ライター仕事をしていると、やたらと主語の大きな話を書かざるをえないことがある。

 

クライアントの性質にもよるが、往々にして求められるのは大きな主語について、可能な限り簡潔に、できれば断定調でまとめること。

しかも、中には結論ありきで書いてくれと頼まれたり、穏やかにまとめた内容を過激に書き換えられたりすることもあるからややこしい。

 

例えば、「中国人はなぜ金への執着心が強いのか」というテーマで文章をオーダーされたとする。

この場合、主語は人口にして14億人を超える「中国人」。

大きいどころの話ではないが、それをひとくくりにして何かを語れと言ってきているわけだ。

 

当たり前だが、自分は14億人の中国人全てを知っているわけではなく、彼らの金への執着心が強いかどうか、究極的には確たることは言えない(まあ強いと思うが)。

 

むろん、仕事だからやりはするが、自分の場合、書き進めながらも絶対に忘れないようにしていることがある。

それが、「この主語、大きすぎんじゃね?」という戒めの心。

何もライターに限らずとも、われわれは会話や文章の中で、つい壮大なテーマについて語りがちなものである。

 

だが、「大きいことはいいことだ」とばかりにデカすぎ主語で物事を論じてばかりいると、思わぬ落とし穴が待っている。

それは、一度はまると抜け出せない無間地獄……とまでは言わないが、話の通じない人と化したり、自尊心が過度に肥大した面倒な人になったりと、症状は人それぞれだがやっかいなことに違いはない。

 

そんなモンスターになる前に、「この主語、デカすぎかも」といった慎みの思いを、常に頭の片隅に置いておくといいんではあるまいか。

というか、頼む、置いてくれ! といった話について、以下筆者の私見を語ってみたい。

 

大きな話にしばしばつきまとう陥穽

世の中にはやたらとスケールの大きな話を好む人がいる。

一方、その方の知識や経験が話の大きさに必ずしも伴っていないことは、往々にしてあるものだ。

 

それ自体は何もおかしい話ではなく、職場やネット界隈、はたまた立ち飲み屋のカウンターなど、どこででも見られる事象である。

酒場でホッピーを飲りながら、「男ってのはヨォ……」と語る赤ら顔のおじさんに、「その主語、大きすぎますよね?」などと突っ込むことほど無粋な話はない。

 

ただ、その架空のおじさんを責めるつもりは毛頭ないが、冷静に考えれば「男とは」「女とは」というのは主語の大きな話の最たるもの。

酒を酌み交わしながら気の合う仲間同士で語っている分には平和だが、ネット界隈では「結局男って」「だから女は」といった話題から激しいレスバトルに発展することも珍しくない、というか多い。

 

むろん、しっかりと該当するテーマについて研究し、信念を持って果敢に議論に加わる人だって大勢いるのだから、主語の大きい話自体が良くないということでは決してない。

また、そのような話題を避けるのは会話や文章の幅に枷をはめることになるし、そもそも他者が何かを主張することについて、その内容が法律に触れたり誰かを傷つけたりするものでない限り、止める権利など存在しないと思う。

 

ただ、筆者が重要だと思うのは、主語が大きい話をする時は、ある種の自覚を持つことだ。

要するに、自分の知識や経験を総動員してもなお足りないであろう大きなものについて語るのだから、認識違いもあるだろうし、反論だってくるかもしれず、せめてそれを謙虚に受け止める心を持つべきなのである。

 

話の通じない人にならないために

大きい話をする時は当然異論・反論が来るものと予想して、相手が正しければ素直に認め、間違っていると思うならば主張を貫く。

この思いなくして自信たっぷりに主語デカトークを繰り広げ、反論されると感情的になったり相手に何らかのレッテルを貼り付けたりしたがるタイプが、ネット界隈を中心に世の中には割といる。

 

さらに言えば、この傾向が高じると、大きな話を好む人は自分の考えを絶対化してしまうことがある。

つまり、自分の意見は絶対正しいという鋼の信念の持ち主なわけだが、自分のプライドでそう思い込んでいるだけなら、単なる悲しい人なので放っておけばよい。

 

