ジャガイモの袋が破れて散らばった
ある日の夜、おれは鍋料理を作っていた。トマト鍋だ。トマト鍋にはジャガイモが合う。
おれはジャガイモをスーパーで買った。スーパーで買ったジャガイモは薄いビニール袋に入っている。
おれはハサミでジャガイモのビニールを切った。切ったら、やぶけた。やぶけて、なかのジャガイモたちが散らばった。
これが、その写真ということになる。なぜ写真を撮ったのか。ジャガイモが散らばったからだ。
そしておれは「これを拾い集めないな」と思った。思って、そのことを世界に発信しようとした。X。なぜそんなことを発信しようと思ったのか。この世にはわからないこともある。
ちなみに、ジャガイモが落ちている瓶はすばらしいスコッチであるラフロイグの瓶だ。そして、真ん中にはキッチンハイター。その左には最高にすばらしいスコッチであるアードベッグの瓶がある。
こんなふうにものを並べている人間が、どんな人間かは説明の必要は少ないように思われる。
年度末で非常に疲れている、というのもある
ある日、と書いたが、三月の話だ。三月、年度末。おれの仕事はなぜか年度末が忙しい。二月、三月と一年のピークがくる。
べつにおれの仕事は、決まった時期に回遊してくる魚を獲る漁師ではない。毎日、毎日、iMacの前に座って、モニタを見て、マウスを動かし、Adobeのアプリケーションでデータを作るお仕事だ。DTPだ。デザイン、コピーライティング、それにWEB周りも少々する。
まあとにかく、べつに季節性のない仕事だ。それなのに年度末はたいへん忙しい。二十年以上ずっとだ。
ただ、十年、二十年前に比べると、少しは楽になった。午前零時すぎまで仕事するなんてことはなくなった。なんのせいか。
おれの能力が上がったからか? 違う。たぶんだけれど、パソコンの性能がアップして処理が早くなり、アプリケーションも便利になっている。この頃は生成AIの力を借りたりすることもできる。こういうのを本当の「生産性の向上」というのだろうか。
しかし、である。おれの疲労は今までにないほどだ。やばいくらい疲れている。疲れは身体だけに出るものでもない。
今までは「年度末の時期は忙しくてかえって寝込まないですね」とか精神科医に言っていたものだが、今年は容赦なく抑うつも来た。去年までとは根本的に違う。そう感じるくらいに疲れる。
これはなにか。おそらくは、老い。これに尽きる。
心身ともに弱まっている。「ちょこざっぷに行って、ちょこっと運動しているのでは?」とも思うが、まあ忙しいとそんなところに行くこともできなくなる。
土日の出勤も前は当たり前だったが、それもないのに、土日とも寝ているか競馬しているかだけになった。
この間はめずらしく一人で映画に行こうと思って、予定を立てて、シャワーを浴びていたら、シャワーを浴びている間にすさまじい倦怠感に襲われた。
服を着て出かける直前までいったが、「どうしても動けない、映画館にたどり着けない」と心底感じたので、また部屋着に着替えてベッドで寝込んでしまった。
おれは弱っている。それはおれが精神障害者だからというのもある。
とはいえ、もしも精神疾患の診断を受けていないのに、こんなことがある人は、事情が許すならばちょっと医者に診てもらってもいいかと思う。シャワー浴びている間に、動けなくなるような人は。あるいは、ジャガイモを拾えなくなった人は。
もとからジャガイモを拾う人間ではなかった、というのもある
とはいえ、ジャガイモについてはどうだろうか。Xにも書いたが、おれはもとよりジャガイモを拾うタイプの人間ではなかった。子供のころからだ。おれにはそれがわかる。たしかに年度末で疲弊している。双極性障害(躁うつ病)のうつ側にあって、調子がよくなかったのかもしれない。
しかし、おれは根本的に拾わないタイプの人間だ。ジャガイモを使うときに床から拾えばいいだろう、と思う。そう思って、おれはキャベツを切り始めたりするだろう。
これを、一種の発達障害のようなもの、とみなすことも可能かもしれない。そのあたりはよくわからない。たとえばADHDの不注意かもしれないし、多動性かもしれないし、衝動性かもしれない。おれは医師にその傾向はあるかもしれないと言われているが、正式な診断は受けていない。
いずれにせよ、これは子供のころからそうだった。片付けられない子供だった。大人になっても変わらなかった。このことについては前にも書いた。
片付けられない人間の言い分を聞いてくれ _ Books&Apps
まず、なぜ片付ける気にならないかといえば、片付ける気が起こらないからである。
あまりにも当たり前すぎるかもしれないが、散らかったら片付けるのが当たり前という人にとっては、そのこと自体が異様なのではなかろうか。
ともかく、片付けるという気持ちが一切わいてこない。
おれにはこんな傾向がある。
行き着く先はセルフ・ネグレクト?
