での遅れを取り戻そうと頑張れば頑張るほど、公園等で遊ぶ時間は減る。
こうして他人と関わる時間が減った結果、早生まれの子供達はコミュ力修行の時間が減る。
結果、見事なコミュ障が誕生するというわけだ。
先の調査によると、早生まれの子供達ほど人間関係について悲観的な回答をしがちだとの事であるが、人間関係の鍛錬量が少ないのだから、そりゃ当然である。
コミュ力は一日にしてならずである。
公園でキャーキャー遊んでいる子供たちは机の上では決して学べないコミュ力を学習していたのだ。
こうしてダブルパンチ、いやマルチプルパンチを食らった結果、早生まれは遅生まれと比較して、様々な分野で不利となり、結果として年収すらも低くなるのだという。
なんやそのどこにも救いがない話。早生まれ全損やん(´;ω;`)
頑張りすぎると、逆に悪影響がでる?
先の話に関連する非常に面白い話がある。
スタンフォード大学心理学部教授であるクロード・スティールは”ステレオタイプ脅威”という概念を提唱している。
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<参考 『ステレオタイプの科学 「社会の刷り込み」は成果にどう影響し、わたしたちは何ができるのか』>
このステレオタイプ驚異をわかりやすく言い換えると、コンプレックスを克服しようと無理して頑張ったら逆に駄目になる現象である。
例えば「女は男と比較して数学が苦手だ」という有名な話がある。
これが事実かどうかはひとまず置いておくとして、ある集団にテストを受けさせる前に一言
「女性は数学が苦手だ」
こう言うだけで、女性のテストの点数は下がるという。
これは驚くべき話ではないだろうか?
たった一言で特定の集団に対してデパフ魔法がかかるだなんて、まさにファンタジーの世界である。
ネガティブイメージを覆そうと頑張ると、逆効果?
このデパフ魔法だが、基本的にはその人のアイデンティティに関わる事柄に作用する。
例えば黒人は白人やアジア人と比較して民族的にIQが低くでやすいという有名な結果がある。
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<参考 言ってはいけない 残酷すぎる真実>
とはいえ、これはあくまで傾向であって個別例ではない。
当然の話だが、黒人にも頭が良い人はいる。
じゃあ大学入学前に同じような点数を獲得して入学してきた白人と黒人が一緒のキャンパスで過ごすとどうなると思うだろうか?
もう一度繰り返すが、学力は両者ともに入学前の段階では同じである。
具体的にいえば、偏差値70の白人Aさんと偏差値70の黒人Bさんが、スタンフォード大学の同一学部に入学し、どういう成績を刻んでいくかという話である。
結果はたぶん皆さんの想像通りで、偏差値70の白人Aさんは好成績を叩き出しやすい傾向にある一方で、偏差値70の黒人Bさんは落ちぶれる傾向があるのだという。
これも正直驚きである。
同じ能力を持った人間が、同じような条件で勉学に励んだ”はず”なのに差が出るだなんて、いくらなんでもムチャクチャだ。
緊張感は人から余裕を奪い、能力を落とす
なぜそんな事が起きてしまうのか。
実は偏差値70の黒人Bさんが”頑張りすぎてしまう”のが原因だとクロード・スティール氏は指摘する。
「自分が不甲斐ない成績をとってしまったら、黒人が白人よりも頭の出来が悪いという印象をより強くしてしまう…」
多くの黒人大学生はこのような緊張感を抱えて、大学の門を叩くのだという。
実はこれは冒頭で例をあげた「女性は数学が苦手だ」とテスト前にデパフ魔法をかけられた女性受験生の自己洗脳バージョンだ。
このようなネガティブなイメージングを自分の中に抱える事は、自分の中に余計な緊張感を抱える事と等しい。
この緊張感をわかりやすくいうと、授業中に当てられた時の嫌な感覚に近い。
誰しも授業中に教師から「この問題の答えをいえ」と指摘されてキョドり、答えを間違えた後で「落ち着いて考えれば簡単に答えが言えたのに…」となった経験があると思う。
人は余計な緊張をすると、ワーキングメモリーという短期記憶に関わる部位が働かなくなるという。
冒頭で例にあげた女性受験生や偏差値70の黒人Bさんの現象は、このワーキングメモリーが働かない状況下に置かれてしまったが故に生じたものだ。
授業で当てられた時に感じる嫌な緊張感をずっと抱えて何かにコミットし続ける。
これがステレオタイプ驚異現象の正体であり、その緊張感を抱えての頑張りは人を摩耗させてしまうのだ。
