重い鬱状態にある人の中には、自傷行為に出てしまう患者もいる。
リストカット、アームカットなどだ。
わたしも昔、酷いアームカットをしていた。
20年経ったいまでも、その傷跡はくっきりと残っている。右利きなので、特に左腕はガタガタである。自分でもドン引きしていた時期もあった。
何十本とかでは済まないと思う。逆にガタガタすぎて、自傷跡には見えないかもしれない勢いだ。
中には深く傷つけてしまい、皮膚科で「ケロイドになっちゃってるねえ」と言われたものもたくさんある。
しかし今、わたしはそれを隠さずに生活している。これはもう自分史の一部として、なかったことにはできないからだ。
最初に言っておくが、わたしの後悔は10年、20年と続いた。だから、興味があってもやらないでほしい。懇願する。
自傷行為に対する風当たり
「なんでリストカットとかするの?そういうの見せつけて構ってほしいだけなんじゃないの?」
まあ、そんな意見もあるだろうし、実際そういう心理状態の人もいるかもしれない。
ただ、そんな安直なものではないとわたしは思っている。
だって、純粋に痛いもん。
しかも、なんだかんだ言って太い血管を避けている。
だから、
「どうせ死ぬつもりなんてないんでしょ。所詮ビビってんでしょ。なのに騒ぎ起こして構ってほしいだけでしょ。単なるかまちょやん。」
そんな感想を持たれても仕方ないと思う。
しかし、これはあくまでわたしの場合だが、当時はその痛みに代えてでも得たいものがあったのだろう。
ただ今振り返れば、それは短絡的なものにすぎなかった。
だから、改めて言う。やらないでほしい。
「若い時にお肌のお手入れを怠ると、のちにシミになって後悔しますよ」
というのと似ている。
深夜に得たものとは何だったのか
わたしは割とチキンだったのかもしれない。
行為に出る時は、だいたい酔っ払っていた。
フラフラとに洗面所に行き、剃刀を手にする。
酒でも入ってなければ、そんな勇気は出ないからだ。だって痛いもん。
しかし、わたしは繰り返すようになってしまった。
繰り返すうちに、なぜこんなことをしているのかがわかった。
いくつかあるが、そのうちのひとつは、「攻撃性」の問題である。
精神疾患にはいくつもの種類があり、時に非常に強い「攻撃性」が生じてしまうものもある。
家族やモノに当たる、つまり「他者」に危害を加える行為がそのひとつだ。
一方で、その攻撃性が「自分」に向かうパターンもある。
わたしの場合、そちらだったわけだ。
投薬によって保っている理性、しかしそれが時に崩壊してしまうことがある。
その時に、他人を殴るのか、自分を傷つけるのか。その違いだけである。
つまりわたしは、自分で自分を攻撃することで、何かに対して許しを乞うていたのだ。
鬱状態になると、必要以上に自分を責める。なにもかも自分が悪いのだと思ってしまう。
そんな自分を罰することで少し許された気分になるという、特殊な心理状態に陥るのである。心の痛みを身体的な痛みに変換することで昇華するのである。
他にも理由はあるが、あえてここでは紹介しない。
真似をして欲しくないからだ。
しかし、すぐに後悔が生まれた
そんな折に。
従兄弟が結婚するという話になった。
実はわたしは、ピアスの穴すら開けていない。
自分を大切に育ててくれた母に対し、自分で自分の体を傷つける行為は知られたくなかった。
だから、夏場なのにもかかわらず、式場で着物のレンタルを予約した。ドレスではバレてしまう。着物なら、「たまにはこういうのもいいやろ?」と言い訳もできる。
とはいえ、親はやっぱり親だ。
母親は、着物の裾から少しだけ覗くわたしの手首に注目して、見抜いていたのだ。
ただ、自分への傷つけ方が浅い頃だったので「ちょっとだけ」という状態ではあった。
その時の母は、それに対してわたしを責めることもしなかったし、その後過剰な心配をしてしょっちゅう連絡をしてくる、そんなこともなかった。
あのね?
