会社をつくって、今年は9年目。

なんとか会社が続いている。

だが、起業して始めの5年くらいは全く食えず、前職で10年以上かけて貯めたお金が、虚しく半分になっただけ、という惨憺たる状況だった。

 

だが、振り返ると

「一つのことであっても、何かをやり遂げるのには、膨大な時間がかかる」

ことに改めて気づく。

 

商品をつくること、組織をつくること。

社員の成長、売れるスキルの獲得。

物事の理解を深めること、信頼関係の構築。

 

あらゆる場面で「積み上げることの重要性」への認識は深まるばかりだ。

 

もちろん「苦労せずにやりたい」という欲求の存在を否定しているわけではない。

私だって、早く成功したい。

 

そもそも、前職、コンサルティングをしていたときの一番の思い出は、

「手っ取り早くやりたい人」

「ショートカットしたい企業」

が本当にたくさんあるのだな、だ。

実際、多くの企業はたったの半年くらいで、施策に何かしらの変化がないと、「効果なし」とみなして、取り組みを辞めてしまっていた。

 

まあ、それも仕方のないところだろう。

企業業績、ひいては個人の評価は1年おきにやってくるので、大抵の場合は不安に負けて「費用対効果が合わない」と言わざるを得ない。

特に中小企業は財務基盤が弱い(要するにお金がない)なので、その傾向が顕著だった。

 

だが、すこし考えてみていただきたい。

人・企業が半年でできることは、どれほどあるのだろうか、と。

 

おそらく、高がしれている。

いや、現実的には「数年でできること」すらほんの僅かなのだ。

 

 

だが、メディアやSNSには「スタートアップ企業は、圧倒的スピードで……」などという話が踊る。

例えば、Googleは1998年創業で、2004年の上場まで6年しかかかっていない、と。

 

だが、果たしてそうだろうか。

 

Googleがあれ程のスピードで成長できたのは、イノベーティブな「検索の技術」にあったことは間違いない。

が、それはいずれも、Googleが創業されてから生み出されたわけではない。

 

真にGoogleが生み出されるまでには、実は数十年かかっている。

事実、Googleの検索エンジンの原型は、創業者のラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンが

「小さい頃からコンピュータを触っていて」

「大学まで勉強した上で」

さらに「研究プロジェクトとして何年もの時間」をかけて生み出されたものだ。

 

それが、単にある瞬間、企業という形に結実しただけで、「たった6年」とは、彼らに失礼だろう。

 

実際には、成功とは、単に「それまで何十年とやってきたことの結果」に過ぎない。

1998年の創業以降のGoogleの動きしか見ていなければ「圧倒的速さ」で上場まで行ったように見えるかもしれないが、そもそも彼らの下地があってこそ、である。

 

Amazonも同様だ。

しかも、CEOのジェフ・ベゾスは特に「じっくりやること」の価値を理解している経営者の一人だ。

アマゾンでは当初立ち上げ時から5年位の間は、利益が十分にあがらないだろうことを前提に戦略を組んでいたとの話もある。

実際には利益を出すまでさらに数年の月日を要したわけだが、赤字の間にも(ご承知のとおりその期間にはいわゆる「ITバブル崩壊」の時期も含まれる)自らの戦略を信じ、売上と規模を拡大し続けた努力と強い意志があったからこそ、今の地位を築くことができた。

ガベージニュース

投資家たちの不満を無視し、Amazonは創業から10年近く赤字を続けてきており、その間にコツコツとシステムとインフラへ投資し、現在の圧倒的立場を築いてきた。

ベゾスが投資家たちの意見を聞き、手っ取り早く利益を出そうとしていたら、アマゾンは現在の地位を築けていたとは思えない。

 

もちろん、歴史上の傑出した成果も、同様だ。

例えばライト兄弟。

私が最も尊敬する人物の一人(二人だが)なのだが、伝記を読み直すと、改めて結構な感動がある。

 

彼らはリリエンタールの飛行失敗、死亡に触発されて航空機の開発に乗り出した。

彼らは実によく実験をした。飛行機を飛ばすまでの7年間に、1000回以上の実験、数百種類の翼を試し、ついに人類初の動力飛行に成功した。

彼らの興した航空会社は、現在はロッキード・マーティンにまで続いている。

 

が、彼らは決して恵まれていたわけではない。

前にも記事で書いたことがあるが、競合のサミュエル・ラングレーという人物との差は圧倒的だった。

 

サミュエル・ラングレー

・陸軍省から、5万ドルという大金を資金として受け取っていた

・ハーバード大に在籍

・スミソニアン博物館で働き、当時の最高の頭脳たちとの人脈を有する

・ニューヨーク・タイムズが彼らの動向を逐一報道

 

ライト兄弟

・資金は常に不足。自分たちで経営していた自転車店から、資金を持ちだして飛行機をつくる

・学歴なし

・人脈なし

・初飛行の見物人はたった5名

 

当時は「飛行機は不可能」とまで言われていた時代だった。

だがそれでも彼らが諦めず、到底、合いそうもない費用対効果を脇に置き、どうにか資金を捻出して辛抱強くやり続け、ついにラングレーに勝つたのは、驚異的というほかない。

 

