コロナ禍をきっかけにリモートワークが推奨され、同時にペーパーレス化や各種デジタル化も進んだ。
いままで遅々として進まなかったデジタル化が一気に広まり、「やればできるじゃん」と多くの人がSNSにポストしていた記憶がある。
巷ではすっかり、アナログ=非効率で減らすべきもの、デジタル=効率的で推し進めるべきもの、という認識になっているようだ。
ただわたしは、「効率化のためにデジタルを導入すべき」という主張には、まったく共感できない。
なぜなら、デジタル化したせいで余計な作業が増えている場面が、たくさんあるからだ。
デジタル化を受け入れる人と反対する人の溝
先日、マダムユキさんによる『非効率大好き「現金主義者」に明日はない』という記事が公開された。
記事は、とある商店街の組合で、いままで集金だったものを振込に変更した話からはじまる。以下は、振込になったことを喜ぶヘアサロンのオーナーの言葉の引用だ。
「いやぁ、前の事務員さんはわざわざお店まで集金に来ていただいてたのに、こんなことを言うのは本当に申し訳ないんですけど、実はこっちとしても負担だったんですよね。
忙しくても接客中の手を止めて対応しないといけないし、集金のためにお店に現金を用意しておかないといけませんから。
その点、振込だと自分のタイミングでできますからね。アプリからの振込だと手数料もかからないですし。
請求書もデジタルにしていただいて、管理がグッと楽になりました」
一部の人からは振込になったことを歓迎された一方で、やはり「従来通り集金のほうがいい」と言う人もいたらしい。
そういう人に対して筆者は、デジタル化を嫌う人たちのお店は総じてうまくいっておらず、サービスを請け負う側の人間が減っているのにいつまで昔の意識を引きずっているんだ、と苦言を呈す。
たしかに、デジタルアレルギーで変化を嫌う人は一定数いる。時代に適応しようとする人からすれば目の上のたんこぶで、さぞかし邪魔くさいだろう。
が、わたしは振込に反対する人の気持ちもちょっとわかる。だってアナログは、他人に丸投げができるから。
デジタル化のせいで作業が増えて非効率に…?
先月、確定申告を税理士に依頼するため、書類の準備をしていたときのこと。
改めて、「デジタルって面倒くせぇな」と思った。
アナログの紙の書類のことではない。デジタル化されたデータの管理が面倒くさいのだ。
光熱費や年間の保険料などはすべて書類で郵送してくれるので、それをまとめて税理士に手渡しして「あとよろしく」で済む。
しかしデジタル化されたもの、たとえばアフィリエイトの収益であれば、サイトにログインして収益画面を開いて、PDFをダウンロードして、名前をつけてフォルダに保存して、メールを立ち上げて、税理士のアドレスを入れて添付しなきゃいけない。
本屋で買った資料本はレシート1枚の提出で済むのに、Amazonで買った場合、注文履歴から該当の本を選んで明細書をダウンロードしてフォルダに保存して……という作業を、何冊も延々と繰り返す必要がある。
こういう状況もあるから、よく言われる「アナログは非効率でデジタルは効率的」論を聞くと、「えっそうか……?」という気持ちになってしまう。
そもそもアナログであれば、たいていの作業を他人に丸投げすることができるのだ。
確定申告なら、レシートや請求書をまとめて税理士に渡せば、向こうが全部整理して計算して申請してくれる。
でもデジタルでは、明細やらなにやらを全部自分で画面からダウンロード・保存して、メールに1つずつ添付しなきゃいけない。
チケットの払い戻しだって、自分でやる場合、サイトにアクセスしてログイン、本人確認をして、チケットの購入日やチケット番号などを全部ぽちぽちと入力する必要がある。窓口に行けば、担当者が代わりに全部やってくれるのに。
最近こぞってアプリ化された各種ポイントも、QRコードやアプリショップからダウンロードして、個人情報を全部入力して、トップページ→ポイント→ポイントを貯める→この画面をレジで提示してください……とまぁ面倒くさいのなんの。
ちょっと前は、ポイントカードを出せばレジの人がスタンプを押してくれて、「500円引きできますけどどうします?」って聞いてくれて、うなずけば店員さんがいい感じに処理してくれたのに。
