今回は「実は怖い人たち」の話です。

 

いったい、誰が怖いのか。

社会で本当に怖いのは、怒鳴り散らす人ではありません。

「下の人の話をちゃんと聴く」人たちです。

 

「コミュニケーションお化け」とでも呼ぶべきでしょうか。

 

いったいなぜでしょうか。

それは、「聴くスキル」を駆使できる権力者には、ごまかしが効かないからです。

 

 

拙著「頭のいい人が話す前に考えていること」にも書きましたが、社会人になると「話すスキル」よりも「聴くスキル」が圧倒的に重要になります。

これには二つ、理由があります。

 

一つは、相手の情報を取るため。

そしてもう一つは、相手との関係を良好に保つため。

もう少しイヤな言い方をすれば、相手をいい気分にさせるためです。

 

相手の情報を取る

まず、相手の情報を取ることは、コミュニケーションを有利に進めるための基本中の基本です。

 

相手のことを知らないと、地雷を踏む可能性があり、何気なく放った

「先輩は入社何年目なんですか?」

という質問に対して、先輩が心の中で

「悪かったな、俺はもう10年目だけど、平社員なんだよ

と思うことを防げます。

 

大げさではありません。

本当にそういう事を思う人がいるので、コミュニケーションは難しいのです。

 

でも、それを防ぐのは難しくありません。

「聞いた情報」をもとに話せばいいのです。

 

先輩が「もう10年目だけどさ」と言ったときにはじめて、

「10年目なんですね。2013年入社ですかね」

と客観的事実だけを返してあげれば、まず地雷を踏むことはありません。

 

コミュニケーションは一種の情報戦です。

ですから、よく知らない人同士の会話が、互いに地雷を踏まぬように、究極の事実である「天気の話題」から入るのは定石なのです。

 

相手をいい気分にさせる

そして「聴く」のが大事な理由の二つ目には、「相手をいい気分にさせる」効果があるからです。

 

大半の人は「自分語り」が大好きです。

それは、多くの人が承認欲求を抱えており、褒められたいのに、褒めてくれる人がいないからです。

友達も、大事なパートナーですら、そんな簡単に「黙って話を聴き、褒めてくれる」人は、そうそういません。

 

ですから「話を聴いてくれる人」は、重用されます。

少なくとも、嫌われることはほぼ、ありません。

 

ですから、私のコンサルタント時代の上司は「お客さんと話すときには、聴く時間を少なくとも8割、話す時間は多くても2割にせよ」と、コンサルタントたちにきつく命じていたのです。

 

コミュニケーションお化けの怖さ

このあたりまでは本に書いてあります(と思う)。

そしてここからが、今回の本題です。

 

実は、お気づきだと思いますが、上の話は「コミュニケーションレベルの高い人は、当然のごとく身に着けている技術」です。

 

なので、「できる」営業や、人望のある経営者のような、ごく一部のコミュニケーションお化けたちも、それを駆使してきます。

例えば、

「優しい先輩」

「できる管理職」

「人望のある経営者」

たちは、相手に喋らせようとしてきます。

 

そもそも、彼らは自分語りで、承認欲求を満たす必要がありません。

実績で十分、承認欲求を満たせているからです。

 

ですから、ほぼ例外なく「コミュニケーションお化け」たちは、「聴く側」に回ることで、抜け目なく「こちらの承認欲求を満たす側」に回ろうとしてくるのです。

 

しかし、実はそれこそ、私たちが真に試されている場面なのです。

「どんな価値観で動いているのかな」

「この人の話は、どれほど信憑性があるのかな」

「好き嫌いは強いのかな」

「学や教養はどの程度かな」

と。

 

そこでは、ごまかしが一切、通用しません。

しかも、その評価の結果は、多くの場合教えてもらえません。

 

当然ですよね。

相手への評価など、開示しないほうがいいに決まっています。

 

だから、怖いのです。

「安達さんの話、面白いね」と面と向かって経営者に言われたら、それは喜ぶべきシーンではありません。

むしろ、褒められたことで恐怖に震えるべきです。

 

コミュニケーションお化け同士は、本音の語り合いになる

では、コミュニケーションお化け同士の会話はどうなるのか?

 

これは、とても意外ですが、「化かしあい」かと思いきや、「本音がぶつかり合う場」になりやすいのです。

 

コミュニケーションお化けたちは、最初の10分くらいの会話で、相手がコミュニケーションお化けかどうかを判断できます。

そして、「相手がコミュニケーションお化けだ」とわかると、「小細工は辞めて、単刀直入にいっても大丈夫そうだ」と判断するのです。

 

だから、できるコンサルタント同士の会話は、観察していると、意外にも「本音でぶつかる」という事が発生しやすかったです。

 

わたしも新人時代には、先輩たちに話をよく聞いてもらいました。

でも、それは「未熟」だったからです。

 

コンサルタントとしての技術を身に着けるにつれて、先輩たちはどんどん辛らつになっていきました。

「その定義はおかしくない?」

「もっといい案があると思います。」

「ブーな態度だ。」

でも、そういわれるようになって初めて、一人前だと認められたことになるのです。

 

巷にはスタートアップの経営者などが

「わが社は、遠慮なく意見を言うことが求められる」

と自慢げに語る本がたくさんあります。

 

しかし、それは文化がそうなのではなく、

「コミュニケーションお化けがそろっている」

と考えたほうが実情に近いでしょう。

 

 

記事が面白いと思っていただけたら、ぜひ、本を買ってくださいませー

 

 

 

 

【著者プロフィール】

安達裕哉

元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。

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