ちょっと前にインターネットで筋トレが猛烈にもてはやされていた時期があった。
確かに筋肉は大切だ。
無いよりはあった方がいい事も多いだろう。
しかし、筋トレを鼓舞していた人たちの主張はそういうレベルの話ではなかった。
うつ病には筋トレが効く。筋トレすれば人間関係が解決する。筋トレすれば年収が上がるetc…
まるで筋トレすれば全ての問題が解決すると言わんばかりの勢いだった。
この筋トレブームの際、うつ気質のある友人が「物は試しに」と筋トレをやってみたそうだ。
けど、結果的には筋トレは鬱に全然効かなかったという。
彼いわく
「筋トレが鬱に効くんじゃない」
「鬱になると筋トレができなくなるだけ」
「順番が間違っとるがな!」
だそうで
僕は
「なるほど…そういう事だったのか」
と妙に納得してしまった。
この現象の理解は私達の生活の質を保つのに役立つ。今日はその話をしようかと思う。
緩衝地帯という概念
以前に地政学を勉強していた際に緩衝地帯という概念を知って感心した事がある。
緩衝地帯とは大国や大きな文化の核に挟まれた諸国・地域のことだ。
このような地帯を挟むことで、対立する国家間の衝突をやわらげる効果が期待される。
例えば冷戦真っ只中において、もし仮にアメリカとソ連が隣同士だったとしたら…国境付近は非常に剣呑な事になる。
その間に、どっちら側でもない微妙な第三国が挟まれると…少なくとも表立っての対立は避けられる。
このクッション的な役割を果たす地区が緩衝地帯で、緩衝地帯の有無は戦争の発生しやすさ等に強く影響するのだという。
「なるほどなぁ。言われてみれば確かに」
説明されれば当たり前に見える概念ではあるが、これに最初に気がついて名付けた人の洞察力は凄いものである。
日々の活動の中にクッションを置く
この緩衝地帯だけど、実は私達の私生活においても導入可能な概念だ。
先のうつ気質の友人だけど、実は彼はこの事に気がついてから筋トレがやりたくないという気分が数日続いたら強制的に何もしないで休む日を生活に取り入れるようにしたのだという。
彼は「筋トレは鉱山のカナリアだ」と言っており、今では体調がヤバくなるかどうかの前兆の判断に利用しているという。
このように日常生活の中に本質的ではない領域をあえて設ける事で、私達は見抜きにくい体調の良し悪しを見やすくする事ができる。
この技術は特に中年以降、とても大切になってくる。
その事を理解するにあたって、まずは中年以降身体に起こる変化を理解しておく必要がある。
30代中盤から、身体が老化し始めてる事に気がついた
若さとは凄いものである。
少なくとも僕は20代~30代前半までは、その日に何をしようが一晩寝ればほぼ全回復していた。
ところがどうもそれは長続きしなさそうだと、30代の中盤に差し掛かってから思うようになった。
イマイチこう…疲れが抜けないのである。
体力だけではなく、飲み過ぎた次の日のアルコールの抜けもパッキリしない。
生命に寿命があるのだから、肉体だって当然老化する。
その事を頭では理解していたのだけど、いざ自分の身に実際にふりかかってみると…生活をガラリと中年スタイルにいきなり変えるのは極めて難しかった。
30代前半までの僕にとって、一日の終りは世界の終わりみたいなものだった。
深夜の2時まで活動するのは当たり前。
何をやろうが次の日になれば世界は真っ白な状態で万全で始まる。
だから、限界まで活動しないのは勿体ないにも程がある。
この生活習慣を18歳頃から10年以上続けてきた人間が身体の衰えを感じた際、まずはじめに行ったのは事実の否認である。
こうして現実を無視して無視して…無視し続けた先にあったのは、健康診断の真っ赤な数字の嵐である。
「あれっ?血圧高くない?血糖値も、コレステロールも…」
今までなら、どんなに暴飲暴食の限りを尽くしてきても血液検査はオールOKだった。
それがまさかNGになるだなんて…僕はやっとこさ現実を理解した。
僕は老いはじめてきたのだ。
30代中盤以降の睡眠はホイミに近い
そうして改めて己を見直してみると…随分と身体に色々な変化が訪れていた事にようやく気がついた。
まず寝付きが悪くなった。かつては目をつぶって5分もすればスヤァとなれていたのに、今ではそれが酷く難しい。
酔いつぶれればそれも可能だが、それでは色々と本末転倒である。
身の回りでカフェインの接種を控える人の数が増えていた正体はこれかと妙に納得した瞬間であった。
30代中盤以降においては、寝る前の事前準備が酷く肝心となる。
寝付きを良くする為に、その何時間も前から様々な策を巡らせる必要が出てくる。
カフェインを控えるのもその1つだし、その他にも色々な要素で寝付きが随分と変わる。
20代の頃までは寝れば全回復できていたのだが、30代中盤以降は雑に寝ると回復度合いが酷く悪い。
それまでベホマが使えていたのに、気がついたらホイミしか使えないようになっていたみたいなニュアンスとでも言えばいいだろうか。
こう書くと加齢がデメリットだけのようにみえてしまうかもしれないが、メリットもある。
若い頃はいくら寝ても寝たり無い位に毎日眠かったが、そういう理不尽な眠気のようなものは消えた。
また、早起きが以前と比較すればだが、かなりラクになった。
「ホイミしか使えなくはなったけど…まあゲームのルールさえキチンと把握できれば、上手に立ち回れなくはないな…」
30代中盤以降は確かに老化する。
だが、どうすれば身体が上手に動くかを理解できれば、まだそれなりに身体はキチンと動くのだ。
