はじめに今日の内容の要約を置いておきますね:

不可視のルールや制度によって私たちの社会適応は大きく左右されるが、それらは時とともに変化する。だから私たちは身の回りのルールの変化をよく知っておくべきだ。

またルールはライフステージの変化によっても変わる。ライフステージの変化によるルールの変化に無自覚な人は、ライフステージの変化に乗り遅れたり、変化の後に見当違いの努力を積み重ねたりするかもしれない。外からやって来るルールの変化だけでなく、内から起こるルールの変化にも機敏でありたい。

人間は自由のようでも案外不自由でもあり、世の中のルール、職場のルールに常に縛られています。

人生の選択だってそうですね。自由と言えば自由ですが、実際には人生選択についてまわる色々なルールにどうしても束縛されてしまいます。

 

たとえば女性は35歳を過ぎると急速に妊孕性が低下していくので、それ以上の年齢でパートナーを探したり子どもをもうけたりする難易度が急上昇します。

これは人間の生物学的な仕様に基づいたルールですから、「そんなルール知らなかった」とアラフォーになってから愚痴っても仕方ありません。事前にルールを知ったうえでよく考え、対策すべき課題です。

 

さて、そういったルールのなかには時とともに変わっていくものがあります。

スプラトゥーン3更新データ | Nintendo

本ソフトの更新データの内容は下記となります。プレイされる際には、お手数をおかけいたしますがダウンロードをお願いいたします。

上掲リンク先は任天堂の人気ゲーム『スプラトゥーン3』のルール変更を知らせるページです。現在は2023年9月15日に更新された、バージョン5.0.1のルール変更について記されています。

 

この手のゲームをプレイしたことのある方ならご存じかと思いますが、バージョンが変わってルールが変わると、ゲームのなかでの最適解、有利不利といったものも変わります。

スプラトゥーン3に限らず、いまどきのオンラインゲームでたくさん勝ちたい・有利にゲームを進めたい人にとって、新ルールの把握とそれを踏まえた戦術・戦略の練り直しは必須と言えるでしょう。

 

で、これってオンラインゲームに限らず、世の中や世間にも言えることじゃなかったでしたっけ?

 

世間の、環境のルール変更に気付けていますか

ルールが変わり続けているのはオンラインゲームの世界だけではありません。社会や世間、会社や職場のルールも常に変わり続けています。

ルールが変わっているのにそれに気づかず、ルール変更前と同じ振る舞いをしていたらリスクが生じたり効率性が低下したりするかもしれません。

 

世間のルール変更のなかで最もわかりやすい例は、法律や条例の変更でしょうか。

たとえば店舗で特定の品物を扱ってはいけない、もし扱うとしても法令に従った扱いをしなければならない、といったルール変更が通知されていたのに、気づかないまま品物を扱っていれば罰則を課されてしまうでしょう。建設業でも医業でも運送業でも、布告されたルール変更に気付かないなんてとんでもないことです。

 

ですが、何事も法律や条例の変更のようにわかりやすいルール変更ならいいんですけどねえ……。

 

 

再びスプラトゥーン3を挙げてみます。この上掲スクショが示すように、任天堂の運営さんはプレイヤーにルール変更をわかりやすく告げてくれます。

 

ウェブサイト一読すれば、ゲームそのもののルール変更だけでなく、個別の武器やアイテムが今後強くなるのか、弱くなるのか、使い勝手がどう変わるのか、スプラトゥーン3の変更点を一望できるでしょう。

でも、世間のルール変更、私たちが生きている環境ひとつひとつのバージョン変更は誰も告げてくれないし、言語化してくれないんですよね。

 

たとえば会社のトップ層が入れ替わった時や取引先の担当者が変わった時、表向きの人事異動に加えて裏側でどんなルールの変更が行われるのか? または、これから行われそうなのか? そうしたことを任天堂の運営さんのようにわかりやすく告げてくれる人はいません。

 

その手の不文律の場合、変更は完全に他人任せのものではなく、ルールに関与するだけの権限と巧さを持った人なら自分自身も不文律をつくりあげる一部になれるかもしれません。が、その点も含めて、これからのルールを見定めたり、今、どのようにルールが変わろうとしているのか風向きを推し量ったりするのは簡単ではなく、自分で情報を集めて考えなければわからないままです。

 

逆に言うと、世渡りのための重要な資質のひとつとして「その場のルールの把握」というものがあるように思われます。

自分が異動するにせよ別の誰かが異動するにせよ、人が入れ替わった時に起こる不文律の変化をできるだけ早く・できるだけ正確に読めることは、新しい環境下で活躍するうえで有利です。

 

その職場・その環境で影響力のある人の言動や価値観、実際に起こった出来事、人と人との協力関係や競合関係などをじっと見つめ、不文律の動向を類推するくせを若い頃からつけておけば、そうしたものは読み取りやすくなるかもしれません。

