年始相当に本当に素晴らしい本を読んだので紹介しよう。

「睡眠こそ最強の解決策である」だ。

この本はカルフォルニア大学バークレー校教授のマシュー・ウォーカーが書いたもので、要旨を一言でいえば「つべこべ言わずに黙って毎日8時間寝ろ」となる。

こう聞くと「正直、全然面白そうには聞こえないのだけど…」と食指が動かない人も多いだろうが、この本はそんなあなたの想定を完全に覆すだろう。

 

僕もこれまで数多の睡眠本を読んできたが、この本はそれらの本を軽々と駆逐し、ものの見事に僕の本棚のバイブル枠を獲得した。

僕は一度読んだ本をほぼ読み返す事はないが、この本は今後、何度も何度も読み返すこと間違いない。それぐらいに凄い。

 

まず間違いなく僕の本年度におけるブック・オブ・ザ・イヤー候補なので、サクッと買って読んでみて欲しい。

以下、この本の読みどころや読んで得た着想について書き綴っていく。

 

映画マーガレット・サッチャーの哀愁

マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙という映画がある。

サッチャーは言うまでもなく元・英国の首相で、この映画はそんな彼女の波乱万丈な人生を追従しつつ、彼女の老後も追った一作となっている。

彼女の人となりがどう出来上がるのかも本作の見所なのだけど、個人的なこの映画の見所はサッチャーの晩年だ。

なんと彼女は現役引退後、最愛のパートナーである夫の死も忘れてしまうほどの重度の認知症を患ったのだという。

 

晩年のサッチャー像は言葉にするのも申し訳ないほどに哀れである。

「鉄の女として名を馳せたあのサッチャーですら、認知症からは逃れられないのか…」

「あそこまで頭もよく実行力があったはずの人でもこうなってしまうのなら、人は認知症からは逃れられないのかもしれないな…」

鑑賞後、そう胸にきた事を実によく覚えている。

 

サッチャーが認知症になったのは寝なさすぎたからかもしれない

その時はそれ以上思うものは特になかったのだが、睡眠こそ最強の解決策であるを読みサッチャーが現役時代に1日あたり4時間程度しか寝ていなかったという事実を知り、僕は驚いた。

 

著者であるマシュー・ウォーカーいわく睡眠とは人間にとっての回復行為に他ならないのだという。

人間は活動を通じ、色々な意味で疲労する。

その活動に伴って生じた疲労の処理現場として睡眠は極めて効果的で、その影響は単なる疲労回復効果にとどまらず病の予防にもつながる。

 

一例をあげれば、十分な睡眠は認知症予防として最大の効果を発揮するという。

人は睡眠を通じて脳に蓄積した老廃物を処理するのだが、これが不十分な人ほど脳にアルツハイマー病に関与しているとされるアミロイドというタンパク質が蓄積する傾向にあるのだそうだ。

この事実をもってマシュー・ウォーカーは「サッチャーが晩年に認知症を患ったのは、現役時代にあまりにも寝なさすぎたからではないか?」という仮説を提唱している。

 

この仮説が実に僕の心に刺さった。

若い頃は「睡眠時間なんて無駄だろ」と、いかに寝ずに活動し続けるかばかり考えていた。

けど、寝ないと認知症になるかもしれないとは全く考えてはおらず、僕は遅まきながら「毎日ちゃんとした睡眠を取ろう…」と大反省した。

 

人は寝ないと死ぬ

この本は他にも実に興味深い事実が淡々と挙げられ続けており、そのどれもが「つべこべ言わずに黙って毎日8時間寝ろ」につながる。

そのブレないスタイルは本当に素晴らしく、まるでマントラを唱えているかのように妙に心にしっくりくる。

ここまで結論が決まりきっているのに読んでいて全く飽きない本も珍しい。

 

そんな中でもひときわ目立つ部分として寝れない人間の章がある。

眠らないのではなく、眠れない、だ。

あなたは人は眠れなくなるとどうなるか御存知だろうか?

