ただいま我が人生で最大のモテ期が到来している。

50代が目前という年齢にも関わらず、次から次へとラブコールを受けるのだ。

 

「もし今の仕事を辞めるなら、ぜひうちに来て欲しい。時給は高めに出すから」

「次の仕事を探してるなら、うちも求人出してるんだけど、どう?正社員で雇うよ」

「本業と別に新しい事業を始めたんですけど、一緒にやりません?」

「ちょっと手伝いに来てくれない?日給1万円出すわ」

「オンラインショップのリニューアルを考えてるんだけど、いくら払ったらサイトの文章を書いてくれる?」

 

などなど、このごろ人に会うたび声がかかる。

そう、モテ期というのは仕事の話だ。

 

初めのうちは「えっ?もう若くないのに、こんな私でいいの?」と驚いたし、求められることが素直に嬉しかったが、近頃は多すぎるオファーにうんざりし、断るのに苦労している。

 

はっきりしない受け答えでは相手に期待をさせてしまうので、

「ごめんなさい。私はすでに仕事を複数かけもちしていて、これ以上は抱えきれません。もう本っ当に無理なんで、別の人を当たってください。」

と、はっきり言うようになった。ちゃんと断らないと際限がないし、頼まれごとを全て引き受けていたら過労死してしまいそうだ。

 

それでも条件と報酬が悪くない仕事のオファーを受けると、ぐらりと揺れる。

「えっと、その仕事をもし引き受けたとしたら、今より収入はこれだけ増えるってことだから、月収にして…」

と、頭の隅で計算が始まる一方で、別の隅からは

「まてまて!まだ動けているとはいえ、もう若くないんだから無理は効かないよ。お金より健康と時間が大事でしょ。体を壊したら元も子もないんだから」

と分別の声が聞こえてくる。私はこの春で子育てが一段落つくが、まだこれから親の介護と看取りというミッションが控えているため、無理は禁物だ。

 

もしも私が20代でこの状況にあったなら、働けば働くほど収入が増えていくのが楽しくて、寝る間も惜しんでフル回転しただろう。悲しいかな、モテ期が来るのが25年おそかった。

 

私が若かった頃は就職氷河期で、仕事を求める労働者がだぶついていた時代だ。

当時の私といえば若さだけが取り柄で、これといった学歴やスキルは無し。しかも早くに結婚して子供を産んでいたため、求人に応募しても門前払い。

 

「小さい子供がいる母親ってのは、すぐに子供が熱を出したとかで休むから、使えないんだよねぇ。悪いけど、うちじゃ雇えないよ。申し訳ない」

とすげなく扱われ、正社員どころかパートの仕事にさえ就けなかった。

 

それでもどうにか探した仕事は、条件が悪い上に低賃金。

雇用の調整弁として、何かあるとすぐにクビを切られるのも当たり前だったので、いつも雇い主にぺこぺこし、ビクビクしながら働いていた。

 

30代半ばで地方に住み始めてからも、状況はほとんど変わらなかった。

いや、むしろ首都圏以上に仕事を探すのが難しかった。田舎では選択肢が都会よりもはるかに少なく、給与水準も低い。子持ちの中年女は、例え常勤フルタイムで働いても、パートでは月収10万円が精一杯。正社員になっても、額面で15万円〜20万円がせいぜい。

 

「こんな待遇で、みんなよく真面目に働いているよな」と感心するやら呆れるやらだったが、「この地域ではこれが普通。不満があっても、他に良い仕事があるわけじゃないから」と諦めて、慣れた仕事にしがみつく人がほとんどだ。

 

私は、30代半ばで一度地元へUターンしたのを機に、「この先、雇われて働くだけでは厳しくなっていくな」と考えて、どうにか自営でやっていける道はないかともがき始めた。

色んなことに手を出して、挑戦と失敗を繰り返したが、そうした中で唯一お金になったのが文章だ。

 

私は「ブログで稼ぐ」の波には乗り切れなかったし、ライター専業で食べていくのも難しい。それでも、月に10万円ほどを文章だけで稼げるようになると、自信がついた。

自力で10万円を稼ぎ出せるのであれば、向いた仕事がなければ無理にパートに出る必要もない。

 

そうは言っても、私は外で働くことが苦ではない。どちらかというと、家にこもって書き物ばかりしている方がよほど苦になる。外で刺激を受けない生活は退屈きわまりないし、新しい体験をしなければ記事のネタにも困ってしまう。

 

両方の仕事をバランスよくこなしつつ、プライベートの時間も確保するのが目標ではあるものの、今はそのバランスが上手く取れていない。前述したように、近頃は「外を歩けば誰かに仕事を頼まれる」状況のため、ブログを書く時間もろくに取れないほど忙しくなってしまった。

 

「ぜひうちで雇いたい」「仕事を頼みたい」と言われ始めた最初の頃は嬉しかった。「自分の能力が評価された」と思ったからだ。

 

