最近の若者は、電話が嫌いらしい。

なんでもメールやチャットで済ませるから電話に出ないし、まともに電話対応すらできない。やれやれ、困ったものだ。

 

……という主張をよく耳にするけど、これは誤解と偏見だ。

 

「若者が電話しない」のではなく、仕事上で電話する必要性がないからしないだけ。

「電話をしない」という合理的選択についていけない人たちが、「若者の電話嫌い説」を作り出し、「やっぱり若い奴らは理解できん」と、現実から目をそらしているだけじゃないだろうか。

 

Love定額で彼氏と電話し、毎日スカイプしていた学生時代

先日、『「電話嫌いの若者」が急に増えた意外すぎる理由』という記事を読んだ。

その記事では、若者が電話嫌いになった理由をこう説明している。

若い世代にとっては、学生時代までの自分が経験してきたコミュニケーションとは別ものなので、電話は不安でストレスなのです。

職場で電話を取りたがらない新入社員が多いことは周知の事実になってきました。彼らにとっては突然電話をかけたり、かけられたりの行為が日常のひとコマではありません。必要な場合、まずLINEで「いま、電話してもいい?」と事前に確認してから、電話につなげます。電話をせずにLINEのやりとりでコミュニケーションを完結させることのほうがふつうです。そんな生活を送ってきた彼らには、友人でも何でもない見知らぬ相手に入れる断りの電話は、とてつもなく難度の高い作業なのです。

現在30歳のわたしが若者面していいかはわからないが、この文章を読んで、わたしは強烈な違和感を覚えた。

だってわたしにとって電話は、とても身近なものだから。

 

はじめて携帯電話を手に入れたのは、中学1年生のときだ。

同キャリア同士であれば格安や無料で通話できたので、カップルは同じキャリアにすることが多かったし、2台持ちも少なくなかった。

わたしはメインはドコモだけど、Love定額用にボーダフォンも持っていて、毎日布団をかぶって深夜まで彼氏や友だちと小声で通話していたものだ。

 

高校生になってからはスカイプがはやりだし、夜はとりあえず友だちとスカイプをつないで、それぞれ勉強したり本を読んだりするようになった。

いわゆる「さぎょいぷ(作業スカイプ)」で、気が向いたときに話すけど基本無言。でも毎日通話状態。

大学に入ってからも、バンドの会議や留学先でスカイプ通話は当たり前だったし、Facebook通話という手段も普及しはじめた。

 

……という学生時代を送っていたから、「若者にとって電話は経験したことがないコミュニケーション」と言われて、かなりびっくりした。え、そうだっけ?

 

高校生の1割が毎日電話しているのに「電話嫌いの若者」?

そうそう、みなさんは「ディスコ」をご存じだろうか。

チャットと通話ができる「Discord」というサービスの略で、ゲーマー御用達アプリである。

 

オンラインゲームでは通話しながら攻略したほうが圧倒的に有利だから、通話しながら遊んでいる人はめちゃくちゃ多い。

わたしもそうだし、夫もそう。で、そのときに主に使われるのが、ディスコだ。

ちなみに東京工科大学の調査によると、2022年の新入生の半数以上の男子がディスコを使っているらしい。

 

PS4(プレイステーション4)にもVC(ボイスチャット)という機能が搭載されていて、相手のアカウントを選ぶだけですぐに通話ができる。

わたしはプレイしたことがないけど、エイペックスという人気ゲームは、ゲーム内に通話機能があるとも聞いた。

自動マッチングされた人と、その場かぎりの通話ができるらしい。

オンラインゲームと通話はもはやセットのようなものだから、「電話嫌いの若者」といわれても、ゲーマーのわたしには全然ピンとこない。

 

とはいえ世の中の人がみんなゲーマーではないので、LINEによる高校生の通話事情の調査も見てみよう。

調査によると、女子高生の47%、男子高生の58%が、週に1日以上通話しているらしい。

ほぼ毎日電話している女子は13%、男子は15%もいる。

 

1回あたりの音声通話時間をみると、「5分未満」の女子が20%、男子が28%。一方で、1時間以上と答えた女子は44%、男子は31%。

つまり、「高校生の半数が週1以上通話していて、毎日通話している人も1割以上いる。1時間以上長電話することも多く、女子高生の4割は通話のたびに1時間以上しゃべってる」らしい。

 

総務省の『情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書』もついでに紹介しておくと、平日、携帯やネット、固定電話で通話しているのは、20代で19.6%、30代で29.8%、40代で25.2%、50代で29%。

こういうデータを踏まえても、「電話をまったくしない若者」像は見えてこない。20代の5人に1人が平日に電話してれば十分でしょ。

じゃあ、どこに「電話嫌いな若者」がいるんだろう?

