「もっとリーダーシップを発揮して欲しい」
「君のリーダーシップに期待している」
立場や役割を問わず、日常的に求められるリーダーシップ。
リーダーシップを発揮したいのは山々だけど、それが何を意味するのかわからない、自分が何を求められているのかわからない、ということはありませんか。
そんなリーダーシップの概念を捉える拠りどころとなるのが、リーダーシップ理論です。
本記事では、リーダーシップ理論の変遷と概要をご紹介しながら、リーダーシップとは何かの理解を深めます。
いつの時代も求められてきた「リーダーシップ」
「リーダーシップ」という言葉に、皆さんはどのような印象を持たれるでしょうか。
・組織や人を導くための能力
・リーダーが発揮する”なにか”
・自分自身の生き方そのもの
・自分とは関係ないような、でもこの先に必要そうなもの
・影響力がありカッコいい
これらの印象はおそらく、これまで皆さんが触れてきた、あるいは発揮されてきたリーダーシップに由来するものかと思われます。
リーダーシップは、明確に形として見えるものではなく、また「あなたは〇点です」と定量化できるものでもありません。
そのため、概念を定義し実体をつかむことは簡単ではありません。
それでも、いつの時代のどのような組織にもリーダーと呼ばれる人が存在し、「それがいかなるものか」の検討が重ねられてきました。
このことは、時代を問わず「リーダーシップが重要である」と認識されてきたことを表します。
現代も例外ではありません。
政治、ビジネス、科学、環境、文化などの様々な分野において、「リーダー待望論」が尽きることはありません。
リーダーシップ理論の変遷
リーダーシップの重要性は確認できましたが、では、リーダーシップという概念をどのように捉えればいいのでしょうか。
その拠りどころとなるのが、リーダーシップ理論です。
ここからは、リーダーシップの輪郭を捉えるために、リーダーシップ理論の変遷を大まかに辿ってみたいと思います。
特性理論(~1940年代)
特性理論は、リーダーといわれる人物に共通する個人的な資質や特性を探求するアプローチです。
「優れたリーダーとはどのような人物か」「リーダーとリーダーでない人は何が違うのか」を明らかにし、適切なリーダーを選出し、集団のパフォーマンス向上を狙うものです。
パーソナリティ研究として身体的・性格的・知的特性などについての研究が進む中で、『MBTI(Myers-Briggs Type Indicator)』や『ビッグファイブ理論』『ストレングス・ファインダー』などが開発され、リーダーシップ開発における特性把握に役立てられています。
一方で、多くの特性は曖昧か抽象的で測定や観測が困難なこと、そもそも特性がリーダーシップの全てなのか疑わしいという課題は残りました。
行動理論(1940年代~1960年代)
特性理論が優れた人物の資質に着目する一方で、行動にフォーカスを当てたアプローチが行動理論です。
「有益なリーダーシップ行動と、そうでない行動は何がどう違うのか」「リーダーのどのような行動が、フォロワーの成果達成を導くのか」を明らかにするものです。
代表的な理論は日本発で広く知られる『PM理論』です。
P=Performanceは集団の目的達成や課題解決に関する行動、M=Maintenanceは集団の維持を目的とする行動を表し、この2軸のマトリクスでリーダーの行動を類型化しています。
図のように4つの類型があり、P行動とM行動が共に高いPM型(右上)のリーダーシップが望ましいとされています。
一方でPM理論は、状況に含まれる様々な変数が含まれておらず、複雑な課題を単純に捉えすぎているという批判も挙がりました。
条件適合理論(1960年代~)
個人の特性や行動だけではなく、集団が置かれた状況や条件に注目したアプローチが条件適合理論です。
「どのような条件下で、どのようなリーダー行動が有効なのか」という、条件と行動のマッチングを示すものです。
代表的なのは『パス・ゴール理論』で、「集団が置かれた環境」と「部下の性格や能力」の掛け合わせで有効なリーダーの行動(指示型・支援型・参加型・達成志向型)が決まることを示唆します。
その他にも「メンバーの発達度」に注目した『SL(シチュエーショナル・リーダーシップ)理論』も該当します。
リーダーシップが発現される状況を多側面から捉えるアプローチで、納得感は高まったものの、理論の正当性を裏付ける研究が欠けているという指摘は残ります。
リーダーシップ交換・交流理論(1970年代~)
リーダーとフォロワーの相互関係がもたらす影響に着目したアプローチが交換・交流理論です。
