新人コンサルタント時代に、とあるサービス企業A社に常駐していたときの話。

 

A社は全国に拠点を展開していて、高額で複雑なプロダクトを売っていました。

顧客からの問い合わせも多岐にわたり、A社のメンバーは「大量で複雑な問い合わせを、ミスなく処理すること」が求められていました。

 

そんな中でも、A社の方々の対応は、いつもフレンドリーできめ細やか。

傍から見ていた私も「ああ、A社は、複雑なオペレーションの中でも真心を忘れない、素敵な会社だなあ」と感心していました。

 

「主体的で創意工夫した人を評価する制度」に変えた瞬間、歯車が狂った

そんなある日、A社の経営者から、こんな号令が。

「世の中の変化はどんどん目まぐるしくなっています」

「このような環境変化に対応するためにも、みなさんにはもっと現場で”創意工夫”をしていってほしい」

「変えるべきものは、自分たちの判断でどんどん改善していって大丈夫です」

「これからは、そんな主体的な社員を評価する制度に変えていきます」

 

パッと聞いた感じ、別に何の違和感もないメッセージです。

しかし、この号令がかかった後、A社はどうなっていったかというと…

 

・現場ごとに個別カスタマイズが進み、人や拠点によってサービスの水準がバラバラに

・その結果、顧客からは「Xさんは~してくれたのに、Yさんはしてくれないんですか」といったクレームが多発する

・気づけば、クレームに疲弊した現場がギスギスした雰囲気に

 

なぜ、こんなことが起きたのか。

当時新人だった私には、何が起きているのかハッキリとはわかりませんでした。

 

とはいえ、私が担当するプロジェクト領域は、その現場とは関係ないテーマだったので、特に力になることもできず。

そんな消化不良感を久々に思い出していたとき、ある方程式に出会いました。

 

1冊目:会社の強さを決める「方程式」がある

会社の強さ=理念×強み×仕組み

この方程式を授けてくれた本が、『人間心理を徹底的に考え抜いた「強い会社」に変わる仕組み』です。

 

読んでみると、第1章の頭から、非常に大切な示唆が記されていました。

時代の変化に適応できる「強い会社」になるには、人が自ら動く「環境」と「仕組み」をつくらなければならない。その参考として、ビジネス誌や書籍をはじめ、さまざまな企業の成功事例が紹介されている。
(中略)
だが、自社の「ビジネスモデル」や、自社の強みである「コア・コンピタンス」を理解し、十分に検討したうえで、その成功事例である組織戦略の「仕組み」や「制度」それにともなう「施策」を取り入れないと、成功どころか、逆に失敗してしまうケースすらあるのだ。
出典:『人間心理を徹底的に考え抜いた「強い会社」に変わる仕組み』p20

たしかに、書籍やニュースに感化された人が、

「『NO RULES(ノー・ルールズ)』を読んだから、Netflixみたいにルールは最小限にしていこう」とか

「トヨタの会議は30分以内に終わるらしい。だから、ミーティングは絶対に30分以内で、クイックに決め切るようにしよう」とか

「Amazonは徹底的にオペレーションを標準化しているようだ。ウチも導入しよう」とか

他企業の仕組みを、ただただ表面的に真似した結果、冒頭に述べたような失敗を招いてしまう。組織の強みを無視した仕組みは、機能しないわけです。

 

この失敗メカニズムを、「会社の強さ=理念×強み×仕組み」というシンプルな方程式で解き明かしてる本書の視点の鋭さには、「やられた。そういうことか」と驚かされました。

とはいえ、これだけ読んでも「じゃあ、いったいどうやって、理念×強み×仕組みで考えればいいんだ?3つの変数を同時に考えるなんて、難易度S級じゃないか?」と思ってしまいますよね。

 

安心してください。

本書では、

  • 組織診断7つの視点
  • 強い会社に変わるための「思考のフレーム」
  • 具体的な制度例

…などなど、リクルート、ユニクロ、ソフトバンクの最前線で筆者が得てきた実践知が、惜しげもなく記されています。

経営層の方々には、文句なしでオススメの一冊です。

 

ただ、私が本当にこの本をオススメしたいのは、現場の方々でもあります。

というのも、この本を読めば、

「自分の会社はイケてるのか?」

「もしイケてないのであれば、どう会社を変えていけばよいのか?」

「あるいは、爆発する前にとっとと脱出すべきか?」

…と、自分のキャリアを早いうちに方向転換できるんですね。

方向展開できるうちに、ぜひ手に取ってみていただきたい一冊です。

 

2冊目:「強み×仕組み」の考え方を個人に当てはめると、効果抜群だった

先ほど紹介した方程式「会社の強さ=理念×強み×仕組み」。

これを知ったとき、ある先輩からの教えを思い出しました。

 

「よくさ、いろんな偉い人が”これを習慣化するといいよ”って勧めてくるよね」

「例えば、”毎晩寝る前に10分でもいいから読書しろ”とか、”月1回は異業種の人と話すといいよ”とか」

「でもさ、人から勧められた習慣とかやり方は、上手くいかないことも多い。あれ、なんでだと思う?」

「それはね、自分の強みと習慣が噛み合っていないからだよ。実はとっておきの方法論があるんだけどさ…」

 

その方法論は「強みの生態系づくり」というものでした。

彼はその方法論を『ストレングスファインダー』を使いながら教えてくれました。

さあ、才能(じぶん)に目覚めよう 新版 ストレングス・ファインダー2.0

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  • トム・ラス,古屋博子
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「本山さんは、ストレングスファインダーやったことある?」

