日本は過剰にサービスするから客がつけあがるんだ。

サービス業でももっと気楽にやればいい。

そんな主張の一例として挙げられるのが、「座ってレジ業務をする」だ。

 

「海外では座ってレジをするのが当たり前。日本ではみんな立っているが、余計な負担になるだけでなんのメリットもない。別に、レジ業務は座ってやってもいいだろう」

こういう理論だ。

 

わたしも以前は同じ考えで、ドイツから日本に一時帰国すると、「ずっと立っていて大変そうだなぁ。座ればいいのに」と毎回思っていた。

が、先日ふと思った。

「海外でも立ってレジをしていることは多いし、結局合理性の問題じゃん」と。

 

「海外では座ってレジするのが当たり前」は本当か?

1年半も前のポストになるが、こんな投稿があった。

たしかに、日本のスーパーはきちんとしすぎだと思う。客としてはもちろん助かるが、それが従業員の負担になるのなら、「そこまでしなくていい」という人は多いだろう。

また、「スーパーマーケット・ベイシアのレジ従業員に、座りながら仕事をさせてください! #座ってちゃダメですか」というオンラインの署名活動もされており、実に2万以上の署名が集まっている。

 

この署名ページでは、「海外のスーパーではレジ係は座っていて当たり前」としたうえで、「働く現場においても理不尽なルールがたくさんありますが、私たちが声をあげれば変えていける」とこの署名活動を開始したそうだ。

たしかにわたしが住むドイツのスーパーでもレジは座ってやるものなので、別に日本でも座ればいいのになぁ、と思う。

 

しかし先日行ったドイツの大型ドラッグストアで、とあることに気が付いた。

地下のレジ業務は座ってやっているのだが、1階ではみんな立ってレジをしているのだ。

 

改めて考えると、その日行った薬局や香水屋さん、本屋さんなどのレジ業務は、みんな立ってやっていた。

あれ、スーパーではレジは座ってやるけど、ドイツだって案外立ってレジしてるところが多いぞ?

 

立ってやるレジと座ってやるレジのちがい

立ってやるレジと座ってやるレジ。いったいなにがちがうのか。

それは、「ベルトコンベアかどうか」だ。

 

「韓国のスーパーでは座ってやるのが当たり前」というこのポストの写真を見ていただきたい。

そう、座ってやるレジとは基本的にベルトコンベア式であり、客がベルトコンベアに商品を置き、レジ係はその商品をスキャンして、そのまま横に流す(画像左下の台のところ)。

レジ業務は、流れてくる商品を読み込みその商品をさらに横に流していく作業、つまり左右運動なので、くるくる回るイスに座りながら仕事をしているのだ。

 

一方、ドイツでも薬局や本屋のレジにはベルトコンベアがない。

理由はおそらく、スーパーのように大量に買うことを前提としていないことと、従業員がレジ以外の業務も担当していることだろう。

 

たとえば薬局ならバックヤードで薬の整理、本屋なら本の案内などで、レジを離れることも多い。そうなると、立ってレジをしたほうが手っ取り早い。

 

先ほど紹介した地下は座って、1階は立ってやるレジのドラッグストアは、地下は日用品コーナーで洗剤やシャンプー、掃除用品などが置いてある一方、1階は化粧品がメインでレジ業務の人は化粧品の案内も兼ねていた。

だから地下のレジにはイスがあり、1階はなかったのだろう。

結局のところ、海外だとか日本だとかは関係なく、「立っていたほうが合理的だから立っている。座っているほうが合理的なら座る」だけの話なのだ。

 

「座って会計」から合理性を求めて立ってやるレジに

では日本のレジシステムでの合理性はどうか。

日本のスーパーのレジは基本、客が商品を入れたカゴを持って行き、レジ業務担当者はカゴから品物を取り出してまたカゴにしまうという上下運動。上下運動をするのなら、立ってやったほうがいい。

 

