「考えが古い、そんなんじゃやっていけないぞ」

「いまだにそんなこと言ってるのか」

「もうそんな時代じゃない」

 

見た目や国籍、性や家族のあり方、働き方などが多様化した結果、「その考えは古くてもう通用しないから価値観をアップデートをしろ」という主張が大正義になっている。

 

わたしだって、「令和の時代にそんなこと言う人いる!?」と驚くことは何度もあった。

が、それはあくまで自分の価値観が最新だと思っているからこそ言えること。

いざ古い価値観側の立場に立ってみると、「価値観のアップデートって言うほどかんたんじゃないな」と痛感した。

 

K-POPアイドルになるため渡韓する日本人たち

わたしはアイドル全般が好きなライトファンで、少し前元ハロプロの笠原桃奈ちゃんが『PRODUCE 101 JAPAN THE GIRLS』というオーディション番組に参加すると掲示板が盛り上がった。

 

せっかくだから見てみるか、と初めてオーディション番組を視聴。

そこには自分の知らない世界が広がっていて、心底驚いた。

 

課題曲にはK-POPがたくさん選ばれていて、参加している練習生のなかにも韓国語を話せる子がたくさんいたのだ。日本のオーディションで、みんな日本人なのに!

 

そしてある日YouTubeで突然、MISAMOという3人組のショート動画が流れてきた。

すごくダンスうまいし、歌声もキレイだし、なによりビジュアルが最強すぎる! だれだこれ!

 

どうやらK-POPグループのTWICEに在籍する、日本人メンバー3人の派生グループらしい。

K-POPに興味がないわたしでも、TWICEの名前くらいは知っている。K-POPグループなのに日本人もいたんだ、知らなかった。

 

その後、『Nizi Project Season 2』という、TWICEが所属しているJYPエンターテイメントとソニーの合同オーディション企画もチラ見。

オーディション会場には数えきれないほど多くの日本人応募者が集まっており、なかには10代から韓国に渡って「K-POPアイドル」としてデビューするために日々研鑽している、JYP事務所の「日本人」練習生の姿も……。

 

ちなみに同企画のシーズン1でデビューした『NiziU』は、4年連続紅白に出場するほど大人気。

このオーディションも基本すべて日本語で行われ、メンバー9人中8人が日本国籍である。K-POPアイドルだからみんな韓国の子だと思ってたけど、実は日本人ばっかりなんだよ……!

 

『BOYS PLANET』というオーディション番組では、日本や中国、ベトナム、カナダなどから参加者が集まり、みんな流ちょうな韓国語で意思疎通し、堂々とパフォーマンスしていた。英語が母語であるメンバーでさえ、K-POPアイドルになるために韓国語を学んで来ているのだ。

 

わたしが大学生の頃のK-POPって、失礼だけどミーハーな子がハマる一過性のブームってイメージだったんだけど……いつの間にこんな世界規模のカルチャーになっていたんだ!?

 

アイドル=日本の時代はすでに終わっていた

日本のアイドルとK-POPアイドルはまったくちがうジャンルでどちらにも魅力があるから、優劣をつけるつもりは一切ない。

ただわたしはずっと、「アイドルといえば日本」「アイドルを含めたサブカル文化は日本が発信源」だと思っていた。東京オリンピックが決まってからはとくに、そういう話題もよく出ていたし。

 

だから、K-POPグループが「世界的アイドル」として人気を博しているうえ、K-POPアイドルになるためにたくさんの日本人が韓国に渡っているのを知って、ただただ驚いたのだ。

 

だって、日本のアイドルになるために、日本語を勉強した外国人たちが何千人も日本に集まっているところなんて、見たことがないもの(AKB系グループは海外にもあるけど、あくまで拠点は現地であって日本ではない)。

でも韓国では、当たり前のように集まる。そんなの、まったく知らなかった。

 

で、思ったわけだ。

「価値観のアップデート」って、具体的にどのタイミングでどうやってすべきなんだろう?と。

 

偶然『日プ』を見なかったら、わたしはいまでも「アイドルは日本の文化であり、ほかの国には日本を真似たようなグループがいくつかあるだけ」だと思っていただろう。

 

ソフトウェアみたいに、「お客様がご利用中のバージョンは古いものです。アップデートしますか?」なんて誰も確認してくれはしない。

更新のお知らせが来なければ、「自分の価値観が最新バージョンだ」と思い続けてしまうのも当然だ。

 

だから「価値観のアップデートをしろ!」って、言うのはかんたんだけどやるのは結構むずかしい気がするのだ。

 

ある日突然「あなたの価値観は古い」と言われて対応できるか?