今までは他人に丸投げできていたのに、デジタル化したせいで「自分でやらなきゃいけないこと」が増えてる場面がたくさんある。
それを「効率化」と言われても、「いや、やること逆に増えてるんだけど……?」と思うのだ。
アナログは他人に「丸投げ」できるから楽
そもそも、アナログとデジタルは「効率」の点で比較されることが多いけど、「責任が誰にあるか」も重要だと思う。
デジタルだと基本的に、アクセスや管理権限は本人にかぎられる。クラウドで共有化などもできるが、それにもいちいち設定が必要だ。
つまり、責任は「本人」。
一方のアナログは、「誰か」に責任を丸投げすることができる。現物を持って窓口に行けば、窓口の担当者が「責任」を負ってくれるのだ。
セルフレジでトラブルが起こって、従業員がいなかったら、そのトラブルは自分の責任。でも従業員がいれば、その人が責任を負ってくれる。
だから結局、誰かしらが待機しているのだ。
アナログ=非効率な場面はたしかに多くあるけれど、デジタル化では自分がすべき作業とそれに伴う責任が発生するので、「そんなの面倒くさいから他人にやってもらいたい」という需要においては圧倒的にアナログが強い。
デジタル反対派は、新しい物への抵抗感もあるだろうが、根本的に「自分ができなかったら自分の責任になってしまうから嫌だ」という気持ちもあるんじゃないだろうか。
そういう人に対し、「効率」を根拠にデジタル化を認めさせようとしても、意味がないのだ。
デジタル化は効率のためではなく労働力のために必要
「効率」を判断基準にすると、デジタル化に反対する人の気持ちもよくわかる。
場合によっては自分の作業が増えるし、責任をとってくれる人もいなくなってしまう。それなら、他人に丸投げできていたアナログのほうがいい。そう思う。
それでもデジタル化が必要なのは、効率の問題ではなく、労働力の問題だからだ。
アナログにおける「人で解決する」方法を採るためには当然、「人」が必要になる。しかし日本は今後人口が減る見込みで、働き盛りの年齢層の人はどんどん少なくなっていく。
労働力が減っていく以上、他人に任せていた面倒な作業を自分でしなきゃいけなくなるのはしかたない。そして、自力でできるようにするためのシステムがデジタル化なのであれば、受け入れざるをえないだろう。
確定申告での請求書をPDFでダウンロードすることだったり、セルフレジで支払い方法をいちいち選ぶことだったり、ポイントを貯めるためにアプリをダウンロードすることだったり……。
今はもう、かつてのように「どんな仕事でもいいから働きたい人」がだぶついていた時代とは違う。経営者からの理不尽な要求に労働者が耐える必要がないのはもちろんだが、これからは業種に関わらず、省力化していかなければ現場が回らなくなっていく。
どんなに経営者や消費者が人手をかけたサービスを望んでも、サービスを請け負う側の人間が猛スピードで社会から消えているのだから。
出典:『非効率大好き「現金主義者」に明日はない』
冒頭で紹介した記事中にもあるように、便利かどうかで判断できるほど、日本はもう人的資源に恵まれている国ではない。今後その状況は、さらに悪化するだろう。
アナログは「人」で解決し、デジタルは「システム」で解決する。
人がいなければ当然、システムでどうにかするしかない。
アナログの効率が~とか、デジタルのほうが便利~とか、そんな悠長なことを言っているから「デジタル化すべきかどうか」なんて話になるのだ。
正しくは、「効率のためにデジタル化すべき!」ではなく、「人力で解決していた作業を担う人はもういない、デジタル化したから自分でやれ!」じゃないだろうか。
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【著者プロフィール】
名前:雨宮紫苑
91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&
ハロプロとアニメが好きだけど、
著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)
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