結局の所、多くの成功者を見れば、

「才能で一発当てた」

「機転を利かせて大逆転」

などは所詮、幻にすぎず、本質的には殆どの勝者は、的確な努力を積み上げることにより、勝つべくして勝っているように見える。

だから多くの成功者は、表立っては言わないが、心中では努力を称賛する。

 

だがもちろん、誰でも努力を積み上げれば成功するわけではない。

「一万時間の法則」を提唱した、マルコム・グラッドウェルは、成功とは「累積するアドバンテージ」の結果だ、と言っており、それは「マタイ効果」と呼ばれる。

社会学者のロバート・マートンはこれを〝マタイ効果〟と呼んだ。新約聖書のマタイによる福音書の一節を借用したものだ。

〈誰でも、持っている人はさらに与えられて豊かになるが、持っていない人は持っているものまでも取り上げられる〉

 

言い換えれば、成功している人は特別な機会を与えられる可能性がもっとも高く、さらに成功する。

金持ちがもっとも減税の恩恵を受ける。できのいい生徒ほどよい教育を受け、注目を集める。そして、体格のいい九歳と一〇歳の少年がもっともたくさんの指導を受け、練習する機会を与えられる。

始めたばかりの時には、僅かだった差が「ちょっと勝った人」はますます努力し、多くのチャンスを与えられ、そして何年もそれが累積するうちに「負け組」が回復不可能なレベルまで差がつくのである。

 

実際には「弱者」ほど「強者」に勝つためには、積み上げが必要なのにも関わらずだ。

なのに、実際には一発逆転を狙うしかなくなり、結局その力関係は、くつがえらない。

 

これが、成功に関する真理だ。

 

 

実は私が起業する時、成功した起業家からもらったアドバイスの中で、一つだけ、恐ろしく役に立ったものがある。

戦略ではない。

マーケティング理論でもない。

理念でもない。

それは「なりふり構わず生き延びろ。」である。

 

今になって思えば、アドバイスをしてくれた彼は、経営の本質を死ぬほどよくわかっている。

つまり自分が勝てそうな領域が見つかるまで、ひたすら生き延びて、あれこれ試してチャンスを伺えと私に言ったのだ。

 

だから経営上、私が真剣に考えているのは、費用対効果ではない。

短期的な費用対効果など、どうせ合うはずもない。

経営や人生を、半年、1年単位で小さく切り取れば、殆どの場所で、自分の費やした努力に見合わないリターンしか得られない。

 

その代わり、

ひたすら生き延びて。

勝てそうな領域が見つかったら、思い切りオールインする。

それが、経営の本質、ひいては人生の本質なのだ。

 

結局の所、最後に不足するのは、時間であり、つまり余命対効果だ。

残された時間の中で、チャンスを見つける事ができるかどうか。

それが成功の本質である。

 

「生存バイアスだ」という方もいるだろう。

それはそうだ。成功する保障なんて、どこにもない。

失敗したまま終わる人のほうが、多いことなんて、子供でもわかる。

 

が、それは「何もしなくていい」を意味しない。

 

 

と言っても、悲観することはない。

現代人の平均余命は、現在どんどん伸びているという。

 

ライフ・シフトの著者、ロンドンビジネススクール教授のリンダ・グラットンによれば、1975年生まれならば、健康体で100歳近くまで生きる可能性がある。

 

それが仮に正しいとすれば、余命50年で、「10年間をかけてチャンスを見つける」を5回もできる。

仮に50歳から始めたとしても、4回もチャレンジできるのだ。

 

ケンタッキーのおじさん、カーネル・サンダースは65歳で借金を抱え、お店を倒産させてしまったという。

だが、彼は最後にチャンスを掴んだ。

だが、新しいハイウエーの建設により車の流れが変って維持できなくなった店を手放し、負債を支払ったカーネルの手元にはいくらも残りませんでした。フライドチキンの調理法だけが唯一の財産。この時、65才。

しかし、不屈のカーネルは、それを教える代わりに売れたチキン1羽につき5セントを受けるというFCビジネスを始めます。

車で各地を回る強行軍ながらビジネスは成功。73才の時にはチェーンは600店を超えていました。

(出典:https://japan.kfc.co.jp/tale/

 

少し前、80歳以上のアプリ開発者が、Appleから「サプライズスペシャルゲスト」としてイベントに招待されたというニュースを見た。

82歳のおばあちゃんは、Appleが認めた開発者。その人生観が深かった…

「80歳過ぎてからプログラミングをはじめて、アプリを出したらこんなことになっちゃった」

私はこれを見て、大変に元気づけられた。

80歳を超えても、なにかに真摯に取り組めば、何かしら誇れるものを成し遂げることができる。

 

いや、少なくともそう思わないと、人生なんて、とてもではないが、やってられない。

 

 

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【著者プロフィール】

◯Twitterアカウント▶安達裕哉

元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者(tinect.jp)/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。

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Photo by Obi Onyeador on Unsplash