おれは片付けられない

おれは「片付けられない人間」である。

おれの内心のことなので証明のしようがないが「片付けようとしない」ではなく、「片付けられない」人間だ。

 

たまに、「片付けられない人間」について書かれたことを読むこともある。

だいたいが、発達障害だとか、ADHDだとか、そういう言葉と一緒に語られている。

 

おれは双極性障害(躁うつ病)という手帳持ちの精神障害を抱えているが、発達障害方面については診断を受けていない。

かかりつけの医師が、双極性障害についての治療を優先すべきで、発達障害方面の診断、治療は後回しでいいとしているからだ。

 

とはいえ、おれは「片付けられない人間」についての話やなにか、とにかく発達障害の事例とあまりにも自分が適合するのを何度も何度も見てきた。

だからといっておれが発達障害であるとか、ADHDであるとか言うことはできない。診断を受けていないからだ。

 

だから、以下に書くことは、ある種の傾向を持ったN=1の話と思ってくれればいい。片付けられない、ある人間の話である。

 

片付ける気がおこらない

まず、なぜ片付ける気にならないかといえば、片付ける気が起こらないからである。

あまりにも当たり前すぎるかもしれないが、散らかったら片付けるのが当たり前という人にとっては、そのこと自体が異様なのではなかろうか。

 

ともかく、片付けるという気持ちが一切わいてこない。

「それをそこに置いたままでいいの?」、「積み上げた物が崩れたりしているけど、それでいいの?」……いいのである。

それを片付けたり、積み直したり、整理整頓することを想像すると、果てしなく面倒くさく感じることになる。

そして、その果てしない面倒くささに比べたら、床が見えなくなることくらいなんの苦痛でもないのだ。

 

整理整頓というものをよしとする人間には、まったく理解できないであろう。

だが、一方で、おれにとって片付けようとする人間のことがまったく理解できないのである。

 

物はなるようになって、散らかってゆく。それが自然な宇宙のエントロピーというものであって、無駄な抵抗はやめよ、そんなふうにすら思う。

 

ただ、不潔は嫌いだ

ただ、おれがゴミ部屋に住んでいるといっても、せいぜい埃がたまっている程度であって、「食べ残しのカップ麺が……」とか、「食べ残しのコンビニ弁当が……」ということは、ない。

 

これは自分なりの線引きなのだが、散らかっているのはいいが、不潔なのは嫌なのだ。もちろん、不潔の基準も人によるだろうが。

ともかく、おれはゴミの日にはきちんとゴミを捨て、流しやユニットバスも清潔にはしているつもりである。

ハイターやカビキラーを好んで使う。

 

ただ、ものばかりが積み重なっていく。本、衣服、その他。もう、よくわからない。

床を維持することができない。ロボット掃除機などというものが3cmも前進できないような床である。

 

だが、飲みかけのペットボトルや飲食物の残骸が積み重なっていることはない。

……という程度のことが、せいぜいおれの自尊心なのであって、おれの安アパートに誰かを招くということはいっさいない。

だいたい、二人の人間が座れるスペースがない。

食事用の小さなテーブルに、折りたたみ椅子一脚。そして、ノートパソコンとテレビを前にした座椅子一つ。そんなものだ。

 

おれの部屋にはだれも入らせない。入ろうとするやつがいたら命をかけて拒否する。

 

だれかに片付けられることも嫌いだ

こんなおれの、仕事場の机の上というのも壮絶だ。

いまどきペーパーレスというのが流行なのだろうが、仕事柄ペーパーは欠かせない。それが積み重なっていく。

 

なにを捨てていいのかまったくわからない。なにか捨てようという発想すら起こらない。

デスクの上を整理整頓できる基準が10とすれば、それが2や3なのではなく0なのである。

まったく、根源から、その必要性を感じない。

 

そんなわけで、おれのデスクの上は「わざとらしく仕事が大変そうに演出された昭和のサラリーマンの机」のようである。

デザイン、DTPをするにも関わらず、マウスの移動できる範囲は非常に小さい。

しかし、おれは長年の経験から移動距離の少ない中でマウスを操るテクニックを会得している。驚かれるほどのテクニックだ。

 

そんなテクニックがあるくらいなら、片付けたほうが早いのに、と思われる。

 

見るに見かねた人が(おれは会社で一番の下っ端なので、上司に当たる人ということになるが)、おれのデスクを片付けることがある。

おれが抑うつで伏せっていたりして不在のときに行われることがある。

デスクの上が片付いている。終わった仕事の書類は捨てられ、進行中の案件はクリアファイルごとに整理されていたりする。文房具のたぐいもきちんと引き出しにしまわれていたりする。

 

……これにおれは感謝をするだろうか。否、である。

なんという感謝知らずであろうか。それでも、勝手におれのスペースをいじってくれるな。整理整頓してくれるな、という気持ちになる。

物事は、なるようになって散らかっていくのに、なぜそれに反するのか。おれにはまったくわからない。

そしておれの赤ペンは、万年筆はどこへいったんだ。当時の首相が党を離党した市長選の立候補者を応援する記事が載った歴史的なタウンニュースはどこへいったんだ。捨ててしまったのか。

 

もちろん、捨てられたものはほぼ完全に捨てられてよいものだ。

そんなことはおれにもわかっている。それでも、おれは空虚さを感じる。

さらに言ってしまえば、怒りに近いものを感じる。

あるようにあっていたものが、そうでなくなってしまったことに、なんらかの不満を感じる。

 

