今年に入って、なかなかアタリの本と出会えずに苦しんでいたのですが、
最近やっと、「これは圧倒されたぞ」と思える本と出会えました。
その名も『変える技術、考える技術』。
まず、何といっても、実績がぶっ飛んでいます。
発売後わずか1ヶ月で、Amazonで250以上のレビューを獲得。
もちろん、本の売り方やマーケティングも上手かったのかもしれませんが、
それだけでは、これほど高い評価は獲得できないはず。
また、本の中身も1ページ目からユーモアにあふれています。
最初の章で「イライラしたときは、”イ”を”ム”に変えてみよう。ムラムラしてくるだろ?」と紹介されていますが、これを試すだけでアンガーマネジメントの7割くらいは習得できそうです。
何となく、只者ならぬ雰囲気を感じるこの本。
いったいなぜこんなに注目されているのでしょうか?
それは、枝葉のハウツーではなく、本質的な「コツ」が語られていたからです。
では、本書に書かれていた「コツ」とはいったい何だったのか?
…と本題に入る前に、まずは「コツ」の意味を補足しておきます。
『もっと早く、もっと楽しく、仕事の成果をあげる法』を読んでみると、「跳び箱」を例に、次のように説明されていました。
ふつうの先生だと、たとえば「助走スピードが足りないから飛べないんだ。もっと遠く勢いをつけて走ってこい」とか「踏み切る位置はここだ、ここ!」などと、必要なポイントを一つひとつ挙げて教えるだろう。そして、その子ができないポイントを飛ぶごとに指摘しながら、ともかく何度か繰り返しやらせて飛べるようになるのを待つのが常だ。
『もっと早く、もっと楽しく、仕事の成果をあげる法』22ページ
助走スピードや踏切の位置についての指摘。
一見すると、特に何の問題もないように思えるアドバイスですが、
実はこれらは「コツ」とは呼べません。
やはり、跳び箱をうまく飛べるようになるのにも、それなりのコツがあった。
答えは、まず両腕で体重を支える感覚を覚えさせる、これに尽きるというのだ。
だから、何度も何度も実際に跳び箱を飛ばせる必要はない。一回やらせてみて飛べなかった子には、たとえば床の上で体重を支える感覚を教える。具体的には、床に座らせ、両脚のあいだに両手をつかせて、両腕で身体をちょっと浮かせてみろ、といえばいい。
『もっと早く、もっと楽しく、仕事の成果をあげる法』23ページ
「両腕で体重を支える感覚を覚える」という、たった1つのアドバイスで、誰でもあっという間に跳び箱が飛べるようになるそうです。
そういった「ここさえ押さえておけば、30点が70点に上がるようなポイント」こそが、コツの正体です。
しかし、実際に「コツ」を書いてくれている本は、そんなに多くはありません。
例えば、「○○大全」とか「○○が上達する100の技術」みたいな本がありますよね。
これはこれで、辞書的な安心感があって、意義のある本だと思います。
しかし一方で、「実用的な良書か?」と問われると、100%自信をもってYesとは言えません。
例えば、新卒社員だったとして、マナーや仕事における心構えを学びたいときに、
「マナー100選」「メールの書き方・送り方100のルール」「新卒に捧げる100の心構え」みたいな本を渡されたら、どう思うでしょうか。
ゆとりの私は、この時点で心が折れそうになります。
飲み会のページ1つ開いても
・乾杯のときはグラスを低くしましょう
・先輩方が食べ始めてから、食事に手を付けましょう
・新人は下座に座りましょう。ちなみに、下座や上座は普通の居酒屋だとここで、中華料理だとここです
・先輩方のグラスが空になったら、お酌をしましょう
・料理にレモンをかけるときは、手を添えましょう
・お店を出るときは、必ず最後に忘れ物がないかを見て回りましょう…その前に、お客様のためにタクシーを手配しておきましょう
…etc
こんな感じで、多い本だと10個も20個もルールが書かれているわけですから、正直やってられません。
飲み会でのお作法が覚えられなかった(いや、覚えてもうまく実践できなかった)私は、クライアントとの飲み会で、よく上司に怒られていました。
「なんでそんなこともできないんだ?」ってやつです。
そうやって途方に暮れていたとき、ある先輩と話す機会がありました。
私:「飲み会の立ち振る舞いについて、覚えることが多いですし、一度に全部意識できないので上手くいきません。どうすれば、この無能状態を打破できますか?」
先輩:「じゃあ、とりあえず、空いたグラスがあればお酒を注ぐこと。この1点だけ意識してみたら?」
私:「え、それだけでいいんですか?」