早生まれはステレオタイプ驚異として機能しているのかもしれない
そうして振り返ってみるとだ。
早生まれの人と遅生まれの人の境遇は、まさしく先の白人Aさんと黒人Bさんが置かれた状況と非常に近似している事に気がつくと思う。
早生まれの子供は体格や知力に劣るが故に、遅生まれの子供よりも”余裕”がない。
その余裕の無さが早生まれの子供からワーキングメモリーを奪い取り、永続的にデパフ魔法がかかった状態が続き、後は先に述べた通りの結果となるのである。
軽い緊張感程度ならばいい方向に物事が働く事もあるかもしれないけど、重度のプレッシャーは人間にあまりいい影響を与えない。
しかもずっと続くとなれば尚更である。
遅れを取り返そうと頑張るのは立派である。
だけど、遅れは取り返さなければならないと他者が義務的に押し付けてしまうのは避けねばならない。
そんな事をしたら、まさにステレオタイプ驚異の罠にわざわざ足を突っ込ませるようなものである。
短期間での逆転は難しいが、長期間でなんとかする事は無理ではない
世の中にはこのように生まれや育ち、置かれた環境といったものの差が必然的にある。
それらは長い目でみれば解消していくべき問題ではあるが、短期間ではどうにもならない。
こんな不公平がはびこる時代にあって、恵まれなかった人はどうすればいいのだろうか?
差別の解消を目指して、声を荒げていくべきだろうか?
活動家になり、戦っていくべきなのだろうか?
もちろんそれも一つの答えではあるだろう。
ただ、僕はその選択肢はあまり賢いとは思わない。
個人の力はミクロでしかない。
仕組みや構造はマクロな現象であり、それを変えられるのは時代だけだ。
ではミクロな個人はどうするべきなのか。
僕が思うその回答は「淡々と日々をコツコツやっていく」だ。というかこれしかない。
実は僕は3月生まれと早生まれである。
その事が作用しているかどうかはわからないけど、今まで随分苦労した。
自分よりも頭がいい人をみては羨み、自分の才能の無さを呪い嘆き、心を殺して受験勉強に励んだ過去がある。
たまたま物凄くラッキーが働いて、受験はギリで成功したものの、その反動なのか乏しいコミュ力で在学中は人間関係に苦労し、在学中はほとんど友達もできずに孤独に終わってしまった。
なんだか書いてて冒頭に出てきた研究結果みたいな人生を突き進んでいるみたいで、涙が出てきそうである。
あれから随分と時間がたった。
ふと思い立って、Facebookや知り合いのツテ、その他を利用して、今まで会った僕が人生を羨ましいと思ってみた人のその後の人生を追跡してみた。
結果はまあ、いろいろだった。
もちろん人生が上手くいってそうな人もいたけれど、なかなか苦しい展開に突入している人もいて、本当に世の中というのは難しいものだなという気持ちになった。
そうしていま現在の状況を比較してみると、自分があんなにも羨ましいと思っていた人たちを、今となっては全然羨ましいと思っていない事に気がついた。
世の中というのは有利不利で全てが決まるものではなかったのだ。
ある段階で上手くいってる人生がその後も延々と続くわけではないし、その逆もまたしかりだ。
人生は長い。
日々を大切にして淡々とやっていけば、惨めだと思っていた人生が10年20年後に全然違う様になっていただなんて、全然普通の事である。
短期間での逆転が難しくても、長期間で上手にやる事なら誰だってできる。
複利の力を利用し、淡々と日々を積み重ねていけば不利な立場からのスタートでも人生それなりにはなる。
ゆっくり歩け、たくさん水を飲め
「ゆっくり歩け、たくさん水を飲め」
これは村上春樹の作品の中に出てくるフレーズだが、いま思うと人生の本質というのは本当にこの言葉の通りだなと思う。
才能や生まれもった境遇といったものを羨んだり嘆いたりしてもあまり意味はない。
目の前の事を焦ること無く淡々とやる。
そうしてゆっくり歩いて、たくさん水を飲んで、またゆっくりと歩く。
そうして遠い場所にたどり着いていたら、目の前に晴れ晴れとした景色が広がっていた。
これが僕の今の人生のように思う。
「ゆっくり歩け、たくさん水を飲め」
これを読んでいる人の中にも、苦境に置かれている人もいるかもしれない。
そういう人は辛くなったら、この言葉を思い出そう。
大丈夫、きっと未来は明るい。
やる事をキチンとやっている人に、世の中はキチンと応えてくれる。
そういうものなのだ。
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