まずは現実を直視することから始めよう
このように、ホイミしか使えなくなってしまった30代中盤の肉体は気が付かないうちに披露が蓄積しやすい。
よくわからないうちに生産性がダラダラと下がり続け…気がついたら取り返しがつかない位にパンクしていた。
そういう危険が常にある。
この現象自体はやっかいではあるが、そういうモノがあると理解さえできれば対処は容易い。
冒頭で緩衝地帯の事を「説明されれば当たり前に見える概念だ」と書いたが、30代中盤以降の肉体の変化も「説明されればそういう風にも見える」。
だが、それを否認すると対処が極めて困難になる。
それどころか自然現象に逆らってアンチエイジングなんかを目指そうともすると…いわゆる痛い大人の完成である。
己の老いを認めるのは若かった私達にはなかなか難しい事ではあるのだが、現実は現実として直視した方が長い目で見たら予後は良いように思う。
ポンコツ人間は日常生活のルーティンが欠ける
そしてそういうものがあると理解したら…次に気をつけるのは、どういう時にポンコツになりかけなのかのサインを掴むことだ。
冒頭に書いた僕の友人は筋トレがダルい日が続いたらNGサインだという風にしているようだけど、このように日常生活で普段はやれていた趣味みたいなのをやる余裕が消失し始めるのは1つのポンコツへのサインである。
そのサインを無視してゴリゴリ自分を消耗させていくと…立派なポンコツが完成する。
ポンコツ沼に片足を踏み入れている人は僕が思うにある共通する特徴がある。
日常生活のルーティンが欠けるのだ。
例えば身なりが汚い人は整容という動作を削って稼働し、何とかパフォーマンスを維持しようとしている。
このように心身に余裕がある時は特に何も考えずにできていた事を削ってる人は、たぶん色々な人が思ってる以上にヤバい状況にある。
歯磨きやら風呂といった、あまり考えずに毎日とりあえずやっておいた方がいい作業習慣をサボり始めようと画策し始めてる時はもう立派にキャパオーバーである。
欠けたリソースを日常ルーティンから補ってるのは、自分で自分の身体を食べてるようなものだ。
疲れているからといって、悪い意味でのラクに逃げてはならない。
そういう悪いラクをやり始めるのは身体の限界に足を踏み入れてる。
生活はシッカリ守らないと簡単に破綻する。
基盤が壊れて平常運転をやり続けるのは不可能だ。
ちゃんと生活しよう。それができてないなら、絶対に休んだほうがいい。
加齢はルールさえ理解できれば、そこまで悪いものでもない
これを読んでいる人の中には若い人も多いだろう。
ここまで読んで「歳は取りたくないな…」と思った人もいるかもしれない。
何が良いかは人それぞれなので一概には言いにくいものがあるのだが、あくまで僕個人としては…加齢はそこまで悪いものではないなと思っている。
歳をとってよかった事の1つは欲が減った事だ。
若い頃は美しい異性に目移りしたり、とにかく眠かったり、とにかく腹が減ったりと、欲が自分を突き動かしているんじゃないかっていうほどに、欲でまみれていた。
欲は強い。
考える前に身体がそちらに動かされる。
若い頃は欲にブレーキをかけ続けるような生活だったなと今では思う。
今はそうではない。
欲が薄くなったので色々と考える余地はある。
ただ身体はポンコツ化しやすいので、かなり慎重に厳重にメンテナンスをやる必要はある。
それさえ守れれば、逆に動きやすくすら思う。
変化を楽しめる人間が、一番徳をする
世の中は時々パラダイム・シフトがおきる。
911以前と911以降。
リーマン以前とリーマン以降。
コロナ以前とコロナ以降。
そういう大きなイベントを堺に世界がガラッと変わる事がある。
こういう時、ゲームのルール変化をいち早く察知し、その変化に適応できた人が良い思いをする事ができる。
私達の身体だって例外ではない。若い頃と中年では身体のルールが違う。
「この世に生き残る生物は強いものではなく、知性の高いものでもなく、変化に対応できるものである」
このフレーズを聞いたことがあるだろうか?
これはダーウィンが進化論で述べたと言われるものだ(実際には述べていないらしい)
この言葉の真偽はともかく、確かにと頷けるものがある言葉ではある。
変化に気が付き、そしてそれに適応する事は全員ができる事ではない。
出来る人はごく少数だ。
「昔は良かった」と若さを懐かしむ事が悪いとはいわない。
けれど、変わってしまった変化をないがしろにする事は自分に対して礼を失してるように僕には思える。
変化は嘆くものではない。楽しむものだ。
変わらなさすぎる日常が退屈なのと同じように、加齢を逆にエンタメとして楽しめばいいのである。
変化を楽しめない人間は損だ。
時代は動くし、自分の肉体も変わる。
そういうものだし、それでいい。
楽しめるかどうかは、全て自分自身の問題なのである。
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【著者プロフィール】
都内で勤務医としてまったり生活中。
趣味はおいしいレストラン開拓とワインと読書です。
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noteで食事に関するコラム執筆と人生相談もやってます
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