というわけで、目下のところ「疲れ」+「生来の気質」によって、おれはジャガイモを拾えない。拾えないというか、もとから拾う気もないので「拾わない」。
そして、前者の「疲れ」は、加齢によってますます強まっていくことが予想される。
気質の方は変わらないだろう。そうなると、どうなるのか。セルフ・ネグレクト状態に陥るのではないか。おれはそう思った。
独身、独居、中年、男性。精神疾患持ち、依存症気味(アルコールを減らすと言ったが、忙しさで頭がガチガチになったときなどは飲まずには寝られない)……やばくねえか? というか、すでに、そうなっているのではないか。
じつのところ、部屋が散らかっているのに加えて、このごろ水回りの掃除がおろそかになっている。ゴミはきちんと捨てているが、そのあたりが雑になっている。「まあ、いいか」となってしまっている。
思うに、こういう生活の質が下がると、下がる一方になる。不可逆だ。「仕事が忙しくなくなったら、きちんと掃除しよう」とか、そういうのはなくなる。いや、なくなりながらここまできた。
生活の質は下がる一方だ。エントロピーの法則だ。しらんけど。ただ、まあ、そういうものだと思ってほしい。
とはいえ、「気をつけよう」と思って整理整頓を心がけられる人間は、もとからこのように生活の質は下がらないだろうし、「そのとおりだ」と思う人間につける薬はない。
いや、そうでもないか。わからんか。もとはちゃんとしていた人間も、過労によって部屋がちらかっていって戻れなくなることもあるかもしれない。まあ、そうなったら要注意だ。
メンタルヘルスの危機はすぐそこだ。注意して生きろ。転職しろ。できないならできないで、もう仕方なく生きろ。
しかしなんだ、おれはおれをセルフ・ネグレクト的傾向にあると自覚しているが、本当にそうなのだろうか。
以前おれがここで「手取りの3/4を馬券購入に突っ込んでいるギャンブル依存症だ」と書いたときも、内容から「ギャンブル依存症とは言えないのではないか」という人もいた。そりゃあ、水原一平氏に比べたら依存症でもなんでもないが……って、金額の話ではないか。あ、でも収入比で見てもまったく勝てないな。勝ってどうする。
というわけで、独断もよくない。調べてみるか。
https://pelikan-kokoroclinic.com/shinjuku/selfneglect_check/
「セルフネグレクト(自己放任)チェックテスト」というのがあったので、こちらを試してみる。
郵便ポストの中を確認しない。あるいは、郵便物やチラシ等で郵便ポストがパンパンになっている。
→◯ ……ほとんどチラシすら入らない面倒な場所に住んでいるのでパンパンにはならない。とはいえ、郵便物もほとんどこないので、本当に確認しない。あと、なんか来ても玄関のあたりに積んでしまう。
お風呂に入るのが面倒で、気を抜くと数日入らないことがある。
→× ……これは完全にありえないことで、むしろ逆に三百六十五日、毎日入っている。どんなに体調が悪い日も、絶対にシャワーを浴びる。これはもう強迫性障害的といっていいほどだ。シャワーを浴びないと、近所のコンビニにすら行けない。
ゴミ出しが面倒で、かなり溜まっている。
→× ……さっきも書いたけど、ゴミはきちんと捨てている。
部屋ではベッドやこたつ等、横になれる場所で殆どの時間を過ごしている。トイレに行く以外は殆ど立ち上がらない。
→× ……いや、◯か? 台所の前の椅子の上か、座椅子に座っているかのどちらかだ。せまいアパートのどこを移動する? とはいえ「横になれる場所」というのがキーワードなら×か。寝込んでいる時間は人よりずっと長いとは思うが。
休日でも買い物や用事を済ませに行かず、家でゴロゴロ過ごしてしまう。
→◯ ……年度末の現状ではそうである。そうでないときは、GR IIIxでも持って散歩に行こうかとかあるけれども、だんだん出不精の度合いは高まっている。
身体に不調を来していても病院に行くのが億劫で、あまり行かない。
→◯ ……月イチの精神科には必ず行っているが(薬がないと生きられないので)、その他、ちょっと具合が悪くても、「様子見で……」で済ませてしまう。まあ、それで済むくらいしか不調ではないともいえるが。
ゴミ箱までごみを捨てにいくのが面倒で、取り敢えず適当な場所にゴミを置いてしまう。
→× ……だからそんなに広いところに住んでないって。ただ、ゴミをゴミ箱方面に向かって投げて、外れたら、そのときすぐに拾わないで、あとで入れるということはある。
歯磨きも気が進まないので、日によっては全くしない。
→× ……これもシャワーに似た強迫的なところがあって、必ず一日三回歯を磨く。
役所の手続きや請求書の支払いなど、やらなくてはいけないことが中々できない。
→×……やらなくてはいけないとなると、とっとと済ませて楽になりたいと思うタイプ。
スマホの通知を見るのが嫌で、返事をしなくてはと思いつつ、数日放置してしまう。
→×……これはないな。
動きたくないので、ご飯を食べない。もしくは栄養を考えずに適当に宅配やインスタントで済ませてしまう。
→×……一応毎日のように自炊はしている。適当にインスタントで済ますときも「栄養を考えて」完全栄養食のパンを食べている。後者はちょっと無理あるか?
