「学歴フィルター」という言葉を聞くと、どんなイメージを思い浮かべるだろうか。

わたしは、満席の企業説明会でもプロフィールを「東京大学」にすると予約できる……という仕様を目の当たりにしたときのことを思い出す。

 

「『学歴』で人を選ぶのは悪いこと、個人を見るべき」

「我が社は学歴で判断しません!」

という声がある一方で、『学歴』が人生に大きな影響を及ぼす現実は、確固として存在している。

 

さて、『学歴フィルター』は本当に悪なんだろうか?

そもそも、なぜ『学歴フィルター』は募集要項に堂々と記されないのか?

そのあたりを、ドイツで就活した経験から考えていきたい。

 

『学歴フィルター』は悪印象なので、『スキルフィルター』と呼ぶほうがいい?

この記事を書くきっかけになったのは、『「学歴フィルター」を嫌悪する日本人の超危険』という記事を読んだからだ。

内容をまとめると、以下のとおり。

 

1.取材した7社のうち6社が、「公式には学歴フィルターを実施していない」としながらも、選考過程で「学歴を参考にしている」と答えた

2.採用担当者は、学生やメディアが『学歴フィルター』について騒いでいることに困惑、憤っている

3.企業は採用のグローバル化を進めているが、学歴フィルターが(ネガティブな意味で)クローズアップされる日本の事情に苦慮

4.世界から優秀な人材を集めるために、今後は日本の企業も、学歴フィルターの存在と中身を公開することになるだろう

 

そして記事の最後に、こんな提案がある。

ここで厄介なのが、日本では企業が「学歴を見る」と口にした途端、学生だけでなく一般国民・メディアから「差別をする会社だ」と袋叩きに遭うことです。そうならないためには、「学歴フィルター」という用語を止めて「スキルフィルター」とするなど、工夫が必要かもしれません

出典:https://toyokeizai.net/articles/-/423129?page=3

わたしは、「『学歴フィルター』はイメージが悪いから『スキルフィルター』という言葉を使ってはどうか」というこの主張に、強い違和感を覚えた。

だって、『学校歴』を意味する『学歴フィルター』と、『専門歴』を意味する『スキルフィルター』では、まったく意味がちがうから。

 

こっそり『学校歴』で判断するのはそれなりの理由がある

『学歴』には、ふたつの側面がある。

出身の学校名や偏差値を判断基準にする『学校歴』と、学校でなにを学んだかを判断基準にする『専門歴』だ。

 

日本で言われる『学歴』は主に、「いい大学を出ると得をする」という『学校歴』である。

「東大生は説明会を予約できるのに自分はできない」なんて事例が、その最たる例だ。

 

この『学校歴フィルター』は『学歴主義』とも呼ばれ、日本ではすこぶる評判が悪い。

 

その理由としては、

・いい大学を出ているからといって、仕事ができるわけではない

・受験は家庭の経済力の影響が大きいから不公平

・偏差値主義は詰め込み教育の悪しき伝統

などが挙げられるだろう。

 

では、このような批判があるにもかかわらず、なぜ『学校歴フィルター』が存在しているのか。そのうえで、なぜ企業はそれをオープンにしないのか。

答えはかんたんで、「『学校歴フィルター』は便利」だけど、オープンにすると「面倒くさいから」だ。

 

企業側は、限られた時間、人数で、多くの応募者を選別しなければならない。

募集は、専門知識を求めない「総合職」や「営業職」。エントリーシートはどれもテンプレの内容。

 

じゃあどこで応募者を差別化するの? 『学校歴』でしょう!

……とまぁ、こうなるのもうなずける。

 

とはいえ、

「なんで早慶上智はよくてMARCHがダメなのか」

「貧困家庭だけどまじめに勉強して成績オールSなので、Fランでも努力を評価してください」

と言われても、正直困る。

 

採用基準をすべて説明する義務はないし、あくまで選考基準のひとつ。

だから秘密にしておこう。と、こうなるわけだ。

こっそりと『学校歴』でフィルタリングするのは、「正しい」かは別として、「合理的判断」だとはいえるだろう。

 

『専門歴フィルター』は精度が高いマッチングのために必要

一方で、学校でなにを学んだかを指標にする『専門歴フィルター』はどうだろう。

多くの国では、『専門歴』という意味での『学歴フィルター』が存在している。

わたしが就活したドイツもそうだ。

 

「経理募集。経済学、もしくは数学系の学位を取得しており、優秀な成績を修めていること。専門が会計学、数理ファイナンスの人はとくに歓迎」

「旅行代理店の窓口担当者募集。ツーリズム系を学んでいる人。同等の資格でも可」

など、募集では必ずといっていいほど『専門歴』が指定される。

 

企業は「こういう人がほしい」と条件をつけ、求職者は「この知識や経験を活かしたい」と申し込む。

『専門歴フィルター』は企業側と求職側のマッチングに役立つから、『学校歴』とはちがって、オープンにするのが前提だ。

 

ではこの『専門歴フィルター』は、『学校歴フィルター』のように批判されないのだろうか。

結論からいうと、批判されることはほとんどない。

なぜなら、『専門歴フィルター』があたりまえの国では、このような前提があるからだ。

 