セルフレジをやってみるとわかるが、カゴを使って買い物をすることが前提の場合、立って会計したほうが圧倒的に楽だ。

上記の署名活動では、立ってレジ業務をすることを「理不尽なルール」としているが、理不尽もなにも、ただ「合理的だから立っている」だけである。

 

そもそも少し昔の話をすれば、日本でも、お店の人は座っているのが当たり前だった(今でも田舎の個人商店などはそうかもしれない)。

 

たとえば、江戸東京たてもの園の東ゾーンにあるいくつかの建物を見てみよう。

1枚目は文具店で、2枚目は荒物屋、3枚目は小間物屋だ。

いまではめったにお目にかかれない、店の奥が住居になっており、お客さんが来たら座布団の上に座って接客するスタイル。

日本だってちょっと前までは、座っていたほうが合理的だったから座って会計していたのだ(そもそも畳だし……)。

 

その後、西洋式のレジスターが普及し、大量消費社会に突入。

従業員が立ってレジの省スペース化、従業員が品物をカゴにつめ、客は会計後レジから離れて改めて鞄にしまいなおすことでレジの混雑を緩和、という方法が主流になった。なぜならそれが合理的だから。

 

つまり、「座ってレジをすればいいじゃん」を実現するためには、座ってやるほうが合理的なレジシステムにする必要があるのだ。

それがなければ、非合理的な働き方改革を迫ることになるので、経営陣は首を縦にはふらないだろう。

 

なぜレジ業務は座っちゃダメなのか?結局は合理的な方法が選ばれる

立ちっぱなしより座ってたほうが楽。

そりゃそうだ、気持ちはよくわかる。

 

でもそう思っている人がたくさんいるのにそうならないのは、立っていたほうが合理的だからなわけで。

座ってレジ業務をするためには、多大なコストをかけて、そっちのほうが合理的になるシステムに移行しなくてはいけない。かんたんにいえば、左右運動を前提としたベルトコンベア式だ。

 

現在の「カゴから品物を取り出したり入れたりする」という上下運動のレジでは、どうやっても立ったほうが効率的だから。

が、システムを丸ごと変えるコストをペイできるほど、座ることで利益が上がるのか? 従業員の満足度が上がり、離職を防いで人材確保ができるのか?

そうなると、さすがにちょっと説得力がない。

 

実際日本でも、病院の受付や一部の銀行など、座っても業務に支障がないと判断されているところは座って業務をしている。何度もいうが、あくまで合理性の話なのだ。

「座るのは利益のためではなく働きやすさの観点での要求だ」という主張もわかるが、それなら企業だって「働きやすさの問題ではなく効率の問題だ」と主張するだろうし、「じゃあデスクワークすればいいじゃん」と言われて終わりな気がする。

 

結局のところ働き方改革だって、「働きやすくしたほうが人材が定着する」「定時帰宅のために業務の効率化が進む」といった合理的な側面があるからこそ進んでいるわけで。

そういったメリットがない、働き方改革のコストに見合うペイを期待できない状態なら、進まなかっただろう。

 

つまり「日本でもレジ業務は座ればいいじゃん」が実現しないのは、「日本は働きづらいから」ではなく、「座ることが合理的じゃないからレジシステムだから」。

なんでもかんでも「日本は働きづらい」「海外に比べて遅れている」というのもちがうようなぁ、と思った話である。

 

ちなみにベルトコンベア式は、客がレジでベルトコンベアに品物を乗せ、会計したあともレジで直接鞄に詰めるせいで、日本のレジよりかなり時間がかかる。

日本のスーパーの混雑具合はドイツの比ではないので、実際ベルトコンベア式にして座って会計したら、業務が楽になるどころか長蛇の列ができてよりしんどくなると思ったほうがいい。

 

 

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(2024/3/26更新)

 

 

 

【著者プロフィール】

名前:雨宮紫苑

91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&写真撮影もやってます。

ハロプロとアニメが好きだけど、オタクっぽい呟きをするとフォロワーが減るのが最近の悩みです。

著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)

ブログ:『雨宮の迷走ニュース』

Twitter:amamiya9901

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