生活のための借金

先日、こんなテキストを読んだ。

意味わからん、生活費を借金??」というタイトルだ。

職場の人と話しててびっくりしたのだが、家計の話しになり、40代妻子持ち上司、30代夫子持ち同僚、20代実家暮らし後輩が、リボ払いの限度額越える、生活費引き落としや、口座にお金足りなくて口座とまる??あるあるを話してて、怖かった。

みんなそんなにナチュラルに借金してるの?

妻子持ちの人まで、生活費の金足らなくなって、口座とまるってあるの? みたいな話だ。

書いた人は「意味わからない」という。おれも意味わからん。なぜわからんか書いてみる。

 

赤字人間

前提として、おれは赤字の人間だ。社会から見て、赤字企業に勤めているから赤字人間だ。おれがそう決めた。

黒字にする能力もねえ。そんなものは社会にとって害悪だ。存在しないほうがよい。それについては前にも書いた

 

おれ自体はマイナスの存在だ。いかんともしがたい無能の結果がこの有様だ。

もはや中年になり、この先の成長も開花も見込めず、ただひそやかにこの世から退場するのがおれの先行きだ。

この世になんらかの金銭的なプラスをもたらすことなく、ただなんとなく人に食わせてもらって、なんとか生きて、死ぬだけであった。南無三。

 

赤字にはなれない人間

でもな、おれ個人の口座というのか、なんというのか、そういう限られたものについていえば、おれは赤字になったことがねえんだ。

そりゃあ実家暮らしでニートしていたときは赤字だった。食わせてもらった。けどな、そこんとこは算出方法がわからないのでノーカウントだ。

 

だから話は、親が破産して一家離散してひとり暮らしになってからのことだ。

おれはかなり貧しかった。洗濯機がなかったので、ユニットバスで衣服を洗った。100円ショップで買った洗濯板で服を洗った。

洗濯機が外置きしかできねえ巨大安アパート(安くて巨大なアパートもこの世には存在する!)で、おれの部屋の前だけ洗濯機がなかったのだぜ。

 

給料も決まっていなかった。時給いくらで、今月はいくらだという見通しもなかった。

やべえ。無給ということすらあった。まずい。そんな生活を送っていた。

なんとか、安アパートの安家賃だけは出してもらった。どうにか生きていた。実家から持ち出していた水木しげるの『昭和史』ばかり読んでいた。水木しげるは偉大だ。

 

『昭和史』に描かれる昭和の貧しさに、自分の貧しさを重ねていたのか。戦場で腹が減る描写も、自分に重ねていたのか。

もちろん、平成の世における空腹と、戦場におけるそれが違うことはわかっちゃいるが。

 

まあともかく、そんな情況でも、おれは借金しなかった。っつーか、できなかった。できねえんだ。だってな、おれみたいな信用皆無の身分不安定、かろうじて住所ありの人間が金借りられるとしたら、カウカウファイナンスだろうが。おれはカウカウファイナンスがどこにあるのか知らねえ。

 

借金をするどころではない

というわけで、おれは貧しさのなかで借金をしてしのいだことがあるか? 答えはノーだ。金を借りるどころではない。そういう発想すらない。

おれがなんらかの信用をもって、金を借りられる存在だとは考えもしなかった。あの当時のおれが、お金を借りようと思って借りられたかどうかもわからない。たぶん借りられねえ。そんなもんだ。

 

そんな時代もあったから(今もたいして変わらないが!)、「借金なんて想像の埒外」というところから、「借金なんてとんでもない」という思考に固まっていった。

今、手元にある金がすべてで、家賃やなにかを差っ引いて、なにが買えるかというだけだ。手元の金・イズ・オール。

 

というか、しばらく銀行口座も作らなかったな。おれのような人間が銀行座を作れるのかわからなかったからだ。

銀行口座を作ったときは安心したな。部屋に現金置かなくてもいい。立派な組織がおれの金を保管してくれんだ。ありがてえ。

 

だから今でもな、「自分の預金を引き出すのに手数料がかかるのはおかしい」って意見には、意味分かんねえなって思う。だってさ、お金守ってくれるんだぜ。なんかモノを預けたら金を取られるのが当たり前だ。それがカネだったらなおのことだ。

銀行すげえ助かる。引き落としの手数料くらい、保管料だ。貧乏だけどそういう意識あんだ。おかしいか?

 

未来の自分を信じられない

銀行の話はまあいい。ともかく、借金というのは、ようするに近くなり、遠くなり、将来の自分に負担を押しつけるということだ。

これが、できねえ人間もいるんだ。将来の自分が信用できねえ。自分を取り巻く環境を信用できねえ、なんも信じられない。

 

来月、再来月も給料が振り込まれなくて、口座の金が底をつく。そうなったら、死ぬだけだ。

そこに借金取りが登場するのは、地獄に地獄のトッピングだ。そんなものは必要ない。よけい嫌な思いをするだけだ。

どうせ死ぬのに、どうしてよけいに嫌な思いをする必要あんの。そんな必要はない。ここにある金がすべてで、それ以外はない。自分に将来はない。違うか?