「リーダーとフォロワーのどのような価値交換が、リーダーシップの発現に有益か」を明らかにするものです。
リーダーシップの有効性は”フォロワーからの信頼獲得”によって決まるとする『信頼性蓄積理論』や、リーダーとフォロワーの
価値交換や関係性の質に着目する『LMX(Leaer Member Exchange)理論』などが該当します。
変革型リーダーシップ理論(1980年代~)
多くの企業が変革に取り組む時代背景において、変革を推し進めるリーダーシップへの要請と研究が進みました。
ハーバード大学のジョン・コッターは、リーダーシップとマネジメントの共通点と具体的手法の違いを明確にした上で、変革型
リーダーシップには「ビジョン(方向性)の設定」「人心の統合」「動機づけと啓発」が求められると整理しています。
倫理型リーダーシップ理論(1980年代~)
最後に、倫理観や精神性に軸足を置くリーダーシップを紹介します。
リーダーへの不信感が募る社会風潮を背景に、「リーダーとはどういう存在であるべきなのか」が重要視されています。
よく知られるモデルが『サーバント・リーダーシップ』です。
従来のリーダーにある支配的イメージとは一線を画し、社員・顧客・組織に奉仕する姿勢で、人々が望む目標や社会を実現するために立ち上がるリーダーが描かれます。
また、2000年代から提唱されているのが『オーセンティック・リーダーシップ』です。
オーセンティックには、「本物の」「自分らしい」という意味が含まれます。
“自分自身に正直であること”を重視する存在として、倫理的な行動を選択し、共感・信頼に基づく関係を築き、組織を導きます。
オーセンティックであるために、リーダーには常に人間的成長が求められます。
今もなお研究が続くリーダーシップ理論
以上、リーダーシップ理論の大まかな変遷を眺めました。
個人の特性や行動、フォロワーを含む環境との相互関係、そして特定の状況や時代背景などの観点からさまざまなアプローチで研究され、今も研究され続けています。
ここからわかることは、リーダーシップにおいては、最も優れた絶対的な解が存在するわけではないことです。
言い換えると、どのようなリーダーシップが適切なのかは、皆さんの特性と皆さんが置かれている状況に依存するということです。
リーダーシップを実践する私たちには、これらのリーダーシップ理論を多様なモデルとして活用し、個別に置かれた具体的な現実に応じたリーダーシップを発揮していく挑戦が求められています。
近年に注目されるリーダーシップの特徴
ここまで見てきたように、近年のリーダーシップには2つの大きなシフトが見られます。
1つは、「個人が導く」から「集団を活かす」へのシフト。
もう1つは、「権限による支配」から「信頼による支援」へのシフトです。
「個人が導く」から「集団を活かす」へのシフトは、ビジネスが分野横断的になり課題が複合化されてきたことや、激しい変化の中で求められる知識やスキルが流動的になってきたことから、リーダー一人の力では現実の課題に対処しきれなくなってきた背景があります。
「権限による支配」から「信頼による支援」へのシフトは、上記の背景に加え、働く個人の自律的な労働観の高まりや、心理的安全性など関係性を重視することがチームの業績向上に寄与するという研究が進んできたことが影響しているのではないでしょうか。
これらの文脈に合致したリーダーシップスタイルの1つが、先に紹介した『サーバント・リーダーシップ』です。
実はこの概念は、1970年に提唱されていました。
当時は時代を先取る考え方でしたが、近年になり、現実がサーバントなリーダーを求めるようになるにつれて注目を集めています。
サーバント・リーダーシップの10の特性
サーバント・リーダーシップは、互恵的リーダーシップという枠に括られる「より良い変化を起こすために他者に奉仕する」ことを軸とするスタイルです。
そのようなサーバント・リーダーシップを発揮するには、どうすればいいのでしょうか。
サーバントなリーダーに求められる10の特性が提示されています。
傾聴(Listening)
大事な人達の望むことを意図的に聞き出すことに強く関わる。同時に自分の内なる声にも耳を傾け、自分の存在意義をその両面から考えることができる。
共感(Empathy)
傾聴するためには、相手の立場に立って、何をしてほしいかが共感的にわからなくてはならない。他の人々の気持ちを理解し、共感することができる。
癒し(Healing)
集団や組織を大変革し統合させる大きな力となるのは、人を癒すことを学習する事だ。欠けているもの、傷ついているところを見つけ、全体性(wholeness)を探し求める。
