セブン-イレブンの宅配で密度の経済性はどうなる?

2021年8月、セブン-イレブンが、2025年までに30分以内の宅配サービスを国内2万店規模に拡大する方針、との報道がありました。

 

同サービスは「ネットコンビニ」として、買い物に不便を感じる方を主な対象とし、2017年に開始しましたが、当初は北海道等の一部地域限定で最短2時間以内の配送でした。

今回の、全国展開かつ最短30分という方針の狙いについて、記事でも「新型コロナウイルス禍で急拡大するネット宅配を取り込む」と表現されており、これまでとはステージが変わった印象があります。(注1)

 

セブン‐イレブンの「配送」といえば、「ドミナント出店」による「密度の経済性」の実現が想起されます。

密度の経済性とは、一つの地域に店舗や物流センターを集中配置することで、物流や広告などのコストが削減できることです。

そして、限られた地域への集中出店でコスト面の優位を作り、自社が競合を圧倒する地域を構築することを、「ドミナント方式」と呼びます。

このドミナント出店は、セブン‐イレブンがCVS業界(コンビニエンスストア業界)において突出した収益性を実現している要因の一つになっていると考えられています。

<参考>:なぜセブンイレブンは全国展開していなかったのか?密度の経済性で考える

 

しかしこれはあくまで「物流センター等から店舗への配送」の話であって、「店舗から消費者への配送」における優位性が生まれるメカニズムについては、別途考える必要がありそうです。

 

30分以内で配達する難しさ

さてここで、コンビニの主な利用シーンを考えてみましょう。

私たちは日々の生活の中で、食事やちょっとした日用品を買うなど、「今、欲しいと思ったものを」「すぐに手に入れるために」「近くの」コンビニを利用しています。

 

このようにランダムに発生するニーズに対し30分以内のような短時間で宅配に対応するには、非常に難易度の高い需給のマッチング(いつどのくらい発生するかわからない配送需要に対し、固定的な配送機能を持ち対応する)を行う必要があります。

 

実はこうした問題を、テクノロジーを活用して解決し、事業展開しているのが、出前館やウーバーイーツ等のデリバリープラットフォームです。

コンビニとしては、こうした外部のデリバリープラットフォームを活用することも有力な選択肢になってきます。

 

実際に、ローソンは2019年からウーバーイーツを導入、ファミリーマートも2020年からmenuを導入するなど、デリバリープラットフォームを活用した宅配を行っています。

一方のセブン‐イレブンは、車両やドライバーはアウトソースするものの、最適配送のシステム自体は内製化する方針を出しており、各社の戦略の違いが明らかになっています。(それぞれ各社WEBサイトの情報より)

 

デリバリープラットフォームの経済性と、今後の競争の行方

では、こうした「デリバリープラットフォーム」の経済性はどのようなものでしょうか?

 

まず、一般的にプラットフォームにはユーザーが増えれば増えるほどその利用価値が高まるという「ネットワーク効果」が働きます。

またプラットフォームには、多くの場合複数のユーザーグループが存在し(マルチサイドプラットフォーム)、あるユーザーグループの数が増えることが、別のグループのユーザーにとっての価値になるという、相互のネットワーク効果も働きます。

 

デリバリープラットフォームでは、モノを届けたいユーザーグループ(料理店や小売店)と、空いている時間を使い報酬を得たいユーザーグループ(配送員)、そして、配達してほしいユーザーグループ(消費者)の3つのグループをマッチングさせていることになります。

このプラットフォームが価値を高めるために、それぞれのユーザーグループを囲い込むこと、また、マッチングの精度を上げることが重要になります。

<参考>:エアビーとドアダッシュ成長の比較~2020年に最も注目を集めたIPO2社~

 

大手コンビニは全国に多くの店舗網を持ち、豊富な商品展開によりユーザーの支持を得ているため、デリバリープラットフォームにとっては、コンビニがユーザーグループに加わることで、飛躍的にプラットフォームの価値を高めることが期待できます。

 

コンビニにとっても、急速に拡大したデリバリープラットフォームを活用することにより、短時間の宅配サービスを、スピーディーに広く展開することが可能となる点において、大きなメリットがあります。

しかし、宅配に関わる顧客接点とデータはデリバリープラットフォーム側に集約されることになる点は留意が必要です。

 

その点、自前での配送システム構築を選んでいるセブン‐イレブンは、デリバリープラットフォーム各社に匹敵する配送需給マッチングの実現や、宅配サービス自体の魅力(商品バリエーション、価格、配送スピード等)を上げていくことが必要となる一方、顧客接点とデータを自社で保持することができます。

 

また別の視点では、今後コンビニ宅配サービスが浸透していった際、コンビニ宅配間の競争も気になるところです。

競争のポイントは複数ありますが、特に冒頭で述べたドミナントを実現しているセブン‐イレブンは、ある地域において最も店舗数が多く、消費者が重視するであろう「商品の豊富さ」や「配送時間の短さ」において他コンビニに優位に立てる可能性があります。

 

コンビニ宅配が今後日本の社会においてどの程度浸透していくか、また、その結果としてCVS業界の競争環境がどう変わっていくか、注目ですね。

(注1)https://www.jiji.com/jc/article?k=2021082300989&g=eco

(執筆:槙本 裕介)

 

 

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安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
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(2025/6/2更新)

 

 

 

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