このごろのキャッシュレス

このごろいくつかキャッシュレスの話題をネットで見かけた。

飲食店などが、キャッシュレス決済の手数料の高さに困っている、という話である。おれはそういう商売に携わったことがないのでわからないが、なるほど高そうだ。

 

とはいえ、この問題で小売店に同情する声というのはあまりない。ほとんどないといってもいいかもしれない。

「だったら現金オンリーにすればいいのでは?」という声が多い。「なじみの店、応援したい店では現金払いにしたい」という声もあるが、あまり多いとは言えない。

 

むしろ、オダギリジョーのCM(オダギリジョーの店に大口のお客さんがきそうになるが、キャッシュレス決済ができないことによって機会損失する……テレビをまったく見ない人向けの解説)のように、「じゃあいいですー」ってなるよ、という人が多い。現金まったく持ち歩かないよ、という人もいる。

 

おれは、どうなのか。おれはつねに現金を持ち歩く。

昭和の発想で「年齢×千円」の四万円くらいの現金を持ち歩いている。このくらいあったら、なにかあったときの一時しのぎにはなるだろう。なにかってなんだかわからないが。

 

とはいえ、おれのこのごろの決済の99%くらい(体感)はキャッシュレスだ。明確に現金を支払っているのは、毎月の医者の窓口だけで、処方薬局でもキャッシュレスだ。

 

正直な話、おれはここまで自分がキャッシュレス決済に染まるとは思っていなかった。出始めのころは「QRコード決済なんて、だれが使うんだろう?」と思っていた。おれが使っている。

 

キャッシュレス決済が、ここまで便利なものだと、だれが予想しただろうか。いや、予想していたやつがいるから今があるのだが。

 

今は過渡期かもしれないし、まあ人類いつでも過渡期なのかもしれないが、ほぼ完全に現金時代から、キャッシュレス右肩上がりの今に至る、体感のことを記録しておきたい。おれはインターネットがない時代に育ったが、今はインターネットがあたりまえの時代になっている。ほかにもいろいろあるだろう。そのうちの一つとして。

 

現ナマに体を張れ

現金。紙幣、貨幣。昭和の子供にとって、お金といえば現ナマであった。おれの母はむかし銀行員で、一日の終りに一円足りないとなったら、みんなで残業して床を這いつくばって探した、なんて話を聞いて育った。

 

貨幣、コイン。これを書いていて思い出したが、おれは一時期、外国の紙幣やコインを集めるのが趣味だった。べつにそういう店に行くのではなく、毎月カタログが送られてきて、気に入ったものを選ぶ通販だった。おれはカネが好きだった。一番好きなのは日本円だったが。

 

だが、現金というのもいい思い出ばかりではない。実家が破綻して一家離散となってしばらく、おれも働かざるを得なくなった。ただ、おれは銀行口座というものを持っていなかったので、現金をもらっていた。

現金を、安いアパートに保管する。泥棒も避けて通るような貧しいアパートだが、それでも全財産に近い現金を置いておくというのは、ちょっと不安なものだった。かといって全額持ち歩くというも不安なことである。

 

そしておれは銀行に、口座を作った。銀行がお金を預かってくれる。これはすばらしい。「なぜ自分のお金をおろすのに手数料がかかるのか」と言う人もいるが、おれにとってはとんでもない話で、「おれのお金を守ってくれてありがとうございます。手数料くらい払います」という立場である。

 

とはいえ、ATMでお金をおろす、という行為も……ほとんどしていない。それが2024年の今だ。本当に、最後にお金をおろしたのはいつだっけ?

 

Suicaの登場まで

キャッシュレス決済。昔のことを思い出していて、Suicaよりまえのそういうものを思い出した。テレホンカードである。公衆電話でしか使えないとはいえ、あれも立派なキャッシュレスとは呼べないだろうか。テレホンカードで買い物ができるようになっていれば、クレジットカードを除いて、世界でも最先端のキャッシュレス決済社会が到来していたのか?

