足手まといとは、困った存在である。

自分だって完璧じゃないことはもちろん承知してるけど、そういう人がいると、うまくいくものもいかなくなってしまう。

 

だがしかし、相手がめちゃくちゃイイ人だったらどうだろう?

足を引っ張っているその人が、すごく優しくて気遣いができて、みんなから好かれている人だったら?

 

今回紹介するのは、「無自覚足手まといがめちゃくちゃイイ人だからこそ起きた悲劇」である。

 

8人がかりで1ヶ月経っても倒せないモンスター

わたしは先日まで、とあるオンラインゲームでとても強いモンスターと戦っていた。

固定メンバーと週に数回集まり、クリアするため何度も挑戦していたのだ。

 

きっかけは、そのモンスター攻略メンバーを募集するツイッターを見たこと。

「現状ヘタでも向上心があればOK。みんなで協力してクリアを目指しましょう! 最低限の装備、予習は必須。やむを得ない理由をのぞき、ドタキャンや連絡なしの遅刻は厳禁。暴言や出会い目的は×」

わたし自身がうまいわけではないから、「みんなでうまくなっていこう」という方向性が決め手となって参加した。

 

実際に8人で集まってみると、みんなわりとうまくて一安心。

ノリもいいし、挨拶もちゃんとしてるし、「がんばろう!」という感じで雰囲気もヨシ。

 

……だがしかし。

1ヶ月経っても、わたしたちはクリアできなかった。

 

クリアしたい派と仲良くしたい派の対立

少しずつ先のステージに進めてはいるものの、クリアにはまだまだ程遠い。

そんな状況で、少しずつお互いの「向上心」のちがいが顕著になってきていた。

 

「うまくなりたいからお互いの改善点を指摘しよう」というクリア目的派と、

「うまくはなりたいけどそのために嫌な思いはしたくない」という仲良し派で分かれたのだ。

 

わたしを含めたクリア目的派は、

「同じところでミスが続いてるからやり方まちがってるかも。ちがう方法も試したい」

「そうされるとこっちがやりづらいから、こうしてもらいたい」

「みんなでもう少し動画とか見て勉強しよう」

などと提案していた。

 

しかしそういった発言に対し、仲良し派は

「だれかを責めるのはやめよう」

「指示っぽい発言は控えよう」

と言うのである。

 

決定的だったのは、DPSチェック(制限時間内に規定ダメージを与えられなければこっちが全滅する)をクリアできず何度も全滅したときのこと。

「だれがどれだけダメージを与えられているかを確認したい」と言った人に対し、一部のメンバーが拒否反応を起こしたのだ。

 

「自分だってできてないことあるのに棚上げ?」

「そんなに早くクリアしたいなら、最初から上手いグループに入ればいいのに」

「まわりをフォローしたり罠を解除したりする人は攻撃が減るから不利じゃん」

という理由である。

 

そうやって日に日に空気が悪くなっていくなか、積極的にあいだに立って、みんなの仲をとりもつAさんがいた。

Aさんは人当たりのいいお兄さんタイプで、失敗が続いても「大丈夫大丈夫!」と励ましてくれるし、うまくいくと「今の最高だったね!」と褒めてくれる。

その人が場を明るくしようと冗談を言ってくれたり、落ち込んだ人を励ましたりしてくれるおかげで、グループがやっていけていたといっても過言ではない。

 

「Aさんがいてくれてよかった」。

みんなそう思っていた。

 

しかしそのときはまだ、だれも知らなかったのだ。

クリアできない理由が、Aさんにあることを……。

 

失敗の原因が判明!リーダーの反応は?

それを知ったのは、メンバーのひとりであるBさんに個人的に連絡をもらったときだった。

「こっそり外部ツール(ゲーム内の機能ではなく個人的にインストールした別ソフト)を使ってみたんだけど、Aさんだけあきらかにダメージが低い……」

 

わたし自身そこまでうまくないから、他人がどれだけダメージを出せているかなんてさっぱりわからない。

しかし計測ツールを使うと、「だれがどれだけモンスターにダメージを与えたか」がはっきりとわかってしまう。

 

その結果、「Aさんが明らかな足手まとい」だと判明したのだ。

Aさんを除いて全員がクリア水準に達しているけど、Aさんのマイナスをカバーをできるほどではない。

だからクリアできない。

 

「正直この数字だと、こっちがいくらがんばっても厳しいよ」

ということで、Bさんはまず、グループの募集主であるリーダーにそのことをこっそり伝えた。

「Aさんに直接話してもいいですか? もしくはリーダーからやんわりAさんに伝えてもらうとか。みんなの前で言うと、晒しあげみたいになっちゃうから……」と。

 

Bさんは自分が恨まれることを承知のうえでそれを言ったし、そのうえでAさんがクリアできる水準になるまでとことん練習に付き合う気でもいた。

しかし、それを聞いたリーダーは超不機嫌に。

「犯人探しして楽しいの?」とBさんを責めた。

 

犯人がわかった瞬間、グループ内で起きたこと

Bさんは「原因をはっきりさせたかっただけ」と言ったが、リーダーは勝手に外部ツールを使ったBさんを許さなかった。

いま思えば、リーダーとAさんはこの募集前からの付き合いだったらしいから、Aさんをかばいたかったのかもしれない。

 

