ビジネス書を、知人が薦めていたので、読んでみた。

著者は経営共創基盤の木村尚敬氏。

「修羅場」とか「ケース」とか、少し思い出したことがあったので、書いてみたい。

 

 

コンサルティング会社に在籍していた時は、修羅場ではないが、確かに「きわどい」ケーススタディをよくやった。

例えばこんな具合だ。

 

 

〇都内の印刷業の経営者が、あなたに何気なく

「ウチの役員のYさん、次の社長候補なんだけど、どう思う?」

と聞いてきた。

なお、あなたのYさん評価は、「経営者のお気に入りで口は達者だが、経営者としては力不足」だ。

どう回答するか?

 

〇青森の建設業。あなたはその経営者と個人的に親しい。

ただ、最近耳にした噂で、経営者がどうも談合に関与しているらしいことがわかった。

ただし、今のところ証拠はない。

あなたは上司にそれを報告するか?

 

 

もちろん、上だけでは足りない情報がたくさんある。

「これだけでは何とも……」と言ってしまいそうになる。

 

だが、コンサルタントは「その情報だけではわかりません」とは言ってはいけないことになっていた。

ここは学校じゃない、と。

足りなければ仮定せよ、質問せよ、と。

 

現場ですべての情報が入手できるわけではない。

自分で想像を巡らせて、状況を仮定して自ら補完し、回答をだす。

それも、コンサルタントに必要なスキルだとみなされていた。

 

そうして、一通りディスカッションが終わったら、実際にこのプロジェクトにかかわった人から、実際に現場で起きた「解答」の発表がある。

 

私の回答ではトラブルを大きくしそうだな、と言う時もあり、現場の知恵とは、本当にすごいものだ、と私はいつも感心していた。

 

仕事はきれいごとだけでは済まない

ケースは、ほとんどがきれいごとだけでは済まないシーンをクローズアップしたものだった。

大きな金や地位、名誉、責任、そして犯罪など。

しかもこれらは、現実に起きたことだ。

 

例えば、上の最初のケースで挙げた

「社長候補についてどう思う?」

と言う質問。

これは、シンプルな質問だが、回答はとてもシビアだ。

 

社長との付き合いを今後も続ける場合、「良いと思います」というウソは危険だ。

目が曇っている、とみなされかねない。

 

だが逆に、「力量不足だと思います」と素直に述べた場合も問題がある。

例えば、社長が「コンサルが、Yは力不足だと言っていた」と口を滑らせた場合、今後の活動に支障をきたす。

 

事情はどうあれ、Yさんはウチを間違いなく嫌うだろう。

また、結果的にYさんが降ろされた場合、「コンサルがYさんを更迭せよと言った」などと、濡れ衣を着せられかねない

 

だから、この場合に正解なのは、「人事には口を出すな。話を聞くだけにとどめよ」と私は教わった。

 

「社長候補をどのような考え方で選んでいるのか知りたく……」とか、

「初めて伺いました。なぜYさんなのですか?」とか。

 

こういったスキルは、「論理的思考」や「プレゼンテーション」といった、「表のスキル」は異なる。

これは、人の悪意を回避するための、裏スキルだ。

 

だから利害渦巻く、コンサルティングの現場では、必須のスキルだった。

 

こういったスキルは昔からその重要性が強調されている。

例えば、マキアヴェリの「君主論」だ。

人が現実に生きているのと、人間いかに生きるべきかというのとは、はなはだかけ離れている。

だから、人間いかに生きるべきかを見て、現に人が生きている現実の姿を見逃す人間は、自立するどころか、破滅を思い知らされるのが落ちである。

なぜなら、なにごとにつけても、善い行いをすると広言する人間は、よからぬ多数の人々のなかにあって、破滅せざるをえない。

 

したがって、自分の身を守ろうとする君主は、よくない人間にもなれることを、習い覚える必要がある。そして、この態度を、必要に応じて使ったり、使わなかったりしなくてはならない。(太線は筆者)

人の悪意や嫉妬などの「暗い欲望」を無視して、マネジメントはできないというのは、今昔変わらず、上に立つ人物の偽らざる本音だろう。

 

自分を大きく見せようとする人間をあつかうのは、簡単だよ。

なお、コンサルティングの現場には、口が達者で、自分を大きく見せるため、あれこれ噂を流したり、特定の人にウソを吹き込んだりする人たちがいた。

彼らは往々にして、現状が維持されることを強く望むので、プロジェクトの邪魔をしてくるのだ。

 

だが、そういう人にこそ、このスキルは生きる。

一人の先輩はこういった。

「自分を大きく見せようとする人間は、逆に扱いが簡単なんだよ。」と。

 

先輩はこう言った。

「プライドが高いから、彼らを絶対に無視しないこと。」

「どうすれば?」

「悪い話は、絶対にその上司から言わせること。ウチは人物評価は仕事じゃない。もう一つ、彼とは会話を頻繁にしなさい。こちらから話しかけてあげるだけで、彼は満足するから。それはプロジェクトの運営コストに含めていい。あと……」

「あと?」

「絶対に人の悪口を陰で言わない事。そうしたら君も同じ穴の狢だ。それは彼に伝わると思ったほうがいい。」

 

私はこうして、会社で「悪意を回避する方法」を少しずつ知っていった。

そして何より「組織で働く」というのは、そういう人たちとも付き合っていかなければならない、と言うことを強く実感したのだった。

 

冒頭の本を読んで、そんなことを思い出した。

 

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【著者プロフィール】

安達裕哉

元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。

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