とある食事会で、ベンチャーキャピタルで働く方から、若い起業家志望者たちの様子を聴く機会があった。

 

曰く、最近の若手は、頭もいいし、やる気も情熱もある。

しかし。

事業を立ち上げるうえで、一番大事な「泥臭く営業をする」ことを嫌うという。

それがまさに、一番大きくて、一番解決しにくい課題なのだそうだ。

 

すると、その場にいた、起業家の一人も、それに相乗りするように言った。

「……若いとき、泥臭く営業することを覚えておいて、ほんとうによかったと思います。」

 

泥臭い仕事をしてきたようには全く見えない方だったが、その起業家は言った。

「若いときは散々「テレアポオリンピック」なんて言って、飽きるほどテレアポやらされました。ひどい仕事でしたけど。」

 

ベンチャーキャピタルの方はこう言った。

「営業ではなく、プレゼンか、ピッチとかばっかりうまくなってね。イヤでも何でもやらないといけないんですけどね……。」

 

クソ仕事の思い出

そんな話を聴きながら、私も数々の「イヤな」仕事を思い出した。

 

一番思い出に残っているのは、30歳くらいで、中小企業向けのコンサルティング部隊を立ち上げに参画した時のことだ。

 

当時の社長は、年次や職位に関係なく

お前たちも中小企業の社員の気持ちをわかる必要がある。テレアポも飛び込みもやれ

と私たちに命じたのだった。

 

もちろん、社長の命とあれば、「やる」以外の選択肢はない。

まさか、自分がテレアポと飛び込みをやるとは思っていなかったが、とにかく手探りで始めた。

 

テレアポは東京商工リサーチから名簿を買って、朝から経営者のいそうな時間を狙って電話をかけるのだ。

ただ、名簿の中身はほとんど精査されていないので、怒られたり、秘書にシャットアウトされたり、時にはトラック運転中の(社長らしき)運転手さんに電話が転送され、「今さ、運転中だから、そういう話はあとにしてくれない」と言われもした。

 

また、私の飛び込み担当のエリアは茅場町から八重洲にかけてだった。

セキュリティがなく、オフィスまで入れるタイプのビルを狙って入り、上から下まで「人事の責任者の方いますか?」と尋ねて回った。

 

時には、「大変だねえ」と同情してくれた社長もいたが、たいていは冷たく追い払われた。

 

そうして、一日の終わりに、何名の名刺を集めたか、チームの皆で比べるのだ。

だいたい1日に20枚、時には30枚ほどの名刺を集めた。

 

そうして泥臭く、少しずつ仕事をかき集めて、数字を作っていく。

あと数社で期末の数字を達成、という時には、社長に土下座をして仕事をもらったこともある。

 

「やるべきこと」は、一切の躊躇なく「やらねばならない」

しかし、今思い起こすと、当時の上司が、私にこうした仕事をやらせたのは正解ではあったと思う。

 

一つには、実際に数字をつくれたこと。

全員で地道に営業をした結果、サービス開始5年で約6000社のクライアントを開拓した。

 

そしてもう一つは、中小企業の「泥臭い商売」を体感できたこと。

コンサルタントでありながら、飛び込み営業やテレアポを実務としてできるという経験は、「口だけ」と言われがちなコンサルタントの中にあって、中小企業の社長からは可愛がってもらえた。

そしてなにより、こうした経験は起業に大変役立った。

 

 

前にも書いたことがあるが、かつて、「ザッポス」という、巨大な靴のECサイトがあった。

 

その創業者のニック・スインマーンは非常に賢い人物であったが、泥臭い行動力もあった。

靴をオンラインで買う顧客がいると仮説を立てたらすぐに近所の靴店に頼んで、在庫の写真を撮らせてもらい、その写真をwebに掲載、それを誰かが買ってくれたら、お店の売値で買うと靴店に交渉したのだ。

彼らは大成功し、結局Amazonが12億ドルで買収した。

 

2007年にイギリスで生まれたビールメーカーのスタートアップ「ブリュードッグ」は、ガレージで少量醸造し、手詰めしたクラフトビールを地域に販売するところから始まった。現在では、彼らは世界No.1のクラフトビールメーカーとなっている。

 

その創業者のジェームズ・ワットは、「頭を下げ、バーターでも裏技でも何でも使え」と著書の中で述べており、創業時には「全部自分たちでやった」という。

思い返せば、ぼくらは全部やった。

ブリュードッグを始めてから数年間、ぼくら2人は、バーコードの使い方や商標登録、ラベルのデザイン、壁の立て方、ウェブサイトのつくり方、会計、インボイスの作成、溝の掘り方、助成金の申請、醸造設備の据え付け、動画編集、ボトリング機械の修理、その他いろいろのことについて、あっという間に詳しくなった。

全部自分の手でやる以外に選択肢がなかったからだ。

「結果を追求する」なら、つべこべ言わず、「やるべきこと」は、一切の躊躇なく「やらねばならない」

ビジネスをやる、商売をする、とは結局そういうことなのだ。

 

ただ、このような働き方は、とにかく精神的に疲れる。

5年も10年も続けるものではない。

 

したがって、こういった「武勇伝」とすらいえないようなクソ仕事たちを、「やったほうがいいか」と言われれば、やらなくて済むならやらないほうがいいに決まっている。

しかも、やりたくない人に無理にやらせても大した結果にはならない。

 

でももし「向こう側」に行きたいなら、恐らくクソ仕事を避けて通る道はない

仕事は結局、頭の良し悪しよりも、行動力のほうがはるかに重要だ、というのはそのためだ。

 

前に書いたが、今まで最も役に立ったアドバイスは、「なりふり構わず生き延びろ」

「自分が勝てそうな領域が見つかるまで、ひたすら生き延びて、あれこれ試してチャンスを伺え」。

 

「口だけの人」と「結果を残す人」の境界は、まさに、そこにある。

 

 

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(2024/1/22更新)

 

 

【著者プロフィール】

安達裕哉

元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。

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