 

自動車や家のローンなど、本当にすごいことだと思う。

頭金を何百万円も入れて、なおかつ将来の自分を信じて何千万とかの支払いをすることを信じている。できることを信じている。どちらもおれには想像がつかない。まったく。

 

もうね、三十五年ローンなど、本当になにがどうなっているのかわかんねえ。

同じ会社や役所に定年まで勤めることができる自信、確信。いや、ちゃんとした就職ができれば、そんなん当たり前なんか。ちゃんと毎月給料が出て、ボーナスまででるのか? ボーナスまで! なんだボーナスって?

 

だからね、世の中には、賃貸か持ち家かみたいな論争もあるが、おれはそのどちらにも加われねえのよ。そもそも持ち家の頭金すら払えない。安アパートに月々の家賃を払えるだけ払い、それが精一杯。

 

賃貸、持ち家論争について、そういう立場の貧乏人もいるのよ。ローン組もうにも組めない人間も。

言ったところで、論争をしている裕福な人達にとってはまったくどうでもいいゴミのような話に過ぎないのはわかっているが。

あ、芸能関係とかアーティスト系の人もローンは厳しいらしいですが。

 

ゴミ人間の恐怖

まあ、なんにせよ、おれのようなゴミのような人間にも恐怖心はある。

おなじような境遇で恐怖心なく借金して金を使う人間もいるだろう。とはいえ、おれは借金に恐怖心のある方のゴミ人間だ。

 

社会のゴミとして、おれはできるだけ金を使わないようにしてきたし、絶対に借金だけはしないように生きてきた。今なおそうしている。

車や家も買えないものだということはわかりきっている。もし、適した相手がいたとしても結婚なんて考えられない。おれの人生の外側のものごとだ。まったくライフのなかに入ってこない。

 

さらに言えば、今の暮らしのために未来の収入を当てにするなんて、どういう狂気だ? 来月、おれは食えるのか?

そういうもんじゃないのか。なぜ、今、金を借りなきゃいけないのに、来月返せると思うのか。

今、この瞬間でも感じている。今がすべてだ。二十年以上、そんな生活を送っている。おれの感覚は狂っているのか?

 

借金が合理的な判断だとしても

インフレ下において、金利などと比べて今すぐに借金してものを買ったほうが得だぜ、というような話もあるらしい(おれは算数ができないので、ここのところ間違っているかもしれない)。

ともかく、借金も適度に利用すれば、長期的に見て得だ、という話もある。あるらしい。

 

でもね、おれはそのような合理性っつーか、知性も、リテラシーも持ち合わせていない。金融リテラシーって中学校で習えますか?

もっとスケール大きくなって、国民の多くが借金をして、経済を回していったほうが望ましいと言われても、まったくわかんね。サブプライムローンとかなんだったんだ。

 

ともかく、おれは、おれの口座の数字で家賃を払えるか、光熱費を払えるかというだけだ。

国家経済に貢献できる層はがんがん借金でもローンでも、なんでもしろ。経済を回せ。そのおこぼれをよこせ。おこぼれをくれ。え、そんなトリクルダウンは存在しなかった? そんなばかな。

 

それにしてもまあ、なにか生活にとって必要なもの、たとえば自動車が今の生活に、労働に、家計に必要なら、たとえば自動車を借金で、ローンで買うというのは合理的だ。

それはわかる。そんくらいわかる。でも、たまたまおれは自動車が必要ではない環境にいて、自動車をローンで買う必要がない。家とかは……独身だし必要ねえし。

 

だから、借金が怖い、借金はできない、なんて言えているわけだ。おれは借金できない、ローンを組まない。組めない。それだけだ。

 

クレジットカードくらいは使うよ

ま、それでもクレジットカードくらいは使う。ネット通販でもなんでも便利だ。ただし、一括払いという、ほぼ現金払いと変わらない条件でだ。

一括払いならば、まあその場で金を支払っているのと、そう変わらないだろう。デビットカード? デビットカードはいいと思う。でも、まあポイントとかなんとかもあって、デビットカードをメーンに使ってはいない。貧乏人だからポイントのことも考える。

 

でも、デビットカードの思想はいい。金を使う。口座から即座に金が減る。わかりやすいし、合理的だ。

納得のいく支払いだ。デビットカードはよい。すがすがしい。

 

一方で、すがすがしくないのがリボ払いである。リボ払い。リボ払いの悪魔。

リボ払いはやばい。ネットでクレジットカード会社関連のサイト以外を見れば、だいたいそんなことが書かれている。おれは算数、数字に弱いが、リボ払いはやばい、ということだけはわかっている。いや、わかっているつもりである。

