コンサルタントは聞き上手であれ、新人の時、そう教わっった。
具体的には、クライアントや部下と話すときには、例えば「話す」時間を2、とすると8以上の「聞く時間」を取れと言うのだ。
そのため、具体的には以下のような技術を、ロールプレイなどで身に着ける必要があった。
1.相槌をうつ
相槌は必須。
ただし、わざとらしくなく。大げさなのはNG。わざとらしいと嫌われる。
「オウム返し」に、簡潔に相手の言ったことを要約して繰り返す。
2.肯定も否定もしてはならない
安易に「わかった」と言うと嫌われる。「ちがう」と否定しても嫌われる。
「そうなんですね」「よかったですね」程度にとどめる。
3.相手を評価しない
相手の話を評価すると知らず知らず態度に出る。
「良い」も「悪い」もなく、相手がそう思っている、と言うだけの話だと割り切る。
悪く言えば、「お前がそう思うんならそうなんだろう、お前の中ではな」
4.意見を言わない
「どう思う?」と聞かれても、自分の意見は極力言わない。
どうせ相手は聞いていないし、ほとんどのケースでは意見を求められているわけではなく、同意を求められているだけ。
「ご想像の通りだと思いますよ」「おっしゃる通りだと思います」など、相手の期待通りの返事をするだけでいい。
5.アドバイスしない
ぜったいにアドバイスしない。アドバイスは嫌われるし響かない。
課題を話してもらったら「ではすでに対策をしておられるのですね。」と返す。
愚痴には「そうですか……(悲しい表情で)」と返す。
すると相手はまた、話しを始める。
6.話が途切れたら、むしろ沈黙する
相手の話が途切れたら、まずは沈黙して、相手が話し出すのを待つ。
こちらに何か求めているようならば、「じっと相手を見てうなずく。」
すると、また相手は話し始める。
7.好奇心を総動員する
平凡な人でも、何かしら面白い話を持っていて、かつ何かのプロである。
つまらないのは、自分の好奇心が足りないからと思うこと。
聞く価値のない話は一つもないと心得る。これは相手に対する礼儀でもある。
8.「商材の紹介をしてくれ」と言われた時だけ、最低限の情報を渡す
「商品の話」を聞かれたら、セミナーの案内をするか、◯万円でこういうものがあります。と言うだけにとどめる。
商材のアピールも、提案もする必要はない。
本当に相手がこちらを信頼しているときは、勝手に知りたがりの「聞き手」になって、質問をしてくる。
ほとんどの人は自分の話を聞いてくれる人が好きなので、「商品を売るな、自分を売れ」は真実。
*
どこかで聞いたような話かもしれない。
「聞く」系の本を読めば、大体同じようなことが書いてある。
別にそっちを見てもらっていい。
だが、「聞く」なんて、話さなくてよいのだから簡単だろう、と思って実践しようとすると、これが実に難しい。
なにせ、相槌一つでも、わざとらしくないようにやるには練習が必要だし、「肯定も否定もしない」で聞くのは、想像以上に神経を使う。
「評価をするな」と言われても、ひどい話を聞けば、「ひどい経営者だ」と思いたくなるし、「大きな課題なんだよね」と言われてそれを真に受け、長々と自社のアピールをしてしまうコンサルタントも大勢いた。
中にはどうしても黙っていられない人もいて、無理やり黙るために、自分の膝をがりがりかきむしってしまうようなこともあった。
だから本当に「聞き上手」になれる人は、実はものすごく少ない。
うんざりしただろうか?
もっともだ。
聞き上手のメリットを語る書籍は腐るほどあるが、実は「聞き上手になる」のは、実はあまり愉快なことではないし、「聞き上手になろう」というモチベーションもわきにくい。
その一つの理由は、「話し上手」は1対多のスキルで目立つが、「聞き上手」は、1対1のスキルで、それを知る人が少なく抑えられてしまうため、高い評価を受けにくいことだ。
営業やコンサルタント、記者あるいはカウンセラーでない限り、「聞く技術」が必須となるシーンは少ない。
もっとも、仕事もプライベートも、人間関係の改善には、それなりの効果があるのは間違いないけれど。
「聞き上手」の究極のデメリット
しかし、何より大きなデメリットは、「話す」より「聞く」ほうが、圧倒的に疲れる、と言う点だ。
疲れる、どころではなく疲弊する、と言っても良い。
私は業務において、「話し手」も「聞き手」も両方つとめたが、「聞き役」に徹した時には、1、2時間ほどであまりにも疲れすぎて、立ってられないほどだった。
しかも、仕事で聞き上手を演じると、家に帰るころには、精神的なリソースを使い果たしているので、プライベートでは「聞き役」をする余裕がなくなっている。
だから、家族から「話聞かない人だね」と言われてしまう可能性すらあり、コンサルタントの中には、それでプライベートに支障をきたしている人も多かった。
しかも、聞き上手になればなるほど、相手のためを思えば、どうしても「聞き役」のひとは、ずーーーーっと聞き役をやらざるを得なくなる。
「話したい人」は腐るほどいて、「聞ける人」が希少だからだ。
もちろんみんなが、持ち回りで「聞き役」ができれば一番良い。
だが、「聞ける人」は、相変わらず少ない。
結果として、多くの「聞き手」が、疲弊し、人嫌いになる可能性すらある。
「疲れるから、聞くのはイヤ」
「話すのも、(聞き手の気持ちがわかるし)嫌われるからもっとイヤ」
というわけだ。
これが究極のデメリットだ。
*
確かに、どんな人でも面白い話を持っているのは事実だった。
しかし、それを引き出すためには、大変な精神力を問われる。
疲弊してまで「聞き役」になりたいと思うだろうか?
それとも、人の迷惑を顧みず、話をしまくったほうが良いのだろうか。
私に答えはない。
ただ、これだけは言わせてほしい。
今日もクライアント、上司、パートナー、子供の話を、じっと聞かなくてはならない人たちの献身によって、皆が幸せになっているのだ。
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【著者プロフィール】
安達裕哉
元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。
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