職業柄、昔から人の「説明」を聞くことがとても多かった。
会社の現状、技術的な見解、商品のスペック、あるいは人の経歴についての話もあった。
そして、説明がとても上手な人もいれば、下手な人もいることを知った。
例えば、こんな具合だ。
「では、御社の事業説明をお願いします」
「わかりました、こちらが会社案内です」
「では、始めてください。」
「はい、では1ページ目をご覧ください。弊社の主要な株主は……全国に展開しており……事業所は……」
……5分経過
「では次は、弊社の主要な事業です。おもに3つあり……」
「(退屈だな……後ろのページでも見ているか)」
……5分経過
「次に今回お問い合わせの商品についてです……こちらの……」
「(その話はもうサイトで見たからいいよ……話ながいな……内職でもするか)」
……5分経過
「以上となりますが、なにかご質問はありますか?」
「………いえ。」
例えば上のように「資料の最初から、順番に読み上げてしまう行為」は、「説明能力の低い人」がやりがちな行為だ。
相手は退屈し、話を聞いてもらえない。
また「この人能力低いな……」と思われてしまうことすらある。
誤解の無いように言っておくと、説明が下手だからと言って、その内容まで悪いわけではない。
説明の巧拙と、その内容の良し悪しはあまり関係がない。
だから「説明がヘタだから」という程度の理由で、その人の話を聞かないのはとてももったいないし、損をしていると思う。
とはいえ、ビジネスでは皆忙しい。
その結果、「説明に与えられる時間」があまりにも少ないので、説明が下手だと、中身を聞いてもらえないことがある。
だから、「説明」については訓練を受けた。
報告するとき、プレゼンテーションをするとき、セミナーの講師をするとき。
そうして自分自身でも実践をするうちに、「説明の上手い人」と「説明のヘタな人」の差が、どこに出やすいのかを、すこしずつ認識できるようになる。
そして新人たちは、「これはマネできそう」と思うところから、積極的にその技術を取り入れていった。
*
では、「説明能力」の高低がよく現れる場所はどこなのだろうか?
そもそも「説明能力が高い」とはどういうことなのか。
我々の認識では、
「相手が聞きたい(であろう)ことを話し、相手の疑問をすぐに解消する」
ことができれば、「説明能力が高い」とみなされた。
つまり、流暢に話したり、人を惹きつける話すこととは全く異なる技術だ。
「話は面白かったけど、なにを説明してもらったのか全く残らなかった」ではもちろんダメである。
そして意外かもしれないが「わかりやすい説明」というだけでもダメだ。
例えば、「説明はわかりやすかったけど、あとから考え直すと、疑問だらけ」ということは決して珍しくない。
これは平たく言えば、「相手を丸め込んでいるだけ」なので、あとからトラブルになるケースが多く、ビジネスシーンではおすすめできない。
「そんなこと、当たり前じゃない?今更言われるまでもないよ」と思う方も多いだろう。
だが、これは当たり前ではない。
その場にいる人全員が「イマイチな説明だな……」とうんざりしているシーンに良く出くわした。
では、どうすれば「説明力が高い」とみなされるだろうか。
例えば、このようになる。
「御社の事業説明をお願いします」
「わかりました、こちらが会社案内です」
「では、始めてください。」
「はい、あ、弊社のコーポレートサイトはすでにご覧頂いておりますでしょうか?」
「はい、見ております。」
「ありがとうございます!それでは……目次をご覧ください、資料の中でご興味のある部分はございますでしょうか?」
「えー、貴社のプロダクトについて詳しく知りたいと思っています。」
「はい、では20ページをご覧ください。弊社の開発体制や事業の沿革などは飛ばしますがよろしいでしょうか?」
「そこはいいです。プロダクトの実績が知りたいです。」
「承知しました、では20ページの下段を御覧ください。弊社ではすでに100社を超える導入実績を誇っています。特に御社と同様の金融業界では……」
……5分経過
「なるほど、金融の実績がかなり豊富ですね。」
「はい、こちらの部分で、詳しくお聞きになりたい点や、追加でのご質問はありますか?」
「いえ、大丈夫です。この取り組みは非常にに興味深いですね、ありがとうございます。」
「関連の深い部分として、品質保証についてのご説明も可能です。」
「では、品質保証についてお願いします。」