 

と、「一般社団法人キャッシュレス推進協議会」という、キャッシュレスを推進していそうなサイトに「キャッシュレス年表」というものがあった。

 

おお、ちゃんと1982年にテレホンカードとある。あれもキャッシュレスだったか。あ、オレンジカードなんてのもあったな。あと、イオカード。存在を忘れていた。どちらももう、過去のものだ。

まったく知らない若者もたくさんいることだろう。テレホンカードなんて、あのころ高値のついたカード(そういう側面もあったのです)は、今もマニアの間でやりとりされているのだろうか。安くなったのか、さらにレアで高くなっているのか。よくわからない。

 

で、このやっぱり大きいのは2001年のSuica登場だろうか。若い人よ、Suicaより昔、われわれがどうやって電車に乗っていたか知っているだろうか。紙の切符を買って、改札には改札鋏を持った駅員さんがいて、パチン、パチンと……って、おれの記憶でもこれはギリギリだ。ギリギリ記憶がある。そうだ、そのあとスタンプになった。スタンプになって、自動改札になった。もちろんSuicaなんて使えない。磁気の切符を、入れる。これは今も残っているか。定期券もなんかペランペランのやつになったな。

 

ま、電車の昔話ではない。お金の昔話をしたいのだ。Suicaの登場だ。

 

年表によると、Suicaの店舗利用開始は2004年だ。登場から三年くらいあったんだな。二十年前。もう、そんなに経つのか。

最初からいろんなコンビニで使えたんだっけ? こういうときはWikipediaを見てみるのに越したことはない。

Suica電子マネー – Wikipedia

 

ああ、最初はNEWDAYSだったんだ。Suica、二十年経った今でも、完璧なキャッシュレスの形態の一つだ。財布やカードケースに入れっぱなしでも、ピッとやると決済が終わっている。簡単で、速い。あ、FeliCaとか言ったほうが正確なのかもしれないが、あくまで一消費者の立場なので、Suica言います。

 

QRコード決済に感じた失望

というわけで、おれはSuicaというものが非常に便利な代物で、これはもう便利なので、便利だなあと思っていた。おれはiPhoneを早い時期から使っていたので、おサイフケータイのことはよく知らない。とにかく、Suicaいいよなって思っていた。

 

思っていたところに、QRコード決済なるものが出てくるという。最初に感じたのは、「は、アホか? レジでケータイ立ち上げてQRコード表示させて、それをバーコードで読んでもらう? え、自分で金額入力して店員さんに確認してもらうなんてパターンもあるの? なにそれ、Suicaがあるのに必要あるの?」であった。

 

無論、消費者側なので機器の導入費や手数料など、店側の事情なんてわかりゃしなかった。ただ、SuicaからQRコード決済へって、退化でしかないって感じた。Suicaから一歩遅れた中国でやってるシステムを導入するの、みたいな。

 

あらためて言うが、一消費者、利用者の考えである。店側の負担というものは、まず考えない。レジが便利になるかどうか、それだけだ。

 

意外に便利だったQR決済

しかしね、なんだろね、毎日通うコンビニのレジの決済システム変わったんよな。QRコード決済とか可能な、なんかいろいろ支払いできるようになるレジ。そこでおれは最初、クレジットカードを使うようになった。カード挿して、ピコーン、ピコーンいって決済。簡単だ。

 

と、そのまえに、おれが20年通っているスーパーの変化について語らなくてはならない。

おれの行くスーパーは野菜が安く現金決済だった。おれおれの算数能力を超えて、お釣り計算ができるようになっていた。末尾を合わせるどころではなく、もっとアクロバティックな支払いだ。おれがおれの算数力がここまで高まったのを感じたことがなかった。

 

そのスーパーが、いきなりキャッシュレスに対応した。クレジットカードとSuicaとQUICPay。クレジットカードでは暗証番号やサインが必要そうだ。Suicaはコンビニと本来の交通機関用に使っていて、毎週のスーパーに使うにはやや面倒だ。そこでQUICPay。iPhoneを使う。たまにブブーとなって、やり直しになることもあるが、だいたいすんなりいく。あの、頭の中でお釣りの計算をしていたのはなんだったのか?