先輩:「だって、あれこれ覚えたところで、どうせ実践できないでしょ。1つでいいから、まず成功体験を作っちゃおうぜ」
そこで再度クライアントとの飲み会に挑んだ私は、言われるがまま、とにかく空いたグラスにお酒を注いで回りました。
空いたグラスが無いかをじっと観察し、見つけたら急いで注ぐ…この行為だけに全集中。
すると、少しずつクライアントからの「ありがとう」の声が聞こえるようになり、その流れで談笑もして、ちょっとずつ肩の力が抜けていきました。
そうやって慣れてくると、グラスを凝視しなくても、何となくお酒を注ぐタイミングがわかるようになりました。
ちょっぴり余裕が出てきた私は、「次は、どんなことを意識すれば、クライアントに喜ばれるだろうか?」と考えるようになり、「料理は何を頼みましょうか?」みたいなプラスαの動きもできるように。
そして店を出るときは「あ、忘れ物があると大変だ…クライアントに最後まで楽しんでもらうためにも、最後まで気配りしなきゃ」と、自然と動けていました。
これらは、鉄棒の逆上がりを何度も練習している中で、「あ、何か掴めたかも…」と思えた感覚と似ています。
逆上がりのコツを一度掴めると、他の技も自然とできるようになっていく。まさに、こんな感覚を、飲み会の場で得ることができました。
おそらく、普通の人からすると「何を大袈裟な」「飲み会のマナーなんて当たり前だろ」と思われるかもしれません。
ですが、「ザ・気が利かない人」で名の知れていた私にとっては、大きく飛躍を遂げた瞬間だったのです。
ではなぜ、マナー集を読んでもダメだったのに、先輩のたった1つのアドバイスで上手くいったのか?
その答えが、今回ご紹介する『変える技術、考える技術』に記されていました。
本書の主役である「愛と想像力」というスウィッチを、「飲み会での一幕」で説明してしまおう。
飲み会で「あー、君、気が利くね」という場面があるだろう?合コン、会社の忘年会でもよく聞く言葉だ。
その「気が利く」とされている行動の1つに、「空になったグラスにお酒を注ぐ」というものがある。
このワンシーンから「愛と想像力」の本質を、解き明かしていく。
「あー、君、気が利くね」を因数分解すると、次のように表すことができる。【あ、あの人のグラス空きそう】×【じゃー、注ごう】
この因数分解を「愛と想像力」というスウィッチに当てはめると、【あ、あの人のグラス空きそう=想像力】×【じゃー、注ごう=愛】
になるわけだ。
『変える技術、考える技術』97ページ
どうやら「空いたグラスに酒を注ぐ」というアクションは、「愛と想像力」を学ぶには打ってつけの方法だったようです。
空いたグラスに酒を注いで成功体験を得ることができると、何となく「愛と想像力を働かせる、コツ」を掴めた気になります。
そして、一度コツを掴めると、飲み込みが一気に早くなります。
「愛と想像力」を応用できるようになるからです。
・【みんな酔っぱらっているだろうから、忘れ物が発生しやすそう=想像力】×【じゃー、店出る前に机と椅子をチェックしよう=愛】
・【店を出るときにタクシーを路上で捕まえられないかもしれない=想像力】×「じゃー、先にタクシーを配車しておこう=愛】
・【この飲み会のメンバーの半分くらいは一次会じゃ物足りなさそうだ=想像力】×【じゃー、二次会のお店候補の電話番号を5つくらいメモしておこう=愛】
こんな感じで、「愛と想像力」という根っこのコツが掴めると、マナーを何十個も覚えなくても、30点の振る舞いを70点くらいには底上げできます。
…と、ここまで飲み会の例ばかりを紹介してきましたが、
・理不尽な体験との向き合い方
・気の利いたメールの送り方
・フレームワークの正しい使い方
・筋の良い論点の組み立て方
・こういった、一見小難しそうなテーマについても、枝葉のハウツーは一切書かれておらず。
本質的な「コツ」だけが、ユーモアあふれる表現で語られています。
そして、この本を読んだコツを使ってみると、鉄棒の逆上がりと同じように「あ、何か掴めたかも…」という不思議な感動体験を味わえるはずです。
この感動体験が、発売からたった1ヶ月でAmazon250レビューという反響を呼んだのでしょう。
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【プロフィール】
本山 裕輔
PwCコンサルティングを経て、現在はグロービス経営大学院でDX(デジタル・トランスフォーメーション)を推進中。
趣味で書評ブログ「BIZPERA(ビズペラ)」を運営。
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