むしろややこしいのは、善意や正義心、主義主張といったものによる己の意見の絶対化もあることだ。

本人は、心から正しいと思って自説を貫く。

そんな時、客観的にどう考えても否定できない事実を伴う反論を投げかけられたら、どうなるか。話題をそらしてくることもあれば、事実ではない、フェイクだと言う人もいるだろうし、ガン無視して同じ主張を続ける人だっているだろう。

 

こうなってしまったら、もはや話が通じる相手ではない。

対処法としてはやはり放置しかないのだけども、中にはやたらと声が大きかったり、そこそこ影響力がある人もいたりする。

 

そして、自分は一応出版や報道関連の経験があるので確証を持って言えるのだが、こういう人は一部メディアにとって利用価値がある。

何しろ、読者なり視聴者なりの注目を集めやすい大きな主語について、可能な限り簡潔どころか人によってはロジック抜きに、思いっきり断定調で何かを語ってくれるわけだ。

 

ちなみに、筆者はこのペンネーム以外にいくつか別名義で書き物仕事をしており、時おり週刊誌の案件を受けることがある。

と言っても自分の見識では大したことは語れないという思いがあり、基本得意分野の下世話なトピックに仕事を絞るようにしている。

 

ところがある時、担当編集が何を勘違いしたのか、中朝関係の記事をオーダーしてきたことがあった。

いや、そんなの分からんしと思いつつも一応質問項目に目を通したところ、視界に入ってきたのは戦慄を覚える次の一言。

 

「北朝鮮は今年、核実験を実施しますか」

 

聞く相手を間違っているとかそういう話以前に、あなた今すぐ編集やめなさいと言いたくなる問いである。

こんなことに答えられる人がいると本気で思っているのかと正直言って相手の頭を疑ったわけだが、少し冷静になって考えると、「まあ、いるんだろうな」とも感じた。

 

自分は全くの変人ライターにすぎないが、少なくともそういうお座敷芸人のような書き手であったり、「信念の人」「言論的に無敵の人」にはなりたくないというのが、偽らざる本心だ。

むろん、己の見識を超える主語の大きな話を言ったり書いたりすることはあるけれど、できるだけ断定は避け、何事も批判や反証が当然来るものと考える。

 

そして、持論を否定されたからといって、相手にプライドファイトを挑んだりせず冷静に異論を受け止める。

この気持ちを持つだけで、少なくとも話にならない人になることは避けられると思うんである。

 

また、メディア関連に限らずとも、周囲を見渡せばやたらと大きな話をする一方、目の前のことがおろそかになっている人というのは、しばしば目にするものだ。

 

自分がかつて日本の出版社に勤めていた頃にも、「編集者とは」「今後の出版業界は」と熱く語る先輩や同僚は珍しくなく、若かった自分は適当に相槌を打っていたものだった。

ただ、あくまで筆者個人の体感的な感想にすぎないが、その手のトークを好む方は、話の大きさに反比例して実務に穴が多かったように感じる。

 

出版業界の未来予測を語るのも重要かもしれないが、それより面倒な仕事をこっちに押し付けつつ、ホワイトボードに「打ち合わせ→直帰」とか書きなぐってどこかに消えるの、やめませんか。

というか、そんな人が語る業界の未来って一体、となるわけだが、当人はすでに「俺が正しいモード」に入っているので永遠に気付かない。

 

結局のところ、何を語ろうが各人の勝手であり、モンスター化するのも本人の自由。

だが、そうはなりたくないと思う気持ちがあるのなら、大きな話をする時ほど慎み深さと謙虚さ、そして反論を受け止める度量を持ちたいものである。

以上、自戒を込めて。

 

 

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(2024/1/22更新)

 

 

 

【プロフィール】

御堂筋あかり

スポーツ新聞記者、出版社勤務を経て現在は中国にて編集・ライターおよび翻訳業を営む。趣味は中国の戦跡巡り。

Twitter :@kanom1949

Photo by Rob Curran