 

というわけで、おれは20年通う食品スーパーでQUICPayを常に使うようになった。スーパーが負担する手数料なんてものは考えもしない。こんなに楽な決済を手放したくはない。

 

まわりを見てみると、やはりキャッスレス決済の人のほうが7:3……いや、6:4くらいで多いだろうか。そういう実感がある。おれは一つのスーパーにしか行かないので、ほかのところは知らない。

 

で、QR決済。これだ。おれは昼にコンビニを利用する。二店舗ある。一店舗はPONTAポイントを貯めたいので、クレジットカード払いをしている。VISAタッチ。Suicaと同じ便利さ。PONTAのバーコードを読み取ってもらわなきゃいけないので、いちいち財布から出す必要はあるが、大した手間ではない。

 

もう一つのコンビニ。こちらでおれが何を使っているか。最初はQUICPayを使っていたが、なんか気づいたら楽天Payを使うようになっていた。

おれは最初に作ることができたクレジットカードが楽天カードで、楽天には恩義があると思っている。楽天ポイントをうっすらと貯めるようにしている。となると、楽天Payがいい。たぶん。

 

で、これがべつにそんなに手間でもない。「Suicaに比べて遅れている!」とか思っていたのもどこへやら。iPhoneのFace IDがマスク着用対応になったのも大きかった。端末見て、アプリ立ち上げて、レジでは「バーコード決済」のボタンを押すだけ。店員さんが商品をピッ、ピッとやっているついでにピッで決済終わり。慣れてしまうとこれも楽だ。

 

少なくとも、現金払いの面倒くささを思い出すと、これはもう戻れないよな、となる。財布のなかの布陣(お札が何枚、何円硬貨が何枚……)を確認して、お釣りが膨大にならんように調整して……。超、面倒くさい。考えられない。そういうレベル。

 

キャッシュレスから後戻りできない世界へ

というわけで、子供のころからずーっと現金でものを買ってきた人間も、中年になってすっかり現金でものを買うことがなくなった。

生活のなかの行動、毎日のように行う行動に、大変化が起きた。歴史的な話だ。とはいえ、それはSuicaからひっそりはじまり、現金との併用から、気づいたらほとんどキャッシュレスだ。

 

先に書いたが、おれが現金払いをしているのは毎月通う医者の窓口だけだ。あ、理髪店も現金オンリーか。あと、街角でビッグイシュー買うときくらい。ただ、ビッグイシューは医者に行くときに出会うか出会わないかなので、二ヶ月に一度くらいだ。

 

あらためて言うに、これは人間生活のなかの大きな変化だ。まだ過渡期かもしれないが、今後よほどのことがない限り現金払いの方向へ戻っていくことはないだろう。

店舗にかかる負担というものはあるし、問題があるかもしれない。「店のために現金で払おう」という人もいていい。というかおれも三年に一度の旅行でどこか料理店に入ったりしたときは現金を使う。

 

ただ、もう、普段のコンビニやスーパーではもうグッバイだ。最後にATMを使ったのがいつか思い出せない。おれは昭和の人間なので年齢×千円くらいの現金を持ち歩いている。ただ、このあいだ女の人と東京に遊びに行ったとき、二人とも財布を忘れる、状況でちょっと緊張したりしたが、なんということはなかった。

まあ、なんかスーパーのレジがトラブルになって「今日は現金とクレジットカードだけでーす!」ってなった日とかもあったので、現金持ち歩かないでいいや、という気にはならない。iPhone落とすかもしれないし。

 

というわけで、もうキャッシュレス化は避けられない、というのが一消費者、利用者の感覚だ。たぶん、国もそうしたがっている。どうしてそうしたがっているのか、たとえば脱税対策だとかそういうものもあるだろうが、とにかくこれは便利だ。

 