話は変わるが、キャスターの柴田阿弥さんがABEMA Primeで、「田舎の人は親切でおおらかという幻想をとっとと捨てるべき。男尊女卑の傾向が強い。人権意識は東京のほうが進んでいる」とコメントした。

 

このショート動画には多くの「田舎のしんどさ」に対する共感が集まっている。

これはまさしく、多様性に適応していない田舎の「古い考え」を糾弾している例だ。

 

ではその古い価値観を持った田舎の人たちに価値観のアップデートを迫ったところで、その人たちは考え方を変えるんだろうか。

「あなたの価値観は2000年バージョンですね。型遅れだから更新してください」と言って、「はいわかりました」となるだろうか。すぐに最新版に対応できるだろうか。

 

きっと、「いまのバージョンで問題なく動くし、まわりもみんなこれ使ってるから大丈夫。最新スペックほしい人だけが更新すれば?」と思うだろう。

 

わたしだって、「K-POPグループは多国籍が当たり前でメンバーは言語の勉強をしているし、いろんな国で活躍してるんだよ! アイドル=日本ではないよ!」と言われても、少し前なら「あなたがK-POPを好きなのはわかったけど、アイドル文化は日本のものだし、サブカルとして国もアピールしていたくらいなんだから」と反論していたにちがいない。

 

考えてみれば当然で、いつものように価値観ver.2000で作業しているなか、突然ver.2024にしろと強制されたら、だれだって「はぁ?」となるだろう。

だって古いソフトも、本人の認識では「問題なく動いている」のだから。

 

時代に適応したほうが生きやすい環境を作る大切さ

とはいえ、アイドルの話であれば価値観ver.2000でも他人に迷惑をかけることはないが、働き方やセクシュアリティ、見た目に関する価値観となると、そうもいってられない。

どこかの田舎でいまだに価値観ver.2000による男尊女卑が続いていて、それによって苦しむ人がいるのであれば、それは変わるべきだ。

 

でも「その考えは古いから早くアプデしろ!」と言っても、なかなかうまくはいかないだろう。

わたしだって、PCのアプデ通知が何度も来ているのに、「面倒だから」「必要ないから」と無視し続けることがたくさんあるもの。

自分には関係がない、いままでどおりで問題ない、と思っている限り、考えを変えることはない。

 

ではそういう人たちは、どうしたら価値観をアプデするのか。

一番簡単なのは、数の暴力だ。

 

たとえば、「男なのに育児休暇? ふざけるな、そんなの認めないぞ。左遷されたいのか」なんて言い出すパワハラ上司がいたとする。

でもまわりが、「えっ自分も取る気だったんですけど」「わたしの夫、〇〇会社で取得してくれましたよ」「説明会でも男性の育児休暇推奨って言ってるはずだし」「人事に直接相談したら絶対OKでるよ~」というリアクションだったらどうだろう。

 

上司は明らかに居心地が悪く、自分が浮いていることに気付くはずだ。

そうすれば、「ムカつくけど認めるしかないか……」となるんじゃないだろうか。

 

結局、まわりが価値観ver.2000を認めて受け入れてしまうから、その人は「このバージョンでも問題なく動くからアプデする必要はない」と思ってしまうのだ。

 

だから、「全然ちゃんと動いてないっすよ! 問題大あり!」というのを、まわりの反応から気付いてもらえばいい。

数で圧力をかける考えはあまり好きではないのだが、「お前の考えは古い!」より、「最新バージョンのほうが快適に動きますよ~、まわりもみんな最新バージョンですよ~」と誘いこむほうが、現実的だと思う。

 