僕はこの本を読むまで知らなかったのだが、なんと死ぬらしい。

 

イタリアのある地区に起源を持つ致死性家族性不眠症という病気がある。

この病気を発症すると、どんな手法を用いても人は眠れなくなるのだという。

よく3日ぐらい寝ないと幻覚がみえるようになるという風に、不眠でもってある程度の体調不良が出現するというのは有名な話だが、この病を発症した人はその先をゆく。

 

シカゴ南部の高校の音楽教師だったマイケル・コークという男がいた。

彼は40歳でこの病を発症したそうなのだが、眠らない日が8週間続くと、コークの精神は徐々に崩壊しはじめた。

精神だけではなく肉体も徐々に痩せ細り、不眠の状態が半年になるとベッドから起き上がれなくなるまでにコークは衰弱したという。

 

悲しい事に、ここまで至っても人は死ねない。

コークの不眠はその後さらに数カ月続き、遂には精神と肉体が完全にシャットダウンするに至ったという。

そうなってからもまだ死ねず、42歳の誕生日を迎えて間もなくしてやっと死を迎えたのだそうだ。

 

この残酷な現実は「人間は寝なければ死ぬ」という事実をまざまざと見せつけてくれる。

不眠は百害あって一利なしなのだ。

 

また面白い事にコークの症状は末期の認知症の老人によく似ていたという。

幻覚と妄想を頻繁に繰り返し、頭を動かしたり、力を振り絞ってうめき声をあげたりすることで意思の疎通をはかろうとしたのだというが、言われてみればこれは介護福祉施設にいる認知症の果てに至った人達と奇妙なほどに症状が一致している。

 

やはり睡眠不足は認知症に至る高速道路なのだろう。

この現実を知っただけでも「やべっ…今日からちゃんと寝よう」と思わないだろうか?

 

繰り返しになるが、本書はどこもかしこもこんな感じの記述で溢れており、本当に読んでいて面白い。

睡眠がどれほど人間に大切なのか、心の底から納得できること請け合いだ。

 

睡眠でもって、躁鬱の波もある程度はコントロールできる

また、マシュ・ウォーカーは精神病と不眠の関係についても述べており、これがまた興味深い。

 

さきほど不眠でもって妄想や幻覚が生じてくると書いたが、マシュ・ウォーカーいわく人を不眠にさせればさせるほど、躁うつ病や統合失調症、ADHDに似た症状が出現する傾向があるのだという。

それをもって著者は「米国で精神疾患だと診断されている患者の何割かは、単なる不眠の可能性があるのではないか」と説く。

 

勘違いしないで欲しいのだが、睡眠不足でもって精神疾患が治せるわけでもないし、また精神疾患の原因が睡眠不足にあるというわけでもない。これらはあくまでも別の概念である。

 

ただ、さきほどの眠れない男であるマシュ・ウォーカーが不眠の果てに極期の認知症患者と同様の症状を呈したという事実からも明らかなように、不眠が何らかの精神疾患に通じる症状を呈するという事は十分ありえる。

以下は個人の1つの感想ではあるが、色々と学ぶことが多いつぶやきである。

ちょっと前に僕はクリエイターは躁鬱の波乗りピカチュウであるという記事を書いたが、自分自身がこの躁鬱の波を乗りこなすのに最も役立っていると痛感しているのが実は睡眠だ。

毎日ちゃんと決まった時間に寝て、起きる。

若かった頃は「優等生かよ」と揶揄していたこの規則正しい生活を遵守する日がくるとは思わなかったが…

 

とはいえ…不眠と夜は美しいものも生み出す

ここまで「ちゃんと寝よう」と書き続けておいてなんだが、最後に「けど…やっぱり不眠にも素晴らしい部分があるのも事実だよね」という事を書いて文章を〆ようと思う。

 

「夜中に書いたラブレターを朝になって読み返したら、あまりにもムチャクチャな文章で赤面した」

こんな感じの言葉を聞いたことがあるだろうか?この例に限らず、人は夜になると良くも悪くも”ちょっと普通ではなくなる”。

夜は人を狂わせ、そして狂った人から普通ではない魅力が溢れ出る事がある。

 

僕は今でも「人生で本当に面白い事は夜の2時から始まる」と思っている。

夜中に酒を煽りつつ眠たい目をこすり続けた後に、妙にハイになった精神でもって摂取するコンテンツの面白さは尋常ではない。

 

不眠と夜は魔法の粉だ。

精神をあえて狂わせる事で、シラフだったら絶対に経験できないような性質の面白さを得られるというのは残念ながら事実である。

 

真面目腐った人間が型通りで全然面白くなさそうなのに対して、破天荒な破滅型の人生を送っている人間に不思議な魅力があるのはこれが原因ではないだろうか?

