いい人が採れない、定着しないので、話を聞いてほしいと言われ、何度か相談に乗ったことがある。

 

ただ、話としては簡単で、「いい人」が採れない理由は一発でわかる。

「給料が普通」(というか、むしろ能力に比して安い)だからだ。

 

では、仕事が面白そうなのかと言えば、それも普通。

特に簡単というわけではないが、ありふれた仕事。特に高い技術力が必要なわけではない。

世の中にニーズはあるが、古くからある仕事で、成長性も低い。

 

会社のブランド力・知名度も普通。

特に悪評もないが、要するに無名の中小企業だ。

 

当たり前のこととして、何もせずとも優秀な応募者が殺到するのは、給料が高く、仕事が面白く、友達に自慢できる職場だ。

だから、「いい人を集めたいなら、まず給料を2、3割上げたほうがいいのでは。」と回答すると、

社長は言った。

「でも、うちには創業当時からの理念がある。カネとか、そういうものではなく、理念に共感してくれる人を採用したい。」

 

そういわれて、理念を見ると確かに立派なものがある。

昔、コンサルタントを入れて、社員が皆で作ったとのこと。

 

私は訊ねた。

「例えば、志望動機が「給料がいいから」と本音をいう応募者は落としますか。」

 

社長は言った。

「カネで会社を選ぶような奴は、結局また、カネで転職するだろう。」

「そうですね。」

「だから、そういう基準で採用したくはない。」

「なるほど。」

 

「理念」は、カネの代わりにはならない。

私個人の感覚を率直に言えば、「「理念」は、カネの代わりにはならない。」である。

 

良い理念だから人が集まる、というのは多くの場合嘘だ。

むしろ逆に、「あそこの経営者は立派なことは言うが、ビジネスや業績は平凡で、口だけだな」という嘲笑を買うのみである。

 

さらに言えば、そもそも、「理念の良さ」は業績と何の関係もない。

理念で業績が決まるならば、そもそも上で紹介した会社は、会社は圧倒的な高収益で、良い処遇を提供しているはずだ。

 

実際、行動経済学の視点からは、ビジョンが業績と関係があると思えるのは、ハロー効果と結果バイアスの産物だ。

成功した企業を体系的に検証して経営規範を導き出そうとするビジネス書は世に多いが、こうした本の絶大なる魅力も、ハロー効果と結果バイアスであらかた説明がつく。
(中略)

『ビジョナリー・カンパニー』で調査対象になった卓越した企業とぱっとしない企業との収益性と株式リターンの格差は、大まかに言って調査期間後には縮小し、ほとんどゼロに近づいている。

トム・ピーターズとロバート・ウォーターマンのベストセラー『エクセレント・カンパニー』で取り上げられた企業の平均収益も、短期間のうちに大幅減を記録している。(中略)

あなたはたぶん、これらの結果に原因を見つけようとしただろう。たとえば、成功した企業は自己満足に陥ったからだとか、冴えなかった企業は汚名返上に頑張ったのだとか、だがそれは間違っている。

当初の差はかなりの部分が運によるのであって、運は輝かしい成功にもそれ以外の平凡な業績にも作用していたのだから、この格差は必ず縮小することになる。この統計的事実には、既に私たちは遭遇している――そう、平均への回帰である。

さらに良くないことに、ビジョンは従業員定着率ともあまり関係がなさそうである。

従業員の定着度は給与への満足度、会社の将来性、労働負荷、仕事の内容、という現実に大きく左右される。

要するに「カネ・待遇」と「仕事内容」で定着率が変わるのである。

(参考:https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/14/dl/14-2-3.pdf 厚生労働省)

 

「カネの代わりにビジョンを与えることで、従業員の定着度が増し、仕事へのモチベーションがアップする」と考えている方を一概には否定しない。

もちろん中には「理念に共感しているからこの会社にいる」という人もいるだろう。

カネの問題ではない、と。

 

でも、それは本当だろうか?

給与が半分になっても、理念だけでその会社にとどまれるか、と考えてほしい。

おそらく、多くの人はとどまらない。

 

ビジョンや理念などは、「待遇に満足して」初めて意味を持ってくるものだ。

「給与が増えても、幸福度がそれ以上は上がらない」とされる、年収が800万以上の人々、つまりせいぜい上位2割程度の人々に適用される話だろう。

それはそもそも、「平凡な会社」とは縁のない話だ。

 

むしろ、理念に対してあれこれ言う人物のほうが使いづらい

このような状況から、私が導き出した結論は

「いい人を採りたければ、給料を高くすればいい」

という、身も蓋もないものだ。

 

むしろ、理念に対してあれこれ言う人物、つまり「音楽性の違い」で、不平不満を述べる人物のほうが、良い報酬さえあれば「プロ」として、結果を出す人よりもはるかに扱いづらいのは明らかだろう。

そういう人物に限って、職場の人間関係をあれこれ気にしたり、「社長の人格が嫌い」とか言い出す。

 

フリーランスや外注先は、支払いをきっちりすれば、よほどひどくない限り、そんなことは言わない。

「金さえもらえればちゃんと成果出します」という人の方が、実際には圧倒的にパフォーマンスが良く、一緒に仕事がしやすいのである。

 

実際、英国の哲学者ヒュームは、「利害に基づく党派が最も害がない」と言っている。

理念や愛着に基づく論争は、キリがなく、妥協もできないからだ。

例えば、英国の哲学者デイヴィッド・ヒュームの論文に「党派論」があります。ヒュームもまた党派の弊害を認めるのですが、自由な政治体制の下では、その発生を食い止めることはできないといいます。

その上でヒュームは、党派にも種類があると指摘します。利害に基づくもの、原理に基づくもの、愛着に基づくものです。

興味深いことに、ヒュームはこのうち、利害に基づく党派がもっとも害がないと結論づけました。

例えば宗教戦争のように、絶対的な原理に基づく党派には妥協が困難であり、凄惨な結果を招きがちです。愛着に基づくもの、すなわち人の好き嫌いや人脈による党派も、いったんできあがってしまうと激烈を極めます。これに対し、利害による党派ならむしろ妥協が可能だというのです。

 

すでに、「企業が人を選り好みできる時代」は終わっている。

世界的に、良い人材は取り合いで、報酬は青天井だ。

日本の管理職給料は「中国よりずっと下」

アジア各国の給料相場がぐんぐん上がっている。最新の調査によれば、中国やシンガポールなどの管理職の給料は、日本企業の管理職よりはるかに高い。専門家は「この10年の間に日系企業の給与は低いというのが労働市場に定着してしまっている。給与で日系企業が優位性を持っている国はどこにもない」という――。

(プレジデント・オンライン)

つまり、「御社にいい人が来ないのは、給料が安くて、仕事がつまらなく、友達に自慢できない職場だからです。」

という、極めてシンプルな現実に企業は向き合わなくてはならない。

 

 

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