 

電話対応くらいできるけど、必要性を感じない

そこで思ったのが、「電話嫌いの若者」って、「仕事において」という但し書きがつくんじゃないか、ということだ。

もう5年半ほど前になるが、仕事上の電話について、ツイッター上で論争が起きていた。

堀江貴文さんをはじめとして、イケダハヤトさん、はあちゅうさんなどのインフルエンサーがこれに乗っかり、「電話は相手の都合を考えず時間を奪う行為」「電話かけてくる人とは仕事をしない」「いまどき電話を使う人は仕事ができない」なんて意見がTLを埋め尽くした。

「電話が悪」のような主張はさすがに極端だが、結局のところ「電話する必要がない」というだけなのだろう。

 

そして「若者は電話対応できない」というのも、単純に、必要性の問題だと思う。

そもそも電話対応なんて、むずかしい仕事じゃないからね。

 

たとえばわたしがバイトしてた居酒屋では、電話の横に「お電話ありがとうございます、〇〇店担当××がお受けいたします」と書かれたマニュアルが置いてあって、高校生バイトですらちゃんとやっていた。

だから、「電話対応できない若者」というのも、眉唾ものだ。

ちゃんと教えても電話対応できない程度の若者ばかりなら、電話以外の通常業務も成立しないよね、きっと。なにかしらの病気で、電話対応が苦手な人はいるだろうけどさ。

 

とまぁいろいろ考えると、「電話嫌いの若者」も「電話対応ができない若者」も、わたしはいまいち想像できないのだ。

電話する必要がないからやらないだけで、その合理的判断を受け入れない一部の人が、「これだから若者はー」って言ってるだけじゃないかな、と思う。いつもと同じで。

 

仕事上では通話より文字コミュニケーションのメリットが圧倒的に大きい

ちなみに、通話が大好きで毎日だれかと雑談しながらゲームをやっているわたしでも、仕事では極力電話をしないようにしている。

仕事だけじゃなくて、役所への問い合わせや雨漏りを修理しない大家への苦情、まちがって買ったダウンロードソフトの返品願いなども、全部メール。

 

仕事において、メールやチャットのような文字コミュニケーションにする最大のメリットは、すべて証拠が残ることだ。

 

「ちゃんとわたしは1週間前に確認メール送りましたよ」

「こうやって契約すると返信もらってます」

「前担当の方とのやり取りが残っています」

 

こう主張できるし、自分自身、「連絡入れたのいつだったっけ」「やべ、この前なんて言ったっけ……」なんてときでもすぐに確認ができる。

通話だと、「言った・言わない」問題が発生するから、トラブルになりやすいし。

 

そのうえ、文字ベースであれば、自分のペースでコミュニケーションがとれる。

メールを見てから資料を読み込み、よく考えて次の日に返事することもできるし、逆にちゃんとやらない相手に要件だけ送りつけて、「自分は伝えたからな!」と主張することもできる。

 

ほかにも、資料や写真をデータとして添付できる、隣の人に会話を聞かれる心配がない、家で空き時間に返事ができる、などなど、仕事において、文字コミュニケーションのほうが圧倒的にメリットが多い。

だからわたしは、通話好きだけど、仕事や公的な場面では、すべて文字ベースのコミュニケーションにしているのだ。

 

「若者の電話嫌い」を嘆く前に通話の必要性を再確認すべき

もちろん、電話で会話することで人間関係が円滑になったり、文字では伝わらないニュアンスを伝えられたりと、電話にもメリットはある。

でもたいていの場合、仕事においては、「メールやチャットでいいんじゃない? わざわざ電話する必要ある?」と思う。

文字ベースのほうが効率的だし、便利だし、楽だし。

 