人は不眠と夜の力を借りる事で、規則正しい生活では決して得る事が叶わない強力な魅力を手に入れる事ができるのである。

 

個性とは制御できない狂った場所に現れるのかもしれない

先日、シロクマ先生が規則正しい生活についてブログを書かれていた。

規則正しい生活で生産効率120%の話と、ライフハックの陰と陽の話 – シロクマの屑籠

 

この記事の最後の方で社会適応のライフハックには凡人用の汎用性の高いものと天才型の一子相伝的なものがあるという興味深い説を唱えられている。

言うまでもなく規則正しい生活はこの汎用性の高いものに該当するわけだが、個人的には天才型の一子相伝的なライフハックの1つに、さきほど書いた不眠と夜と力があるのではないかと思う。

 

不眠と夜は人を狂わせる。

しかしメンヘラさんが凡百には無い不思議な魅力を持つのと同じく、狂った人は常人にはない不思議な魅力を持つ傾向がある。

 

ある種の人が超然とした環境を生き抜く事で不思議なギフトをえる傾向があるという事は昔から思っていた。

自分はかつて「毒親育ちや激務上がり等の抑圧された環境にいた人」にハイスペが多い理由について – 珈琲をゴクゴク呑むようにという記事を書いた事があったが、ある意味ではこれもそれに該当する。

 

個性とは制御できない狂った場所にこそ現れる。

これが恐らく北斗神拳のような一子相伝でしか伝わらないタイプのライフハックの一端ではないだろうか?

 

そして手に入れたその巨大な力を使いこなせるかどうかは自分の腕次第だ。

僕は規則正しい生活の最大のメリットはこの闇の力の制御にあるのではないかと思っている。

 

病や不眠、夜といった闇の力を獲得し、規則正しい生活でもってその闇の力を上手にコントロールする。

そうして自分という存在の個性を最大限に発揮し続ける。

これができた時…人は本当の意味で芸術家になれるのだろう。

 

闇の力に飲み込まれて狂ってしまう人も多いので一概には推奨しがたいが、どうしても一角の人物になりたいという人はこの暗黒ライフハックを考慮に入れるのもいいかもしれない。

決してオススメはしないけど。

 

 

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システム開発やITコンサルティングを経て、
外資系製薬企業で15年以上のITビジネスパートナーとして人事からコマーシャル、 メディカルなど製薬企業の様々な分野のプロジェクトに携わる。
現在はネクセラファーマ株式会社で、システムだけではなく、企業風土改革や業務改善をリードし、
日本発グローバルバイオ製薬企業にむけて、同社の成長基盤の構築に尽力している。

岡田 雄太(ワークワンダース株式会社 CTO)
野村総合研究所に新卒入社後、証券総合バックオフィスシステムやオンライントレードシステムなどの開発に従事。
その後、8 Securities(現SoFi Hong Kong)へ出向し、日本人唯一のエンジニアとして国際的なプロジェクトに携わる。
BOOSTRYでは信託銀行向けSaaSの立ち上げと成長を牽引。
WiseVineではCTOとして開発組織を30名規模に拡大し、プロダクト開発を推進。
2025年4月よりワークワンダース株式会社CTOに就任。AI活用を中心とした開発支援をリードする。


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(2026/01/19更新)

 

 

 

【著者プロフィール】

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高須賀

都内で勤務医としてまったり生活中。

趣味はおいしいレストラン開拓とワインと読書です。

twitter:takasuka_toki ブログ→ 珈琲をゴクゴク呑むように

noteで食事に関するコラム執筆と人生相談もやってます

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