コンサルタントをやっていた時、「できない理由」を並べ立てる人々に数多く出会った。
彼らの習性として「新しい何か」には、ほぼ「忙しい」と反対する。
また、リスクばかりを強調し、その打開策は探そうとしない。
例えば、こんな具合だ。
企画「今年の方針発表にもあった通り、お客さんにサービスの満足度についてヒアリングをしたいのですが。」
営業「いや、今すぐは忙しくて無理ですよ」
企画「社長からは「すぐに」と言う話だったと思いますが……、なぜですか?」
営業「ただでさえ目標がキツイので。目標達成に影響が出ます。」
企画「そうですか。では、我々が動くので。営業の方は何もしなくていいですよ。」
営業「いや、それも困ります。」
企画「なぜですか?」
営業「お客さんを混乱させてしまうかもしれないからです。」
企画「具体的には?クレームが来る、という事でしょうか?」
営業「まあ、そうかもしれません。」
企画「かもしれない……? 言っていることの意味がよくわかりませんが……では、どうすれば混乱させることなくできますか?」
営業「だから、そんなことできませんって。」
企画「ご存じのように、これは今年の経営方針の一つでもありますが。方法を考える気がない、という事でしょうか?」
営業「そうは言いませんが……営業みんなに説明をするのが大変です。」
企画「説明は1回で済むでしょう?」
営業「いや、集めるのも大変です。時間をください。」
企画「いつまでにやりますか?」
営業「調整に時間がかかりますので、確定できません。」
目標達成に影響が出る、忙しい、お客さんを混乱させる、説明が大変、集めるのが大変、調整に時間がかかる……。
よくここまで、「やれない理由」を思いつくものだと感心するが、こういうことはどこの会社でも起きている。
こういう時、どうすればいいのか?
わたしも、新人の時はこうした人物たちにほとほと困り果てていた。
そこで、私は先輩に聞いた。
「やれない理由ばかり考える人を、どうやって説得すればいいんですか?」
すると、先輩はすぐにこう言った。
「とりあえず無視して構わないよ。話すだけ無駄だし。」
わたしは驚いた。
それまで、反対派を一人一人説得して回ることの大切さや、「みんなで納得」して事に当たる美談をたくさん聞いてきたからだ。
それは、一種の民主主義的プロセスと言うべきだろうか。
わたしは、その思いをを先輩に話した。
すると先輩は言った。
「は?ここは企業だぞ。そんなことは無駄中の無駄。」
わたしは少しムッとして、先輩に切り返した。
「では、どうすれば?」
すると、先輩は私をあしらうように言った。
「まず、「お客さんにサービスの満足度についてヒアリングをする」と言い出したのは誰だ。」
「社長の出した方針です。企画がその実行部隊をやっています。」
「そうか、じゃ社長にチクれ。社長を動かせ。いいか、説得はお前の仕事じゃない。言い出しっぺの社長の仕事だろ?」
「社長……」
「そうだ、社長が本気なら、そいつらを説得するだろう。それでもダメなら排除してくれるはずだ。頼まれた宿題をやらないやつも同じ。即、社長にチクれ。」
「……それはそうかもしれませんが……」
「いい加減、気づけよ。権限と責任は一体なの。営業がゴネてるなら、営業の人事権を持ってなければ、何もできないよ。まして、お前は外部の人間じゃないか。そんなの責任を感じる必要すらない。やるべきことをやれ。」
なるほど。
私は「責任と権限は一体」という事の、本当の意味を知らなかった自分を恥じた。
そんなことすらわからないから、人を動かせないのだ。
わたしは企画の人々に話をした。
「社長がどこまで本気なのか、確かめてください。そして、社長から営業を動かしてもらってください。」
すると彼らはすぐに社長に掛け合い、営業に働きかけを行った。
「彼は、具体的にこんなことを言ってました」との情報をもとに。
何のことはない。社長が乗り込んですぐに営業は動き出した。
ゴネていた営業の課長は更迭された。
恐らく営業が動かなかったのは、営業部長の仕業だったのだろうが、営業部長は「私も皆に動くように言ってたんだけどね」と、しらを切った。
内心、「卑怯な奴だな」と思った。
切られた課長は気の毒だが、これも大人の世界だと思った。
が、一方で私は「権限のリアル」も知った。
人事権を持っている人が言わなければ、「「できない理由」を並べる人々」は動かない。
実際、相手は「単に面倒くさがっているだけ」と言う場合も多いのだ。
もしかしたら、こんこんと説得し、腹を割って話せば動くのかもしれない。
しかしそれでは、仮に動いたとしても、膨大な時間がかかる。
話をすれば何とかなるという人もいる。
しかし、物事を前に進めるためには、話をするにしても、権力を背景にした説得が必要だ。
「できない理由」を並べる人々は、とりあえず無視して構わない。
説得を試みてもいけない。
批判をしてもいけない。
とにかく、権力を味方につける。
若いころは、そんな当たり前のこともわかっていなかった。
【著者プロフィール】
安達裕哉
元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。
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