・学生であっても、インターンや資格、学位取得などで即戦力になるスキルを身につけておく(社内教育は最低限)

・欠員募集が基本で、求職者は自分のスキルを高く売れる職場を探す(「総合職」のような募集はない)

・就職後も、継続的にスキルアップする環境が社外にある(仕事をしながら大学に通う、などが容易)

・企業は求職者のスキルに応じて、相応の待遇を用意する(初任給という考えはなく、交渉で給料が決まる)

 

こういった仕組みがあるからこそ、企業は堂々と

「この大学でこれを勉強して、これくらいの成績を修めた人だけ来てください。相応の仕事内容と待遇を用意しますよ」

と言える。

 

一方求職者は、「自分はこれができるので、高い値で買ってください」と交渉できる。

売るスキルがなければどこかで習得して来い、というだけの話だ。

 

『専門歴』は企業と求職者双方にとって最重要交渉材料だから、重視されて当たり前。批判なんかされない。

そもそも、日本でも中途採用や専門職では、『専門歴』が求められることが多いしね。

 

『学校歴』も『専門歴』も、まとめて『学歴』と呼ぶからややこしくなる

このように、『学校歴フィルター』と『専門歴フィルター』は、『学歴』というひとつの言葉でくくられがちだが、まったくちがう性質をもっている。

 

それを踏まえると、冒頭で紹介した記事の、

「『学歴フィルター』はイメージが悪いから『スキルフィルター』という言葉を使ってはどうか」

という主張に違和感を覚えるのも、ご理解いただけると思う。

 

『学校歴』という意味の『学歴フィルター』であれば、『スキルフィルター』とはまったくちがうので、言葉の代替性がない。

『専門歴』という意味の『学歴フィルター』であれば、イメージが悪くないので、言葉を変える必要はない。

だから、いずれの意味にせよ、「ちょっとちがうんじゃないかなー?」と首をかしげたのだ。

 

最近はこのように、「『どの学校を出たのか』ではなく、『なにを学んだか』を重視すべき」という主張をよく見かける。

多くの国が『専門歴』を重視することに倣って、「グローバル化にともない日本もスキル重視にしよう」というのだ。

言いたいことはわかるけど、『専門歴フィルター』にも当然、良い面と悪い面がある。

 

企業は、「とりあえず良さそうな人を採用して育てる」戦法が取れないから、ターゲットを絞って募集するしかない。

そのうえ、高スキルを求めるなら相応の待遇を用意しないと、「給料低すぎワロタ。他の企業行くねバイバーイ」と相手にしてもらえない。

 

求職するほうは就職前に即戦力になっておかないといけないから、1ヶ月タダ働きインターンも当たり前。

「売れる」スキルを身につけられなかったら、自分を叩き売りするしかない。

『専門歴』重視は合理的だけど、それはそれで大変なのだ。

 

現状の日本システムと『専門歴フィルター』は相性が悪い

この『専門歴フィルター』のデメリットに対し、『専門歴』を重視する国々は、この2つの前提条件を満たすことでその仕組みを成り立たせている。

・企業は(仕事内容がすでに決まっている)欠員採用メインで、スキルに見合う待遇を個別に用意する

・求職者は、スキルを身につける手段が豊富なので、その気になれば(社外で)スキルアップできる

 

一方日本は、仕事内容が未定の一括採用がメインで、待遇も「初任給」のようにある程度固定。

求職者は社内でスキルを磨くのが前提のため、社外でスキルアップする方法は限られている(とくに、社会人になってからの学位取得はむずかしい)。

 

現行の日本のシステムと『専門歴フィルター』は、根本的に相性が悪いのだ。

それなのに、日本で『専門歴』を求めても……ねぇ?

 

採用のグローバル化を掲げ、『専門』を重視するのは結構。

でもそれなら、日本の求職者(とくに新卒の学生)たちにも、ほかの国と同様に専門知識や経験を身につけるチャンスを用意し、企業はそのスキルに応じて個別に待遇を用意しないと、仕組みとして成り立たないよね、という話だ。

 

 

【お知らせ】
月間150万PVのBooks&Appsを運営するティネクト株式会社より

コンテンツマーケティング のはじめかた 虎の巻「最初の1コンテンツ」ができるまでの 7STEPs
プレゼント。

確実に成果が上がるコンテンツマーケティングのはじめかたをわかりやすくレクチャーします。
このマニュアルを読むことで、素人のあなたでも 「最初の1コンテンツ」を自分で作ることができるでしょう。

資料ダウンロードページはこちら↓
https://tinect.jp/top/7stepspr/
メールアドレス宛てに資料が自動送信されます。

 

 

 

【著者プロフィール】

名前:雨宮紫苑

91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&写真撮影もやってます。

ハロプロとアニメが好きだけど、オタクっぽい呟きをするとフォロワーが減るのが最近の悩みです。

著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)

ブログ:『雨宮の迷走ニュース』

Twitter:amamiya9901

Photo by Giammarco on Unsplash