結果、リーダーは「外部ツールを使ってまで犯人探しした人がいて不信感がある。みんなが続けるのは自由だが自分は降りる」とグループから抜けた。

Bさんは「それは自分であり、このメンバーでクリアしたかったからだった。不愉快にさせて申し訳ない。自分も抜ける」と謝罪。

 

そこまでいったら当然、「結局だれがダメージ出せていなかったんだ」という話になる。

Bさんは「抜ける自分が言うことじゃない」と黙っていたが、それまで無言だった一番うまい人が突然

「Aさんでしょ、ずっとやり方おかしいって思ってたもん」と言い放った。

 

全員、沈黙。

空気は最悪。

 

Aさんは蚊の鳴くような声で「ごめん……」とひと言。

「俺がいなければクリアできてたってこと……?」

それを聞いた仲良し派は「Aさんがかわいそう、そっちだってあのときミスしたじゃん!」と言い出し泥沼状態。

一番うまい人は、「そう言われるのわかってたから言い出せなかったんだよめんどくせー」と取り合わず。

 

Aさんは「自分なんかが高難易度コンテンツやってすみません、ゲームやめます」とツイートするし、Bさんは責任を感じて病みツイート連投するし、リーダーは相変わらず激おこだし……。

結局、関係者がお互いをブロックしあうという胸糞エンディングを迎えた。

 

無自覚な足手まといを平和的に引っ張りあげる方法はあったのか

いやーね、外からみればくだらないと思うよ、こんなケンカ。

いい年してゲームでなにやってんだよってわたしだって思ったよ。

でもまぁ、あるあるなんですよねぇ、オンラインゲームでは。

 

にしても、どうしたらよかったんだろう。

 

Aさんが気づいてくれれば一番よかったんだけど、本人はまったく自覚なし。

そういう人に「お前が悪い」と言うのは、かなりの勇気が必要だ。

そういうのを受け止めて上達するタイプならいいけど、心折れてゲーム自体をやめちゃうタイプもいるから、おいそれとダメ出しはできない。

 

遠まわしに言って気づく人なら、そもそも最初から気づいてるだろうしなぁ。

だれもなにも言わなかったらクリアできないけど、言ったら言ったで絶対トラブルになる。

 

正直な話、性格が悪いヤツだったらなんの気兼ねもなく言えたのだ。

「おいもっとがんばれよ」と。

もしくは相手に自覚があれば、「いっしょに練習しよう」と具体的な話もできた。

 

しかし相手はめちゃくちゃいい人で、なおかつ自分がダメージを与えていない自覚がまったくないときた。

これはなかなか厄介である。

 

わかりやすく「足手まとい」と書いてはいるけど、わたしはAさんが好きだったし、できればこの8人でちゃんとクリアしたかったと思ってる。

わたしだってめちゃくちゃうまいわけでもないしね。

でも、そういうのを差し引いても、やっぱりAさんはダメージを与えられていなかったのだ。

 

というわけで、今回の超面倒くさいトラブルを踏まえて学んだのは、

「問題解決方法は問題が起こる前に決めておくべき」。

 

問題が起こる前に問題解決法を決めておこう

ゲームでもスポーツでも仕事でも、「これを目的にがんばっていこう」という意識はすぐに共有できる。

結果は数値化しやすいから、「これを達成しよう」といえばいい。

「そのためにこうします」といえばいい。

 

しかし、それがうまくいかないときにどう解決するかを事前に共有することは少ない。

だからこそ、なにか起こったとき、解決できずに対立してしまう。

 

今回の件でいえば、

「2週間かけても○○フェーズまで到達できない場合、それぞれの改善点を指摘して再挑戦する」

「だれかにアドバイスをしたい場合、一旦リーダーに報告し、リーダーが個人的に相手に伝える」

というように対処法を事前に共有していれば、こんな後味が悪い事態は避けられたと思う。

 

逆に、

「クリアよりも楽しむことを優先するので、他人への口出しは禁止。ダメ出しをした人は即抜けてもらいます」

くらいまで決めてしまってもよかった。

 

どちらの方向でやるにせよ、「うまくいかない場合はこうしよう」という意思確認は必要だったんじゃないかと思う。

そうすればみんなの中心にいた優しいAさんを傷つけることも、

だれよりもクリアのために努力していたBさんが悪者になることも、

みんなで仲良くしようとしていたリーダーの気分を害すこともなかっただろう。

 

ひとつの目的に対し複数人で協力するときは、目的の共有は大前提。

そのうえで、「達成がむずかしいときどう解決するか」も事前に共有しておくとトラブルが減りそうだな、と学んだ一件である。

 

 

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【著者プロフィール】

名前:雨宮紫苑

91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&写真撮影もやってます。

ハロプロとアニメが好きだけど、オタクっぽい呟きをするとフォロワーが減るのが最近の悩みです。

著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)

ブログ:『雨宮の迷走ニュース』

Twitter:amamiya9901

Photo by Carl Nenzén Lovén