わたしが前職のデロイトで中小企業・零細企業のコンサルティングをしていた時、経営課題で多かったのは人、そしてお金にまつわるものでした。
例えば「人材育成」については、ほぼすべての企業が悩みを抱えていました。
しかし、一般的には研修はそれなりにお金がかかります。
社内で研修をやれば、少なくとも1回あたり30万円程度、時に100万円以上かかる例も珍しくありません。
そこで我々は「複数社合同の集合研修」を提供しました。
一か月あたり数万円を支払えば、「100以上ある研修が受け放題になる」というものです。
結果的に、安価な研修サービスは、東京・名古屋・大阪で合わせて6000社以上の契約を獲得し、爆発的に売れました。
しかしその金額でも、零細企業にとっては「痛い」金額であったようです。
営業の際によく聞かれたのは「補助金は使えますか?」でした。
わたしは補助金に疎かったので、そういう時には専門の士業の方を紹介していました。
しかし、本音を言えば、月に高々数万円程度で補助金をもらう、というのも、何か面倒な気がして、顧客に積極的に紹介をしていなかったのも事実でした。
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ところがその後、自分が独立して、零細企業を経営するようになったとき。
「補助金はつかえますか?」
と聞く社長の気持ちは、痛いほどよくわかるようになりました。
資金が潤沢で、赤字でもいいからとにかくスピードが重要なスタートアップであれば別ですが、基本的に個人事業主や、零細企業は手元の資金を大事に使わなくてはなりません。
見栄を張って安易に固定費を増やせば、後で地獄を見るのは社長自身です。
だから、基本的には「使えるものは全部使う」という経営者のほうが、絶対に会社はうまくいきます。
くだらないプライドは捨て、キャッシュに最大限気を配ることが、生き残ることの鉄則だからです。
実際、私個人も、カッコ悪くとも「ケチ」に徹することで、自分の会社を10年間生きながらえさせることができたと認識しています。
全部失っても「むしろいい経験」と評価される20代の起業と、家族の面倒を見なければならない社員がいる30代後半の起業とは、全く思想が異なるのです。
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しかし、補助金や助成金には、大きな欠点があります。
それは、「どうすれば受け取れるのか、わかりにくい」ことです。
どの程度のお金が出るのか?
審査に通る可能性はどの程度か?
補助金を受け取れる条件は何か?
そもそもどんな補助金が存在しているのか?
そうした基本的なことすら、知るには調査のための努力を要します。
補助金の原資は税金ですから、不正受給を防ぐための仕組みが数多くあり、お金をもらうためには、複雑怪奇な条件や規約を読みこなし、かつ申請書類を不備なく仕上げ、期限内に提出して審査を受けなければなりません。
しかもそれを、通常業務をやりつつ、並行で進めるのは非常に大変です。
補助金によっては「業務分析をやり」「課題を特定し」「ソリューションを選定・決定し」てからでなければ、受けられない補助金もあります。
経営者の時間単価は高いですから、補助金を受け取っても、対応の時間を考えると結局マイナスだ、ということも。
顧問の会計士や税理士が、こうした補助金に詳しいことが求められるのも、こうした背景からでしょう。
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しかし最近では、補助金に詳しい会計士、税理士は増えています。
また、お金のない零細企業や個人事業主に対しての公的な支援も厚くなっています。
例えば東京都で言えば、デジタル化の領域に関しては、東京都産業労働局が主幹する「デジナビ」があります。
「デジナビ」は都内の中小・零細企業や個人事業主に対して、現状分析とデジタル化の提案、そして助成金や補助金などの提案を無料で支援する公的サービスです。
例えば最近この制度を使った会社に対して、支援後に実際に提出された「提案書」の一部が以下のものです。
70%~80%という採択率の高さと、条件によってハードウェア購入ができるとの理由で、かなりの人気を誇っている、IT導入補助金をはじめとして、デジタルツール導入助成金など、各種の助成金の提案が行われました。
注意点としては、申請自体は当事者で行わなければならず、また、採択される保証もありませんが、こうした補助金がいつまでに、どのような目的で、どのような道筋で申請できるのかを知るだけでも、大きな時間の節約になるでしょう。
「デジナビ」は、特に零細企業、個人事業主の方に大変数多くの申し込みをいただいているとのことで、600を超える参加企業数の枠がもう少しで埋まってしまうとのことです。
ご興味がある方は、早めにお申し込みください。
【著者プロフィール】
安達裕哉
元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。
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