「なにを言ってるんだこいつは?」と思う人が多数であろう。

だが、ここではそう思ってほしくて書いている。片付けられない人間の心理の一端を伝えられればと思って書いている。

理解しろとか、共感しろとかは一切思わない。

おれのほうがおかしい。そのおかしさを、おかしくない人に少しでも伝えれることができれば、と思っているのだ。

 

伝えたところで、いったいなんの役に立つのかわからないけれど。

 

廃墟趣味とは関係あるのか

ところで、話は変わるが、おれは写真を撮るのが好きだ。

写真趣味というには、あまりにも貧弱な機材しかもっていないのでなかなか言い難いが、写真が好きだ。

一応、レンズ交換式のカメラ本体も三体所持している。レンズも、いくらかはある。いずれも、時代遅れだが。

 

まあ、それはいい。カメラを持って、街を歩いて、おれが何を撮るのか。

ピカピカのオブジェや建築物は、それほど興味がない。

それよりも、屋外に放置されて錆だらけになった自転車とか、廃墟としか呼べない建築物だとか、雑草に巻き取られてしまったなにかだったりとか、そういうものが好きだ。

 

植物などについても、きちんと剪定された庭園などより、わけのわからない絡まり方をした森のほうがいい。

整備された花畑の花も美しいが、よくわからない方向に生えてしまっている花のほうが好きだ。苔なども好きだ。コンクリートの隙間から変なふうに生長してしまった植物も愛らしい。

 

自然に、そうなってしまったところが好ましい。古く傷んだ看板。いい。

風雨にさらされた時間の経過がいい。それが自然なことであって、それが作り出す傷み、その風合い、造形、好もしい。

新しいものはよくない。よくないとは言わないまでも、自然によって劣化させられたものの姿が好きだ。

おれはそれを写真に残したいと思う。やがて片付けられてしまうのだろうから。

 

と、このような趣味は、おれの「片付けられなさ」と関係あるのかどうかと、たまに考えることもある。

人工的な都市の美化に反するもの、だれかが片付けなければいけないのに、放置されているもの。

そういうものを好む嗜好と、おれの部屋の、デスクの散らかりっぷりは、関係あるのか?

 

整理整頓された部屋に住みたいと思わないでもない

とはいえ、こんなおれとて、おしゃれでスタイリッシュ、広くてものの少ない部屋に住みたいと思わないでもない。

ただ、そのような部屋に住むだけの金がない。これにつきる。

二十年以上前の実家から持ってきた古い家具やなにかをいまだに引きずって、狭い古アパートに詰め込んで、そんな生活をしている。

 

そりゃあ、できることなら、タワマンのなんかすごい部屋に、すごいおしゃれな家具とか置いて、ものなんか少なくて、ロボット掃除機が活躍して、世の中を見下ろしながらスコッチでも飲みたいという思いはある。

ただ、金がない。もし、それを得られる金があったとしても、維持できる気もしない。

たぶん三日、三日でゴミ屋敷タワマンの部屋ができるにちがいない。

 

完全にすごい金持ちになって、部屋の片付けも人任せにできるくらいでなければ、それは成立しない。

そして、一歩間違うと屋根のある部屋に住めなくなるような貧乏人のおれには、それは遠すぎる。

宇宙に住む、というくらいの距離がある。

 

というわけで、こういう人間もいるのです

というわけで、こういう人間もいるということを、言っておきたい。

言うだけだ。どう感じるか、どう対処するか、それはあなた次第だ。知った話か。

 

ただ、世の中には、片付けるということが非常に苦手というか、苦手以前にその発想がない人間もいるということだ。

 

その根っこにあるのがなんなのかは、今のおれは断言しない。

断言できない。障害と呼ばれるものかもしれない。あるいは、それは血筋が関係するかもしれない。

おれについていえば、母系の親類の家というものは、まったくおれにとって馴染みやすい、片付けられていない場合が多かった。

まあ、血筋が関係する障害ということもあるだろうか。いや、しかし、おれの母系の親族よな……。

 

話を戻そう。まあとにかく、そういう人間がいたらどうする。

片付けどころか、年末の大掃除にすらなぜか不機嫌になってしまう人間がいることに。

そんなの迷惑だよな。それはわかる。わかるが、いるんだよ、少なくともここに一人。自分の席の近くに掃除機をかけられるだけで、ちょっと不機嫌になる、理解し難い人間が。

 

まったく、困ったものだよな。もちろん、それを理由に切断できるならいいだろうが、そうとも限らないだろう。

まあ、おれの側から言えることはないし、知ったこっちゃねえや。

ひょっとしたら、そういう障害に対するマニュアル本的なものを活用したりすれば、改善できるかもしれねえ。おれは読んだことがないから知らねえけど。

 

まわりに、こんな人間がいたら、まあ迷惑なことだろう。

それでも、いてしまうということはいかんともしがたいだろう。残念なことです。

 

そして、おれ。おれはどうなるのだろう。おそらく、死ぬまでこの性質は治らないだろう。

だんだんと、「不潔」についてのハードルも下がっていくかもしれない。ゴミ屋敷、孤独死、床のシミになる末期。

まあ、それも自然の成りゆきであって、悪くないだろう。え、悪くないのか。そんなところ。

 

 

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安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
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(2025/6/2更新)

 

 

 

【著者プロフィール】

著者名:黄金頭

横浜市中区在住、そして勤務の低賃金DTP労働者。『関内関外日記』というブログをいくらか長く書いている。

趣味は競馬、好きな球団はカープ。名前の由来はすばらしいサラブレッドから。

双極性障害II型。

ブログ:関内関外日記

Twitter:黄金頭

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