皆さん、絵を描くのって好きですか?
テレストレーションっていうアナログゲームがありまして、あるワードを表現した絵を描いて次の人に渡して、次の人はその絵がなんのワードを示しているかを推測してまた次の人に渡してっていう、いわば「お絵描き伝言ゲーム」なんです。
テレストレーション (Telestrations) ボードゲーム
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しんざきはそこそこ絵を描くのは好きなんですけど、何故か若干絵心の位相が歪んでいるようで、テレストレーションを遊ぶといつも覿面にゲーム進行を事故らせて非難ごうごうになるんですよ。
「お前の絵で地球がやばい」って言葉を投げかけられた経験がある人類はそれ程多くないと思いますが、私はそのうちの一人です。
何がいけないんですかね?
割と真面目に描いているつもりなんですが。
ところで、先日こんなTwitterまとめを拝読しました。
アニメーターさん「小学生の図画工作の授業はゴミ作りがテーマなんでしょうか」
小一子供の図工美術の教科書見ると絵の描き方は一切のってません。
現代アート崩れ?ゴミ作り?がテーマなんでしょうか。
よくわからない。
はじめに教わるがこれじゃ一生絵が苦手になるのは無理もありません。
だってそうなるプログラムになってるんですから。
あと何も見ずに調べさせずに描かせます。
あるのは現代アート崩れの子供らしい教科書のみ。
だからみんなそんな絵になる。
まずしっかり調べさせる。
虫なら図鑑や写真を。
ふーむ、と思いまして。
ちょっと複数の論点が混じっているようですが、この方がおっしゃりたいことは基本的には小学校教育批判であって、引用部分からは
・「個性重視」という言葉の元、具体的な技術を教えないで放置している
・具体的なお手本を見せずに想像だけで描かせている
といった点を、割と一般論に落とし込みながら批判されているようだな、ということが読み取れます。
「漫画っぽい絵は厳禁」「理不尽な評価」といった言葉も読み取れますね。
小学校教育における、特に実技科目についての「個性偏重、技術軽視」という傾向とその批判、というのは以前からよく見られる文脈ですよね。
例えば「野球をやらせるのに野球の技術をちゃんと教えない」だとか。
「のびのびと個性を伸ばす」という大義名分のもと、具体的な「やり方」を教えてあげない、とか、結構あちこちで聞く話です。
正直言うと私も以前はそれに近い印象を持っていまして、小学校の、特に実技科目における「個性偏重、技術軽視」というのは一つの固定観念になっていました。
どこもそんなもんなんやろ?と。
ちょっとn=1の話、私の観測範囲の話をします。
しんざきには子どもが3人いまして、3人とも同じ小学校に入学しました。
長男は中1なんでもう卒業しましたが、下の長女次女双子はまだ現役小学生です。
最近の小学校は「学校公開」というイベントでちょくちょく授業を見せてくれます。
昔で言う授業参観なんですが、別に自分の子どものクラスを見ないといけないという決まりもありませんで、結構色んな授業風景を見せて頂けるんですよ。
で、当然図画工作の授業も見せて頂いたことがあって、その内容に結構感心したんです。
まず第一点として、先生が割りばしと糸を組み合わせた道具を実際に作ってこられていたんです。
正方形に並んだ割りばしの各頂点にテープで糸が張ってあって、奥に向かって伸ばせるヤツでした。
こんな感じです。
図にするととても分かりやすいですよね。
すいません、小学校教育の話をしている時に美術教育の敗北の実例みたいな絵をお見せするのは大変心苦しいんですが、心を広く持ってください。
悪いのは私の手先の不器用さであって教育ではありません。
で、授業の最初5分くらいを使って、「みんなこれ見に来てー」と。その糸を色んな角度に動かしながら、実際の絵と見比べさせて、立体的に見える見えないとか、影のつき方とか確認させてたんですよ。
お気づき頂けると思うんですが、これ、一点透視図法ですよね?
先生、「透視図法」という言葉こそ使っていなかったんですけど、実際にこの道具を使って、「こういう風に角度をつけて書くと、こんな風に立体的に見える」というのを説明されていたわけです。
で、今度は自分の筆箱を実際に観ながら、気になったら割りばしの道具を確かめてみて、自分でも立体的な感じで描いてみよう、という授業をされていました。
これ、まさに具体的な「絵を描く技術」だなあ、と。
小学校中学年のクラスで、ちゃんと小学生に理解出来る程度の言葉で、遠近法の作画の技術の話をしていたんですよ。
これ以外にも感心したことは何点かあって、
・図画工作の時間は二時間まとめて一コマになっていて、なるべく作成が尻切れにならないようにされていた
・「〇〇を見ながら写してみよう」という場面で、「けど描きたいものが別にある人はそれを描いてもいいからね」と言われていて、何人かは実際に違うものを描いていた
という点が挙げられます。
特に「違うものを描いてもいい」という点は個人的に感心した点でして、「描きたいもの」が特段ない大多数の子には、ちゃんと書くべきモデルが提示されているんですよ。
それを描く技術も明示されているから、やることはちゃんと明確になっている。
一方で、自分の思う通りに描きたいという子には、ちゃんと別ルートも用意されていて排斥されない。
実際、教室の後ろに貼ってあった絵なんか、何人かは全然バラバラのテーマで描いてあったりするんですよね。
長女にせよ次女にせよ、図画工作の時間はすごーく楽しんでいるようだったので、ああ、上手い授業が行われているもんだなあ、と感心した次第なんです。
実際、小学校の体育館で行われた展覧会とか見てると、どの子もすごーく上手いし、一方楽しそうでもあるんですよね。
少なくとも、小学校の9割9分以上の子どもたちが私より絵が上手であることは間違いありません。
比較対象が悪いかも知れませんが。
これ、私自身にとっては結構衝撃的な経験だったんですよ。
あれ、今まで思ってたのとちょっと違うなあ、と。
もしかすると、昔からの思い込みで、「個性偏重でちゃんと技術を教えてくれない学校教育」という固定観念を一般化しちゃってたかなあ、と。
いや、もちろんこれ、n=1の話ですよ?
