つい先日の「解決法の「とっかかり」をなんとなく把握しておくことが大事だという話」を読んで、思い出したことがあるので、忘れないうちに、ここに言語化しておく。
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初めて「人類の知識の膨大さ」に触れたのは、大学の研究室で、論文を読んで発表をするという、単純なタスクを与えられたときのことだった。
それまでは、論文1つを読んで、その発表をするなんて、とんでもなく簡単なことだと思っていた。
しかし予想は甘かった。
開始15分で、途方に暮れ、「これはとんでもなく時間がかかる作業だ」と気づいた。
というのも、一つの論文の内容を正確に把握し、その研究の意義を完全に理解しようとすると、その研究の背景となる論文や、先行研究を読まねばならない。
結局、1つの論文を発表するためには、その他に5つも10も、他の論文を読む羽目になる。
予想の5倍、10倍の時間がかかる作業を延々と繰り返し、ようやく発表にこぎつけることができたときには一種の達成感があったが、同時に別のことにも気づいた。
「あらゆる学問の分野に、このような知識の連鎖がある」と。
となれば、私が生涯の全時間を知識の獲得に充てたとしても、獲得できる知識は、全体のほんの一部であり、到底すべてを知ることはできない。
一昔前、The illustrated guide to a Ph.D.(博士号を絵で説明するよ)という記事があったが、「我々が知ることができるのはごくわずか」という事実をよく表している。



これはすでに、図書館に通えばいい、というレベルではまったくない。
博士号ですら、膨大な知識体系の中のごく僅かな一部である。
その事実に、私は圧倒された。
「知識」に溺れる
その後、学校を出て、コンサルティング会社に就職した。
しかし、学生時代と状況は変わらず、私は必要な知識の習得に追われた。
おそらく、コンサルタント同期の皆もそうだったと思う。
「経営戦略」
「コミュニケーション」
「システム開発」
「会計」
「法律」
様々な、覚えなければならない膨大な知識に触れるたびに、読まねばならない本が増えた。
とてもではないが、業務時間だけでは足りない。
しかも、当時の私はそれをすべて理解しなければならないと思っていたため、カバンに常に大量の本を入れていた。
友人の結婚式に出席するときですらそれを持ち歩いていたため、友人から「安達はノイローゼ」と言われた。
もちろん、そんなことをしても知識がすぐに身につくわけではない。
消化不良をおこして、ろくに理解もできないまま時間だけが過ぎていく。
私は完全に行き詰まった。
「知のネットワーク」の存在を知る
そこで私は、社内でも博識であった一人のコンサルタントに相談した。
「どうしても新しい知識を習得するのに時間がかかる。どうやって早く本を読んでいるのか。」と。
すると彼は意外にも「新しい知識を得るのに、あまり本は使わないよ」という。
そこで、私は尋ねた。
「ではどうやって、そのように博識になったのですか?」
「簡単だよ。交換したんだよ。」
意味がわからない、という顔をしている私に、彼は言った。
「いま、仕事でマネジメントの専門知識はそれなりに深くなってきてるよね。」
「はい。」
「その知識をタネにして、お客さんや先生、士業なんかの、専門家に聞けばいいんだよ。コンサルタントはみんなそうしてる。」
「どういうことでしょう?」
「なにか一つのことを極めると、その知識に「交換する価値」がでる。それを持って、他の専門家のところに聞きに行く。お客さんにはいろいろな専門家がいるから、その人達に頼る。」
「人に聞く、ってことですか?」
「いやいや、単純に「教えて下さい」だと、迷惑な人でしょ。苦労して習得した知識は、そんな簡単に教えてくれないよ。そうじゃなくて、自分も専門家として相手に接する。「困ったときには相談して」と言えるようにね。」
そうか。
そうだったのか、と私は思った。
今までは私は「必要な知識はすべて、勉強しないとダメ」と思っていた。
しかし、そうではない。
あるしきい値を超えると、もはや知識の膨大さに、個人が追いつけるレベルではなくなるのだ
その代わりに、「他人の知識」を利用できるようにならねばならない。
言い換えれば、人間は「誰がこれについて詳しい」と知っているだけでもよくなる。