「承知いたしました!では32ページをご覧ください……」
以上のように、説明能力の高い人は「相手の知りたいこと」だけに説明を絞り込む。
そして、相手に都度「確認」を求め、「質問」を誘導する。
*
「なんかややこしいな」と思った方もいるかも知れない。
しかしこれは単なる技能であり、落ち着いてやれば、誰にでも真似ができる。
しかも、とても簡単なので、ちょっと訓練を受ければ使いこなすことが可能だ。
もちろんこれは単なる「話し方」の技能なので、話の中身が良くないと、結局受け入れてもらうことはできない。
が、新人でもすぐにできるようなことなので、知っておいて損はないと思う。
ティネクト(Books&Apps運営会社)提供オンラインラジオ第6回目のお知らせ。

<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>
第6回 地方創生×事業再生
再生現場のリアルから見えた、“経営企画”の本質とは【ご視聴方法】
ティネクト本音オンラインラジオ会員登録ページよりご登録ください。ご登録後に視聴リンクをお送りいたします。
当日はzoomによる動画視聴もしくは音声のみでも楽しめる内容となっております。
【今回のトーク概要】
- 0. オープニング(5分)
自己紹介とテーマ提示:「地方創生 × 事業再生」=「実行できる経営企画」 - 1. 事業再生の現場から(20分)
保育事業再生のリアル/行政交渉/人材難/資金繰り/制度整備の具体例 - 2. 地方創生と事業再生(10分)
再生支援は地方創生の基礎。経営の“仕組み”の欠如が疲弊を生む - 3. 一般論としての「経営企画」とは(5分)
経営戦略・KPI設計・IRなど中小企業とのギャップを解説 - 4. 中小企業における経営企画の翻訳(10分)
「当たり前を実行可能な形に翻訳する」方法論 - 5. 経営企画の三原則(5分)
数字を見える化/仕組みで回す/翻訳して実行する - 6. まとめ(5分)
経営企画は中小企業の“未来をつくる技術”
【ゲスト】
鍵政 達也(かぎまさ たつや)氏
ExePro Partner代表 経営コンサルタント
兵庫県神戸市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。3児の父。
高校三年生まで「理系」として過ごすも、自身の理系としての将来に魅力を感じなくなり、好きだった数学で受験が可能な経済学部に進学。大学生活では飲食業のアルバイトで「商売」の面白さに気付き調理師免許を取得するまでのめり込む。
卒業後、株式会社船井総合研究所にて中小企業の経営コンサルティング業務(メインクライアントは飲食業、保育サービス業など)に従事。日本全国への出張や上海子会社でのプロジェクトマネジメントなど1年で休みが数日という日々を過ごす。
株式会社日本総合研究所(三井住友FG)に転職し、スタートアップ支援、新規事業開発支援、業務改革支援、ビジネスデューデリジェンスなどの中堅~大企業向けコンサルティング業務に従事。
その後、事業承継・再生案件において保育所運営会社の代表取締役に就任し、事業再生を行う。賞与未払いの倒産寸前の状況から4年で売上2倍・黒字化を達成。
現在は、再建企業の取締役として経営企画業務を担当する傍ら、経営コンサルタント×経営者の経験を活かして、経営の「見える化」と「やるべきごとの言語化」と実行の伴走支援を行うコンサルタントとして活動している。
【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
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(2025/7/14更新)
【著者プロフィール】
安達裕哉
生成AI活用支援のワークワンダースCEO(https://workwonders.jp)|元Deloitteのコンサルタント|オウンドメディア支援のティネクト代表(http://tinect.jp)|著書「頭のいい人が話す前に考えていること」41万部(https://amzn.to/49Tivyi)|
◯Twitter:安達裕哉
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◯note:(生成AI時代の「ライターとマーケティング」の、実践的教科書)