そこから治療を続け、わたしは自傷をしなくなった。
なんとか踏ん張ってストレス要因を特定し、それを排除して環境を変えたことは大きかった。引っ越しまでした。
薬に頼って何が悪い。こちとら生きるか死ぬかの境界線にいるのだ。運動をしろ、加工物は口にするな、そんな健康マニアの話は、まず普通の体になってからの話だ。
ジャンクフードが気持ちを落ち着かせてくれることだってあるんですわ。時々無性にマクドナルドに行きたくなったりとかね。
薬漬けにされているだけだろう、まあそうかもしれない。
しかし生きるか死ぬかのレベルになって、それを言えるか?とは思っている。
そして自傷癖がなくなった頃、わたしはキューピーマヨネーズの柄のようになった自分の左腕を見て深く後悔した。
なんとか消すことはできないだろうか?これでは夏場を過ごせない。
そこで、精神科の主治医が勧めてくれた昭和医大の皮膚科にだいぶ通った。
「目立たないようにしたいのですが」と伝えたところ医師の返答は、
「赤い傷を白くすることはできます。でも完全に消すことはできません」
というものだった。
それでも通ううちに、確かに赤かった傷跡が白くなり、マシと言えばマシにはなった。
でも、医師の言う通りである。傷跡が赤かった痛々しさは少し消えたという程度で、無くなりはしない。傷跡が白くなった分、夏場に日焼けすると余計に目立つことにもなる。
ひた隠しにしていたけれど
いくら傷跡が赤から白に変わったとしても、他人からすれば目は行くだろう。
ということで、わたしは会社では、夏場でも長袖で過ごしていた。
暑くて袖をまくってしまうこともあったが、新入社員研修の仕事をしている間は徹底した。さすがに新入社員に見せるわけにはいかない。
しかし、プライベートではもう隠さなくなった。面倒臭いことが何年、何十年と続くと耐えられなくなってきたというのもある。
おそらく、会った相手も、目には留まるもののダイレクトには聞きづらかったことだろう。
とはいえ、過去をなかったことにするわけにはいかない。そんなことは不可能だ。
会社ではともかく、プライベートでは「これも自分の一部」と開き直ることにした。
何かを思う人は思えばいい。
しかし、それが理由で離れていく人がいるのならば、それはそれまでの関係でしかなかったということだ。
この結論に至るまでにはそうとう時間がかかった。
まさか、この傷跡が20年経っても消えないものになるとは当時は思っていなかった。だから、自分史の一部とは言え、後悔はしている。
ただ、その後悔と一緒に生きていくこと。
それしか選択肢はない。
何かに当たるくらいなら、吐き出す場所を確保してほしい
他人や自分に対する攻撃性。
なにも病気にならなくても、人は誰しも、強いストレスを感じた時にはそんな性質が出てくるだろう。
それを家族や会社のメンバーに向けてしまう人も少なくない。自分に向けてしまうこともあるだろう。
そこで他者に当たってしまった時、すぐに我に帰って謝ることができるスキルの持ち主であれば話は別だが、ストレスが深刻になるとそうもいかない。
だから、そうなる前に、心療内科やカウンセリングなどには気軽に行ってみてほしいとわたしは思う。
精神疾患に対する理解が今ではある程度進んでいるとはいえ、本人がそういう場所の扉を叩くことに強い抵抗感を持ってしまうと思う。
しかしそういう場所は、別に病気と診断されなくても訪れることができる。身内ではないところに「吐き出す場所」を作るのがいいのではないかと思う。
「話を聞いてくれる人」を第三者に求めることで、家族や会社のメンバーに迷惑をかけずに済むという方法があるのだ。
「薬を出すほどではない」と言われても、相談場所があるというのは本当に大きい。
いくら家族とはいえ、他人に当たって良いことなどなにひとつないとわたしは思っている。
家族であったとしても、「仕事でストレスをためているのだな」と最初は思ってくれるかもしれないが、長続きはしないだろう。
人間関係を壊す勇気か、心療内科を訪れる勇気か。
答えは明確なのではないだろうか。

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【プロフィール】
著者:清水 沙矢香
北九州市出身。京都大学理学部卒業後、TBSでおもに報道記者として社会部・経済部で勤務、その後フリー。
かたわらでサックスプレイヤー。バンドや自ら率いるユニット、ソロなどで活動。ほかには酒と横浜DeNAベイスターズが好き。
Twitter:@M6Sayaka
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Photo:Matheus Ferrero