昼夜逆転や1日中寝ているなど、生活のリズムが乱れている。
→◯……とにかく起きられずに午前中は鉛様麻痺で固まっていることが少なくない。休日はすぐに昼夜逆転する。睡眠薬を飲んでも眠れない日も多い。この頃は明け方に中途覚醒する。乱れている。
掃除らしい掃除を最後にしたのがいつか思い出せない。
→◯……返す言葉もございません。
……結果は、「注意が必要」。しかも、ここ最近増えてきたら気をつけろと。まだそこまでではない、ようだ。
これ以上セルフ・ネグレクト傾向を悪化させないために
というわけで、まだおれはセルフ・ネグレクト傾向にある、くらいのようだ。しかし、加齢や病気の悪化によってますます悪くなっていく可能性はある。
たとえばゴミだって、日々の生活で出るゴミは捨てているが、「もうゴミではないのか?」というような服や服や靴や服や本や本を溜め込んでいってしまっている。
ちょくちょく思い切って捨ててはいるが。さらにどうでもよくなって、ゴミを捨てる間隔ができてしまなわないとも限らない。
シャワーや歯磨き、身だしなみ。このあたりはどうだろうか。
自分自身で強迫性を感じている。潔癖症とまではいかないが。軽く病的なこだわりというか。悪くない習慣なので悪くないこだわりだ。これが治ってしまう(?)かどうかは運次第だ。
掃除については、もうこれは生まれ持ったものだから……、いまさら断捨離とかできないよね。どっかにネゲントロピー落ちてねえかな。え、落ちてるようなものではない?
とはいえ、現状を維持していくと、ものを買った分だけものが増えていって手に負えなくなる。もうなっているかもしれない。やっぱり捨てるか。とりあえず、寒いのが終わったら、冬物を思い切って処分してみよう。それだけはやってみよう。
と、ここまで読んで「自分には関係ないな」と思ったあなた。健常者がいつ障害者になるかなんてわかりはしない。日々の過労で気づいたらゴミが溜まっているかもしれない。疲労が重なって心が折れる日がくるかもしれない。気をつけたほうがいい。
でも、セルフ・ネグレクトってそんなに悪いのか?
とか書いておいてなんだけど、セルフ・ネグレクト状態ってそんなに悪いことなのかね。
ミルの他者危害原則でもないけれど、はっきりいって自堕落は楽だ。楽なことをやってこうなっている。もちろん、ゴミ屋敷化して周辺住民や家主に迷惑をかけるのは危害といえるだろう。
しかし、たとえば自らの身体のケアを行わないで、大きな病気になって国の医療費の負担になるのはどうだろう。それを危害と言えるのかどうかはわからない。国家による健康の強制はパターナリズムかどうか。考えてみてもいいだろう。
いや、そんなことを考えるまえにヨレヨレのヒートテックを捨てろ、ジャガイモを拾え。それが正しいには違いあるまい。
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(事業サービス責任者-ティネクト株式会社 取締役 倉増京平)
【著者プロフィール】
著者名:黄金頭
横浜市中区在住、そして勤務の低賃金DTP労働者。『関内関外日記』というブログをいくらか長く書いている。
趣味は競馬、好きな球団はカープ。名前の由来はすばらしいサラブレッドから。
双極性障害II型。
ブログ:関内関外日記
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