人間は便利に弱い。「便利さを追い求めるばかりがよいものではない」とか言ってみるのもいいだろうが、かつて人間が手に入れた便利さを手放したことがあったろうか。

え、人間を奴隷として扱っていたやつは、そっちのほうが便利だった? ええと、じゃあ、「技術的な便利さ」にしようか。

そう考えると、やがてはさらなるキャッシュレス、生体認証のレジなし無人店舗に進むのだろうか。実験店舗ができたり撤退したりしているようだが、さて。

 

生体認証による一元管理。携帯端末もクレジットカードも、もちろん現金もいらない。免許証もパスポートもマイナンバーカードもいらない。そんな未来はくるのだろうか。

 

そこまで生きているかどうかはかなり不透明だ。ただ、技術的にはできるような気がする。

一方で、技術的でない部分で反対も大きそうだ。どこまで人間は管理されるのか? おれはといえば、そんなんなったらまっさきに便利さのために身体にチップいれるだろうけどな。あなたはどうだろうか?

 

以上。

 

 

【お知らせ】
ティネクト(Books&Apps運営会社)提供オンラインラジオ第6回目のお知らせ。


<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>

第6回 地方創生×事業再生

再生現場のリアルから見えた、“経営企画”の本質とは

【日時】 2025年7月30日(水曜日)19:00–21:00
【ご視聴方法】
ティネクト本音オンラインラジオ会員登録ページよりご登録ください。ご登録後に視聴リンクをお送りいたします。
当日はzoomによる動画視聴もしくは音声のみでも楽しめる内容となっております。

【今回のトーク概要】
  • 0. オープニング(5分)
    自己紹介とテーマ提示:「地方創生 × 事業再生」=「実行できる経営企画」
  • 1. 事業再生の現場から(20分)
    保育事業再生のリアル/行政交渉/人材難/資金繰り/制度整備の具体例
  • 2. 地方創生と事業再生(10分)
    再生支援は地方創生の基礎。経営の“仕組み”の欠如が疲弊を生む
  • 3. 一般論としての「経営企画」とは(5分)
    経営戦略・KPI設計・IRなど中小企業とのギャップを解説
  • 4. 中小企業における経営企画の翻訳(10分)
    「当たり前を実行可能な形に翻訳する」方法論
  • 5. 経営企画の三原則(5分)
    数字を見える化/仕組みで回す/翻訳して実行する
  • 6. まとめ(5分)
    経営企画は中小企業の“未来をつくる技術”

【ゲスト】
鍵政 達也(かぎまさ たつや)氏
ExePro Partner代表 経営コンサルタント
兵庫県神戸市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。3児の父。
高校三年生まで「理系」として過ごすも、自身の理系としての将来に魅力を感じなくなり、好きだった数学で受験が可能な経済学部に進学。大学生活では飲食業のアルバイトで「商売」の面白さに気付き調理師免許を取得するまでのめり込む。
卒業後、株式会社船井総合研究所にて中小企業の経営コンサルティング業務(メインクライアントは飲食業、保育サービス業など)に従事。日本全国への出張や上海子会社でのプロジェクトマネジメントなど1年で休みが数日という日々を過ごす。
株式会社日本総合研究所(三井住友FG)に転職し、スタートアップ支援、新規事業開発支援、業務改革支援、ビジネスデューデリジェンスなどの中堅~大企業向けコンサルティング業務に従事。
その後、事業承継・再生案件において保育所運営会社の代表取締役に就任し、事業再生を行う。賞与未払いの倒産寸前の状況から4年で売上2倍・黒字化を達成。
現在は、再建企業の取締役として経営企画業務を担当する傍ら、経営コンサルタント×経営者の経験を活かして、経営の「見える化」と「やるべきごとの言語化」と実行の伴走支援を行うコンサルタントとして活動している。

【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
ご視聴登録は こちらのリンク からお願いします。

(2025/7/14更新)

 

 

 

【著者プロフィール】

著者名:黄金頭

横浜市中区在住、そして勤務の低賃金DTP労働者。『関内関外日記』というブログをいくらか長く書いている。

趣味は競馬、好きな球団はカープ。名前の由来はすばらしいサラブレッドから。

双極性障害II型。

ブログ:関内関外日記

Twitter:黄金頭

Photo by :Jonas Leupe