その態度が「若者の電話嫌い」に映るだけで、たぶん本人たちは、電話というツール自体を悪くは思っていない。

ただ合理的に考えて、「仕事で電話する必要ないよね」という結論になっただけで。

 

「最近の若者は電話嫌いで対応もできない」と嘆く前に、なぜ若者が「電話じゃなくてもいいでしょ」と思うのか、想像してみたほうがいいかもしれない。

「電話にすべき理由」があれば、世代を問わずちゃんと電話するはずだから。

 

電話対応なんてたいていの人はすぐできるようになるんだし、必要あらば多くの人は受け入れるよね、仕事だもの。

でも相手がそうしないということは、その必要性を相手に伝えられていない、納得させられていないのが原因じゃないだろうか。

 

あなたが「電話嫌いの若者」だと思っている人も、仕事場では必要がないから避けてるだけで、家に帰ったら通話しながらエイペックスやってるよ。そんなもんだよ。

 

 

【お知らせ】
ティネクト(Books&Apps運営会社)提供オンラインラジオ第6回目のお知らせ。


<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>

第6回 地方創生×事業再生

再生現場のリアルから見えた、“経営企画”の本質とは

【日時】 2025年7月30日(水曜日)19:00–21:00
【ご視聴方法】
ティネクト本音オンラインラジオ会員登録ページよりご登録ください。ご登録後に視聴リンクをお送りいたします。
当日はzoomによる動画視聴もしくは音声のみでも楽しめる内容となっております。

【今回のトーク概要】
  • 0. オープニング(5分)
    自己紹介とテーマ提示:「地方創生 × 事業再生」=「実行できる経営企画」
  • 1. 事業再生の現場から(20分)
    保育事業再生のリアル/行政交渉/人材難/資金繰り/制度整備の具体例
  • 2. 地方創生と事業再生(10分)
    再生支援は地方創生の基礎。経営の“仕組み”の欠如が疲弊を生む
  • 3. 一般論としての「経営企画」とは(5分)
    経営戦略・KPI設計・IRなど中小企業とのギャップを解説
  • 4. 中小企業における経営企画の翻訳(10分)
    「当たり前を実行可能な形に翻訳する」方法論
  • 5. 経営企画の三原則(5分)
    数字を見える化/仕組みで回す/翻訳して実行する
  • 6. まとめ(5分)
    経営企画は中小企業の“未来をつくる技術”

【ゲスト】
鍵政 達也(かぎまさ たつや)氏
ExePro Partner代表 経営コンサルタント
兵庫県神戸市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。3児の父。
高校三年生まで「理系」として過ごすも、自身の理系としての将来に魅力を感じなくなり、好きだった数学で受験が可能な経済学部に進学。大学生活では飲食業のアルバイトで「商売」の面白さに気付き調理師免許を取得するまでのめり込む。
卒業後、株式会社船井総合研究所にて中小企業の経営コンサルティング業務(メインクライアントは飲食業、保育サービス業など)に従事。日本全国への出張や上海子会社でのプロジェクトマネジメントなど1年で休みが数日という日々を過ごす。
株式会社日本総合研究所(三井住友FG)に転職し、スタートアップ支援、新規事業開発支援、業務改革支援、ビジネスデューデリジェンスなどの中堅~大企業向けコンサルティング業務に従事。
その後、事業承継・再生案件において保育所運営会社の代表取締役に就任し、事業再生を行う。賞与未払いの倒産寸前の状況から4年で売上2倍・黒字化を達成。
現在は、再建企業の取締役として経営企画業務を担当する傍ら、経営コンサルタント×経営者の経験を活かして、経営の「見える化」と「やるべきごとの言語化」と実行の伴走支援を行うコンサルタントとして活動している。

【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
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(2025/7/14更新)

 

 

 

【著者プロフィール】

名前:雨宮紫苑

91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&写真撮影もやってます。

ハロプロとアニメが好きだけど、オタクっぽい呟きをするとフォロワーが減るのが最近の悩みです。

著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)

ブログ:『雨宮の迷走ニュース』

Twitter:amamiya9901

Photo by Annie Spratt