社会を相手取って先進的な結婚を試みたが、結局普通の結婚に落ち着いてしまったというnoteを読んだ。

全く稼がない男性を何人も養ってきたけど、結局家庭は作れませんでした|トイアンナ|note

 

感想としては、やっぱり”その時代の普通”って強いよねというものだ。

 

読書でも「古典を読め、流行り物はダメだ」といったような言説をよく聞くが、伝統やら普通やらは、基本的には革新的なものよりも強い。

 

革命というのは、基本的には成し遂げられない性質のものである。

頭で考えたら、今よりも良いシステムなんかいくらでも作れそうに感じるものだけど、現実は基本的には強い。

 

世界を相手取って戦って、それに勝利を治めるという事の難易度は高い。

新しいものは魅力的にみえるものだけれど、残念ながら古臭いカビたものに大抵は勝てずに消えていく。

 

クラシックは強い。時の洗練だったり、一般人の非合理にもみえるが皆が選ぶ選択だったりってのは、間違いがない奴なのだ。

 

それはそうとして、個人の体験だったりを通じて獲得した観点というものの価値は大きい。先程のnoteにしたって、色々と学びになる箇所は誰にでもあるだろう。

 

結局、普通が良かったという結論だって、一周したからこその価値があるとも言える。

そういうフラットにみれば普通な帰着の中にも、ザラザラとした彩りのようなものを感じ取れるようになりたいものである。

 

このnoteを読んで、若かりし頃の自分がかつて得た仕事ならびに結婚に対する貴重な体験の事を思い出した。なので僕が大学生ぐらいの頃に得た貴重な学びを今日は書いていこうかと思う。

 

初のヒキコモリ体験はシンドかった

僕は大学に実家から通っていた。

大学1年生だか2年生の頃の話である。当時、一緒になって遊ぶような友人もおらず、お金もなかった自分は

 

「お金もないし、ヒキコモリでもやってみるか」

とふと思いついて実践してみる事にした。

 

親には「大学の勉強に集中したい」だとかテキトーな言い訳をして、僕は部屋から一歩も出ないで小説やゲーム、インターネットにズブズブな生活を楽しむ事にした。

 

当時はまたSNSがそこまで流行はしておらず、インターネット回線はつながっていたものの、現在のように他人と簡単に交流する事は不可能であった。

なので必然的に色々と遊び”だけ”に没頭する羽目になった。

 

最初の頃は…文字通り天国だった。黙ってても3食が出て、好きな時に起きて好きなだけ夜更かしをする生活は、まるで桃源郷のようであった。

「いやこれ最高すぎるでしょ。自分、ひょっとしてヒキコモリの才能があるのでは?」

 

そんな感じで2週間ぐらいは調子良く過ごせていたのだけれど、3週間目ぐらいから要素が随分と変わってきた。

 

その頃になると、もう全てのものに飽き飽きしており、新しいゲームを通販で買ってやっても何一つ心に響かない無風な生活だけが過ぎるようになっていった。

当時僕はあまり大学が好きではなかったのだけれど、それでも新学期が始まる事が妙に待ち遠しく感じたのを今でもよく覚えている。

 

そうしてカレンダーをみて、あと何日でシャバに出られるのかを何度も何度もカウントダウンするだけの日々が続いて…

最終日には誰よりも自由なはずだった自分が、誰よりも不自由を心待ちにしているという、本当によくわからない状態が訪れた事に、たただただ感動していた。

 

「ああ、ヒキコモリって全然ラクじゃないんだな…」

「ってかむしろこれ拷問だわ」

「人生にイベントがあるって、不快な事も多いけど、それ以上の益があるわ…」

 

そう心の底から納得できた貴重な体験であった。

 

疑似ヒキニートの生活をやって、共働き夫婦になろうと決心した

そうして疑似ヒキニート生活をやってしばらくしてから、ふと

「ひょっとして、働かないってメチャクチャ心の健康に悪いのでは?」

と思うようになってきた。

 

専業主婦という存在を揶揄するつもりはないのだが、それでも家しか存在場所が無いという事は心の健康にあまり良くないであろうという事は嫌というほどに先の経験でよく理解した。

 

それまでは僕も

「ヒキニートって…絶対に疑いようもなく最高でしょ」

と疑わなかったほどである。

 

将来結婚する時にパートナーが専業主婦になりたいと所望したとしたら…それが果たしてその人が考えているほどには楽しいものではないだろう事は、想像に難くはなかった。

なので冒頭のnoteとは全く別の観点からのスタートだが、僕は当初から共働き志向でもってパートナーを選択した。

お外でイベントが有るのは、絶対に心の健康を保つのに必須だと思っていたからだ。

 