とはいえこれは理想論であって、「みんな価値観がver.2000の田舎」であれば、まわりの協力を必要とするこの方法は使えない。「ここは最新バージョンに対応していません」で終わってしまうから。

そういう場合はもう、そのコミュニティから脱出するしかない。

 

若者を呼ぶためにさまざまな施策をして成果を挙げている地域がある一方、とんでもない条件で地域おこし協力隊を募って炎上したり、移住した若者がその実体をブログに綴って批判されたりする地域もある。

サービス終了した古いバージョンを使い続けるかどうか、最終的に判断するのは結局その人本人だ。

 

相手の価値観を否定するだけではなにも変わらない

まぁなにが言いたいかというと、「お前の考えは古い」と頭ごなしに否定してイマドキの価値観を押し付けても、「今までのやり方で問題ない」と突っぱねられるだけであんまり意味はないよな、ということだ。

 

時代の変化に本気で気付いていない人や、いままでのやり方でうまくいったから変わる必要がないと思っている人はたくさんいる。

 

そういう人に対し、世間の風は冷たい。

「古い考えに固執している頑固者」「時代の流れを理解できないバカ」のように。

 

でもある日突然、いままで使い続けていたソフトを否定され、「まだそんなの使ってんのかよ」「ありえねぇ」なんて言われて、さらに「古いソフトを使うなんてハラスメントです」と言われることを想像すると、結構きついよなーと思う。

 

だから

・まわりに協力してもらえるなら数を味方につけて、新しい価値観に適応したほうが得な環境にする

・最新バージョンに対応していない環境なら、そのコミュニティから出る。その後どうするかはその人次第

が現実的なところかな、と思う。

 

余談だけど、10年ちょっと前HKT48としてきゃぴきゃぴ踊ってた宮脇咲良ちゃんがいつのまにか韓国に渡り、いまや大人気LE SSERAFIMの最年長として大活躍してるのを知って、めちゃくちゃ感動した。すごい努力したんだなぁ……。

 

 

【お知らせ】
ティネクト(Books&Apps運営会社)提供オンラインラジオ第4回目のお知らせ。


<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>

第4回テーマ 地方創生×教育

2025年ティネクトでは地方創生に関する話題提供を目的として、トークイベントを定期的に開催しています。

地方創生に関心のある企業や個人を対象に、実際の成功事例を深掘りし、地方創生の可能性や具体的なプロセスを語る番組。リスナーが自身の事業や取り組みに活かせるヒントを提供します。

【日時】 2025年6月25日(水曜日)19:00–21:00
【ご視聴方法】
ティネクト本音オンラインラジオ会員登録ページよりご登録ください。ご登録後に視聴リンクをお送りいたします。
当日はzoomによる動画視聴もしくは音声のみでも楽しめる内容となっております。

【ゲスト】
森山正明(もりやま まさあき)
東京都府中市出身、中央大学文学部国史学科卒業。大学生の娘と息子をもつ二児の父。大学卒業後バックパッカーとして世界各地を巡り、その後、北京・香港・シンガポールにて20年間にわたり教育事業に携わる。シンガポールでは約3,000人規模の教育コミュニティを運営。
帰国後は東京、京都を経て、現在は北海道の小規模自治体に在住。2024年7月より同自治体の教育委員会で地域プロジェクトマネージャーを務め、2025年4月からは主幹兼指導主事として教育行政のマネジメントを担当。小規模自治体ならではの特性を活かし、日本の未来教育を見据えた挑戦を続けている。
教育活動家として日本各地の地域コミュニティとも幅広く連携。写真家、動画クリエイター、ライター、ドローンパイロット、ラジオパーソナリティなど多彩な顔を持つ。X(旧Twitter)のフォロワーは約24,000人、Google Mapsローカルガイドレベル10(投稿写真の総ビュー数は7億回以上)。

【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
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(2025/6/16更新)

 

 

 

【著者プロフィール】

名前:雨宮紫苑

91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&写真撮影もやってます。

ハロプロとアニメが好きだけど、オタクっぽい呟きをするとフォロワーが減るのが最近の悩みです。

著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)

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ブログ:『雨宮の迷走ニュース』

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