「はい、ありますよ。たしか診断して出てきた強みは、①達成欲、②戦略性、③親密性、④分析思考、⑤学習欲でした」

 

「なるほどね。じゃあまず、普段の情報収集とかインプットのときに、何か取り組んでいることはある?」

「はい、ついこの前、本で読んだことをブログでアップし始めたんですよ」

 

「そっか、その取り組みには、どんな強みを使ってる?」

「たぶん、本を読むときは”学習欲”を使ってます。ブログは…”達成欲”で続けている感じですかね」

 

「いいね。じゃあその習慣はきっと今後も続くと思うよ。他にやっていることは?」

「”初対面の人ともっと話せ”と言われたので、隔週で〇〇社の読書会に参加し始めました」

 

「そうなんだ。その活動、続けれそう?」

「今はちょっとしんどいですね…徐々に慣れてくるかもしれませんけど」

 

「本山さん、たぶんそれを習慣化するの大変だと思うよ。だって、どの強みも使ってなさそうだから」

「なるほど。強みを活かせない仕組みは、上手く回らないんですね」

 

「そういうこと。こんな感じで、強みを活かせる仕組みを考えてみよう」

 

…そうやって先輩は、私の話を引き出しながら、次の図のようにホワイトボードを書き進めていきました。

気づけば、強みを使った仕組みたちが、1つの生態系みたいにまとまっていました。

ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、『ストレングスファインダー』という本では34個の強みが解説されています。

そして、付録の設問に答えていくと、32個の強みのうち「自分の上位5つ」を知ることができるんですね。

 

本を読んで、自分の上位5つの強みを知って満足。

それで終わらせるのもいいかもしれません。

 

しかし先輩は、そのさらに一歩先まで踏み込んで、「強み同士がどう関係し合っているか=強みの生態系」を明らかにする技を持っていました。

そして、強みの生態系と照らしながら、どの仕組みは自分に合っていて、どれは合っていないかをクイックに特定していきました。

 

あれから2年。

今も、本を読んでブログを書く仕組みを楽しく回しています。

何でも三日坊主で終わってしまう私からすると、信じられないことです。

 

どんなに優れた仕組みや習慣も、強みにマッチしていなければ、ムダになってしまう。

組織も個人も一緒で、強みと仕組みは「掛け算」で考える必要がある。

そんな大切なことを、2冊の本に教えてもらいました。

 

 

【お知らせ】
ティネクト(Books&Apps運営会社)提供オンラインラジオ第6回目のお知らせ。


<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>

第6回 地方創生×事業再生

再生現場のリアルから見えた、“経営企画”の本質とは

【日時】 2025年7月30日(水曜日)19:00–21:00
【ご視聴方法】
ティネクト本音オンラインラジオ会員登録ページよりご登録ください。ご登録後に視聴リンクをお送りいたします。
当日はzoomによる動画視聴もしくは音声のみでも楽しめる内容となっております。

【今回のトーク概要】
  • 0. オープニング(5分)
    自己紹介とテーマ提示:「地方創生 × 事業再生」=「実行できる経営企画」
  • 1. 事業再生の現場から(20分)
    保育事業再生のリアル/行政交渉/人材難/資金繰り/制度整備の具体例
  • 2. 地方創生と事業再生(10分)
    再生支援は地方創生の基礎。経営の“仕組み”の欠如が疲弊を生む
  • 3. 一般論としての「経営企画」とは(5分)
    経営戦略・KPI設計・IRなど中小企業とのギャップを解説
  • 4. 中小企業における経営企画の翻訳(10分)
    「当たり前を実行可能な形に翻訳する」方法論
  • 5. 経営企画の三原則(5分)
    数字を見える化/仕組みで回す/翻訳して実行する
  • 6. まとめ(5分)
    経営企画は中小企業の“未来をつくる技術”

【ゲスト】
鍵政 達也(かぎまさ たつや)氏
ExePro Partner代表 経営コンサルタント
兵庫県神戸市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。3児の父。
高校三年生まで「理系」として過ごすも、自身の理系としての将来に魅力を感じなくなり、好きだった数学で受験が可能な経済学部に進学。大学生活では飲食業のアルバイトで「商売」の面白さに気付き調理師免許を取得するまでのめり込む。
卒業後、株式会社船井総合研究所にて中小企業の経営コンサルティング業務(メインクライアントは飲食業、保育サービス業など)に従事。日本全国への出張や上海子会社でのプロジェクトマネジメントなど1年で休みが数日という日々を過ごす。
株式会社日本総合研究所(三井住友FG)に転職し、スタートアップ支援、新規事業開発支援、業務改革支援、ビジネスデューデリジェンスなどの中堅~大企業向けコンサルティング業務に従事。
その後、事業承継・再生案件において保育所運営会社の代表取締役に就任し、事業再生を行う。賞与未払いの倒産寸前の状況から4年で売上2倍・黒字化を達成。
現在は、再建企業の取締役として経営企画業務を担当する傍ら、経営コンサルタント×経営者の経験を活かして、経営の「見える化」と「やるべきごとの言語化」と実行の伴走支援を行うコンサルタントとして活動している。

【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
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(2025/7/14更新)

 

 

 

【プロフィール】

本山 裕輔

PwCコンサルティングを経て、現在はグロービス経営大学院でDX(デジタル・トランスフォーメーション)を推進中。

趣味で書評ブログ「BIZPERA(ビズペラ)」を運営。

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ブログ:BIZPERA-ビジネス書評はペライチで-

Twitter:@logichan01

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