私を高く買ってくれる人の期待には応えたいと、できる限り引き受けるようにしていたが、頼ってくる人の多さにふと冷静になった。

いくらなんでもモテすぎである。この状況は、実は私個人の能力とは関係がないのではないだろうか。

 

自分が身を置いている環境を冷静になって見渡してみると、視界に入ってくるのは中高年ばかりで、若者がいない。

これまでボリュームゾーンだった団塊の世代がついに後期高齢者となり、仕事の現場から身を引き始めている一方で、若者は少子化のうえ都会への流出が多く、絶対的に数が少ないのだ。

 

今かろうじて地方の社会を支えているのは、40代から50代の中高年なのである。

考えてみれば、私に声をかけてくるのも同世代か上の世代だ。みんな、日頃から「人が足りない」と嘆いている。

 

「求人を出しても、応募者がいない」

「若い子は来てくれないし、雇ってもすぐに辞める」

「条件に合う人が見つからない」

 

それは単に、今や希少となった若者や能力の高い人材に対して、提示している報酬と条件が不十分だからである。

人がいないと言っても、若いスタッフが揃っている会社や商店はちゃんとある。そうしたところは、地方では破格と思えるような好条件で募集をかけているのだ。

 

労働者を安く便利に使えた時代は終わっている。みな頭ではそれを分かっているのに、意識と実態がいまだに変わっていないし、対策をしようともしない。

「人がいないなら、このツールを使いましょう。ランニングコストはかかるものの、業務が大幅に効率化できるので、人件費がカットできて全体としては節約できます」

と提案しても、

「今までと違うやり方をしたら、高齢の社長やベテランスタッフが業務を把握できなくなってしまうから、無理」

「今まで通りでもまだ利益は出ているし、どうにかなっているのだから変えたくない」

などなど。様々な「改革しない言い訳」が返ってくる。

 

初めは「今やり方を変えなかったら、このままでは時代に取り残されて、あと10年も保たないですよ」と口を挟みたくなった。

しかし、よくよく話を聞いてみると、みんな10年後まで今の商売を続ける気がないのである。

 

「1、2年先はまだ大丈夫なんだけどね。うちの商売というよりも、この業界自体が先細りだから、5年先は見えないのよ。10年後は事業を畳んでいると思う」

「うちは子育てが終わっているから、もうそんなに稼ぐ必要はないんだよね。子供が店を継ぐ予定もないし、私の代で終わりにする。さいわい借金もないことだし、いよいよとなったら閉めようかな」

と、のんびりしたものだ。

 

彼らは活気のあった時代に資産を築いており、商売が斜陽になっても、生活には困っていない。

つまり、彼らが出している求人は「この先ずっと一緒に働いてくれる人」を求めているわけではなく、「あとほんの数年、店を閉めるまでのあいだ手伝ってくれる人」を募集しているだけなのだ。

 

だからこそ、彼らに若者を1から育てる気はないし、仕事に生活がかかっている人の面倒もみきれない。「真面目に働いて欲しいけれど、必死になられても困る」のである。

だから、

「今すぐ廃業するつもりはないけれど、自分たちも先は見えないので、うちからの給料がなくなっても困らない人が欲しい。自分でも仕事をしてる人に、副業として、ちょっと手伝いに来てもらえるとありがたい」

というのが本音だ。

 

「今時そんな都合の良いやつ居らんわ!」

と、つっこんだところで、ハタと気が付く。

 

「いや、居ったわ。私か…」

 

なるほど。どおりでやたらとモテるはずだ。

私のように自営でも仕事をしている人間は、雇い主にとって都合がいい。自分たちが廃業する時に、身の振り方を考えてあげなくても良いのだから。

 

少しばかり白けた気持ちにはなるものの、「これも時代だ。仕方がないな」と空を見上げる。みんな先が見えずに不安なのだ。

商売をしている人たちも自分のことで精一杯で、他人の人生にまで責任を負えない。ゆえに、欲しいのは「自立していて、依存してこない人」というわけだ。

 

地方では今、滝つぼに落ちるように人口が急減している。

今は「働く人がいない」とぼやいているけれど、団塊の世代がいよいよ老いて減り始めると、次は「お客さんがいない」と嘆くことになる。それは確実にやってくる不可避な未来であり、事業の廃業や解散は今後ますます増えていくだろう。

 

しかし、私自身は将来をさほど悲観していない。こんな世の中だからこそ、仕事のオファーは絶えず、収入は順調に増えているのだから。

先が見えない世の中になるほど、私のモテ期は続きそうである。

 

 

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【著者プロフィール】

マダムユキ

最高月間PV40万のブログ「Flat 9 〜マダムユキの部屋」管理人。

Twitter:@flat9_yuki

Photo by :Xiangkun ZHU