 

だからな、いまさらリボ払いのやばさについて語ることもない。

でも、貧乏人からの見え方についてちょっと書いておく。月額定量、それも自分が払える範囲というのは、ちょっと魅力的に見えるかもしれん。え、五千円でいいの? みたいな。

 

だが、一瞬の魅力だ。もとより借金は絶対にだめだという価値観のもとに生きているおれなどは、こんなのは本当にあかんと思えてならない。

どんな将来まで、自分を信用するのか? できるのか? できねえだろ。クレジットカード会社が「計画的にご利用になれます」つっても、面倒くさい計算が必要だ。すくなくとも、おれには電卓でそんな計算できねえ。だからやばい。そんな感覚。

 

そんでもなあ、どっかの間抜けがリボ払いに支配されて、それがカード会社の利益になって、なんかおれにとってはポイントになって還元されてるとすればなあ、カード会社はがんばってリボ払いの間抜けを増やしてくれって思うぜ。

おれは弱い肉だが、もっと弱い肉もいる。そうやってこの世の地獄のピラミッドは成り立ってる。

 

しかし、借金もできねえ人生に喜びはあるのか?

と、ここまで「借金やばい」、「借金こわい」、「借金できねえ」って書いてきたけどさ、それっていいことなんか? 楽しいんか? 愛はあるんか?

 

というのもよ、消費者金融のテレビコマーシャルあんじゃん。なんとなく好感度の高い芸能人がお気軽、お手軽にみたいなやつとか。借金、危なくないよーって。リボ払いいいよーって。

 

そんでもさ、なかには、芸人とかが出てきて、なんとなくあのころ借金まで努力して今がある、みたいなの匂わすのあるじゃん。

あるいはさ、今しかできないからこそ、金を借りて、それこそ世界旅行みたいな体験しようってのがあんじゃん。

体験だよ、体験。若いころにしかできない体験。年寄りになってからバックパッカーもできねえみたいな。

 

そんなん見ると、ああ、おれの人生よかったんか? って思うわけよ。

おれはもう若くねえから、「今から金借りて世界を見聞しようか?」とは思わねえ。でもな、ひょっとして、若いころに金借りてでも、なにか自分の見聞を広めたり、自己研鑽とかいうやつしたら、おれも一回りナイスに稼げる人間になれて、収入も増えて、借金なんてらくらく返せて、ベリーベリナイスな生活を送れていたんじゃねえかって。

 

想像だ。妄想だ。ありえなかったことだ。すくなくとも、おれはそれを選ばなかった。というか、選ぶ余裕もなかった。

この余裕のなさよな。若いころもなかったし、今もない。

今、たとえば返すあてもなく百万円、あんたにとってははした金だろうが、百万円借金したとする。でも、その金でなにがほしいとか、どうやって遊ぶとか、まったく思い浮かばねえ。

 

おれは遊び方をしらない。人生の楽しみ方をしらない。

だったらもう、借金なんて余裕でして、そのときの欲望にしたがって、なんかやったり、得たりするやつの人生のほうがよっぽどマシじゃねえか。楽しい人生送れるんじゃねえか。

 

ああ、そうだ、おれはつまらない人間で、つまらない人生を送ってきたし、死ぬまでそうだ。一万三千六百円くらい残して死ぬ。

 

そんなら、プラマイゼロで死んだほうがいい。

つーか、この世のだれかから金を借りっぱなしで死んだほうが得だ。それが幸せな人生ってもんだ。金を残す家族もいねえおれにはそう思える。

 

今からでも遅くはねえ。金を、借りてやろうか? でも、使い道が思いつかねえ。欲望すらだれかに収奪されちまって、おれにはなんにも残ってない。損してんだよな、たぶん。

 

 

【お知らせ】
Books&Apps及び20社以上のオウンドメディア運用支援で得られた知見をもとに、実際我々ティネクト(Books&Apps運営企業)が実行している全48タスクを公開します。

「成果を出す」オウンドメディア運営  5つのスキルと全48タスク
プレゼント。


これからオウンドメディアをはじめる企業さま、現在運用中の企業さま全てにお役に立つ資料です。ぜひご活用ください。

資料ダウンロードページはこちら↓
https://tinect.jp/library/5skills48tasks/
メールアドレス宛てに資料が自動送信されます。

ティネクトの事業・サービス詳細はこちら

 

 

 

【著者プロフィール】

著者名:黄金頭

横浜市中区在住、そして勤務の低賃金DTP労働者。『関内関外日記』というブログをいくらか長く書いている。

趣味は競馬、好きな球団はカープ。名前の由来はすばらしいサラブレッドから。

双極性障害II型。

ブログ:関内関外日記

Twitter:黄金頭

Photo by :Annie Spratt