もちろん…世の中には色々な人がいるので、ヒキコモリだろうが専業主婦だろうが、獄中生活だろうが監禁生活だろうが「全然いける」という人は多いだろう。

外でのイベントなんて要らないという人が存在していても、別にそれ自体は全然ありだと思う。

 

ただ…少なくとも自分はダメだった。

そして自分と似た考えを持つであろう将来のパートナーがその特殊な生活を楽しめるという事を…あまり想像できなかった。

結果、今は共働きで夫婦をやっているが、良くも悪くもよい塩梅で共同生活を過ごせていると思う。

 

時計の針を気にする生活だけはやりたくなかった

次に経験して良かったなと思うのが、暇なバイトである。

 

当時、僕は某百貨店にてレジ打ちのバイトをしていた。

レジ打ちは繁忙期と閑散期に物凄い波がある仕事で、年末年始なんかはシッチャカメッチャカな自体になる一方、本当に全然人がやってこなくて”無”なだけの時間を過ごす事もあるという、不思議な仕事であった。

 

こう書くと閑散期が楽そうにみえるかもしれないが、実際に一番シンドかったのは実は閑散期だ。

シーンと誰も来ず、かといってお喋りもできない環境は刺激が無さ過ぎてシンプルな苦しかない。

 

アルバイトが終わるまであと何分あるだろう?と時計をみて、また少しボーッとして「えっ、まだ3分しかたってないの?」を何度も何度も繰り返すのは今までの人生の中でも屈指の苦行であった。

これを経験すると、逆にやるべきことが目の前にあることの有り難さを本当に心の底から痛感した。

 

仕事に集中していると、気がつくと時間が過ぎ去っており、あの無限にも思える何もできないという待機時間が無くなる。

忙しすぎるのはそれはそれで辛いので、適度に仕事があるのがベストだ。

 

この経験を通じて、僕は1つ心に誓った事がある。それは

「どんなに楽そうにみえても、時計の針を気にするような仕事だけは絶対に辞めておこう」

というものだ。

 

その後、新卒で入った病院は日本でも有数の超激務病院だったが、本当に全くといっていいほどに時計の針を気にせずに仕事ができたというのは良かったなと今でも思う。

 

確かに…忙しくて眠くてパワハラも食らって、楽ではなかった。

しかし、時間は一瞬で過ぎ去ってくれていた。時給換算なんて全く考えずに、純粋に仕事だけに没頭できる事のありがたさを心の底から痛感した。

 

時計を気にしなくてもよいという事には、最高の価値がある。

単価みたいなものだけをみてコストとパフォーマンスの関係だけに腐心するようなのは、一見すると賢いようでいて実際には賢くないのだなという事を本当によく理解できた貴重な体験であった。

 

妄想は残念ながら体験を超えない

人間、生きていれば色々ある。

上に書いた僕の経験も、その当時はどちらかというと「なんでこんな事をしているのだろう…」としか思えないようなものだった。

 

夏休みに彼女と旅行に出かけただなんて話だとか、海外の研究施設にいって実験をやったりだとか、そういうキラキラとした経験をした人の話を聞く度に

 

「ああ、なんで自分はこんなしょうもない体験しかできないのだろう」

「俺もあれがやりたい人生だった」

「羨ましい…」

 

と思うものだった。

 

しかし…今になってみるとその当時僕が羨ましいと思えた体験に何の価値も感じない。

もちろんこれは僕が今、それなりに充実した経験をしているというのも大きいとは思う。けど、それ以上にどう考えても「あの時にしかやれないユニークな体験」ができて本当によかったとしか思えないのだ。

 

いま40日もの間、自室に籠もって、その上で再び社会復帰するのは困難だろうし、閑散期と繁忙期の両方のレジ打ちの経験をするのだって難しい。

逆に彼女との旅行だとか、海外短期留学は良くも悪くもそれがその後の人生にまで響く何かにつながったようには自分には全く思えない。

 

いや、ひょっとしたらやったら何かの学びはあるんだろうけど、果たして今回書いた事以上の学びをそこから引き出せたかというと…正直僕にはあまり自信がない。

 

結局、人生というのは何でも学びになるという事である。

当時は「こんな下らない事…」と卑下するようなジメジメした思い出こそが、キラキラしてみえる行いよりも尊かったりするようなものなのである。

 

ただ…妄想だけは残念ながら体験は超えない。だから何でもいいから、実験して体験して、そこから何かを学ぶのがよいのだと思う。

 

それは何にでもなる。本当の本当にそうなのだ。

 

 

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【著者プロフィール】

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高須賀

都内で勤務医としてまったり生活中。

趣味はおいしいレストラン開拓とワインと読書です。

twitter:takasuka_toki ブログ→ 珈琲をゴクゴク呑むように

noteで食事に関するコラム執筆と人生相談もやってます

Photo by :UnsplashRitupon Baishya