この「知のネットワーク」を利用できることが、人類が圧倒的に他の動物に比べて優れている点である。
しかし「知のネットワーク」に入るには条件がある。
それは、自分も専門家としてネットワークに登録されなければならないこと。
なにか1つでも強みがあれば「知識のネットワーク」の中に入れる。そして、それなりの扱いを受けることができる。
「タネ知識」を作る
最近流行りのNISA。
年始から投資をしていた人は、だいぶ資産が増えただろう。
しかし、投資には元手、つまりタネ銭がいる。
同じように、知識も「タネ知識」によって、アクセスできる知識が爆発的に増える。
それを元手に、「他人の持っている知識」にアクセスできるようになるからだ。
ポイントは「知識を自分で身につける必要がない」という点。
都度、検索エンジンのように、ネットワークにあたるだけでよいので、たくさん知識の交換に応じれば応じるほど、自分の扱える知恵が増殖していく。
それはお金がお金を生むようなものだ。
「こんなこと知らない?」
「●●さんが詳しいよ」
「そういえば、✕✕に困ってるんだけど」
「△△社がそんなことやってたなあ……」
「今度紹介しますよ」
「あ、では◇◇さん含めて、今度一席設けますよ」
といった具合に。
ただし前述した通り、単なる「教えてくん」はダメ。
「もらってばかりの人」は、ネットワークから徐々に排除されてしまう。
「知識のネットワーク」の中では、常に「お前は何を知ってるの?」が問われる。
そのために「交換価値の高い知識」は、常に更新をして、知識のネットワークを活用できるように準備しておかねばならない。
*
先輩のアドバイスを受けて、私はコンサルティング会社の中で、勉強会や読書会の機会を利用し、発表を積極的にするようにした。
先輩たちの「知のネットワーク」に早く入れるようになりたかったからだ。
また、機会があれば、雑誌への寄稿や本の執筆などを積極的に受けるようにした。
「知のネットワーク」への登録を維持するためには、日々の知識の更新が不可欠だからだ。
最近では「リスキリング」の名のもとに、学び直しが推奨されている。
ただし、それはあくまで「タネ知識」を育てるためのプロセスでしかなく、真の学び直しの価値は「知のネットワークへの登録」を目指すところにある。
学んだ知恵は、発信し「他の人が利用できるようにする」事ではじめて、有効に機能する。
そんなことを、先輩に教えてもらったことを思い出した。
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奥田 真輔 氏
システム開発やITコンサルティングを経て、
外資系製薬企業で15年以上のITビジネスパートナーとして人事からコマーシャル、 メディカルなど製薬企業の様々な分野のプロジェクトに携わる。
現在はネクセラファーマ株式会社で、システムだけではなく、企業風土改革や業務改善をリードし、
日本発グローバルバイオ製薬企業にむけて、同社の成長基盤の構築に尽力している。
岡田 雄太(ワークワンダース株式会社 CTO)
野村総合研究所に新卒入社後、証券総合バックオフィスシステムやオンライントレードシステムなどの開発に従事。
その後、8 Securities(現SoFi Hong Kong)へ出向し、日本人唯一のエンジニアとして国際的なプロジェクトに携わる。
BOOSTRYでは信託銀行向けSaaSの立ち上げと成長を牽引。
WiseVineではCTOとして開発組織を30名規模に拡大し、プロダクト開発を推進。
2025年4月よりワークワンダース株式会社CTOに就任。AI活用を中心とした開発支援をリードする。
【お申込み・詳細】
こちらのウェビナー申込ページをご覧ください。
(2026/01/19更新)
【著者プロフィール】
安達裕哉
生成AI活用支援のワークワンダースCEO(https://workwonders.jp)|元Deloitteのコンサルタント|オウンドメディア支援のティネクト代表(http://tinect.jp)|著書「頭のいい人が話す前に考えていること」55万部(https://amzn.to/49Tivyi)|
◯Twitter:安達裕哉
◯Facebook:安達裕哉
◯note:(生成AI時代の「ライターとマーケティング」の、実践的教科書)