そのために必要なのは、なにより、その世間・その職場・その環境に関心を持つことでしょうか。関心を持たないものは意識できず、意識できないことはわからないままです。

 

世間に興味がない・職場に興味がない・その場の環境や人間関係に興味がなければ、そのぶん、そこで変化しているルールの実態を把握するのも遅れるでしょう。

大事なことなので二度書きますが、関心を持たないものは意識できず、意識できないことはわからないままなのです。

 

自分自身が変わってもルールが変わる

さて、ここまでは世間や職場や環境によるルール変化、いわば外からやってくるルール変化について述べました。

でも変化は外からやってくるとは限りません。ライフステージの進行によるルール変化、加齢によるルール変化は内からやってくるルール変化だと言えます。

 

ライフステージの変化によるルール変化、については、先日、高須賀さんが良いことをおっしゃっていました。

これらは本当にそのとおりですよね。私たちはライフステージが変わるにつれて、小学生時代のルール、高校入試や大学入試時代のルール、大学生時代のルール、就活のルール、社会人のルールへの適応を迫られます。小学生時代のルールに最適だった人が入試時代のルールに最適とは限りませんし、入試時代の覇者が大学や大学院の勉強に最適とも限りません。

 

器用な人なら、そうしたルール変化を察知し、ライフステージごとに最適な立ち回りをやってのけるでしょう。でも、それは簡単なことじゃないし、どんなライフステージでも最強でいられる人なんて滅多にいないでしょうけど。

 

百戦して百勝の人生なんてありえません。高須賀さんは「自分が今やってるゲームで劣勢でも、ルールが変わればこの限りではない」と述べています。だから絶望しすぎるのは違う、と。

と同時に、同じゲームルールが永遠に続くと期待するのも無理だよねとも指摘しています。一切が過ぎ去っていくなか、私たちは箱根駅伝のリレーのように、上り坂下り坂のある人生を生きていかざるを得ない──。

 

こうした、「ルールはライフステージにあわせて変化する」ことを念頭に置くなら、ライフステージの一時期に勝者だったことにこだわり、その当時のルールに基づいて考え行動するのは利口なことではない、と心得るべきでしょう。

 

たとえば就職し実務に就いてからも入試時代のルールに基づいて自他を評価すること、結婚し子育てが始まってからも婚活時代のルールに基づいて自他を評価すること、どちらも実用的ではありません。というより、そんなことを続けていれば不適応に至ってしまうリスクがだだ上がりです。

 

身体的なエイジングによって最適な戦術・戦略が変わる点にも注意が必要でしょう。一般に、若い頃は体力や体調がボトルネックになることは少なく、年を取れば体力や体調がボトルネックになりがちです。

体力や体調が変わるとは、グリーン車やビジネスクラスを使う価値が変わることでもあり、一日二十四時間の間に自分がこなせるタスクの上限や無理をした時の故障のしやすさ・回復しにくさが変わることでもあります。

 

身体的なエイジングに関しては、たいていの人の場合、「体力が落ちてきた」「歳を感じてきた」と感じるままに行動やライフスタイルも変わって、年齢相応になっていくので問題ありません。

 

ところが全員が全員そうではなく、なかには頑張ってしまう人もいるんですよね。

頑張ってしまう理由が意志が強いせいなのか、特定のライフスタイルへの固執や老いへの怖れなのかは、ここでは問いません。

どうあれ、身体的なエイジングという自分の内側のルール変化を無視し続ければいつか無理が来ます。

 

無理のしわ寄せは、脳梗塞や狭心症といった身体疾患として具現化するかもしれませんし、うつ病をはじめとする精神疾患として具現化するかもしれません。

自分の内側のルール変化をなおざりにした時のペナルティは、ときに、外側のルール変化をおざなりにした時のそれを上回ります。

 

まとめると、渡世にあたっては自分の内側と外側のルールの変化に自覚的であったほうが良い、というのがこの文章の主旨となります。

一切がはかなく過ぎていく浮き世のさだめのなかで、少しでもうまく生きたり、少しでも面白く生きたりする助けとして、変化に開かれた感じで生きていきたいものですね。どうか良い変化で、良い人生を。

 

 

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(2024/4/21更新)

 

 

 

【プロフィール】

著者:熊代亨

精神科専門医。「診察室の内側の風景」とインターネットやオフ会で出会う「診察室の外側の風景」の整合性にこだわりながら、現代人の社会適応やサブカルチャーについて発信中。

通称“シロクマ先生”。近著は『融解するオタク・サブカル・ヤンキー』(花伝社)『「若作りうつ」社会』(講談社)『認められたい』(ヴィレッジブックス)『「若者」をやめて、「大人」を始める 「成熟困難時代」をどう生きるか?』『健康的で清潔で、道徳的な秩序ある社会の不自由さについて』(イースト・プレス)など。

twitter:@twit_shirokuma

ブログ:『シロクマの屑籠』

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Photo by:Brianna Tucker