気づき(Awareness)
一般的に意識を高めることが大事だが、とくに自分への気づき(self-awareness)がサーバント・リーダーを強化する。自分と自部門を知ること。このことは、倫理観や価値観とも関わる。
説得(Persuasion)
職位に付随する権限に依拠することなく、また、服従を強要することなく、他人の人々を説得できる。
概念化(Conceptualization)
大きな夢を見る(dream great dreams)能力を育てたいと願う。日常の業務上の目標を超えて、自分の志向をストレッチして広げる。制度に対するビジョナリーな概念をもたらす。
先見力、予見力(Foresight)
概念化の力と関わるが、今の状況がもたらす帰結をあらかじめ見ることができなくても、それを見定めようとする。それが見えたときに、はっきりと気づく。過去の教訓、現在の現実、将来のための決定のありそうな帰結を理解できる。
執事役(Stewardship)
エンパワーメントの著作でも有名なコンサルタントのピーター・ブロック(Peter Block)の著書の書名で知られているが、執事役とは、大切な物を任せても信頼できると思われるような人を指す。より大きな社会のために、制度を、その人になら信託できること。
人々の成長に関わる(Commitment to the Growth of people)
人々には、働き手としての目に見える貢献を超えて、その存在をそのものに内在的価値があると信じる。自分の制度の中のひとりひとりの、そしてみんなの成長に深くコミットできる。
コミュニティづくり (Building community)
歴史のなかで、地域のコミュニティから大規模な制度に活動母体が移ったのは最近のことだが、同じ制度の中で仕事をする(奉仕する)人たちの間に、コミュニティを創り出す。
話すから「聴く」、競争から「協業」、強制から「納得」、利己から「利他」、制限から「期待」。
特性のキーワードを眺めるだけでも、従来のリーダーシップからの概念シフトを感じ取ることができます。
このような特性を持つサーバントなリーダーと共に働くメンバーには、「自発的・能動的に行動する」「高いモチベーションで工夫する」「リーダーを信頼し共にビジョン実現に向かう」などの特徴が見られます。
まさに、権限を持つ個人ではなく、信頼に基づく集団の力で成果を導くリーダー像が想起されます。
あくまで1つのモデルであり、これが正しいと言いたいわけではありません。
ただ、これまで一般的だった「個人が導き、権限により支配する」スタイルが唯一のリーダーシップではないと認識しておくことが重要です。
リーダーシップ理論から多様なリーダーシップスタイルを理解しておくことは、正解主義や思い込みから、私たちを救い出してくれます。
リーダーシップに必要なスキルを鍛えるには?
ここまで、リーダーシップ理論の変遷を辿りながら、多様なリーダーシップのモデルに触れてきました。
変遷を理解するには「違い」に注目することが有益ですが、実践をイメージするときには「共通項」も役立ちます。
「リーダーシップを発揮するために鍛えておきたいスキル」や「リーダーシップを高めるために意識したいこと」を、こちらの記事で紹介しています。
興味をお持ちの方は、ご覧ください。
まとめ
「もっとリーダーシップを発揮して欲しい」
「君のリーダーシップに期待している」
今ならこれらの言葉を、どのように受け取り、どのように実践していけるでしょうか。
・この状況で、自分に期待されるリーダーシップとは、どのようなものだろうか?
・自分の特性は、どのように活かせるだろうか?
・メンバーやチームの関係性に対して、どのような働きかけが役立つだろうか?
・どのような行動を改め、どのような行動を始めることが有益だろうか?
どのようなリーダーシップが適切かは、皆さんの特性と皆さんが置かれた状況によって決まります。
大切なことは、状況に応じて問いを立て、自分の頭で考えたアクションを始めることです。
そのとき、状況を捉え、状況に適したアクションを検討する助けとなるのが、リーダーシップ理論です。
多様な理論をツールとしながら、自らが導いた個別解でリーダーシップを発揮し、修正し、進化させていく。
そのような繰り返しが、私たちのリーダーシップを高めてくれるのではないでしょうか。
(執筆:中村 直太)
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(文責-ティネクト株式会社 取締役 倉増京平)
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