私が見た、私の子どもたちの学校の、その一つの授業の風景に過ぎません。
もしかするとたまたまこの時、この先生だけがこういうやり方をやっていたのかも知れませんし、それは小学校全体からすればイレギュラーなのかも知れません。
この光景に基づいて、日本の小学校教育はうんたらかんたらと論ずることはできませんし、そのつもりもありません。
ただ、
・小学校教育と言っても学校、先生によって様々に異なっており、十把一絡げで語れるものではないんだな、と納得したこと
・工夫している先生はホント—に頑張って工夫されており、かつその工夫についてはきちんと評価されるべきだな、と思ったこと
・先生方も恐らく小学校教育への批判を把握されており、それに対して色んな改善が試みられているんだ、と思ったこと
・物事は実際に現場を見てみないと案外分からんもんだなあ、と思ったこと
くらいは私にとっての教訓でして、小学校教育って色々批判のやり玉にも挙がりやすいですけど、「十把一絡げに一般化して批判」というのはなかなかリスキーかも知れないな、実態を捉えられないかも知れないなーと思った次第なのです。
***
この件に限らず、「一般化しての批判」をするときには、少なくとも「一旦最新の状況の、出来れば現場での案件に触れて、自分の認識をアップデートする」ことくらいは最低限やっておいた方がいいなあ、と思っています。
物事は変化するものでして、かつての自分の印象だけで物事を語る、というのはそれがなんであれ危険です。
ちなみに、上記の話の後、ちょっと気になって小学校の学習指導要領を読んでみたんです。
こちらの「図画工作」の項目を読んでみると、他の科目と比しても随分記載内容が簡素なようには見えまして、音楽や体育に比べても半分くらいのページしか割かれていません。
もしかするとその分指導における各教員の裁量範囲が広く、学校や先生次第で内容に差が出てしまっているのかも知れません。
これについては均等性という意味では問題である一方、工夫の余地が広いという点ではメリットなのかも知れません。
なんにせよ、小学校教育というのはなにせ無暗に叩かれやすいものでして、それで傷ついている先生方も多分いるんだろうなあ、と。
だからこそ、「こんないい感じな教育を目撃した!」という話については、なるべくクローズアップしていきたいなあと。
そんな風に思った次第なのです。
今日書きたいことはそれくらいです。
ティネクト(Books&Apps運営会社)提供オンラインラジオ第4回目のお知らせ。

<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>
第4回テーマ 地方創生×教育
2025年ティネクトでは地方創生に関する話題提供を目的として、トークイベントを定期的に開催しています。地方創生に関心のある企業や個人を対象に、実際の成功事例を深掘りし、地方創生の可能性や具体的なプロセスを語る番組。リスナーが自身の事業や取り組みに活かせるヒントを提供します。
【ご視聴方法】
ティネクト本音オンラインラジオ会員登録ページよりご登録ください。ご登録後に視聴リンクをお送りいたします。
当日はzoomによる動画視聴もしくは音声のみでも楽しめる内容となっております。
【ゲスト】
森山正明(もりやま まさあき)
東京都府中市出身、中央大学文学部国史学科卒業。大学生の娘と息子をもつ二児の父。大学卒業後バックパッカーとして世界各地を巡り、その後、北京・香港・シンガポールにて20年間にわたり教育事業に携わる。シンガポールでは約3,000人規模の教育コミュニティを運営。
帰国後は東京、京都を経て、現在は北海道の小規模自治体に在住。2024年7月より同自治体の教育委員会で地域プロジェクトマネージャーを務め、2025年4月からは主幹兼指導主事として教育行政のマネジメントを担当。小規模自治体ならではの特性を活かし、日本の未来教育を見据えた挑戦を続けている。
教育活動家として日本各地の地域コミュニティとも幅広く連携。写真家、動画クリエイター、ライター、ドローンパイロット、ラジオパーソナリティなど多彩な顔を持つ。X(旧Twitter)のフォロワーは約24,000人、Google Mapsローカルガイドレベル10(投稿写真の総ビュー数は7億回以上)。
【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
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(2025/6/16更新)
【著者プロフィール】
著者名:しんざき
SE、ケーナ奏者、キャベツ太郎ソムリエ。三児の父。
レトロゲームブログ「不倒城」を2004年に開設。以下、レトロゲーム、漫画、駄菓子、育児、ダライアス外伝などについて書き綴る日々を送る。好きな敵ボスはシャコ。
ブログ:不倒城
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