もうずいぶんと前の平成初期、まだ大学生だった頃の話だ。

ロシア語の授業で知り合い、いい感じに仲良くなった女性とデートを楽しんでいた時のこと。

 

ランチに映画と定番のコースを楽しむのだが、夜に予約している居酒屋さんの時間までまだ少し、間が空いている。
そのため繁華街にある、大きなゲームセンターに足を向けた。

 

そこで見掛けたのは、当時流行っていた「愛情測定」とかいうゲーム機。
出題される質問に交代で、YesかNoかで回答していく。その内容や速さで、2人の相性や恋愛度を測定して点数化するというような、なんというか微笑ましいゲームだ。

さっそく100円を投入すると、次々に質問が流れてくる。

「彼女の誕生日を覚えている」

「彼氏の血液型はA型である」

たわいもない質問がかわるがわる表示され、Yes、Noとお互いにテンポよく打ち込みワチャワチャと楽しむ。
しかし次の瞬間、二人とも一瞬、フリーズしてしまう質問が表示された。

 

「彼と付き合うまで、私は処女だった」

ゲームとはいえ、これからお付き合いに発展するかどうかというタイミングで、なんという気まずい質問を出しやがるんだ。。

「なんかごめん、後ろ向いとくわ」
「全然ええよ、みといて」

 

もう30年以上も前の話だが、この時の彼女の回答ほど、当時と今で解釈が違うものはない。

大げさに言えば、これこそが人生や仕事から愛される人とそうでない人の大きな違いなのではないのかとすら、思っている。

 

「その予定を優先したのですね」

話は変わるが、こちらももうずいぶんと以前のこと。
友人の自衛官とお酒を楽しんでいた時、こんな話を聞き驚いたことがある。

「桃野さん、実は困ってまして…」

聞けば、共通の知人が最近、友人を引き連れて繰り返し表敬訪問に来るのだという。

そして懇親会などでの様子をSNSにアップし、“個人的な話を聞けた”などと、言ってもいないことを書き込み困惑していると話す。

 

表敬訪問そのものは決して珍しいものではなく、高級幹部になると避けて通れない民間との交流で、大事な仕事の一つではある。

しかしそういった困りごとを一民間人に吐露する高官など、ほとんどいない。

 

誰か一人にでも「困っている」などと話すと、やがて本人の耳に入る可能性が高く、予期せぬ関係の悪化に繋がるためだ。

逆に言えば、そのリスクをおかしてでもやんわりと本人の耳に入れ、自重してほしいという意図なのだろう。

 

この知人のように“偉い人と飲み会”などと、無邪気にSNSに書き込む人は決して少なくない。

人脈自慢、ブランド品自慢など、SNSには日々、そんな書き込みが溢れている。

しかし考えてもみて欲しいのだが、自衛隊に限らず、大企業の経営者や政治家・政府高官など、広範な人との人間関係でバランスを取る必要がある人にとって、

「誰と個人的な時間を過ごしているか」

という事実は、かなり機微に触れる、厳に秘匿したい情報だ。公式行事ならともかく、個人的な人間関係は、それそのものが考え方や価値観を表す。

 

加えて、その日・その時間に誰かからのアポイントを断っていたとなれば、

「へー。その日、飲んでたんだ」

「なるほど。私との予定よりも、その予定を優先したのですね」

などと、面倒なことにもなりかねない。有害無益で、迷惑極まりないというものである。

 

そんなこともあり後日、くだんの知人とある会合で同席した時、こんな話をする。

「実は私、ある師団長との飲み会の写真を、ついついはしゃいでSNSにアップし、司令部から出禁になったことがあるんです。本当に軽率でした」

「…桃野さんでも、そんなことをしてしまうのですか?」

「はい、要職にある人ほどこういうことがご迷惑になるのだと思い知り、痛い目にあったんです。本当に泣きそうです」

作り話だが、知人の目が泳ぐ。自分のやっていることの意味に気がついたのだろう。幸いそれ以降、知人のSNSでそういった情報を見かけることはなかったので、本当に良かった。

 

「こんな偉い人と個人的に飲めるなんてすごい!」

こういった情報をSNSで発信する人はそんなふうに思って欲しいのだと思うが、そんなことをすれば逆に信用を失い、絶対に次はない。なおかつ、その発信をみた人はこう思う。

「これくらいの人と会えるのが嬉しいんだ」

それだけならまだいいが、こんなことまである。

「コイツ、アイツと仲が良いんか…」

エラい人ほど、いろいろと敵も味方も多いものだ。不特定多数の人に“人脈自慢”を流布するメリットなど、自分にとっても何一つない。

 

「自分がどう思われたいか」

話は冒頭の、大学時代の女性とのデートの話だ。

「彼と付き合うまで、私は処女だった」

そんな気まずい質問に、彼女はどう対応したのか。

 

「なんかごめん、後ろ向いとくわ」

「全然ええよ、みといて」

そういうと彼女は、即答で「Yes」を叩く。

 

「嘘も方便」というものだろうが、なんとなく嬉しくなり、心がザワつく。

(そう思われた方が得ってことなのかな?)

そう思い、女性ってしたたかだなと、勝手な解釈をした。しかし今は、全く違う。

 

きっと彼女は、「自分がどう思われたいか」という判断基準で動いていない。

「相手にとっての利益は何か」というモノサシで動いている。だからこそ、“無害で幸せな嘘”など余裕で言えたのだと、今は確信している。

 

そして話は、自衛隊を応援する知人についてだ。

彼はどう考えても「自分がどう思われたいか」が行動の判断基準であり、相手にとっての利益という発想がない。そして不思議なことに、「自分がどう思われたいか」という人ほど周囲から見透かされ、人間関係を壊し逆効果になる。

 

ブランド品や人脈などで「この人すごい!」などと思ってもらえるはずもないのに、

「自分がどう思われたいか」

という発想をする人はそうやって、信用を毀損する。

そんな情報発信で寄ってくるのは、詐欺師程度しかいないのに、である。

 

余談だが、若い頃に仲良くしてくれた女性はその後、中央省庁で要職に就き、外交分野などで重責を担って今も活躍している。

あの時その片鱗が見えたように、「相手にとっての利益は何か」というモノサシで動ける人は、こうやって人生からも仕事からも愛されるのだろうと思った、懐かしい記憶だ。

 

それにしても、もしあの時ゲーム機に

「彼女と付き合うまで、俺は童貞だった」

などと表示されたら、私ならどうしただろうか。ムキになってNoを連打した気がしてならない…。

 

 

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【プロフィール】

桃野泰徳

大学卒業後、大和證券に勤務。
中堅メーカーなどでCFOを歴任し独立。

主な著書
『なぜこんな人が上司なのか』(新潮新書)
『自衛隊の最高幹部はどのように選ばれるのか』(週刊東洋経済)
など

昔、ゲーセンで麻雀ゲームに100円を入れた瞬間に、「天和!」と言われたことがあります。
なにが起こったのか、一瞬わかりませんでした。

X(旧Twitter) :@ momod1997

facebook :桃野泰徳

Photo:Gaku Suyama